抜粋)① 『ドラマセラピーのプロセス・技法・上演』R.エムナー著 尾上明代訳 北大路書房 2007.2.20

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ぼくは、これから唐突に ✄------------『ドラマセラピーのプロセス・技法・上演』R.エムナー著、尾上明代訳、北大路書房2007 -----------✄ について自炊するのだ。 pic.twitter.com/7JDN2A9fT1

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演技をするときに、自己と演じる人物との境界が明確でなければいけないのと同じように、セラピーを実践するときも、自己とクライエントとの境界は明確でなければいけない。しかし、それは境界であって、障壁であってはならない。Ibid.at ⅲ

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人は、たいていドラマを人生の鏡であると考え、その逆だとは思いません。しかし、ドラマセラピーを受けるクライエントたちは、「ドラマの中にいると思うことで」実際の人生でそれまではとてもむずかしかったり恐かったりしてできなかったことができるようになった、とよく言います。

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それは、実際には手が届かないと思われたことを、ドラマという設定の中で初めて経験することができたためです。この経験は、ありえない幻想ではなく、彼ら自身の内部にある未開発の部分を具象化したものといえます。

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劇の場面で即興的に演じられた登場人物は、自分自身の中から現われ出たものだということを、まさに彼ら自身がどこかで感じているのです。

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その登場人物は、自己の中に制御されながら包み込まれ、やがて自己はその登場人物を包含するようになります。演じられた役は、今や自分自身の一部となり、現実人生で到達可能なものとなるのです。Ibid,at ⅳ

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私たちは人生で、決まった行動パターンや習慣的な対応をしがちです。限られた自己認識や、他人が自分に対してもつ期待象に制限され、囚われてしまうのです。しかし私たちは、役を演じたり、何かのふりをするという装いのもとで、私たちはそのときだけ、新しい方法で演技(=行動)することができます。

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ドラマが現実人生から少し離れているという距離感を与えてくれることで、現実人生の役割や行動パターンに対する見方が均衡のとれたものになり、別の選択肢を積極的に試みるということができます。ドラマは私たちを閉じ込めている箱から自由にしてくれる。演じている瞬間は解放の瞬間となるのです。

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夢とドラマでは、私たちの創造する力と視覚化する力を利用しており、現実ではないのに、まるでそれが実際に起こっているかのようにものごとを経験できます。この時わたしたちは、経験をするという利益を手に入れながら、結果に対する責任からは免れています。

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この経験こそ、人生の見方を拡大する機能をもち、私たちの人間としてのあり方を拡張してくれるものです。私たちのあり方が拡張される理由は、夢やドラマが、人生経験の一部になるからです。

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ジョゼフ・チャイキン(J.Chaikin)「仮装はその人を変化させる。仮装としての仮面を取り除いても、それを身につけていたことにより、その人の顏は変化している。舞台の演技は人生での演技に影響を与え、そして人生から影響を受けてもいる。」(1984)

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ドラマの中では、同じ状況に対して新しい態度をとることはそれほど難しくはありません。ドラマの場面で新しい態度をとったという経験は、現実人生で同じような態度をとりやすくしてくれる。ドラマの中では、自然にさまざまな選択肢を見つけることが多く、これが人生での選択肢になることがあります。

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ドラマの役は、それまでは認知されていなかった、または許容されていなかった自己の一面に、声を出させ表現させつつも、その一面をドラマの演技内という安全な場所に包み込んでおいてくれるのです。Ibid, at ⅵ

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架空の人物を演じていても、自分自身を演じていても、あるいは、自分が演じていても、他人の演技を観ていても、ドラマは、私たちが他人と共感したり、一体感を覚えたりする能力を呼び起こします。リヴ・ウルマンは「他人を知ることができなければ、自分自身を知ることもできない」と。

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ドラマは、その本来の性質からして、共感と客観的な見方を導き出すのです。 客観的な見方ができるようになることは、時間とも関係しています。痛みと苦しみを感じる時に、その状況を「大きな見方とらえる」と、その痛みは和らいでいきます。

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その時は困難な課題であったものも、実は自分たちを豊かにしてくれた無数の経験であったと、過去を振り返ることで、そのような課題や経験の中から、今度は利用できるものを選び出すことができるようになるのです。

