その表情は急速に曇った。 今にも、『私にこんなところで寝ろと?』と、文句を言い出しそうな小狐を前に、マインは狼狽える。 (ちゃんときつね君が入れる大きさの箱だし、あったかいようにタオルも入れたのに、なにが不満なんだろう?) 小狐の要求していることが分からず、マインは途方に暮れた。
2019-07-29 22:17:56すると、突然小狐が立ち上がりスタスタと歩き始めた。 その姿へ目を瞬き見送ったマインだったが、我に返ると慌てて立ち上がり後を追った。 「ま、待って!」 ドタバタと駆けるマインを振り向くことなく歩いた小狐は、寝室の前へ着くとほんの少し開いていた扉へ前足を突っ込み、器用に自身が入れる
2019-07-29 22:17:56だけの隙間を確保。そのまま中へと入って行ってしまった。 「すごーい」 思っていた以上に賢い小狐へ感心し、マインも寝室へと足を踏み入れる。他の家族はまだリビングに居るため、部屋の中は暗く、人の気配は無い。 背伸びをして電気のスイッチを押すとピカッと電灯が光った。眩しさに目をすがめたが
2019-07-29 22:17:56すぐに目が慣れ、部屋の様子が分かるようになる。 2つ並んだベッドの内、奥の方にあるトゥーリとマインのベッド。その上に水色の毛玉が丸まっていた。 近づいてきたマインをチラリと見た後、小狐は見た目に合わない横柄さでフンッと鼻を鳴らす。 だが、マインはその態度も特に気にならなかったようで
2019-07-29 22:17:56ただ軽く首を傾げるだけだった。 「きつね君もわたしたちといっしょにねたかったの?」 「きゅ」 「そっかそっか。一人じゃさみしいもんね」 マインの言葉を否定するように小狐が低めの声を出す。が、自分の中で結論を出してしまったらしいマインはうんうんと頷くと、嬉しそうに手を叩いた。
2019-07-29 22:17:56音の大きさに小狐の毛がブワリと逆立つ。 「じゃあきつね君はわたしとトゥーリの間ね。ここだよ、ここ!」 「……」 「もうっ!ここだってば!」 2つ並んだ枕の中間をバシバシ叩いてアピールしたマインだったが、半眼で見つめてくるだけの小狐へ焦れ、自身もベッドへ上がると小狐を抱え上げた。
2019-07-29 22:17:57そのままベッドへ横になり、先ほど示していた場所へ小狐を置く。 「えへへへ。きつね君はフワフワで気持ち良いね」 「きゅー」 本人(?)は不満そうだが、お風呂に入って毛並みの良さがアップした小狐は最高のクッションと化していた。 小狐を寝かせたら布団から出て本を読むつもりでいたマインだが、
2019-07-29 22:17:57布団のぬくもりと頬へ当たる心地良い毛皮の感触に眠気を誘われ、だんだんとまぶたが重くなってくる。 「まだ、ほん……よんで、な、い」 「……ふー」 目を閉じ、夢見心地なマインが発した言葉へ、小狐がため息を吐く。 次いで、早く寝ろと言うように、頭を尻尾で優しく叩かれた。
2019-07-29 22:17:57その感触に抗うことなく。マインは早々に眠りへと落ちる。 「まったく。君は生まれ変わっても本のことばかりだな」 夢の淵で聞こえたのは、どこか懐かしい男の人の声。
2019-07-29 22:17:57ミスった! 妖怪パロのマインちゃん8才の設定だから既にカミル産まれてるじゃん(´д`|||) 完全にまだ産まれていない設定で書き進めちゃってた。
2019-07-30 19:46:25寝室にはベビーベッド。お姉ちゃんなんだからと張り切るマインちゃん。 赤ん坊へどう接して良いのか分からず途方に暮れる小狐ディナンド。 脳内設定で追加すべきなのはこんなところかな?
