#薄明文庫 で投稿した創作文章まとめ。
0
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「今日はねぇ、フレンチトースト!! あとじゃがいものポタージュと~サラダと~」 「聞いてる? ねぇ?」 「聞いてるよぉ~。お嬢の言葉だもん。一言一句違わず聞いてるって」 「聞いた上でこっちの主張を無視してるワケ?」 「だって朝メシ食わなきゃ力、出ないよ? お嬢、非力だし」

2023-05-10 22:32:13
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「だーっ! 食べれば良いんでしょ、食べれば!」 腹は立つけど、言ってることは正論だ。乱暴にフォークを握るけど、さっきの余韻で手が震えている。 「……」 「ありゃ。食べさせてあげよっか?」 「良い!!」 「やーん、つれなーい。お嬢に食べさせたかったな~」

2023-05-10 22:35:54
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

身をよじるメイドを余所に、小刻みに震えるフォークを口に突っ込む。 悔しいけど、おいしい。無言で咀嚼していると、 「おいしい?」 と小首を傾げ、尋ねてくる。 「……まあ。おいしい」 聞かれたので答えると、メイドは嬉しそうに笑った。 笑顔になると、顔の傷が湾曲する。

2023-05-10 22:38:35
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「ホント? 良かったぁ。お嬢、甘いの好きだもんね~」 「何で知ってる……」 「お嬢のことなら何でも知ってるよ。メイドだし」 「んなワケあるか! 大体、最初に会った時も言ったけど、何でメイド服なのよ……」 「似合うっしょ?」 「似合わない」

2023-05-10 22:41:45
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

えー、とスカートを摘まみながら不満げなメイドを横目にじゃがいものポタージュ? ……とにかく、スープを飲む。やっぱりおいしい。 出された食事を素早く食べ終えて、パッと立ち上がる。 「ご馳走さま!!」 「はーい、キレイに食べてくれてありがと~。んで、お嬢」 「……何?」 嫌な予感がする。

2023-05-10 22:43:26
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「今日の予定だけど、オトモダチから電話あったよ」 「え」 「お腹痛いから行けない。ごめん、だって」 「えぇ~!?」 へなへなと床に崩れ落ちてしまう。私は……一体何の為に窓枠に……。 「だからぁ、オレと一緒にお買い物いこ?」 「やだ」 「何で?」 「絶対メイド服で来るでしょ!!」

2023-05-10 22:45:30
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「ダメなの?」 「ダメなの!」 メイドはうぎー!と床を転がる私を起こして、埃を払った。 「ま、細かいことは気にしない。ホラ、あのワンピース着るんでしょ?」 「だから何で知ってる!!」 「ナイショ~! じゃ、準備終わったら声かけてね」 メイドはウインクして、私の部屋から出て行った。

2023-05-10 22:48:13
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「……」 友達と遊びに行けないのは凄く凄く凄くガッカリしているけど、何分着られる服が無いので、どっちにしろ出かける必要がある。 「ハァ……」 私はため息を吐いて、クローゼットを開けた。

2023-05-10 22:51:22
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「……お疲れさまで~す。掃除、全部終わりました~。ああ、お嬢ですか? はい、ちゃんと予定を変更しましたよ~」 オレは煙草に火を点け、中空に吐き出した。 電話の向こうの相手は『オレの仕事』に満足げな息を吐いた。 「はい。はーい、大丈夫です。滞りなく~。じゃあまた」

2023-05-10 22:54:53
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

通話を切って、ポケットに仕舞う。 「ふー……」 今回のお嬢のオトモダチは良くなかった。 遺産狙いの連中は手段を問わない。『普通』に飢えているお嬢を普通に、友人で懐柔しようと思うのはまあ、普通のことだ。 「……あ、ナイフ」 ぽつっと零して、煙草を携帯灰皿に押し付ける。

2023-05-10 22:59:04
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「またお嬢が逃げる前に、研いでおきますか」 ぐうっと背伸びをしながら、台所へと向かう。 「やっぱりお嬢のメイドは完全無欠でないとね~」 お嬢は何も知らなくて良い。 ただ平和に普通……まあしばらくは厄介だろうけど、学生らしい『普通の日常』を享受して欲しい。それだけがオレの願いだ。

2023-05-10 23:02:46
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「オレが全部片付けるからね、お嬢」 そう、鼻歌交じりに小さく呟いた。

2023-05-10 23:03:28
ユーガタ@腰痛※リンクに詳細記載してます @i_who

「……」 「……何ですか?」 「怖い話……無い?」 「ハァ……」 「部誌のネタに困ってるんだよ〜! 頼む!! この通り!!!!」 「頭も下げて無いし、椅子に座ったままだし、何にも無くて『この通り』とは?」 「そこを何とか! お願い!!」 「……本棚に並んでる本、ありますよね」 #薄明文庫

