陰陽寮が残っている現代で、記憶あり力ありの状態で転生し、当主として仕事してる晴(7歳)が、インチキ占い師としてアングラ系で働いていた記憶なしだった道(25歳)を拾って側におく話。 道による晴健やか子育て話。完結しました。
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泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

ぼろぼろと涙がこぼれる。わんわんと声をあげて泣いてしまいたいのに、喉がひきつれて悲鳴すらあげることができないのだ。 「……仕方ない人ですねぇ」 道の手が、ゆっくりと肩にかかった。

2021-06-30 14:34:25
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

殺してくれるだろうか。ほっと安堵していたら、道の手は肩を掴んで、ばりっと体を引き剥がした。腰を折って、こちらに視線をあわせる。 「あなたは晴、最高最優の陰陽師なれば。例え何度生まれ変わろうと、人とあり、人を愛し、人を守ろうとする人理の守護者でございましょう」 「ひどいことを言う」

2021-06-30 14:37:52
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

泣き顔のまま、くしゃりと笑えば、道はにこりといつものように慈愛のこもった笑みを浮かべて優しく抱き締めてくれた。 「むしろ、あなたでなければ誰ができましょうか。あなたがいたからこそ、この国はここまで発展できた。あなたが死後も愛して守ってくれたおかげです。ならば、紡いでいかねば」

2021-06-30 14:39:50
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

よしよしと頭を撫でる様は、昔と全く変わらない。転んだときや、仕事を頑張ったとき。色んな時に宥めるように誉めるように、たくさん撫でてくれた優しくて大きな手だ。道の背中に腕をまわし、その背中にすがりつく。やっと声をあげて泣く喉に、道は優しく微笑んだ。

2021-06-30 14:41:57
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「千年前は、あなたとの術比べや京を呪ったおかげで、体はぼろぼろでしたが、今回は腹の中の呪詛もありますし、結界を張り直した暁にはもっと耐久力も伸びましょうぞ」 力をずっと溜め込んでおりましたゆえと笑う道に、晴は声を振り絞った。 「……ああ、やはりおまえは最初から、」 「ええ、勿論」

2021-06-30 14:44:55
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

最初に拾った時。首を刎ねるために連れてきたのかと叫ぶ道のことを、不思議に思っていたのだ。 いくら、悪党として悪事を働いていたとして立件されていないことについて、晴が咎めることなどできない。いくら、平安の世で悪逆をなした道の転生体とはいえ、全く違う個別の命なのだ。

2021-06-30 14:47:25
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

それを刈り取ることなど、誰にもできないのに、道は真っ先に私が首を刎ねるものだと知っていた。 「この国に張り巡らせられた結界を、あなた1人だけ編むのも難しいことぐらいわかります。なれば、その呪物として何を用いたか。生半可な物では足りない。それこそ、あなたに張るほどのものでなければ」

2021-06-30 14:49:56
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

そうなると、必然的に拙僧の首を用いたのだなとわかるというもの。伊達に千年前、あなたの向こうを張った法師陰陽師ではございませぬ。 にこりと笑う道に、晴はぎゅっと拳を握りしめた。 「……首を刎ねられるとわかって、私の側にいたのですか?」 「ええ、全て覚悟の上」 道は力強く頷いた。

2021-06-30 14:52:17
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「たまには、正義の味方側もよいかと思っていたのですが……思っていた以上に、あなたを取り巻く環境が劣悪で、ついつい口や手足を出してしまいました」 転生体とはいえ、あなたと平安の世のあなたは別物ですから。子は慈しまれ健やかに育つべきと。 道は再び晴を強く抱き締めた。

2021-06-30 14:55:18
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「よくぞここまで優しく健やかに育ってくれました。あなたなら今後も素晴らしい陰陽師であれるでしょう」 「……おまえはひどい人だ」 「ええ!拙僧は平安の世で京を混乱に貶めし悪逆をなした大悪人なれば!此度もあなた方のご両親から魂の欠片とも言うべき感情を抜き取り、呪詛にしようとした悪党!」

