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梨壱🍎 @ri_no_ichi

① その里で「兎を見た」と審神者が言う。 「途中で見失ってしまったのだけど。可愛かったな。また探しに行ってみようか」 可愛かった?この女にも、小動物を愛でるような心はあったのか。可愛いものになど興味はないのだと思っていた。 ひとつ捕まえてきてみようか。どんな顔を見せるだろう。

2017-09-22 13:20:42
梨壱🍎 @ri_no_ichi

② 「お、前はっ、本当に兎を見たのか…っ!」 ぜえはあと荒い息の中、大包平が言う。 「姿を見ないと思ったら、どこに行っていたんだ。随分と疲労困憊だな。鍛錬が足りないのではないか?」 審神者の間の抜けた呆れ顔に、苛立ちが湧く。誰のために、こんなになるまで駆けずり回ったと。

2017-09-22 13:25:38
梨壱🍎 @ri_no_ichi

③ 「疲れたときには甘いものだ。団子を食べるかい?私のおやつだが、分けてあげよう」 笑いながら、審神者が団子を差し出してきた。疲労で腕も上がらぬふりをしていたら、手ずから食べさせてくれた。うむ。元気が出た。 「また行ってくる」 立ち上がる大包平を、審神者はまた呆れた顔で見送った。

2017-09-22 13:29:20
梨壱🍎 @ri_no_ichi

④ やっとの思いで兎を捕まえて帰ると、審神者はからからと笑った。大口を開けて笑うのは、初めて見た。 「ああ、可愛いね」と兎をひと撫でして、俺を見上げる。 「可愛そうだから元のところへ返しておいで、大包平」 一気に疲労が襲いかかって、俺はがくりと膝をついた。もう一個、団子をくれ

2017-09-22 13:34:18
梨壱🍎 @ri_no_ichi

【SS①】「さっき主がすごい落ち込んでたけど大丈夫かなー」と、加州清光が話している声が聞こえた。大包平は聞き耳を立てた。「何があったのか教えてくれなかったけど、結構参ってる感じだったんだよね。口では平気って言ってたけど」 ……ふむ。ひとつ様子を見てきてやろうか。

2017-09-25 16:33:25
梨壱🍎 @ri_no_ichi

②審神者を探すうちに、道場へと辿り着いた。ずばんと藁束に打ち込む音がした。覗き込むと、審神者が木刀を振るっている。 「なんだ、どうかしたか?」汗を拭いながらこちらを向く審神者の顔は、けろっとしている。いつもの顔だ。加州め、こいつのどこが落ち込んでいるんだ。謀ったな。

2017-09-25 16:37:09
梨壱🍎 @ri_no_ichi

③「いや、何でもない」がっかりしながら背を向けたら、「ふぅ」と審神者のため息が聞こえた。ん?いつもよりも深刻な響きに聞こえる。 ぐるりと振り向き審神者を見れば、「なんだ、やっぱり何か用か?」と、やはりけろりとした顔で返される。…気のせいか。

2017-09-25 16:41:11
梨壱🍎 @ri_no_ichi

④落ち込んでいるのなら、話を聞いて、励ますなり慰めるなりしてやろうかと思ったのに。 大包平と入れ違いに、三日月宗近がやってきた。「おや主。浮かない顔でどうした」「三日月。なんだか私は自分が不甲斐なくてね…」「ほう。このじじいで良ければ話を聞くぞ」「ありがとう、実はね…」

2017-09-25 16:45:27
梨壱🍎 @ri_no_ichi

⑤「今日の審神者は落ち込んでいた」と、夕餉の席で三日月が言った。「は?俺は知らんぞ」「そうかそうか。それは残念だったな」不満げな大包平を気にもとめず、じじいは暢気に笑っている。審神者はいつも通り、やたら美味そうに米を食んでいる。 落ち込んでいたのはいつだ。どこだ。なんでだ。【終】

2017-09-25 16:49:23
梨壱🍎 @ri_no_ichi

下着売り場にカップルがいるのは迷惑という話から発想 【SS①】審神者が出かける支度をしていたら、大包平が絡んできた。 「どこへ行く。俺もついていく」 「一人で行くからいいよ。危ない所じゃない。ただの買い物だ」 「買い物に付き添うのに何の不都合がある。俺も行く」 ああ、面倒くさい。