2023-05-11 21:54:45
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「ウン! こないだ、古本屋で安売りしてて! 状態も良かったから、箱買いしたんだよ〜!!」 「読んじゃいけない本があります。アレとアレと……」 「そんなにあるの?! 待って待って!」

2023-05-11 21:55:07
ユーガタ@腰痛※リンクに詳細記載してます @i_who

私の叔母は一人暮らしをしている。 職業は小説家。続柄で言うと、父の姉に当たる。 高校一年生の私はこの変わり者の叔母が好きだった。 ある時、学校で『身近な人にインタビューをしてみよう!』という宿題が出た。 #薄明文庫

2023-05-12 20:42:33
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

そこで当然、大好きな叔母の小説を読み込んでいた私は、毎回叔母の小説に登場する『僕が一人称の女の子』について、質問しようと思い立ったのだ。 毎度毎度出るくらいだ。誰かモデルになった人物が居るんじゃないか? そう思ったのだ。

2023-05-12 20:42:45
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「彼女はね、どこまでも自由で、気まぐれで、自分勝手で、嵐のような人だった。いつも他人のことなんて知らないって顔をしてるけど、すごく寂しがり屋な人だったの。初めて会った時も『僕はね、真昼の月。星でも良いけど、月の方が好みかな』なんて自己紹介されたの、今でも覚えてる」

2023-05-12 20:43:08
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

『彼女』のことを語る叔母は、懐かしむように、薄曇った柔らかな陽射しに目を細めていた。 私はお茶を淹れて、向かいに座る。 「すてきな人だった?」 「そう、素敵な人よ。ガリ勉で友達の居なかった私にもあだ名を付けてくれてね」 「どんな?」 「私ね、『木星くん』って呼ばれてたの」 木星、木星。

2023-05-12 20:44:13
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「……何で?」 「さあ?」 叔母は目を伏せて笑う。 こんな笑い方をする時は、理由を知っている時なんだけど、教えてくれないことも知っている。 だから唇を尖らせるだけに留めておく。 「私、いつも私の手を引いて、晴れやかに笑う彼女のことが大好きだったわ」

2023-05-12 20:44:36
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「その人とはまだ友達?」 「ええ。向こうがどう思ってるかは知らないけどね。永遠に友達よ」 へえ、と言いながら紅茶を啜る。やっぱり紅茶はニルギリが好きだなぁ、なんて思いながら、叔母の話の続きを促す。 「それで? 初対面ってどんな感じだったの?」

2023-05-12 20:45:03
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「私がね、男の人に絡まれてるのを助けてくれたの。急に真っ黒な何かが飛んできて、男の人の頭にぶつかって。思い返してみたら、あの子の足だったんだけど」 「……飛び蹴り?」 「そう。ふふ、面白いでしょ?」 叔母はカップを両手に握って、くすくすと笑った。

2023-05-12 20:45:16
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

叔母にはこう言う、ちょっと少女らしい所がある。 もう四十……いくつだか忘れてしまったけれど、いつまでも子供のように見える時があった。

2023-05-12 20:46:03
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「彼女は私の手を掴んで、ネオンの洪水と、人混みをかき分けるように走ったわ。今でも、昨日のことのように思い出せる……真昼の月と過ごした毎日は、本当に何者にも変え難い日々だった……」 「ふーん。結局何て名前なの、その人。真昼の月……さん?」 私の言葉に、叔母は静かに首を振った。

2023-05-12 20:46:21
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「知らないの」 「え?」 「彼女のことは、真昼の月と呼んでたから、知らないの」 「でもさっき、永遠に友達って……」 叔母は庭を見つめながら、呟くように言葉を続けた。 「ある日ね、テレビのニュースで『彼女』を見たわ。写真が載ってて、すぐあの子だって分かった」

2023-05-12 20:47:06
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

いつの間にか雨が降り始めたようだった。にわか雨の音が、遠く聞こえる。 「……その、ニュースになった子の家はね、虐待のあるお家だったの。その家の子は、普段から暴力を振るわれてて、その日はいつもより激しく殴られて、蹴られて……それでね、亡くなったんですって」 雨の音がする。

2023-05-12 20:47:20
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

叔母の表情は、分からなかった。 「確かに、生傷の絶えない子だった。常に頬っぺたにガーゼを当ててたし、制服もぐしゃぐしゃだった。私がどうしたの?って尋ねたら、『人助けしてた。月はいつも見てるからさ』なんて笑って、何でもないことみたいに言うの」

