しかし、マインによって無理矢理顔を正面へ向き直された。近づいてきた顔が、いつになく真剣で、目を反らせなくなる。 「わたしもディーノとはなれるのはイヤだよ。でも、ディーノがきえちゃうのはもっとイヤだ」 「だが、私が居ないときにまたあの女のようなモノに襲われたらどうする」
2019-08-26 21:12:30「我々が護衛致しますのでご安心を。定期的にご報告も致します」 「フェルディナンド様のためであれば何者からも守り通してみせます」 「ほら、ユストクスさんもエックハルトさんもこう言ってくれてるし」 「だが……」 自分でもそうした方が良いと分かっているのだろう。フェルディナンドの瞳が揺れる
2019-08-26 21:12:31そんな彼へ、マインは優しく笑いかけた。 「わたしはずーっとディーノといっしょにいたいんだよ。そのためにはディーノが元気でいてくれなくちゃダメでしょう?」 「っ……」 「だから、ね?ちゃんと元気になろう?わたし、ディーノにしんぱいかけないように気をつけるから」
2019-08-26 21:12:31「……もう、知らない人間に話しかけられても相手をしてはならぬぞ」 ぽつりと呟くフェルディナンドに、マインは一瞬ぽかんとした顔をしたが、すぐに笑顔で頷いた。 「うん、わかった!」 「風邪を引いたら、嫌がらずに薬を飲みなさい」 「う、うん。がんばる」
2019-08-26 21:12:31「本をくれると言われても簡単に信用するな」 「えっ、それは……」 「私を心配させないようにするのであろう?」 「で、でも本をくれる人にわるい人なんているわけ」 「なるほど、やはり君には私の監視があ必要なようだ」 本を引き合いに出されて狼狽するマインを、フェルディナンドが酷薄そうな
2019-08-26 21:12:31顔で見上げる。 このまま言い負かされそうなマインにエックハルトとユストクスから圧力がかかる。 その視線の強さに怯え、なにより、大切な家族の命がかかっていることだからと、マインは断腸の思いで決断を下す。 「わかっった、本をくれるって言われてもかんたんにしんじないようにするよ!」
2019-08-26 21:12:31「……」 まさか本を諦めるとは思わなかったのか、フェルディナンドは目を丸くした。 そして、それだけマインが自分を心配しているのだと感じ、耳へ熱が集まっていく。 「ん?どうしたの?」 「なんでもない」 幸い、毛があるのでマインには照れていることがバレずに済んだ。
2019-08-26 21:12:32それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。 フェルディナンドは羞恥をごまかすため、マインの腕から抜け出した。 「あ」 「君がそこまで言うのであれば仕方がない。妖気の強い山へ療養へ行く」 「今から?」 「ああ。今回の戦いで力を使い過ぎたからな。なるべく早い方が良いだろう」
2019-08-26 21:12:32妖怪パロ26 後編(終) 「でも、父さんたちとのおわかれとか」 「いらぬ。そもそも、どう言い訳をするつもりだ。言っておくが、私は彼らへ妖怪であることを伝えるつもりはないぞ。このようなことは、祓い屋でもない人間は知らずとも良いことだ。……君にも、知られたくはなかった」
2019-08-26 21:55:28「ディーノ」 どこか苦しそうな表情をするフェルディナンドにマインはかける言葉を見つけられずに口ごもった。 その間にも、フェルディナンドはエックハルトの背中へと乗り、移動する準備を整える。 その姿に、このままフェルディナンドが自分の元へ帰ってこないのではないかという不安を覚え、
2019-08-26 21:55:28マインは焦って駆け寄る。 「ディ、ディーノ」 「なんだ」 「元気になったらかえってきてくれるんだよね?」 「……君が、許すのであれば」 「もちろんだよ!むしろ、かえってきてくれなかったらおこるからね!ディーノのかえるところは家だから、ちゃんとかえってこなくちゃダメなんだよ!」
2019-08-26 21:55:28キッ!と睨むようにフェルディナンドを見上げる。彼の表情は、逆光になっていてよく分からない。 ただ、返ってきた声は少しだけ震えているように感じた。 「分かった。回復するには何年かかかるだろうが、必ずあの家へ帰ると約束する。だから泣き止みなさい」 「な、泣いてなんかないもん!」
2019-08-26 21:55:29本当は泣きそうになっていたマインは、慌てて目元を拭い。きゅっと唇を引き結んだ。 くすりと、空気の揺れる音が聞こえる。 「私は暫く慰めてやれないのだから気を付けなさい」 「うん」 「トゥーリやエーファを困らせないように」 「うん。わたし、おてがみをかくから。だからディーノもおへんじを
2019-08-26 21:55:29ちょうだいね」 「ああ。ユストクスに持たせよう」 会話が途切れ、二人は見つめ合う。 先に動き出したのはフェルディナンドだった。 エックハルトの背を軽く撫で、出発を知らせる。 「ユストクス、マインを家まで送れ」 「承知致しました」 「では、いってくる」 「あ」
2019-08-26 21:55:29エックハルトが腰を上げるのに合わせ、ユストクスがマインを抱き上げて避難させる。 タンッと、勢いをつけて走り出した緑の犬の背中をマインは言葉もなく見送った。 喉元で何かが詰まったように声は出ない。だんだんと遠くなっていく愛狐の姿に目頭が熱くなり、止めていたはずの涙が溢れ出してくる。
2019-08-26 21:55:29「い、いってらっしゃーーーい!ずっと、ずっとまってるから!ぜったいぜったいかえってきてねー!!元気でねーー!」 ようやく出た言葉は涙に濡れて、まともに発することはできていなかった。それでも、全力で手を振り、声の限りに叫び続けた。 フェルディナンドは振り返らない。
2019-08-26 21:55:29それでも、マインはすすり泣きながら手を振り続けた。 自分の家族が無事に帰ってくるように。そんな祈りの込められた視線に、ユストクスも止めることはせず静かに見守る。 やがてマインが疲れて眠り、動きが止まるまで、二人はその場でフェルディナンドの旅立ちを見送っていた。
2019-08-26 21:55:30※お知らせ CP要素なしの部分はこれにて終了です。ここからの話は恋愛要素がちょっとずつ混じっていきます。 それに伴い、ここからの話は鍵アカウントの方で更新していきますのでご注意ください。 (鍵アカウントのIDはプロフィール欄へ記載してありますので、ご興味のある方はそちらよりどうぞ)
2019-08-26 21:55:30