毎朝8時から放送をしております。お休みしていましたが最近再開しました。
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楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年3月31日】 幅させる、螺旋闘術の秘技である。  血が止まっていた。  ザジも立ち上がった。右手で剣を構え、左手を懐に入れている。  右膝は、曲がらないようだった。  エマは、もう一度、右手を振ってつっかけた。今度は指ではなく、拳。胸。い

2021-03-31 08:00:13
楠羽毛 @kusunoki_umou

や、首筋の少し下。深い意味はない。そこが一番狙いやすかったからだ。いや、  そう、誘導されたような気がする。  間合いが縮まる瞬間の、ザジの不自然な動き。右膝がかすかにバランスを崩したように見えた。が、『調整』であったようにも。  エマは、寸前に拳を止めた。ザジの懐からかすかに覗く

2021-03-31 08:00:14
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月1日】 、異様な色にきらめく抜き身の刃に触れる寸前に。  罠であった。  動きを止めたエマを、右手の剣がおそった。避けようとして姿勢を崩した。胴を横なぎ。一撃で両断される。はずだった。エマの両足が地面から離れ、仰向けに倒れるように上

2021-04-01 08:00:28
楠羽毛 @kusunoki_umou

半身をのけぞらせた。目にもとまらぬような動きであった。  肉が裂ける音がした。  エマの右脇腹の肉と、血が、ザジの剣に残った。ふたりはまた離れて、向き合った。エマは脇腹を押さえて、しゃがみこんでいた。  脚がかすかに震えていた。  ほんの一呼吸のあいだ、ふたりは睨みあった。エマは立ち

2021-04-01 08:00:29
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月2日】 上がった。それと同時に、ザジはもう一度、こんどは両手で剣を構え、きっさきをまっすぐエマの首筋にむけた。  エマのからだが、動いた。さきほどと同じ、回転する動きだ。それが完了する前に、ザジは地面を蹴った。一瞬で間合いがなくな

2021-04-02 08:01:18
楠羽毛 @kusunoki_umou

る。くるりと一周したエマの顔の目の前に、刃があった。  避けられる自信はあった。ただ、あまりに疾かった。  のけぞる動きにひきずられるように、刃が喉元に。  触れる── 「殺すな!」  モリス=サランの声。その瞬間。いや、刃が動きだす前から、声は聞こえていたのだろう。それが脳に達し

2021-04-02 08:01:19
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月3日】 たのが、今だというだけだ。この剣は、そんなに遅くない。  止まった。  皮膚に触れたところで、ザジが手を止めた。ふたりは密着した状態で、刃をあいだにして向き合った。この状態から反撃することもできる。けれども、 「……降参だ。

2021-04-03 08:00:11
楠羽毛 @kusunoki_umou

」  エマは目を伏せて、小さく手をあげた。 *  その瞬間、青い光が満ちた。 *  ほんの少し前。パナンは地下室の扉の前で、通路をふさぐように立っていた。目の前には、槍をもった男たち。背後は暗い。  とん、と地面を蹴る。浮くように。  それを追うように、槍の穂先が暗闇に入ってくる。

2021-04-03 08:00:12
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月4日】  自分の体が、きちんと影に入ったのを確認してから、蹴る。  槍を、である。  握ったところが支点になるように、穂先を。それから、もうひとりの槍を、右手で叩く。  ふたつの槍が、バツ印を描くように、持ち主の手を離れて交差した。

2021-04-04 08:00:17
楠羽毛 @kusunoki_umou

穂先と石突が、狭い通路につっかえて固定される。即席のバリケードである。  まだ、闇の中だ。  次の槍が侵入してくる。その槍を引く。簡単に持ち手を離れる。それをもう一度、こんどは縦に、天井と地面にひっかけて、さらにバリケードを強固にする。  矢。  避ける。  だれかのうめき声が聞こ