2017-09-25 19:10:30
梨壱🍎 @ri_no_ichi

②「…下着を買いに行くんだ」恥を忍んで言う。 「だからどうした」 「サイズも測り直したい。その間、おまえみたいなのが店をうろうろしてたら迷惑だ」 「他の女の買い物になど興味はない」 「おまえがなくてもね、周りの人には嫌なものなのだ!」 ぴしゃりと言っても、納得していない顔だ。

2017-09-25 19:13:13
梨壱🍎 @ri_no_ichi

③…仕方がない。ものすごく嫌だが、こいつを連れて行く恥と周りにかける迷惑と、それらと比べたらマシなはずだ。多分。 審神者はちょいと指で、耳を貸せと彼に示す。そして囁く。 「…おまえの為に選んでくるから、楽しみに待っていろ」 「……!」 かくして彼は正座して、主の帰りを待ったという

2017-09-25 19:20:25
梨壱🍎 @ri_no_ichi

【大さにSS①】審神者が珍しく酒を飲んでいた。次郎太刀に誘われて飲み始め、あっという間に潰れた。 「こんなところで寝るな、行儀が悪い」  「いやだ。床つめたい」 普段はきりりとした女が、廊下にぺたりと突っ伏したまま動かない。大包平はため息をついた。運んでやるしかないか。

2017-09-26 02:14:21
梨壱🍎 @ri_no_ichi

②抱き上げようとすると、審神者は猛烈に嫌がった。 「あつい。さわるな」 「嫌なら自分で歩け。ほら、立て」 「いやだ。床つめたい。きもちいい」 頑なに動かない。いつも以上に面倒くさいな。 「もう知らんぞ」と大包平は審神者の片腕を掴み、そのまま部屋までずるずると引きずることにした。

2017-09-26 02:15:35
梨壱🍎 @ri_no_ichi

③きゃっきゃと審神者が笑い出す。面白がって、大包平の足にしがみついてきた。突然のことで、危うく足をとられそうになる。 「暑いんじゃなかったのか!」 「んー、あつい、きもちいい」 酔っ払いの言うことは支離滅裂だ。ならばと抱き上げようとしたら、 「…あつい。さわるな」 …何故嫌がる。

2017-09-26 02:16:12
梨壱🍎 @ri_no_ichi

④仕方がないので、そのまま部屋までひきずっていく。布団を敷いて寝かせてやるが、「暑い」と即座に剥いだ。 「風邪を引くぞ!」少し強めの口調で言ったら、ころりと大包平の膝を枕に横たわる。 「…きもちいい」 満足気に笑っている。どうしろというんだ。一晩中このままか。酔っ払いめ。(終)

2017-09-26 02:17:02
梨壱🍎 @ri_no_ichi

【大さにSS①】秋も深まり、次第に気温も下がってきた。 「ここで休息としよう」 稽古を付けてくれていた長曽祢虎徹に言われ、審神者は道場の端に来た。顔色があまり良くない。今日はいつもより疲れているようだ。 「座らないのか?」 壁に寄りかかり立ったままの審神者に、大包平は声をかけた

2017-09-29 02:30:29
梨壱🍎 @ri_no_ichi

②「うん。いい」 「座れ。それでは疲れもとれんだろう」 「いや、座りたくないんだ。……床が、つめたい」 温度を確かめるように、裸足の爪先で床を撫でている。 「はあ?軟弱だな」 審神者はこちらをむすりと見下ろしてきたが、それ以上言い返さなかった。なにやら様子がおかしいな。

2017-09-29 02:32:38
梨壱🍎 @ri_no_ichi

③「…ふん。ならば、俺の膝を貸してやろうか?」 にやりと笑って、大包平は自分の膝を叩いてみせる。どかりと胡座をかいた膝。どうだ、いつもの調子で「ふざけるな」と言い返してこい。 ……が。 ぼすりと、審神者はほんとうに座ってきた。膝の上に、すっぽりと収まる。

2017-09-29 02:36:38
梨壱🍎 @ri_no_ichi

④「……はあ。あったかいな」 ほっとしたように呟く。 「そんなに寒いか?」そこまで気温も低くはないと思うのだが。 「……そういうときもあるのだよ」 よくわからない。しかし困った。本当に座らせるつもりはなかった。手の置き場に困る。 二人きりならば、抱きかかえてやったものを。【終】