2021-06-30 14:59:23
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

道の腕が離れ、その指がゆっくりと自身の首を飾っている桔梗色の布を外した。 「……さあ、晴殿。時間にございますれば」 首を、刎ねなされ。 そう言う道は、余りにも安らかで穏やかで、何一つ悔いはないと言いたげで。晴はぎゅっと唇を噛み締めて、指で術式を組み始めた。

2021-06-30 15:04:21
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「……おまえ、次会ったら絶対許しませんからね」 「おお、怖い。一体何をされるおつもりなのか。ンンン、拙僧高ぶって参りました」 「そうやって茶化してるのも今の内ですからね。そもそも待ちませんよ。産まれてすぐのおまえを浚って、私が育てます」 「天下の晴殿が誘拐犯になるおつもりで?」

2021-06-30 15:08:50
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「やかましい。そうでもしないと割にあいません」 最後、一つ手前まで術式を組んだ。深呼吸をして、晴は道を見据える。道は変わらず美しく微笑んでいた。 「道、次は覚えていなさい」 「そこは礼くらい述べてほしいものですなぁ。まあ、拙僧が先に目覚めましたら、今度は会いに行きましょうぞ」

2021-06-30 15:12:48
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

晴の指が最後の術式を組む。道の首の皮膚がぶちぶちと音を立てて、そして宙に舞った。 噴き出す血は、そのまま虚空に吸われて網となる。 大柄な体躯は術式によって解かれ、大地に巡る網となる。 どんどん編み直される結界をぼうっと眺めながら、晴は腕の中の頭を抱き締めた。

2021-06-30 15:16:34
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「嗚呼、全部おまえの手のひらの上だったのですか。本当に、ひどい。ひどい男だよ、おまえは。 ……なんて、見事な結界だろうか」 千年前の結界よりも固く強く結ばれた編み目。そう簡単に綻ばないであろう新たな結界は、明らかに平安の世に編んだものより強固だった。

2021-06-30 15:18:31
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

ぼろりと、いつまでも枯れる様子のない涙が頬を伝って流れていく。 本当なら、腕の中の首も結界のために捧げた方が良いのだろうが。 「せめて首だけは、弔わせてくれ」 骨壺に。せめて人として荼毘に。道の首を掻き抱き、晴はおいおいとその場で泣き崩れた。

2021-06-30 15:21:09
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

国中に張り巡らせられた結界が、新たに編み直されて1週間。 持ち帰った道の首を見て泣き崩れた弟と、意識を取り戻した両親が悲しみに暮れながら火葬の手配をしてくれた。あいにく、何もやる気が起きず、道の首が入った木枠を抱え、ぼうっとしているだけだった。 陰陽頭を辞めてから隠居していた父は、

2021-06-30 15:25:35
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

私の代わりに陰陽頭代理として走り回り、母はせっせと身の回りの世話を焼いてくれた。 道が持ち去った呪詛の種は、両親が持っていた私への悪感情を抜き去り、ただただ辛い大仕事を終えた当主を労ろうと親身に対応してくれる良き人となった。あいつ、これもわかってやっていたに違いない。

2021-06-30 15:27:31
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

事情を知らなければ、人殺しを行っただけなのだが、それでも安倍家の人々は私を優しく出迎え、無気力な私を心配しつつも当主の邸に戻るというと、素直に送り出してくれた。 邸に戻れば、じいやと護衛が静かにホールで待っており、私の抱えた小さな骨壺を見て、護衛たちは泣き崩れていた。