2023-05-12 20:48:15
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「夏になったら長袖になって、『陽射しがキツくてね。何せ、真昼の月だから』だって。彼女、いつだか言ってたの。『僕は確かに真昼の月だが、確かにここに居る。君がその、証明だ、木星くん』……そう言ってた」 雨の音に紛れるくらい、叔母の声は小さくなっていた。

2023-05-12 20:48:50
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「もっと話を聞けば良かった。誤魔化すような口ぶりを問い質して、ちゃんと……そうしていたら」 叔母は次の言葉を飲み込んで、ゆっくり笑った。 「ごめんなさい。お茶が冷めちゃったわね。淹れ直しましょうか」 私はぎこちなく頷いて、何となく庭を見た。 真昼の月は見えなかった。

2023-05-12 20:50:26
ユーガタ@腰痛※リンクに詳細記載してます @i_who

コンコン、と目の前のガラス窓が叩かれる。 ファーストフード店で勉強していた私はパッと顔を上げた。 「真昼の月!」 窓の外に立っている彼女はニッと笑い、指で外を示す。 私は慌てて勉強道具を鞄に突っ込むと、店から飛び出した。 「お、お待たせっ!!」 「いいや? 待っていないよ」 #薄明文庫

2023-05-13 00:50:09
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

彼女は三日月みたいに澄ました顔で言って、私の手を取った。そして、 「なあ木星くん。今日はどこまで行こうか」 あの月あたりまで行ってみるかい、なんて。 嘯くように優しく笑った。 きっと手を引かれたかったのはあなたなのに。

2023-05-13 00:50:55
ユーガタ@腰痛※リンクに詳細記載してます @i_who

「……先輩」 「あ、スズちゃん」 「ちゃんは良いです。何してるんですか?」 「探し物!! この子が『キラキラが無い!』って探してるからさ~」 「この子」 「そう~。こんな時間に、子供一人で公園に居るから心配になっちゃって」 「誰ですか?」 #薄明文庫

2023-05-13 21:17:43
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「誰って……いや、知り合いじゃないけどさ、」 「だから、誰のことですか? ここには先輩しか居ませんよ」 「え? いやそこに……ってあれ?」 「……」 「……アレ、キラキラって何だっけ……その子、顔を覆って泣いててさ。手のひらで目をこう、押し潰すみたいにして……」 「成程」

2023-05-13 21:17:56
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「顔を上げたら、目が真っ黒で……ん? いや、目が真っ黒……?」 「先輩、一緒に帰りましょうか。暗くなりますし」 「……ウン」

2023-05-13 21:18:20
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「教授! 教授ったら!! 起きてくださいよ!」 「……」 薄暗い室内に差し込む日光、カーテンレールをカーテンが走る音。 パタパタと忙しない足音と共に、元気の良い声が響く。 「今日は打合せが……あ! コーヒー、淹れました。インスタントのヤツですけ」 「私は、」 #薄明文庫

2023-05-15 21:36:12
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

『教授』と呼ばれた年嵩の男は、ポニーテールを揺らして駆け回る女性の言葉を遮った。 眉間を揉みながら身体を起こし、 「……朝は淹れたコーヒーしか飲まない」 と、陰鬱に呟く。 「起きましたね教授! ええと、シャツもクリーニングから返ってき」 「大体、」

2023-05-15 21:38:05
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

ため息を吐きながら教授は女性……一応、自身の教え子を軽く睨む。 「起こしに来いと頼んだ覚えは無いが」 「だって教授」 「だっても無い。君からの申し出も断った筈だが」 「何故なら教授。教授の生活能力が皆無だからです。このままだと死んじゃいますよ?」 「死んだら死んだ時だ」

2023-05-15 21:40:49
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「ま~たそんな事言って」 にべもない態度の教授に、女性はやれやれとため息を吐く。 「とにかく今日は我慢してください!」 「同じ言葉を昨日も聞いた気がするが」 「じゃー今日も我慢してください!」 女性はてこでも動かない、と言うより一切引く気の無さそうな顔をして、腰に手を当てて言う。

2023-05-15 21:42:49
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「……」 「あ、トーストはジャムですよね? 苺の」 「……」 「ん? いや、オレンジマーマレードでしたっけ? それとも砂糖?」 「苺のジャムだ。冷蔵庫の二段目。開封してある」 「はーい。卵は半熟ですもんね」 ようやくソファから動き始めた教授を見て、女性は満足そうに笑った。 「……君」