2017-09-29 02:39:24
梨壱🍎 @ri_no_ichi

【大さにSS①】審神者はぽかんとそれを見ていた。今日は、余所の本丸の審神者が来訪している。共に時間遡行軍と戦うもの同士、情報交換などもたまにするから、そう多いことではないが、奇異なことでもない。…が。 「どうぞ。お足元に気をつけて」 「ありがとう、大包平様」 今日の大包平は奇異だ

2017-09-29 12:03:17
梨壱🍎 @ri_no_ichi

②客人はこの本丸の審神者より少し歳下の、線の細い女性。女性らしい柔らかな容貌で、とてもきれいだ。 その来訪者のために、大包平は戸を開き、段差があれば手を貸し、しかもたとえ指先だけでも、触れるときはきちんと「失礼」などと断りを入れている。紳士か。 …そんな扱い、私はされたことないぞ

2017-09-29 12:08:48
梨壱🍎 @ri_no_ichi

③「随分と儚げなお方だったな。付き合いは長いのか?そもそもお前はあの方と気が合うのか?」 客人を見送った後、大包平は当たり前のような顔をして、断りもなく審神者の部屋に付いてきて、しかもごろりと寝転がっている。態度が違いすぎる。 「真逆で悪かったな」 少し声が不機嫌になった。

2017-09-29 12:16:59
梨壱🍎 @ri_no_ichi

④大包平は、目をくるりと見開いた。そしてにやりと意地悪く笑う。 「なんだ。妬いたのか」 「違うよ。あんな扱いされても気まずいだけだし」 それは本当。絶対いやだ。…ただ。 「おまえは私には凄く無神経だ。適当に扱われているとなれば、さすがに少しは不愉快だ。…舐められている…というか」

2017-09-29 12:24:08
梨壱🍎 @ri_no_ichi

⑤「誰が舐めるか。お前のような厄介な女」 苦い顔で大包平が起き上がる。厄介なのには自覚があるが、面と向かって言われれば、不満に頬も膨れる。 「ふくれるなふくれるな」と、頬をぎゅうとつままれた。 「…ほら、無遠慮に触ってくる」 「俺のものに触れてなにが悪い」 さも心外な顔をするか。

2017-09-29 12:31:45
梨壱🍎 @ri_no_ichi

⑥「なった覚えはないよ、そんなもの」 「ふん。お前相手に遠慮などするか」 勝手に、人の膝に寝転ぶ。 「…お前だけだ。むしろ誇れ」 はぁ。ぞんざいに扱われて誇れと。 まぁいいけれど。私もそのほうが気が楽だし。それに。 「撫でてもいいぞ。許す」 得意気なその顔は、嫌いではないし【終】

2017-09-29 12:41:12
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【大さにSS①】ふと横を見ると、大包平の背中があった。黙々と働いている、紅いジャージの背中。 審神者はその背中に、つうと指先を走らせた。「うおっ」と、大包平は妙な声を上げ、恨めしげに審神者を振り向いた。 「隙だらけだぞ」 審神者はにやりと笑って言った。

2017-10-01 12:22:13
梨壱🍎 @ri_no_ichi

②大包平と審神者は、馬小屋の掃除をしている。用があって審神者が小屋を覗いたら、もう一人の当番だった鶯丸がさぼって逃げたと、大包平が一人で作業をしていた。憐れに思って、審神者も手伝うことにしたのだ。鶯丸には後で、愛飲の茶にハーブティーの茶葉を混ぜこむ罰でも与えてやろう。

2017-10-01 12:23:33
梨壱🍎 @ri_no_ichi

③「仕事に真面目に取り組むのは良いが、背中を容易く取られるようでは情けないぞ」 審神者は得意げに言う。少し気分が良かった。 大包平は背も高く、背中は厚く大きい。それが審神者は羨ましい。本丸には彼より大きな男士もいるけれど、大包平だけ妙に妬ましい。

2017-10-01 12:26:09
梨壱🍎 @ri_no_ichi

④「おのれ」 むすりと膨れて、大包平は審神者の背に手を伸ばす。さっと審神者はそれを避ける。審神者だって、伊達に鍛錬を積んではいないのだ。容易く背中を許すものか。 「このっ」 むきになって、大包平が背を狙ってくる。 …こういうところが自分と似ていると、審神者は思う。