2021-06-30 15:30:08
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

おまえ、悪党だの大悪人だの言っていたが、こんなにも愛されていたじゃないか。じいやは静かに「お帰りなさいませ、道様」と骨壺に向かって呟いていた。 それから1週間。

2021-06-30 15:31:35
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「兄上、おはようございます!」 「……っ、まだ6時半じゃないですか……」 朝から元気な弟に、布団の下から文句を言えば、弟は容赦なく布団を剥ぎ取った。 「ラジオ体操のお時間ですよ!」 「あー……はいはい。起きます、起きますよ……」 あれから、弟は私の弟子としてこちらに移り住んだ。

2021-06-30 15:41:47
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

すっかり変わってしまった両親に対し、少しだけ居心地が悪いらしいのだ。「仲の良い夫婦ではありましたが、今まで以上にラブラブで息子として見てられないというか……邪魔できないというか……」とは弟の弁だ。母の様子が変わり、ぎこちなかったものの、父からも呪詛の種が取り除かれ、

2021-06-30 15:44:15
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

今まで以上にラブラブな夫婦となったらしく、弟は居心地の悪さと居たたまれなさからこちらへ逃げてきたというのが正しかった。もちろん、弟子として勉強を第一にしたいというのもあったらしいが、自立したいという気持ちもあったのだろう。

2021-06-30 15:46:16
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「道様、おはようございます」 「道、おはよう」 部屋に置いた仏壇。その中にある骨壺に、2人並んで手をあわせる。最初は無気力で何もできなかった私の代わりに、弟が仏壇を手配した。それから朝なと夜かならず挨拶をするようになったのだ。 恥ずかしながら、弟につられてするようになった訳である。

2021-06-30 15:49:41
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

この歳になっても朝のラジオ体操の習慣は続いている。 いつものように、ホールへ降りればじいやが準備をしていて、護衛たちも数人ラジオ体操を今か今かと待っていた。 りんごん。 ホールに来客を告げるチャイムが鳴った。こんな朝早くに誰だと首を傾げつつ、じいやが玄関へと向かう。

2021-06-30 15:51:40
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

こちらからは玄関の様子は見えない。時間通りに始まったラジオ体操に、先に始めておくかと伸びをした時だった。 「おやおや!拙僧がいなくても、ラジオ体操をされているとは、感心感心!」 有り得ない声に皆が凍り付いた。

2021-06-30 15:53:35
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

振り返れば、あの時のままの笑顔でにこにこと笑っているあいつが、立っているのである。その後ろでじいやも困惑した様子で立っている。 涙を流して喜び駆け寄る皆とは反対に、晴はつかつかと歩み寄って、その胸倉を掴んだ。 「……話があります」 「……おっと。もしかして怒っていらっしゃる?」

2021-06-30 15:56:33
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

胸倉を掴んだまま、部屋へと連れてくる。ラジオ体操などやっている場合ではない。じいやと弟も同席させ、晴はソファーに腰掛けた。 「おまえは、そこに座りなさい」 「床にですか。致し方なし。心当たりがありすぎますゆえ、大人しく床に座りましょう」

2021-06-30 15:58:54
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

しおしおとしょぼくれた様子を見せる道に、晴はぴくりとこめかみが痛んだ。そうやって、反省したふりをするのは道の十八番である。はあ、とため息をつく晴に対して、道はにこにこと満面の笑みを浮かべていた。 「あの、お亡くなりになられた道様は偽物だったのでしょうか?」 「それはありません」

2021-06-30 16:00:24
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

弟の疑問をきっぱりと否定すれば、道の笑みが深くなった。 「道が作った式神といえど、結界の呪物になるような役割は果たすことはできません。あの日、私は間違いなく道の首を刎ねました。」 「ンンン!生活続命法のアレンジにて!拙僧の命つきる時、魂はこの体に移るよう術式を組んでおったのです!」

2021-06-30 16:06:24
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

えっへんと胸をはる道に、頭痛がした。 「……あー、なるほど。わかりました。以前、一月ほどいなかった時ですね?」 「おや、ばれましたか。ええ、あの時に、移る体を拵えましたが」 「神秘の薄い今世でよくできたものだ。いや、だから腕の感覚を持って行かれた訳だろうが」