2019-07-30 19:50:30妖怪パロ5 前回のあらすじ 小狐ディナンド寝床を確保する。 マインが小狐を保護してから3日が経過した。体力を温存するためか、寝ていることの多かった小狐だが、本日はトコトコと家の中を歩き回っている。 匂いを嗅いでいることはあるが、家具を引っ掻いたり、粗相をしたりすることはなく。
2019-07-30 21:27:47純粋に家の中へ危険がないか調査している風情だ。 初めは家を汚されないかと心配していたエーファだったが、こちらの言葉が通じているのではないかと思うほど注意したことをきっちりと守る小狐に、警戒心はすぐに解けた。 「いい?私はこれからカミルを保育園へ連れて行って、そのまま仕事へ
2019-07-30 21:27:47行くけど、良い子で留守番しているのよ?ご飯とお水はそこへ置いておくからね。散らかしちゃ駄目よ」 「きゅーん」 警戒心は解けても毎回注意はするエーファに、言われずとも分かっていると、辟易した様子で小狐は返事をする。 その姿があまりに人間染みていて、エーファは苦笑した。
2019-07-30 21:27:48立ち上がり、カミルを抱えたエーファが振り返る。 「ほらカミル。狐さんに行ってきますして」 「あーうー!」 「はい、よくできました」 微笑ましい母子のやりとりだが、小狐は奇異なものを見るような目を向けている。 時間が迫っているのか、慌ただしく家を出ていくエーファとカミルを見送った小狐は
2019-07-30 21:27:48家の探索を再開した。 マインたち親子が暮らしているのは少々。いや、だいぶ古い小さなアパートだ。家族5人で生活するにしては狭い。 寝室と台所、物置きとして使われている部屋にトイレとお風呂。部屋はそれだけだ。 あっという間に家の探索を終えた小狐はつまらなさそうに鼻を鳴らすと、何故か玄関
2019-07-30 21:27:48の方へと歩き始める。その歩みには迷いがない。 一分後、小狐は家の外に居た。玄関の扉に開けられた形跡はなく、鍵もかけられたままだ。 なんでもない顔でマイン宅を後にした小狐はクンクンと地面の匂いを嗅ぐと、トコトコ歩き始める。 リンッ、リンッ 小狐が歩くのに合わせて涼やかな音が響く。
2019-07-30 21:27:49それは小狐が手首へ巻き付けている紅白の組み紐へ結わえられた小ぶりな鈴の音だった。 通勤通学時間を過ぎ、人の気配がなくなった住宅地に鈴の音だけが響く。 しばらくすると、フェンスに囲まれた大きな建物が見えてきた。この近所に住む子供たちが通う小学校だ。 小狐は一度、高いフェンスを見上げて
2019-07-30 21:27:49目をすがめる。 そして、おもむろにフェンスから距離を取ると、トントントンっと助走をつけ大きく跳び上がった。 小さな身体に見合わぬ跳躍力を見せた小狐は、なんなくフェンスを飛び越え、小学校のグラウンドへと降り立つ。そこでは今まさに児童たちが体育の授業をしているところだった。
2019-07-30 21:27:49きゃーきゃーと騒ぐ子供たちの側を小狐が我が物顔で通り過ぎる。 校舎へ入り、クンッと鼻を鳴らした小狐は廊下を進み、とある教室の前で足を止めた。 「この問題が分かる人ー」 「はーい!」「はいはーい!」 ここでも子供たちの元気な声がしている。それへ五月蝿そうに顔をしかめた小狐だったが、
2019-07-30 21:27:49立ち去ることはせず。むしろ換気のために開かれていた窓へ器用に飛び乗り、教室の中を覗きこみ始めた。 教室に居る子供は20人ほど、その中に紺色の髪をした子供を見つけ、小狐の視線が止まる。 マインは授業を聞くよりも教科書を読むことの方が楽しいようで、視線は黒板ではなく教科書に向いていた。
2019-07-30 21:27:50その姿に小狐の機嫌がだんだんと悪くなっていく。 マインが先生から注意を受けるとその雰囲気はブリザードでも吹き荒れんばかりに冷たくなった。 と、危険でも察知したのか、マインがぶるりと身を震わせ、腕を擦った。 「マイン、どうかしたのか?」 「う、ううん。なんか背中がさむくなって……」
2019-07-30 21:27:50「かぜか?」 「ちがうと思う。なんか。ちゃんと勉強しなくちゃひどい目にあいそうな、いやなかんじはするけど」 「なんだそりゃ」 隣の席の男の子はマインの言葉へ首を傾げたが、マインにもよく分かっていないのでこれ以上説明のしようがない。 とにかく、このままでは不味いという予感に突き動かされ