2021-04-04 08:00:18
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月5日】 える。流れ矢であろう。  モリスの足音に注意を向ける。そろそろ、地上についた頃か。あともう少し、時間を稼がねばならない。いっそ、ここで全員倒してしまうか。そのほうが早いかもしれない。  ラナ=デミギアは別として。  もうひと

2021-04-05 08:00:30
楠羽毛 @kusunoki_umou

り、槍を向けてくる。バリケードの下から足を蹴る。倒れる。倒れた場所は、まだ闇の中。もうひとりが倒れた体に足をひっかけて、転ぶ。その額をかるくはじいて、昏倒させる。できるだけ、優しく。  少し、飽いてきた。  いっそ、殺すか。全員。  そうすれば、ラナ=デミギアは怒るかもしれない。お

2021-04-05 08:00:32
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月6日】 れの相手をする気になるかも。  そんなことを、思う。  いや、べつに、断られたわけではない。武芸者同士だ。戦いたければ、つっかければ良い。そう、思う。  やってやろうか。  闇から、ラナ=デミギアを見る。ほほえんで立っている

2021-04-06 08:00:12
楠羽毛 @kusunoki_umou

。ぞろりとした、およそ戦いには向かない白い衣装をきて、  かすかに、青く輝いて。  そのことに疑問を感じる間もなく、パナンは光に包まれた。  次の瞬間、パナンは脇腹に何かが触れるのを感じた。強い『気』であった。いや、掌だ。たぶん、ラナ=デミギアの手。だが、感じたのはその手の形より

2021-04-06 08:00:14
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月7日】 、まずは気であった。  物理的な衝撃ではなく、螺旋状に動く、増幅された気を送り込む技術。  パナンはなすすべもなく吹っ飛んだ。通路の、ほとんど端まで。無傷ではあった。自分も気でガードしたからだ。それしかできなかった。青い光に

2021-04-07 08:00:05
楠羽毛 @kusunoki_umou

注意をそらされた上、あまりに、完璧な一撃だった。  これほどに体得しているものは、おそらく、自分かエマ=ナンラだけだ。  パナンは床を蹴って跳ねた。天井を叩き、もう一度床へ。相手の注意をそらそうと動きながら、目をあける。が、瞼が開ききる一瞬前に、知った。  ここには、もう誰もいない

2021-04-07 08:00:07
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月8日】 。  たくさんの死体と、落ちた武器だけ。  ラナ=デミギアは、消えていた。 *  審判の首が飛んだ。  モリスは、なかば呆然としながらそれを見ていた。突如、光のなかに出現したラナ=デミギアが、手刀で審判の首を落とすのを。

2021-04-08 08:00:26
楠羽毛 @kusunoki_umou

ラナは、白い、裾の長い服をきていたが、ところどころ破れていた。体は青く輝いて──服をとおして、透けて見えていた。まるで、裸のように。 「きさま、……」  ケイ=バムンが、かわいた声でなにかを言おうとした。 「戦神ル=サーシャとは、何なのです」  モリスが、あとをひきついで、言った。

2021-04-08 08:00:29
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月9日】  屋敷の入口。ラナ=デミギアが立っている試合場からは、少し遠い。  しかし、それ以上、近づく気にはなれなかった。 「私は、──滅ぼされたシーラーナ王国の遺志を、」  ラナは、青くかがやく目でこちらを見て、何かいいかけた。その

2021-04-09 08:00:19
楠羽毛 @kusunoki_umou

声は、たしかにラナ=デミギアのものであった。 「シーラーナ王国など! もう百年も前に、国としての体を失って──」 「ケイさま、あなたが、それをおっしゃいますか。」  ラナが、視線を投げた先には、ケイの連れが、じっと動かぬまま座っている車椅子があった。  幻術で、人間のように見せてい