2021-06-30 16:09:06
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

あの時、道が両腕の感覚を奪われるほどの仕事とはと思っていたが、生活続命の法を利用した体の複製なら納得できる。いくら道ほどの術士とはいえ、並大抵のものではない。 「……えっと、つまりどういうことですか?兄上」 スケールの大きさについていけないのか、困惑する弟に晴は肩を落とした。

2021-06-30 16:12:37
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「結界を編み直すためには、道の血肉という呪物が必要だったんですが、道はその体が死んだ後に魂が次の体に移るよう、とんでもない高難易度の術式を組んでいた訳です。さすがにすぐに新しい体は動かせなかったから、今になったという訳ですね?」 「ええ、晴殿のおっしゃる通り」

2021-06-30 16:15:11
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

あの日、道は間違いなく死んだ。首を刎ねられ、血肉は結界の一部として編み込まれた。だが、魂は。魂は本来なら次の転生に移るために黄泉へといくのだが、そこに行かないよう組み込んだ術式により、新しい体へ移るように仕組んでいたということだ。神秘の色濃い平安の世ならともかく、今世でやるなど。

2021-06-30 16:17:35
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

さすがの道といえど、新しい体を作るのに両腕の感覚を一時的とはいえ奪われたし、死んでから今まで動くのに時間がかかったということだ。 はあ、とため息をついた。 「……なんで言わなかったんです?」 「……恥ずかしながら、成功するかどうかは賭でしたゆえ」 成功率30%。失敗する確率の方が高い。

2021-06-30 16:19:45
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「下手に話をして、期待を持たせたくはなかったので」 晴の手を借りたとしても、おそらく成功率は半分にもならなかっただろう。これは一種の賭けだった。 平安の世で使用していた生活続命法とは違い、本当の肉体から作った肉体に魂を移すのだ。失敗して当然と思っていた方が精神的に楽だ。

2021-06-30 16:22:22
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「……わかりました。いいですか、道。今後は大きな術式を組むときは私に話をしなさい」 「この体は脆いので、さほど大きな術式は組めませぬが」 「じいや」 「はい」 ぴしゃーん。空気を切り裂く音がして、道は背中を抑えてうずくまった。じいやの手には乗馬鞭が握られている。

2021-06-30 16:25:15
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「道、わかりましたか?」 「くっ、久しぶりのじいや殿の鞭……!皮膚が裂けるかのような衝撃、痛み、まさに甘露!」 「おまえね……」 痛みを喜ぶ姿に、さすがの晴も弟を引いた。晴は呆れたように首を振った。 「はあ、全く。本当におまえはひどい男だよ」 結局言質をとることを許さなかった。

2021-06-30 16:28:03
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

無理をするな、どこにも行くなと何度も何度も懇願しても、この男は私のために身を投げ出す。私が人理の守護者として、晴であるためなら何度も命を断つだろう。 「おかえり、道」 「……ええ、ただいま戻りましたぞ。晴殿」 その手をぎゅっと握りしめる。ぽろりと涙が数グラム、ころりと落ちた。

2021-06-30 16:31:40
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「次あったら許さないは本気ですからね。来世はおまえが生まれなおした瞬間に浚います」 「ンンンン?!戻ってこれたので無効では?!」 「無効な訳があるか莫迦者!どれだけ泣いて暮らしたと思ってるんですか!」 「拙僧、愛されておりますなぁ」 「ええ、愛してますのでどれだけ転生を繰り返そうと

2021-06-30 16:35:26
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

絶対はなしてやりませんから。抵抗するなら監禁するくらいの覚悟ですよ」 「天下の晴殿が犯罪を予告するのはやめなされ!拙僧、そのような子に育てた覚えはなく!!」 「安心しなさい。元々私としての性分に、今世で執着がプラスされた結果です。よかったですね、おまえの子育ての成果ですよ」