2019-07-30 21:27:50たマインは、ピシッと背筋を伸ばすと黒板に書かれた答えをノートへ写し始めた。 それを見て、小狐がフンッと鼻を鳴らす。授業に飽きて窓の外を眺めている生徒も居たが、窓枠にちょこんと座る水色の狐へ気づいた様子はない。 窓枠に座ることへ飽きたのか、ふいに小狐が教室の中へと入り込んだ。
2019-07-30 21:27:50小狐が歩くたびに鈴が音を立てるが、やはり誰も気にした様子はない。 いや、一度だけマインが小狐の居る方へ視線を向けたが、不思議そうに首を傾げただけで、すぐに視線を黒板へ戻してしまった。 小狐は教室を横断し、黒板の横へ置いてある学級図書の納められた小さな本棚へと飛び乗る。
2019-07-30 21:27:50そこからは、背の小ささ故に一番前の席へ座っているマインのことが、実によく見える。 小狐の授業参観は、放課のチャイムが鳴るまで続いた。
2019-07-30 21:27:51ネタメモ ・小狐様の着けている鈴のブレスレット(?)は前世マインからプレゼントされたもの。 ・保護のまじないをかけてあるから汚れないし劣化しない。 ・粗雑に扱うと小狐様がたいへんお怒りになる。 ・お風呂のとき以外ずっと着けている
2019-07-30 22:19:44妖怪パロ6 前回のあらすじ 小狐ディナンドの授業参観 日曜日の今日はマインもトゥーリも家に居る。トゥーリは台所で母から裁縫の仕方を教わっていたが、マインはせっかくの休みだからと、寝室へ一人引きこもり、図書館で借りた本を読んでいた。 小学2年生が読むにしては少々分厚い本だが、
2019-07-31 21:40:17マインは嬉々として読み進めている。この本には有名なイラストレーターが描いた挿し絵が入っており、壮大なストーリーを彩っているのが特徴だ。 本へ栞を挟み、一度表紙のイラストを確認する。今読んでいた場面をほんのり匂わせるそれに心臓が高鳴り、マインはそっと熱い吐息を漏らした。
2019-07-31 21:40:18「はぁ」 今読んでいるのはこの巻の山場。ここを過ぎればすぐに本を読み終えてしまう。 早く先を読みたいような、もう少しこの気分に浸っていたいような。揺れる心はやがて先の展開を求める方へと傾き、マインはゆったりとした仕草で本を開き直した。 と、そこへ小さな影がトテトテ近づいてきた。
2019-07-31 21:40:18ベッドでゴロリと寝っ転がっているマインの横まで歩いてきた小狐が、マインの持っている本の匂いを嗅ぐ。次いで本の表紙へ描かれたイラストへ視線を向けると怪訝そうな顔をした。 「きゅー、きゅー」 「んー」 これはなんだ?と聞きたそうに小狐が本を前足でつつくが、マインは唸るばかりで見向きもし
2019-07-31 21:40:18ない。 それでも、小狐は諦めることはなく。今度はマインの腕へ頭を擦り付け始めた。 「もうっ!今良いところなんだからじゃましないでよ!」 揺らされることに耐えかねてマインが本をベッドへ置き、小狐を見る。 しかし、今度は小狐がマインを無視し、視線を本へと向けた。
2019-07-31 21:40:18開かれているページへ、まるで読んでいるかのように目を通し、チョイチョイッと、器用に爪先でページを捲る。 初めのページを開いたところで前足を使って本を抑え、本格的に読書の態勢に入った小狐を、マインはポカンと口を開けて見つめる。 まさか、狐が本を読むとは思わなかったからだ。
2019-07-31 21:40:19まるでおとぎ話に出てくるお喋りをしたり、二本足で歩く動物を目の当たりにした気分で、なんだか愉快になってきた。 「きつね君も本が好きなの?」 「……」 マインの質問にも小狐は答えることなく視線を本へ固定している。パラリとページを捲る姿に、読書を邪魔されたことへの苛立ちが薄らいでいく。
2019-07-31 21:40:19「その本面白いよね。これね、三巻なんだけど。わたしは二巻が好きなんだよ。主人公がね、ドラゴンをドーンッてたおすんだよ!」 「きゅ?」 「気になる?気になるよね。明日学校の帰りに図書館へ行くから、一巻と二巻借りてくるね」 「きゅー」 マインの言葉を上手く理解できなかったようで、小狐は
2019-07-31 21:40:19首を傾げていたが、一巻を借りて来るという言葉には肯定と取れる返事を返した。 その返事にマインはますます気分が高揚する。 なにせ、これまでマインの周りに居た人間は皆読書へ関心が薄い者ばかりだったのだ。 いくらマインが『この本すっごくおもしろいんだよ!』と伝えても、誰も色好い反応を返し
