むろん媚薬なるものに科学的根拠はないわけですが、19世紀当時の誘惑、色恋、性愛…を香りにしたという雰囲気はたっぷりです。なにしろ当時のことですから、明け透けにエロティック! セクシー! ではありませんが、かといって「健康的な色気」とも全く違う。どこか仄暗く、じっとり重たい。
2021-06-15 21:09:02この「フォンテーヌ・ロワイヤル」、元々の媚薬はアンバーグリスやムスク(もちろん本物の「麝香」)やシベット、シナモン、バラやオレンジの花のエッセンスで作られていたんだそうで、なるほど実物もきっとこの「じっとり」感ある匂いだったんだろうな…と思えます。
2021-06-15 21:11:32あの、今までにないすごい勢いで書いてますけど本当にちょっと嬉しくて。だってこれ、確かにういわゆる「粉物」なんですよ。オリスのあの粉感。で、私は前にも書いたとおり粉っぽいアイリスorオリスが、肌に乗せるなりパッサパサの「化粧に失敗して粉吹いた顔面」みたいな感触になるのが本当に苦手で。
2021-06-15 21:12:57でもこの香りは、確かに粉ではあるけれど、いい意味で湿っています。パウダー入り化粧水を立てて置いておいたとき、その底に蟠っているあの粉…というような、水を含んで重たくなった、でも滑らかさや白さは失っていない粉。ぴたりと肌に吸い付いて、大理石か石膏かってぐらい冷たく滑らかになる粉。
2021-06-15 21:15:01もちろん付けてまだ15分ですから、ここから乾いて最終的にパッサパサになって「やっぱり今回も駄目だったよ」となる可能性はありますけど、今のところ今まで嗅いだ中で一番好きな「粉物オリス」かもしれません。
2021-06-15 21:16:25メゾンのコンセプトと調香師さんとそれぞれの香調見て「ああ、粉なんだね…いわゆる『化粧した女性の香り』ね…」とスルーしていた己を恥じています。やっぱり食わず嫌いは駄目だ。
2021-06-15 21:17:19一時間経過。最初の「しゅわしゅわ」感が抜け、よりきめ細かで重たい香りになってきました。さっきがマシュマロなら今は羽二重餅です。もう自分でも何言ってるのか解りませんがそういう感覚です。オリス主体なのは相変わらず。ローズやゼラニウムも判りますが、決して甘口にはならない。
2021-06-15 22:00:38でもって一切香りが明るくならない。陰翳がある。私の脳裏に今谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」が流れてる。雨の日なのか夕暮れなのか、薄暗い部屋の中に体温の低そうな見た目をした人物(男女は問わない)がいて、気怠い表情を浮かべながらこっちをちらっと見た、そんなイメージ。
2021-06-15 22:02:25香りに付属するショートストーリーに登場するのは男女で、男性のほうが古書のページの匂いを嗅ぎ取りながら、女性を物語に喩える…という流れなのですが、なるほどこの香りをもうちょっと乾燥させたら正に年季の入った文庫本の中身の香りになるだろうなあ(人によってはもっとドライになるのかも)
2021-06-15 22:03:35二時間経過。香り立ちはしっかりしたまま。ベースノートのバニラやムスク、サンダルウッド等のミルキーな甘さがやっと出始めました。じっとり暗い部屋で気怠げなやり取りを交わしていた相手と、ようやく少し進展した…というか、愛情の温かみを交換するようになったのでしょうか。
2021-06-15 23:00:23でもバニラが加わったからといって、いきなりふんわり軽やかな香りにはならないのがやっぱり素敵。あくまで空間の底に蟠るようなというか、湿ってじっとり熱を含んだ寝台に横たわるような、薄暗さを残したままなのが凄い。微かに粘っこい樹脂感はラブダナムやスティラックスなんでしょうね。