2021-06-30 16:37:26
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「何もよくありませぬが!?」 ンンンンと地団駄を踏む道と、それを笑っている晴に、弟とじいやは目元を拭いながら微笑んだ。 「お二方、ご当主がご乱心ですぞ!お止めくだされ!」 「道様のお部屋は移動しましょうか」 「そうですね、兄上の隣……いっそのこと同部屋でよいのでは?」 「そうですね」

2021-06-30 16:40:31
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「全くよくありませぬなぁ!?」 うふふと笑いあう2人に、道はやっとこの場に敵しかいないのを悟った。みんな、おまえがいなくなって泣いたのだから当たり前だろう。この莫迦者。 「同室いいですね。さっそく道の荷物を動かしましょう」 「はい、兄上!」 「お待ちなされそこの馬鹿兄弟!」

2021-06-30 16:42:35
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

記憶あり転生現パロ晴道。すべて終わった後の与太話。 晴、20歳。道、38歳。 結界の問題も解決し、陰陽寮も安部家も落ち着きを取り戻した頃。安部家当主である晴も成人したこともあり、とある問題が噴出しだしていた。 「今日の釣書ですぞ」 「燃やしてしまってください」 そう、見合いである。

2021-07-05 00:32:32
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

結界の張り直しも終わり、色々な物事が落ち着いた頃を見計らったかのように、安部家当主の邸宅には日々、多方から釣書が寄せられていた。最初こそは晴も物珍しさから、1枚1枚目を通していたが、さすがに毎日届く釣書に1週間ほどで根を上げた。 「20歳になってすぐこんなのが来るなんて……」

2021-07-05 00:44:58
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

ぐったりと机に伏せる兄の姿に、弟も苦笑いをする。さすがに陰陽師の名門安部家の生まれであるからか、それなりに兄の苦労はわかるらしい。 「お前、気になる子がいるならその中から選んでいいですよ」 「うーん……それはちょっと……一応、兄上にきているものですから」

2021-07-05 00:48:45
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

「名門の家柄になりますと、結婚も大変ですなぁ」 釣書を持ってきた当の本人は、書類整理をしながら他人事のように暢気に呟いた。じとりとねめつければ、道はくすくすと笑っている。 「20歳になるのを待ってたと言わんばかりじゃないですか。そんな急に言われても困ります」 「急ではないですぞ?」

2021-07-05 00:59:35
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

きょとんと見上げれば、道はこてりと小首を傾げた。 「この国では法律で18歳から結婚できまするゆえ、18の時から来ておりましたぞ?拙僧が全部握り潰しておりましたが」 「え!」 「まだあなたには早いと思っておりましたので。それに、結構ごたごたしておりましたからな」 「……まあ、確かに」

2021-07-05 01:03:11
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

成人するまで。せめてこのごたごたが片づくまで。穏やかに、健やかに過ごしてほしいという道の願いはとても感じられた。感じられたが、「では成人したので、後は全部やりなされ」と言わんばかりの雑務の数々に頭を悩ませている。 本当に私は道に守られて育ったのだなと痛感した。

2021-07-05 14:49:56
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

これを全部かと眉をひそめながら、釣書の山を見ていれば、道は深くため息をついた。 「……あなたは平安の世より、最高最優の、唯一無二の陰陽師としてあった方。神秘の色濃い平安の世でも陰陽寮の誰も頼れなかったせいでしょうが、安部家当主としてあなたは人の使い方を覚えるべきですぞ」

2021-07-05 14:59:36
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まとめたひと
泥あんこ @V4v7mV9cKzIIWs9

腐垢。成人済。 その時々にはまったCP吐き出し用。現在fごの晴道と神陛にはまっています。晴道や神陛吐き出し中。 道受も道攻も好きですが、晴道固定派。 吐き出したネタは定期的にプライベッターやminへ移しています。 マシュマロ→marshmallow-qa.com/v4v7mv9ckziiws…