2021-04-09 08:00:19
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月10日】 る、ただの人形を。 「わたしは、──、」  いいかけて、ラナは口をつぐんだ。目も。  それから、もう一度まぶたを開けたときには、あきらかに別人のように見えた。 「……おれは、戦神ル=サーシャだ」  高い、たしかにラナ=デミギ

2021-04-10 08:00:11
楠羽毛 @kusunoki_umou

アの声帯から出た声でそういって、手をふりあげる。  その手には、白い、ぼんやりと輝く霧の塊のようなものが、あった。  それから、ふと思いなおしたように、少し目線をさげて、  ──口笛の音。  ケイ=バムンと行動を共にしていたときに、耳にした旋律である。  少しして、──ラナはいぶか

2021-04-10 08:00:11
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月11日】 しむように目線をさまよわせた。 「……きかんよ。……おれの術のほうが、さきだからな。」 「そういう、……ものですか。」 「そういうものさ。」  口笛に、べつの旋律が乗った。  ラナは、うすくほおえんで、 「あらあら。私を、幻術

2021-04-11 08:00:07
楠羽毛 @kusunoki_umou

にかけようと?」  ぱち、ぱち、とまばたきをする。  ──すこし、目つきがかわった。  くるくる、と眼球が奇妙にゆれて、瞳孔がひらく。きいんと、張り詰めたような、ピントの合わない目。  キュナ=ナルパの目に、似ていた。  少しのあいだ旋律を続けてから、ケイはあきらめた。──ともかく、

2021-04-11 08:00:09
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月12日】 今のやりとりでわかった。ラナ=デミギアは、おれたちの技を盗んでいる。自分で身につけたのではなく。  ラナは、右手をすっとさしあげた。霧の塊だったものは、はっきりと形をとっていた。それは、瓶だった。  精霊の小瓶。  ガル=デ

2021-04-12 08:00:25
楠羽毛 @kusunoki_umou

ミウが、悲鳴をあげてかけだした。ラナはそちらに目をむけもせず、ただ、小瓶を動かして、ぴんと親指で栓をぬいた。  稲妻がきらめいた。  ガルの悲鳴がとまった。倒れた男のからだから、かすかに焦げたようなにおいが漂った。  小瓶は地面に落ちた。月光と沈黙が、あたりに満ちた。  ラナの左手

2021-04-12 08:00:26
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月13日】 、新たな霧が集まってきていた。ゆらめきながら、複雑な形をとりはじめる。ベルトと、小さな歯車と、弓のような構造物。  ラモン=シリウスの弩!  キュナ=ナルパとエマ=ナンラが、同時にとび出した。先にとどいたのはエマの拳だった

2021-04-13 08:00:15
楠羽毛 @kusunoki_umou

。がちんと固い音をたてて止まった。鎧。いや、手甲か?  竜鱗だ!  インパクトの瞬間、気を送りこもうとしたが、はじかれた。竜鱗のせいか、それとも技術で防いでいるのか、わからない。  螺旋闘術の秘技が盗まれたとは、思いたくなかった。  ラナ=デミギアが、くるんと体を動かした。パワーを増

2021-04-13 08:00:16
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月14日】 幅させる、螺旋の動き。  キュナの拳が、ラナにあたる前に横からふっとばされて落ちた。腕を叩きつけたのだ。その勢いのまま、エマの鳩尾に爪先が叩きこまれる。  それで終わらなかった。頭に肘、喉に膝、胸に拳。四連撃。  エマは意識

2021-04-14 08:00:10
楠羽毛 @kusunoki_umou

を失って倒れた。キュナ=ナルパも。少なくとも、そのように見えた。  ラナの頭上に、かげがさした。  羆の巨体であった。マテル=パナルが、覆いかぶさるように近づいてきていた。ラナは左手を後ろにさげたまま、むぞうさに右手を心臓のあたりに撃ちこんだ。  螺旋を描いて、足元から生まれたエネ