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同じように、未来という有利な地点から、すでに過去になった現在を見てみると、現在の状況に対する私たちの認識や享受の仕方は、多くの場合、変更されるか強められます。ドラマという方法を使えば、時間は簡単に操作することができるのです。Ibid, at ⅶ

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自分自身を手放すと同時に自分の中に深く入り込む…このような逆説を生み出せることが、ドラマセラピーを強力なものにしています。クライエントたちは、ドラマセラピーのことを、「私たちが自分自身の外に出る場所」といいます。

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この表現は、彼らにとって役割と行動の反応の仕方が増えていることを暗示し、また今まで受けていた制限を超えることを示しています。しかし、「自分自身の外に出る」ことは、自分自身を発見することも同時に暗示しています。

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「逆説的ではあるが、自分を手放せば手放すほど、ますます自分になってしまう。自分を保持しようとすることで、人は自分を制限してしまう。というのは、実際には、私は自分を保持することなど出来ず、自分のイメージを保持するにすぎない。

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その自分のイメージと思っているものも、実際の自分よりはるかに少ないものしか表わしていないのだから。」とマイケル・バーネット(Barnett,1973)

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ドラマを逃避であると見る人がいるとすれば、それは少なくとも、より大きな自己認識に導いてくれる逃避であるといえます。　興味深いことに、クライエントがドラマセラピーグループを指す時によく使う二つ目の表現は、「私たちが本当に自分自身になれる場所」というものなのです。

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ドラマセラピーは、自分自身の中で未だ眠っている側面を発見、統合させ、自分が何者であるかという私たちの概念を広げ、そして、私たちは他人と関係をもつことが本来の姿であるということを経験させてくれます。

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「このプロセスはまずドラマという形式を使うことから開始されます。しかし、最終的に舞台の幕が開いてしまうと、演劇という保護のもとで開示されたものは、もう舞台を必要としないことに私たちは気づくのです。」(『プロローグ序章』) Ibid, at ⅸ

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そんなわけで、まず、前掲書第１章「ドラマセラピーの出典となった分野」の中から、著者(R.エムナー)の個人的体験をご紹介して、自炊を始めたいと思います。

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子どもの頃、私が体験した演劇は娯楽としてのものであった。…しかし、私が12歳の時に観た、あるオフ・オフ・ブロードウェイ(NY,ブロードウェイ周辺の100席以下のミニ劇場)の劇は、それまで私が観ていたミュージカルとは完全に異質なものであった。

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演技者たちは、回復しつつあった薬物中毒者たち(当時はそう呼ばれていた)であった。とても劇場とはいえないような、小さな暗い部屋で、30人ほどのこじんまりとした観客を前に、5人のアフリカ系アメリカ人の男性が現実の人生で起こった苦闘を表現した。

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彼らは、しびれて気持ちいい感覚、愛、更生を求める気持ちについて語った。演技の終了間近になって、１人が突然小さな舞台から降りてきて、前列席まで歩いて来た。彼は私を正面からしっかりと見つめた。

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私の心臓は、目に見えない第四の壁ーー俳優と観客、演劇と現実を分離している壁ーーが次第に崩れるのを感じて、大きく動悸を打ち始めた。彼は、私からほんの十数センチのところに立ち、手を差し伸べた。

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私たちの手と目がしっかりと結び合ったその瞬間、私たちの間の巨大な相違ーー年齢、人種、性別、そして階級ーーは溶けてなくなった。彼と私は、ただ苦しみを理解し、それと闘う２人の人間であり、真剣な希望と期待を経験した２人の人間となった。

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その時、私はこの劇は終わるのではなく、現実の中に溶け出して一緒になるのだと感じた。

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一般向けの上演があろうがなかろうが、また、ドラマとしての演技が個人の経験についてであろうがなかろうが、セラピーとしてのドラマこそ、真実が開示され、深いレベルのコミュニケーションと理解が得られ、個人的なことが普遍的なものとなる場を提供するのだと私は考える。Ibid, at 12

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✄------------ 『ドラマセラピー』第Ⅰ部第１章基礎概念-----------✄ 感情を直接行動に表わしてしまうこと「行動化」< acting out >と、演技する< act >ことの違いはきわめて重要だ。

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ドラマセラピーでは、演技で感情を行動に表わす< act >という体験をするので、どのような年齢のクライエントであっても、(現実生活で)感情を直接行動に表わしてしまう「行動化する」< act out >必然性が減少する。Ibid, at 4