2017-10-01 12:27:35
梨壱🍎 @ri_no_ichi

⑤少しだけ、大包平と審神者は似ている。負けず嫌いなところ、ちょっとむきになりやすいところ。 だから、彼の背中は少し妬ましい。審神者がいくら鍛錬を積んでも、そういう背中にはなれないのだから。少し似ていても、ものすごく違う。 …そういう背中になれたならば、もっと戦えただろうに。

2017-10-01 12:30:56
梨壱🍎 @ri_no_ichi

⑥「捕まえたぞ」 大包平は正面から、審神者を抱きとめた。背中に回した両の手で、審神者の背中をつうと撫でる。 「く、くすぐったい!」 「仕返しだ」 ははと笑って、背中のあちこちに指先を走らせる。逃れようにも、叶わない。 仕方ないので、審神者も大包平の背に腕を回した。つうと撫でる。

2017-10-01 12:33:32
梨壱🍎 @ri_no_ichi

⑦「ふん、私だって捕まえたぞ」 どうだとばかりに、大包平を見上げる。 大包平は目を見開いて、それからにやりと偉そうに笑った。 「誘っているのか?」 「はぁ?」 眉を顰めてから、審神者は気付いた。これでは抱き合っているかたちだ。 慌てて離れようとしたが、背に回された腕が離さない。

2017-10-01 12:36:35
梨壱🍎 @ri_no_ichi

⑧もがくと、ますます深く抱き込められる。 背中を這う指が、うっとりとした熱を帯びはじめた。 背中に回した指が、そのぬくもりと形をつよく意識し始めた。 (妬ましいのに、この背中が嫌いではないのが困る) なんだか腹が立って、審神者は彼の背に爪を立てた。【終】

2017-10-01 12:37:31
梨壱🍎 @ri_no_ichi

【大さに?SS】①「所詮俺はダメ刀だからよぉ…ひっく」 「そう卑下しないでくれ。おまえも私の大事な刀だよ」 荒れている不動行光を、審神者が必死に慰めていた。 そこを通りかかった日本号が、「素面の言葉じゃ酔っ払いには届かねえ」と、審神者に酒を呑ませた。大包平は、いやな予感がした

2017-10-07 01:01:55
梨壱🍎 @ri_no_ichi

②「不動がダメ刀なのでなく私がダメ主なんだ。私が信長公のような立派な主だったらああ」 酒が入った審神者は、猛烈に自分を卑下し始めた。わんわんと喚き床を叩き、不動がむしろ引いている。「そんなでも、ないぞ」などと、辿々しく慰めの言葉を探している。見ていられず、大包平は審神者を回収した

2017-10-07 01:04:58
梨壱🍎 @ri_no_ichi

③「私は弱いし馬鹿だし威厳もなくて、皆に申し訳がないいい」 部屋に押し込んだあとも、審神者は畳に突っ伏して嘆き続けている。 「おい、そう泣くな…いや、泣いてないのか」 審神者を起こして顔を見て、落胆する。ずびずびと鼻を啜り目は赤いが、涙は一滴もこぼしていない。ぐっと堪えている様子

2017-10-07 01:06:02
梨壱🍎 @ri_no_ichi

④「泣き顔が見られるかと思ったのに、つまらん」 大包平は、審神者の泣き顔を見たことがない。近いものは見たことがあるが。別に女々しくあって欲しいわけではないが、気を許されていない感じがするのは不満だ。 「なんだい、偉そうに。おまえはいつも偉そうだ」 審神者も不満げな顔をする

2017-10-07 01:06:57
梨壱🍎 @ri_no_ichi

⑤「偉そうじゃなくて、偉いんだ。俺は最高傑作だぞ」 胸を張ってみせるが、彼だって自信だけでできているわけではない。色々と心に引っかかるものはある。……だが。 「…己で己を尊ばねば、自らの価値を下げるだけだ」 自分が立派なものだと信じなければ、弱い心に飲み込まれる

2017-10-07 01:07:53
梨壱🍎 @ri_no_ichi

⑥「はあ。お前は偉いねえ」 審神者が感嘆の声を上げた。心底感心した表情だ。 「たしかに、『私はダメだ』などと言っていたら、哀れんではもらえても敬意は払ってもらえないかもなぁ。むぅ…私は不動にも、そういう態度で接していたかもしれない」 酔いは覚めてはいないようだが、真面目な顔で言う

