ヒロインを虐げた妻と芋虫の夫

にじかれー🦄🦛🐰🐉🌸🐈 @nijikare2

ヒロインを虐げて婚約破棄された百ちゃんが没落寸前の花沢家に嫁いで旅順で脳カケしたU作さんに嫁ぐ話だな！

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最初は寝たきりガリガリで幽鬼みたいなU作さんに眉を潜めながらも死んだらマジで没落だから看病する。使用人も婆と爺位しか居ないから一人である程度のことはしなきゃいけない。尿瓶でU作さんのシモの世話もする。次にちょっと動けるようになったU作さんは芋虫の様に部屋の中を這い回る。

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畳に擦れた膝から血が出て浴衣や畳にシミが付く。やっぱり尿瓶（略）水差しで水を飲ませたり、重湯を飲ませたりする。U作さんが眠ってる間に婆と洗濯や掃除、炊事をする。U作さんは起きたらまた部屋を這い回る。なぜかは分からない。舌も麻痺していて喃語の様な声しか出さない。

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ある日頭痛からか床をのた打ち回るU作さん。尾は爺の力を借りてU作さんを縛る。ヒロインへの虐めで身につけた縛りスキルが役に立った。舌を噛み切らぬ様に昔婚約者のために刺繍を施したレース付きハンカチを口に突っ込む。大いに役に立つものだ、って自嘲する。

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本物の芋虫のような夫。ホトグラフに写る夫は神の化身の様に美しい。しかし、今は無精髭を生やし落ち窪んた目元をしているのは卑しい乞食より見窄らしく見えた。だが、自分とてこの男に嫁がねば似たようなものだ、と尾は嗤う。薬が効いてきたのか大人しくなってきたU作さんの頭を撫でる。

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鎮痛剤を使っている時は睡眠薬は使わない方が良いと医者から言われていた。だからせめてと子守唄を歌う。早く眠ってくれなければ明日のスーツが洗えない。だがいつまでも夫は尾を濁った土色の目で見上げている。目を開けたまま寝ているのかと思ったが違うらしい。まったく、世話が焼ける。

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暫くしてようやく眠ったU作さんを布団に引きずっていく。床に散らばった物を片付ける。以前は見舞客もそれなりにいたが、変わり果てた彼の姿に皆脚が遠のいた様だ。接待が面倒くさいし、尾を憐れむような目でみてるのがウザったかったからいない方が良い。この生活は案外居心地の良いものだ。

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芋虫の様な夫が、芋虫から産まれたての獣のように四つん這いになっている。脚や腕に力が入らないのか、そもそも筋肉が落ちて棒きれのようになっているせいかもしれない。益々ずりずりとはいつくばるから、手のひらや膝を擦りむいている。爺に頼んでとびきり沁みるがとびきり効く薬草を取ってきてもらう

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これもヒロイン虐めで培った薬草煎じだ。薬草臭い軟骨を作り、夫の傷に塗った。しみたのかぶるぶる震えている。脳が欠けている癖に沁みるが薬は辛いらしい。あんまり世話を焼かせないで欲しい。ある朝尾がU作の寝室に行くと饐えたニオイがする。どうやら尿瓶が使えず漏らした様だ。

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尾は何も言わずU作の浴衣を脱がし全裸にする。布団なども干すために婆を呼ぶ。ついでに温めた湯と手ぬぐいも持ってきて貰った。身体を拭いてやる。いつもは夜に拭いているから明るい陽の下で身体を見るのは初めてだった。骨が浮き上がりカサついた身体は老人のようだ。萎びた下腹部も拭ってやる。

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その間うーうーと唸っていたが、ふと静かになった夫を見るとはらはらと涙を流していた。尾はその涙がとても美しく見えた。だがさっさと身体を拭かないと風邪を引かせてしまう。身体を転がして全身くまなく拭き上げて新しい浴衣を着せてやる。爺が敷いた新しい布団に転がす。