2019-07-31 21:40:19てはくれなかった。 だから、例え相手が狐だろうと、文章よりも、美しい挿し絵を観賞することの方が目的のように見えようと、本を読んでいれば貴重な本好き仲間だ。 「貸して。わたしが本持ってあげる。いっしょに読もう?」 「きゅー」 マインはウキウキとした心地で本を手に取ると、膝を立てて座り
2019-07-31 21:40:20足の間へ小狐の身体を挟んだ。 人との接触をあまり好まない小狐は不服そうに声を上げたが、マインは気にすることなく本を構える。 「うふふん。お友だちと本の読みあいっこ。してみたかったんだよね」 夢が叶ったと喜ぶマイン。マインの中ではすっかり、小狐は"本好きのお友だち"認定のようだ。
2019-07-31 21:40:20そのことを察した小狐が深い深い皺を眉間へ刻む。 愛らしい小狐の面影がない、実に凶悪な表情だ。普通の子供であれば泣いて逃げ出していただろう。が、幸か不幸か、小狐にとっては不幸なことに、後ろから抱えているマインにはその表情は見えていなかった。 「えへへー、わたしが読んであげるね」
2019-07-31 21:40:20小狐の毛皮はそこらのクッションよりよほど感触が良く、マインのテンションは最高潮に達していた。 本好きのお友だち兼最高級クッションと共に、お気に入りの本を読む。これ以上幸せなことはないとばかりに笑み崩れる幼児を肩越しに振り返り、小狐がげんなりとした顔をする。
2019-07-31 21:40:20恐らく、迂闊にマインへ本の話題を振ったことを後悔しているのだろう。 だが、後悔先に立たず。 ようやく手に入れた本好きのお友だちをマインが逃がすはずはなく。それから毎日、読書時にはクッションのように抱きこまれ、読書へ付き合わされることになる小狐であった。
2019-07-31 21:40:21ずっと封印されていたので現代の本を初めて見た小狐様。 表紙のイラストが彼好みの美麗なものだったこともあり、ついついちょっかいを出した結果、妖怪本スキーに仲間認定されちゃいましたw
2019-07-31 21:44:50ちっちゃい子が小動物抱きかかえている構図が好きなので、妖怪パロの小狐様はしょっちゅうマインちゃんに抱きつかれてると良いと思う。 もふもふふかふかの毛皮に眠気を誘われ、小狐様も幼児の体温に眠気を誘われてぴったり寄り添ってお昼寝とかしていて欲しい。 かわいい……
2019-07-31 21:49:45妖怪パロ7 前回のあらすじ 妖怪本スキー、本好き仲間をゲット(?) 夕焼けの色に染まる街を、マインは姉のトゥーリと一緒に歩いていた。 その側には小狐の姿もある。 『だいぶ元気になってきたみたいだし、少し運動させてあげたらどう?』 という母からの提案で、二人は小狐を散歩に連れ出したのだ。
2019-08-01 22:31:50これには、本ばかり読んで運動不足なマインに少しでも運動をさせたいという親心が多分に含まれている。 エーファの思惑は成功し、『マインが面倒見るって約束したでしょう』の言葉でマインは渋々お散歩へとでかけた。 トゥーリはリードなどがなくて大丈夫かと心配していたが、小狐は二人から離れず
2019-08-01 22:31:50歩いている。少し前を歩いても、二人が遅れていることに気づくと立ち止まってくれた。 「この子小さいのにすごく賢いね」 「うふふん。そうでしょう、きつね君はすごいんだよ」 「もう、なんでマインが得意そうにするの」 後ろで戯れる子供たちの声を聞きながらも、小狐は油断なく辺りへ気を配り
2019-08-01 22:31:51危険なものが近づいて来ないか探っている。 と、彼の五感に何か引っかかった。クンッと鼻を鳴らし、耳を澄ませて近づいてくるものがなんであるか。危険はないかを推し測る。 小さくて軽い足音が五つ。どうやら子供のようだ。 やがて肉眼でもその姿が分かるようになると、トゥーリもその存在へ気づいた
2019-08-01 22:31:51「あ、ラルフにルッツ!」 「んあっ?トゥーリ、どうしたんだこんな時間に」 前方から歩いてきた子供たちの集団に見知った顔を見つけたトゥーリが声を上げ、それに気づいた赤毛の男の子。ラルフが驚いたように目を瞬いた。 もう日が落ちかけている時間にトゥーリが出歩いていることは少ないからだろう
2019-08-01 22:31:51「今家で狐の子供を面倒みてるの。その子のお散歩だよ」 「へえ、オレ狐なんて初めて見た」 「オレも」 「狐ってこんななんだな」 近寄ってきた子供たちがもの珍しげに小狐を見て、触ろうとする。が、小狐は毛を逆立てて唸り触れようとした手をひらりひらりと交わしていく。小さくても立派な牙の生えた
2019-08-01 22:31:52