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ドラマセラピーの中心概念は、ドラマという架空のモードを経由して現実の出来事を探索してみることである。ある状況を、あたかも本当のことであるかのように演じたり、場面をさらに発展させたりする。しかも同時にそれが実際はつくりごとであるということがわかっていることは、劇遊びの根本である。

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この二重の意識レベルは、驚くほど早い年齢で人間が獲得する能力であり、ここではこの能力がはたらいている。演技者は、創造的領域と客観的領域の２つに同時に存在していることになる。

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劇遊びを導入すると、セラピーそのものが大いに楽しめるプロセスとなる場合が多い。これは、多くのクライエントが精神治療を有益ではあるが非常な苦しみであるとみなしていることとは決定的に異なる。

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ピーター・スレードは、個人劇を、役を演じるときに自分の「自己 / 身体」を物理的に積極的に利用するものであると定義した。一方、投影劇では、想像されたドラマ的な状況を外部の物体(人形、あやつり人形など)に投影する。

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投影劇は一般に、大きな距離を与える方式であり、自他の境界線がはっきりしていない、あるいは強い恐怖感を与える問題を扱っているクライエントに必要なことが多い。一方、個人劇は、より自由でより多様な表現のある環境を作り出す。

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ドラマセラピープロセスの初期段階では、創造的な遊びの感覚に満ちた環境を作り上げることを私は大事にしている。そこでは、子どもが遊ぶ時に感じる自由さと可能性を再現する。演技を無理強いすることは避け、自発的な動きと相互交流を引き出すように手助けする。

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「人は自分自身として語るとき最もその人自身から遠ざかっている。 仮面を与えよ。そうすれば、人は真実を語るであろう」(オスカー・ワイルド)。 演劇に出てくる役や登場人物は、保護と解放の両方のはたらきをし、現実人生の役の下に埋もれてしまっていることを表現させる。

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「表現をするのが危険であるというような出会いの中では、仮装は何かを隠すというよりは、そのときに許容されるであろうことを、できるだけたくさん開示させるはたらきをする」(ゴフマン Goffman,1961)。

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ドラマセラピーにおいて、自分を隠すことができるものをもつことは、自己表現を妨げる障害になるのではなく、自己表出をうながし、後押ししてくれる道具となる。演劇における幻想は、真実の回避に向かうのではなく、真実と直面することに向かう。Ibid, at 7

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スー・ジェニングズは「劇の中の劇」の重要性を強調している。さまざまな人の人生を抱える世界全体という演劇の場、その中のドラマセラピーグループという場、さらにその中のドラマ…。この劇の多重層こそが、「さまざまな本心がとらえられ、さまざまな真実が開示される」局面を作り出すのである。

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劇遊びは、一般に集団で行う創作活動であり、全員が同時に、活動に参加している。即興演劇は、創作ドラマの原則に従いつつも、相互作用をもつ遊びであるシアターゲーム(Spolinが創始した)を発展させて、ドラマにして演じるところまで進めており、これは劇遊びから演劇への移行期と見なせる。

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ドラマセラピーの第二段階になると、劇遊びは演劇に道を譲る。ドラマの演技では多くのことが許されるので、多様な表現がたやすくできるようになる。仮の姿を使うので、解放と責任免除という、他では得られない経験が可能となる。

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コンスタンチン・スタニスラフスキ(Stanislavski)の【魔法のもしも< magic if >】(もしも自分がこの状況に置かれたらどうするだろうかと考えて演技する手法)という概念は、俳優の想像力と同一化を拡大・延長するために考案された。

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俳優たちは役に要求される感情と同じような自分自身の人生の経験を思い起こした。劇の役と一致する自分自身の一部を探し出して、その役の「内面的真実」を探し、観客の前にさらけ出すことが要求された。同一化が鍵であり、それは俳優と登場人物の間だけではなく、観客と登場人物の間の同一化でもあった

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一方、ベルトルト・ブレヒト(B.Brecht)は、俳優や観客に対して、登場人物と感情的な同一化をしないようにさせた。ブレヒトによれば、感情的距離を作ることは、主観的に反応しないで、客観的に考えるために必要であった。客観的な思考は社会的・政治的な変化を引き起こすために必要とされた。

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リハーサルでは、ブレヒトの俳優たちは自分が演じる登場人物を三人称で語るようにと要求される。これは、役を自分のものとしていくというスタニスラフスキの方法とはまったく対照的であった。