2021-06-15 23:02:04表面はひんやりしている(していそう)だけど、直接ぴったりと触れてみれば内側に籠もった熱を感じる、そんな生々しさのある香りだと思います。でもあからさまに「体臭!」って感じのクミンやらシベットやらを使ってこないで(元の処方にはシベットあるけど)、匂わせるだけに留めている具合とか…
2021-06-15 23:04:27三時間経過。「ふわふわ」じゃない何か…気配になった(?)。実体のある人の周りに、纏わりつく温度のある空気とか湿気。オリスと併せてバニラとアンブレットがいっそう強くなり、どこかディオール オム アンタンスのベースに似た雰囲気を感じます。口紅感。つまり私の大好きな香りだということです。
2021-06-16 00:00:08ここまで来るともう「脱いだな」って感じです。一時間前まではまだ同じ部屋にいながらお互い素振りも見せないで、ただちょっと鬱々とした空気を共有しながら、程よく湿っぽく重たい会話をしていたかもしれないけれど、今は完全に流されてしまったなという感じ。
2021-06-16 00:01:24私はしばしば香りに対して「最後で脱ぎさえしなければ」(=今まで比較的かっちり上品だったのに最後でいきなり甘くならなければ)みたいなことを思いますが、これは「最後で脱ぐ」のは間違ってないんですよね。だって媚薬だし。そういう意味では最後までコンセプト通りの見事な仕上がり。
2021-06-16 00:02:25グロスミス「ダイヤモンド ジュビリー ブーケ」 トップは思ったよりもずっと甘酸っぱく瑞々しいシトラス。それが弾けたかと思えば、いきなり青々としてスパイシー、少々メタリックさもあるような花の香りに変わります。カーネーションですねこれ。堂々とした赤い花束を思わせます。
2021-06-22 14:05:44全く現代風な香りではない、とてもクラシカルかつ重厚な香りなのですが、それもそのはず。「ダイヤモンドジュビリー」の名が示すとおり、これは2012年、エリザベス2世の即位60周年を祝って発表された香りなのです。女王陛下に捧げる香りなんですから、そりゃあ威厳と品格がないと、ですよね。
2021-06-22 14:07:41グロスミス自体、創業は1835年という老舗のメゾン。ひとたび断絶はしたものの、2009年に子孫の手で蘇ったという経緯があります。そして19世紀にも、グロスミスはヴィクトリア女王の即位60周年を祝う「ヴィクトリアン ブーケ」という香りを作っており、今回の香りのもとになっているんだとか。
2021-06-22 14:09:48今感じられるのはローズとヴァイオレットの醸し出す「渋めの赤ワイン」のニュアンス。私の肌ではローズがやたら血っぽくなりやすいのでその影響かもしれません。リキッド イマジネのブラッディ ウッドが正にこういう香りになってたから(他の人の肌では「甘め」らしいのである)…
2021-06-22 14:11:30一時間経過。これはもしかしなくても減退がかなり早いのでは。30分経過したころから、「肌の近くでは渋めなフローラル、遠くで嗅ぐとトンカ風味のアンバー」みたいな差があって、面白いなあと思っていたんですが…今はベチバーとムスク、それにローズも多少残っているかな。
2021-06-22 15:07:19今になって香調を確認していますが、アイリス…? アイリスあったっけ? そのおかげか私の苦手なタイプの「粉物」にはならず、とても格調高いフローラルとして楽しめていたんですが、しかし、アイリス、うーん…?