2021-04-14 08:00:12
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月15日】 ルギーがマテルの心臓に流れこんでいく。  羆の体が、びくんと大きく震えて、動かなくなる。伏して。  その後ろから、  剣が──、  ラナは大きく後ろに跳んだ。脇腹から血がしたたっている。ザジ=ダームの剣が、マテルのかげに隠

2021-04-15 08:00:27
楠羽毛 @kusunoki_umou

れるようにして突き出されていた。 * 「メイ、こっちへ!」  モリスは、手をつきだしてそう言った。メイは凍りついたように動かなかった。  汗ばむ手で剣を握ったまま、ただ立っていた。 *  ザジの剣が、電光のようにひらめく。  ラナは、竜鱗と、指から生やした鉤爪で応じる。  打ち合う。

2021-04-15 08:00:29
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月16日】  打ち合う。  ラナは、脇腹から血を流したままだ。かといって傷口をかばう様子もない。治癒術を使う間もないのかもしれない。  いちども、ラナの手は、ザジの体に触れていない。すべて、剣でさばかれている。  金属音がやかましく響

2021-04-16 08:00:29
楠羽毛 @kusunoki_umou

くなか、ラナのうごきがちょっと変わった。  焦れた、ように見えた。  唇が動く。 *  モリスは、メイに何か言おうとした。  間に合わなかった。 *  ザジはふっと剣をとめて、体をひねった。脇腹の横を、なにかが通りぬけていった。剣であった。メイ=サランの剣。なぜ、と自問する。また新

2021-04-16 08:00:29
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月17日】 たな術か。  ラナ=デミギアの胸に、読めない文字が浮かび上がっていた。  ともかく、避けた。剣は、ラナ=デミギアに向かって、飛んでいく。そう認識した瞬間、ラナの姿は消えていた。いや、もぐり込まれたのだ。吐息がかかるほど近く

2021-04-17 08:00:03
楠羽毛 @kusunoki_umou

に。  吹っ飛ばされた。  触れた状態から、なにかを送り込まれた。体内ではじけて暴れる、なにかを。  ザジ=ダームは、倒れた。 *  メイの剣が宙をとんで、奪われた。  いや、奪われたのは、そんなものではない。  盗まれたのだ。魔剣術を。  そう認識する直前、気づく。ラナの左手。弩

2021-04-17 08:00:04
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月19日】 の生成が終わっている。ゆっくりと、こちらを向く。いや、ゆっくりに見えただけだ。実際には、一瞬。  メイが不安そうな目でこちらを見る。  考えるより先に、指が動いている。かくしから、薄布を引き出す。びっしりと魔術文字が縫われ

2021-04-19 08:00:49
楠羽毛 @kusunoki_umou

た、蒼い絹布。空中で大きく広げる。ラナの手を見る。ほんの少し、戸惑うように指先が踊る。その隙に、呪文を。  小さな歯車がまわる音がする。  弩が最初の矢を吐き出すのと、モリスが呪文を唱えはじめるのが、ほぼ同時だった。  かかかかかかか、と一連の乾いた音がして、血がしぶく。だれの悲鳴

2021-04-19 08:00:51
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月20日】 かわからない。最初に狙われていたら間に合わなかった。薙ぎ払うように、ラナは矢を飛ばし続ける。また悲鳴。だれかの走る音。血。  布がゆれ、回転する。  数本の矢を巻き込んで、布は絡まり、止まった。  キュナが飛び出した。大きく

2021-04-20 08:00:07
楠羽毛 @kusunoki_umou

跳んで、ラナの頭に拳を叩きこもうとする。直前で、なにかが脇腹ではじける。ラナの拳であった。ふたたび倒れたキュナに、追い打ちの矢を叩きこむ。鈍い音。血しぶき。鉄のようなにおい。  メイは薄布のむこうで、影絵のようにそれを見ていた。そうして、もう一度モリスと目を見かわして、震えながら

