ウビガン「フィゲ ノワール」 これが何故「ノワール」なのか、冒頭で既に理解できた気がします。完全にリアル・フレッシュ系に寄せたイチジクなんですが、グリーンですらないんですよ。それは冒頭のカルダモンが、柑橘味や香辛料としての刺激感ではなく、「土っぽさ」に寄っているから。
2022-10-11 19:42:33恐らくブラックペッパーやクローブと合わさった結果でしょうが、半端に「赤紫」とかじゃない、深く濃くほとんど黒に近いイチジクの果皮の、ざらりとした感触がすぐに思い浮かびます。あるいは木からもぎ取ったばかりの枝の部分なのかもしれません。いや最初からやられました。これは…良いものだぞ…!
2022-10-11 19:43:48三十分経過。土っぽさが収まると、ねっとりした果肉を思わせる甘さに、口紅寄りのアイリスが相俟って、一気に官能的な雰囲気に変わります。このへんはbdkのグリ シャルネルにだいぶ似てますね。こういう滑らかアイリスとイチジクどっちも好きな私には、こういう香りはいくらあっても嬉しいんですが。
2022-10-11 20:04:18ただ、グリ シャルネルのほうはだいぶ「概念」に入っているのに対して(あっちのテーマは二者間の情欲なので)こっちはあくまでイチジクが主役。青くてちょっとエグみとも取れそうな、恐らくジャスミン由来の匂いもします。少し離れたところから嗅げばだいぶフルーティーフローラルなんですが。
2022-10-11 20:06:41いやあ、凄いな。リアルイチジクを志向しつつちゃんと身に纏える香りに仕上がってるの、フィロシコスEDPのときと同じ感動を味わっている気がする(EDTのほうは私にはリアル野外のイチジクすぎた&途中でどうしてもオロナインを思い出す)。これは…いつかちゃんと買います…
2022-10-11 20:08:03二時間経過。一気にパチョリが、続いてシダーウッドが出てきました。最初はドライでしたが(シダーのせいでしょう)、徐々にしっとりとした質感になり、ここに来て再び冒頭のフレッシュさに戻った気がします。さっきまでは大分甘かったのに、なんてかっこいいドライダウン!
2022-10-11 21:54:15ノートには「砂糖漬けのイチジク」がありますが、これも恐らくそんな甘々なやつではなく、赤ワインの肴として十分通用しそうな…キノコを思わせる湿った土気とか、あるいはレーズンのような黒く濃い果実の香りのするやつでしょうね。
2022-10-11 21:56:31これは実にクラシカル。しかし、「最後で脱ぐ」(途中までキリッとした正装を思わせる淡麗辛口な香りだったのに、ベースノートでいきなりバニラとかホワイトムスクとかで甘重くなる)メンズ香は数あれど、「最後にもう一度着る」香りはなかなか。しかも冒頭より正装度が増してますよこれは。
2022-10-11 21:58:00なんというか、「田舎にある農園のイチジクの樹の下で出会った、いかにも純朴そうな青年と惹かれ合い一夜を過ごした後日、彼が実は土地一帯を所有する貴族の御曹司だったと発覚する」ぐらいの変化に思えます。最初は土に汚れた綿のシャツ着てたのが、今や完全に三つ揃えの背広ですよ。
2022-10-11 21:59:35いや、「男性の精神に捧げるフレグランス」という紹介文から考えると、イチジクの樹の下で土に塗れて遊び回った無垢な子供時代から、思春期あたりで恋と性を知り、やがて落ち着きと優雅さを持った大人の男になる精神の成熟過程…とも取れそうではあるんですが。
2022-10-11 22:01:01仏公式にある調香師(セリーヌ・エレナ)のコメントを読むと、「二面性、矛盾」ももう一つのテーマっぽいのだよなあ。苦いと共に肉感的、厳格であると同時に放埒、そんな香りをイチジクは放っていると。彼女はその後、イチジクの樹を一個の男性であるかのように描写しています。
2022-10-11 22:03:37三時間経過。パチョリの圧倒的な「ノワール」さ。元々パチョリはアーシーな香りで、時に「墨のよう」とも例えられますが、本当に墨。黒くて滑らかな書道用の固形墨という感じ。感覚としてはジバンシィ ジェントルマン(旧版)の後半に来るパチョリを思い出すなあ。
2022-10-11 23:13:51ジバンシィ ジェントルマン(旧版)も私の中では「男」が「紳士」になる過程の香りという気がしているのですが、あっちは冒頭のパチョリがあまりにアニマリックで、「元々は本能や野生を剥き出しにしていたものが、その魂を磨き上げ、洗練され、スーツの中にぴたりと収めて優雅な紳士になる」的な…
2022-10-11 23:16:00だからこっちのイチジク紳士(?)とは成長の過程が違うんだよな こっちは最初すごく無邪気で、「野生」というより「自然体」の少年という感じなんだ それが幾多の経験を経て、真面目さと妖艶さの二面性を孕んだ紳士になるというか 私は一体何を言っているんだ?