2021-06-22 15:08:59二時間経過。もうベースノートですね。清潔感のあるムスク。バニラやアンバーというほど甘さは感じません。これもやっぱり女王陛下の香り、高貴な香りなわけですから、妙に甘ったるくなったりアニマリックだったりしてはいけないんでしょう。大いに納得できます。
2021-06-22 16:07:33ウビガン「フジェール ロワイヤル」 アアーッこれはラベンダー!(語彙) 一瞬で笑顔になれちゃうこの清涼感あるラベンダー、まさにフゼア、紛うことなき紳士の香り! ベルガモットやカモミール、グリーンノートと重なることで、いかにも「床屋!」ではない軽やかさが心地良いです。
2021-07-08 12:02:19これがイギリス発のフゼア系クラシックとかだと、もっとラベンダーや柑橘がガツンと来るわけですが、これは本当にスッと胸に染み入るようなトップノート。そよ風のよう。1882年初出の香りですが、全く「古臭さ」みたいなものを感じません。まあ2010年に一度リニューアルはしてますけど。
2021-07-08 12:05:05誰かがfragranticaのレビューで「瓶入りの品格(class in a bottle)」と表現していましたが、正にそれ。これは品格の香り。正装する必要はないけどせめてぱりっとした襟付きシャツと折り目のついたスラックスを履きたい、そんなノーブルな雰囲気が漂っています。私は今部屋着を脱ごうとしています。
2021-07-08 12:08:04香りの広がりも、「淡めの香りが、でも確かにゆっくりと漂っていく」みたいな感じで全く押し付けがましくない、でも自分の存在はきちんと知らせてゆくタイプ。いや、これは本当に「いい香り」だ…「この香りが似合う人になりたい」タイプの香りだ…
2021-07-08 12:11:28トップノートが意外と長持ちするな。ものの数分で吹っ飛んだりせず、涼しげなトーンが続いています。その下から徐々にゼラニウムやカーネーション、ローズが漂いだしている。
2021-07-08 12:15:14一時間経過。ミドルノートのフローラルが穏やかに香っています。メインになるのはやや青めのゼラニウムとカーネーション、所によりローズ、といったところ。甘さはよくよく嗅ぐと奥の方にある、といった感じで、いかにも「お花の香り」ではありません。
2021-07-08 13:00:37甘さにしても花の甘い香りというより、砂糖漬けとかシロップとかの匂いに感じます。香調にある中だとライラックだろうか…? まだベースノートが出てきてるって雰囲気でもないし。でもこの匂いが「高級な石鹸」とか「古いタンスの中」みたいな空気を回避してくれているな…
2021-07-08 13:02:41あ、ベースノートは出てきてないって言ったけどクラリセージはあるな。クラリセージの香り大好きなんですよ。というか、ラベンダーとセージとオークモスが好きなんだからそりゃあフゼアに傾倒するでしょうよ、という話で…
2021-07-08 13:08:05二時間経過。フローラル継続。かつ、下から徐々にオークモスやパチョリの雰囲気が…香り立ちはさすがに収まってます。ベースだけならだいぶ長持ちしそうですね。
2021-07-08 13:59:11シャネル「アンテウス」 はい一吹きでもうかっこいい。トップノートは紳士の定番ベルガモット・ライム・レモンの柑橘三種にコリアンダーとクラリセージ…と、ここまでは典型的なやつですが、そこにミルラがあるんですね。なので雰囲気がすりガラスのようにスモーキー。
2021-07-22 15:01:57ミルラの存在が一気に「万人受け」からこの香りを遠ざけている気がします。無かったら普通にフレッシュでアロマティックな若々しくて明るい色のシャツとスーツが似合う人、ですものね。でもこれは暗い。柑橘なのに、セージなのに、暗い。渋い。かっこいい。
2021-07-22 15:04:40そして柑橘の香りはあっという間に過ぎ去り、表れ出るはアニマリックなカストレウム。ベースノートなんですけどもう出てます。でも「汗かいた肌」「汚れた肌」感ってほどではない、「たくましさの表現」程度に収まっているので、きれいめな格好に普通に似合うと思います。粗野ではないんだ。
2021-07-22 15:08:17アンテウスというのはギリシャ神話に登場する神の血を引く英雄アンタイオスのことで、同じく英雄ヘラクレスと戦って倒される側のポジションなんですけど、なぜ負けた側の名を…? とはいえ、「神話の英雄」と考えればこの「力強さ、逞しさはあるが野蛮な獣ではない」感は納得です。
2021-07-22 15:11:09いや、アンタイオスの所業(屈強そうな旅人を見かけるたびに勝負を挑んで殺す、殺した相手の頭蓋骨を使って父ポセイドンの神殿を建てる)はだいぶ野蛮だと思いますけど…いや、でもギリシャ神話の基準では大丈夫か…