2023-05-15 21:44:47
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

「君じゃなくて、吉海岬(キミサキ)です教授! 自己紹介しましたよ!!」 「興味が無いからな」 「うぬぬ……」 押し黙った吉海岬を見て、教授はフンと鼻を鳴らして部屋を後にする。 「絶対呼んで貰う……し、弟子にもして貰う……」 ―そんな決意も新たに、吉海岬はお湯を沸かし始めるのだった。

2023-05-15 21:48:04
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

ズズ、ズズズ……。 辺りはすっかり黄昏れており、通学路には誰もいない。 しかし、長い手足を引きずるように『真っ黒なナニカ』が歩いている。 随分と背が高く、顔は見えない。 ああ言った類のモノは、こちらが気付いている、と気付かせてはいけないと知っている。 #薄明文庫

2023-05-16 23:26:22
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

だからそちらを見ないよう、早足にもならないように、普通に歩いていた。 「あ、スズちゃーん!」 その声に振り返ると、先輩が居た。 「先輩」 「今帰り? 一緒に……あ、ちょっと待って。コレってセクハラになる?」 「……なりませんよ」 慌てたような言い方に、思わず苦笑してしまった。

2023-05-16 23:28:32
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

後ろを見る。 ……何も居ない。 「どうかした?」 「いえ……何も。帰りましょうか」 「うん! いやー、大変だったんだよ~。実はバイトでさ……」 そんな先輩の日常話に安堵しながら、二人して帰った。

2023-05-16 23:30:31
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

ペンギンたちはアスファルトの上を滑っていき、魚が空を泳いでいる。 「しまった……逆さの日だ……」 ただ雨が降ってるか確認しようと思っただけのに、そんな様子に、思わず苦笑する。 ―逆さの日。 #薄明文庫

2023-05-17 22:57:36
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

一年前から発生したこの現象では、『海の生き物が陸を泳ぐ』という異常な光景が観測されるようになった。 「食料の備蓄……は、ある」 この日は外に出られない。 なので、半年前に『逆さの日は出社しなくてもよい』と言う共通のルールが出来た。 「……まあ、良いか」

2023-05-17 22:58:18
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

ベッドに寝転んで、大きなアクアリウムを眺めているような気持ちで、遠くの雲を潜っている鯨を見上げる。 「良いなぁ……」 空を泳ぐ海の生き物たちは、どこか自由に見えた。

2023-05-17 22:59:09
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

放課後の教室だった。 同級生から遠巻きにされているクラスメイトが一人、校庭を眺めていた。 私はたまたま忘れ物を取りに来て、扉を開けると彼女が居た。 「あ……」 「あー……」 ……非常に気まずい。だって喋ったこと、無いもん。 「ええと……一人?」 #薄明文庫

2023-05-18 23:54:51
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

しばらく黙って、ようやく出たのはそんな言葉だった。 「うん、そう」 「そ、そうなんだ~……あは、はは……」 会話が途切れる。 無理だ、会話を続ける技量なんて無い! コミュ障だし!! 焦った結果、訳の分からない言葉が口を突く。 「た、大変だよね~。いつも一人だし……さ、寂しくない?」

2023-05-18 23:57:28
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

ミスった。会話の選出センスが終わっている。 すわ怒られるか泣かれるか、と身を固くしていると、 「……私は」 彼女はすっと息を吸って、静かに笑った。 「私はね、青い血が流れているから。人間では無いよ」 「……はぁ」 思わず、気の抜けた返事をしてしまった。 だって予想外のこと、言うから。

2023-05-18 23:59:07
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

そんなことは無い。 体育の授業で転んで、膝に滲んでいた彼女の血は、間違いなく赤色だった。 「ええと……」 私が言葉に悩んでいる内に、彼女は笑って、 「ごめんね、変な話して。それじゃ」 教室から出て行ってしまった。 「……な……んだったんだ……」

2023-05-19 00:01:35
ユーガタ@腰痛&限界※リンクに詳細記載してます @i_who

とは言え、彼女も居ない。 私は忘れ物を取って帰宅した。 ―その次の日。 朝会で、先生から『彼女は転校した』と言う連絡があった。 皆にさよならも言わず、彼女は居なくなった。 だから私は、今も考えている。 彼女があんな話をした理由を。

2023-05-19 00:04:29
0
まとめたひと
ユーガタ@留守 @i_who

シナリオお化けの冥探偵。 TRPGシナリオや文字を書く黄昏の手紙頭。 ATLUS狂信者でヒカセンで、卓外妄想で遊び薔薇を胸に抱くポガティブな本の虫もどき。 ▼FAは #ガタ絵 ▼i:のばらちゃん(@oh_no_bara) h:残響室(@_45978)様 ▼嗜好/近況/ご連絡/その他→リンク参照