2022-10-11 23:19:14シャネル「チャンス」 吹き付けた瞬間はとてもフレッシュで瑞々しい柑橘、というかこれは…パイナップル…??? まさかとは思うし公式のノートにもそんなことは書かれていなかったのですが、体感生のパイナップルです。ムエットの上ではもっとパイナップル。
2022-11-23 17:18:55肌だと若干の瓜っぽさがありますが、恐らく私が「あらゆる瓜系香料がやけに前に出る肌」だからだと思われます。 フルーティー(といっても甘くはない)さに加えて、弾けるような刺激はピンクペッパー。がっつりスパイシーというほどではない、明るさ華やかさを上乗せするニュアンスというかんじ。
2022-11-23 17:21:51一時間経過。ミドルのジャスミンが出てきたかな。フルーティさも継続。アイリスもノートにはあるようですが、そこまで感じません。 フローラルといっても過度にフェミニンなホワイトフローラルではなく、どこかきりっとしたウッディさもあって、ユニセックス寄りの感じはあります。粉っぽくないしね。
2022-11-23 17:23:00二時間経過。大きな変化はなし。基本的には明るいジャスミン+フルーティさで、そこにベースのパチョリの気配が見え隠れしています。良いですね、この「甘すぎず、明るすぎず、軽すぎず」の塩梅。なんかもうキラキラしてて今が一番幸せです! ハッピー! みたいな感じじゃない。
2022-11-23 17:25:38どちらかというと、「今は様々な理由あってお世辞にも幸せな境遇ではないが、これから必ず幸運を掴んでみせる、私にはその力がある!」という自信に満ちた人の香り、でしょうか。まだ見ぬ「チャンス」を手繰り寄せ、確実にものにする香り。
2022-11-23 17:27:47No.5 ローのときもそうだったけど、「若い子向け・万人受けバージョンでしょ? それはシャネルに求めてないんだよなあ」という先入観を完全に覆してます。もちろん5番や22番に比べたら「現代の若い女性」向けなんでしょうが、クラシックな品格を失っていない。
2022-11-23 17:28:17三時間経過。だいぶパチョリに。ただ、よくあるお香っぽさ・アーシーさはなく、最初の力強さもするっと柔らかくなり、かなり透明感があって暗くもないパチョリ。透明感あるパチョリって珍しいな。ジャスミンのおかげなんでしょうねえ。ここまで来ても香り立ちは明確です。
2022-11-23 17:32:41…と、こういう感じに当時のレビューは終わっています。ドライダウンまで四時間、最後まで主役はパチョリでしたね(ホワイトムスクとバニラはあるにはあるが、よくある「甘くて柔らかくて清潔な香り」ではない)。ちなみにEDP版ですよ。
2022-11-23 17:36:31