2021-07-22 15:15:12一時間経過。ミドルにあるフローラルノートが出てきました。ローズ優勢。といっても瑞々しいお花ではなく、アンティーク調のくすんだ色を思わせる、甘さも仄かなシックな薔薇です。ベースのパチョリやオークモスも重なりつつあり、すごく気分の落ち着く香りに。良いですねえこれ…
2021-07-22 16:07:56今は別にアニマリックな感じしないので、やっぱり冒頭のは一瞬だけ出てきただけだったのかな。上等なスーツに合わせる、仕立てのいいシンプルなコートが思い浮かびます。派手でなく、でも薄くなく。
2021-07-22 16:09:10二時間経過。だいぶ温かみが出てきた。ふくよかなオークモスにラブダナムが加わり、コート越しに感じる体温を思わせます。あとアニマリックさがやや復活。全然そんな気がしてなかったけどそういえばEDTでしたよねこれ。レビュー間隔はもうちょっと短いほうがよかったかもしれない。
2021-07-22 17:20:24アントニオ アレッサンドリア「ガットパルド」 一吹きでまず感じるのはどこか焦げたような木の香り。トップノートは何といってもウイスキーなのです。木樽の香りが浸透して、どこかカラメルのような風味も感じられる、これは実に成熟したオープニング。
2021-12-28 20:04:01その裏側には微かにベルガモットも感じますが、あくまでメインは「樽」と「酒」です。あと、ちょっとねっとりした果実の甘みも。フィグがノートにあるので恐らくそれですね。フレッシュ・ミルキーなものではなく、干した白イチジクという雰囲気。
2021-12-28 20:05:18タイトルの「ガットパルド(Gattopardo)」はイタリア語で「山猫」の意。同名のイタリア・フランス合作映画がモチーフだそうです。19世紀半ば、衰退に向かうイタリア・シチリアの貴族階級を描いた作品ということで、なるほどフレッシュさはこの香水には必要ないのだろうな…と。
2021-12-28 20:07:33香り立ちはかなり強め。下半身に一プッシュで充分じゃないでしょうか…ムエットに吹き付けた際は、二メートルぐらい先からでも香りが漂ってきました。つけすぎ厳禁であります。キツいっていうわけじゃなく、圧倒的な存在感がある。
2021-12-28 20:10:51一時間経過。焦げ感が抜けて深みのある木と酒が残り、加えてミドルノートのアイリスとゼラニウムが顔を出しています。アイリスといってもいわゆる「粉物」、女性向け化粧品のようなパウダリーさではなく、あくまでウッディ寄り。モチーフにあるのがお年を召した男性貴族だからなんでしょうねえ。
2021-12-28 21:03:24酒香好きのフォロワー某さんにこれすごくお勧めしたい。ウイスキーと樽をベースに、確かに「過去の人間」が存在している気配がある。ムエットで試したときはミドルノートが出てくるまで大分かかったのですが、肌の上だとやっぱり体温のためか展開が早まりますね。
2021-12-28 21:04:40三時間経過。ゼラニウムがちょっと強くなってきた? 金属味や青さはない、フローラルに寄せたお花ですねこれ。で、そろそろベースノートのベンゾインとかアンバー、蜜蝋などの香りが出てきています。ヘーゼルナッツやカカオもあってウッディからナッティに変わってきた感じ。でもお酒だなあ。
2021-12-28 23:03:44カカオはあれですね、カカオ分高めのお花の香りがしてちょっと酸味の強いタイプのチョコレート(70-80%ぐらい)の雰囲気。蜜蝋とシダーウッドは貴族の邸宅に置かれた家具調度のイメージでしょうか。
2021-12-28 23:12:01四時間経過。だいぶ甘くなってきた! いやグルマンな甘さじゃなくて、あくまでも香水のベースとしての甘さですよ。ややシトラス味のあるベンゾインに、ヘーゼルナッツとアーモンドは香ばしいナッツ本体じゃなくリキュールとしての存在ですね。それこそイタリアのアマレッティとか。
2021-12-29 00:04:20香り立ちはずいぶん収まってきました。フローラル分も抜けてはいませんがやや控えめに。ここから後は薄くなっていく感じかな。いわゆる樽の香り、ブラウンリカーの香りがお好きな方にはかなりお勧めです。知多さん好きなら是非。あとフエギアのソンダが好きな方もぜひ。
2021-12-29 00:05:35五時間経過。ああー今すっごく「アンティークな木製家具で埋め尽くされた木造家屋の一室」の香りになってる…! 蜜蝋がすごく効いてる。これあると一気に艶々した家具とか床のイメージになりますね。もうフローラルさはなくて、パチョリがどっしり出てきているかんじ。
2021-12-29 01:05:48