2017-10-07 01:09:36
梨壱🍎 @ri_no_ichi

⑦「不動ともう一度話してこよう」と、審神者は立ち上がった。部屋を出ようとして、たっと小走りに大包平の元に戻ってくる。 「大包平。おまえはとても立派な刀だよ」 まっすぐに見つめ、笑顔で、両肩に手を乗せ、ばしばしと叩いてくる。やっぱりまだ酔っている。力加減を一切していない

2017-10-07 01:10:41
梨壱🍎 @ri_no_ichi

⑧泣き顔を見たかったのに、笑顔を見せられてしまった。まあいいが。 それにどんなに自分を尊んでも、やはり誰かに認められるのはまた違う。格別だ。 …そういえば俺は、審神者を誉めたことがあるだろうか。「立派な主だ」と、今度言ってみようか。そうしたらこんなふうに、頬を緩ませるだろうか

2017-10-07 01:12:51
梨壱🍎 @ri_no_ichi

【大さにSS】① 「うう、さむい」 ぴゅうと吹いた風に、審神者は身を縮こめた。少し庭に用があるだけだからと、薄着で出たのは失敗だった。思いの外、今日は冷える。 ふと、洗濯を終えて干されている、大包平の内番着が目に付いた。触れてみればもう乾いている。

2017-10-11 16:46:19
梨壱🍎 @ri_no_ichi

② 少し借りてもよかろうと、審神者はそれに袖を通した。なに、あいつは私にもっと無礼なことも散々しているのだ。構うまい。 審神者の体格よりも上着がかなり大きいので、不格好にもこもこしてはいるが、和服の袖も何とかジャージに収まった。 「はあ、あったかい」審神者は安堵の声を上げた

2017-10-11 16:47:56
梨壱🍎 @ri_no_ichi

③「主。少しよいか」 部屋に戻って仕事をしていると、障子の向こうから声を掛けられた。 「大包平か。どうした」答えると障子がすっと開き、なにやら神妙な顔つきの大包平が現れた。 「実は、少々困ったことが……あ、いや、今解決した」 「うん?」 審神者は「はて」と、首をかしげた。

2017-10-11 16:49:05
梨壱🍎 @ri_no_ichi

④「なくしたのかと肝を冷やした。新しいものを頼むと、出費が嵩むと博多がうるさい」 ちょいちょいと指で指されて、審神者は気付いた。そうだ、上着を借りたままだった。外にいる間だけのつもりが、暖かくてついそのままに。 「悪かったね。洗って返すかい?特に汚してはいないと思うけれど」

2017-10-11 16:50:13
梨壱🍎 @ri_no_ichi

⑤脱ごうとしたら、そのまま着てろと制された。 「寒いのか?」 「すこし。でも自分の羽織を出すからいいよ。おまえこそ寒くはないか」 大包平は、灰色のシャツ一枚の姿だ。替えの上着を出せばよいのに。 だが彼は平気な様子で、「寒くはない」とにやりと笑って、近寄ってきた。

2017-10-11 16:52:15
梨壱🍎 @ri_no_ichi

⑥「この通りだ」 審神者の前に膝を突くと、のし掛かるように正面からぴたりと身を寄せてきた。彼女の肩に顎を乗せて。審神者よりもだいぶ高い体温が伝わってくる。 「はあ。この寒いのに、何故こんなぽかぽかしているのかね」 呆れたように言う審神者に、「鍛え方が違う」と得意げに返す。

2017-10-11 16:53:48
梨壱🍎 @ri_no_ichi

⑦ひとである私よりも、付喪神の方が暖かいなんておかしくないか。 難しい顔をし始めた審神者から離れ、「洗わずに返せ」と告げ、大包平は出て行った。 もっと鍛えれば私の体温も上がるだろうか。だが、ここまでにはなれないだろうなぁと、審神者は長く余ったぶかぶかの袖を揺らした。【終】

2017-10-11 16:55:18
梨壱🍎 @ri_no_ichi

【大さにSS】①出先で雨に降られた。 「今日は降るよと言ったのに、何故傘を持ってこないんだ」 「荷物になるし、濡れても俺は気にしない」 「ずぶ濡れのひとの横で傘を差して歩いていたら、私がひどいやつみたいじゃないか」 私が気にするよと、審神者は呆れた視線を大包平に送った。

2017-10-13 19:32:08
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