2021-04-20 08:00:08
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月21日】 ちいさく、ささやいた。  ──行って!  布が落ちた。メイは地面に伏せて、もう一度布を浮かせようとした。できなかった。モリスの呪文をなぞることさえ。オツペル=サランならできただろうか? しょせん、自分は後継者の器ではなか

2021-04-21 08:00:05
楠羽毛 @kusunoki_umou

ったのだ。仕方がない。  ここで、死んでも。  ラナがこちらに弩をむけた。メイは目をつむった。けれども、矢は発射されなかった。そのかわり、ラナの頭上から、なにかが降ってきた。流星のように。  モリスの剣であった。  一瞬遅れて、当人が着地した。剣は、ラナの手元をかすめて地面に刺さった

2021-04-21 08:00:06
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月22日】 弩をひっかけて、いくつかの部品を砕いた。それからすぐに、ひとりでに地面から抜けてモリスの手元に戻った。まるで歌うように、呪文が続いていた。  モリスは、ラナの胸に浮かぶ文字をじっと見た。ラナの唇も動いている。たがいに、呪文

2021-04-22 08:00:24
楠羽毛 @kusunoki_umou

を唱えているのだ。モリスは剣を操るために、ラナは自分の肉体を強化するために。  さっきの、ケイとラナのやりとりを思い出した。ラナは、ぼくたちの術を盗んだが、ほんとうに理解したわけではない。理解していたら、絶対にこんなことはしない。なぜなら──、  ラナが、目にもとまらぬ疾さで拳を打

2021-04-22 08:00:24
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月23日】 ち込んで来る。その一瞬前に、モリスは地面を蹴って、後ろへ跳んでいる。あとから、剣がついてくる。拳がモリスの胸に触れる直前に、体が伸びきってしまう。地面を蹴って、さらに先へと打点を伸ばす。が、タイミングがずれたせいで、収束

2021-04-23 08:00:26
楠羽毛 @kusunoki_umou

した気は散ってしまっている。これでは、ただの拳だ。螺旋闘術の技ではない。  モリスの剣が、ラナの肩を浅く切って、手にもどる。一瞬だけ血がにじむが、傷はすぐ消える。ラナが早口で唱える呪文に、治癒術が加わった。これでは、いたちごっこだ。  十分だ。  モリスは剣をにぎりなおした。呪文を

2021-04-23 08:00:28
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月24日】 きりかえる。ル=サーシャ。ラナは魔術文字で胸にでかでかとそう書き、呪文を唱えていた。これでは──、  封じてくれと、言っているようなものだ。  ル=サーシャよ、戦神よ、なんじの腕は地面に堕ち、脚は萎え、倒れる。二度と起き上

2021-04-24 08:00:03
楠羽毛 @kusunoki_umou

がることはできない。なんじの体についた傷は、癒えることはない。永遠に──、  ラナ=デミギアは倒れた。空気におぼれたように痙攣し、喉をふるわせていた。モリスは間髪をいれず、剣をふりあげた。胸の魔術文字は普通に描いたものではないようだ。獣化術の応用か、他の技か知らないが、この状態で

2021-04-24 08:00:03
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #帝都御前試合秘聞 【2021年4月25日】 も消せるのかもしれない。そうしたら、もう同じ手は通じなくなる。  魔術で剣の重みを増しながら、突き下ろそうとする。一撃で終わる。たとえ、竜鱗や螺旋の気で防御しても、この重量の刃に耐えられるはずがない。眼窩の骨が、眼球が、そ

2021-04-25 08:00:16
楠羽毛 @kusunoki_umou

の奥の脳が。  ラナの唇が、動いた。呪文ではなかった。  た・す・け・て。  モリスの剣が、止まった。呪文も。そのまま、数秒。まだ、何もわかっていない。ラナ=デミギアが、何をしようとしていたのかも。このまま殺していいはずが、  ……ラナの右手が、変化していた。竜鱗と、鉤爪。静かに、

2021-04-25 08:00:17
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