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枕元に新しい尿瓶を置き、ベルを置く。なんかあったら鳴らしてください、と。別に漏らすのも徘徊も構わない。だが失敗するたびにあんなふうに泣かれたら堪ったものではない。だってあんな、一等美しい涙は夫が一等美しい人間だと示しているようなものだから。虐めていたヒロインよりよほど美しい

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その後暫くはベルが鳴らなかった。だがある夜、尾が内職の刺繍をしていると、控えめにりん、りん、とベルが鳴った。尾は針を針刺しに刺して立ち上がる。明かりがなくても月が輝いていた。どうかなさいましたか、と障子を開ければU作がふうふうと息を荒げている。そして枕元にある札を指さした。

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それは尾が婆や爺と作った意思表示の札だ。厠や空腹、痛みなどを訴える。どうやらU作は結構我慢したようだが、いよいよ限界を迎えたようだ。普段は就寝前に用を済ませたら朝まで催さない。しかし身体の機能が回復し始めたのか排尿の回数が増えている。そろそろ食事を粥にしても良いかもしれない。

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そんなことを考えながら尾は尿瓶を手に取りU作の陰茎に嵌めた。どうぞ、我慢すると御身体に障りますよ、と言って促すように下腹部を押した。何度も介助しているがU作は羞恥を覚えているようで、あうあう言いながら、だが抗えぬ尿意に身体を弛緩させる。尿瓶にからからと音を立てて尿が注がれる。

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排尿が終わると懐紙でin茎を拭う。今は土気色のそれは、彼が健やかな時から一度も生殖のために使われていないそうだ。旗手とはそう言うものだと見舞いに来たU作の脳カケ友だと言う鶴見という将校が笑っていた。何となく底しれぬ不気味さを持つ男だ。尾はU作の肩を優しく撫でて寝かせた。

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う、あう、と呻く夫の声を聞こえぬふりをして部屋から立ち去る。僅かに温かい尿瓶が夫が生きている人間の証である。それからも相変わらずU作は芋虫だったり、四つん這いの獣だったりする。最近はあうあうと痺れた舌を動かしている。医者からそろそろ粒がある粥で、と言われるまで回復した。

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そして療養のためにも自分で匙を使うように、と医者に言われる。熱いと火傷をしてしまうから先ずは尾がふうふうと冷ましてやる。そうして匙を渡すのだが、夫はあわあわあうあうと呻いている。本当に、脳が欠けている人間はよくわからない。早く食べないなら、下げますよ、と言うと黙る。

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食事のたびに顔が赤くなる。粥が熱いからだろうか？念入りに冷ましてやるが顔の赤みが取れない。婆に話すと婆はにたにたと笑うだけだ。しかし、粥にしてからはU作の体力も向上した。綿入りの膝当てと掌ようの防具をつけたから傷も付かなくなった。相変わらず頭の痛みはあるようだけど。

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頭の痛みがあると、控えめにベルが鳴る。すると鎮痛剤をもって尾が駆けつける。鎮痛剤を飲ませ、そして子守歌を歌う。うとうととしている夫はまるで赤ん坊のようにも見えた。似たようなものだな、と苦笑している。そしてそろそろ社交の季節がやってくる。

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この状態の夫を連れていくことは出来ない。立てない歩けない、尿瓶もまだ必要だ。だが花沢家のためにそういった場を使わないのは勿体ない。「気が進まないけど、それが妻の役目というもの」U作の柔らかな髪を撫でる。頭の銃弾を取り除いたために剃り上げていた髪が伸びてきたのだ。

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まるで羊毛のような柔らかさに、ついつい撫でる手が止まらない。このやせ細った優男が、戦場では勇ましく皇旗を振って銃弾の雨、血潮の雨の下駆け抜けたのだと思うと、自分はやはり彼のことを何も知らないのだと思った。知る前にさっさとお払い箱の様に彼と結婚させられたのだが。

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もともと結婚など愛のないものだと思っていたし、自分は愛など抱けない人間だと思っていた。しかし、この男の命を自分が握っている、自分よりも大きな手をしている男が自分に尿瓶を使われて用を足している姿を見ると得も言われぬ優越感を得るのだ。随分と鬱屈していることも自覚していた。

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すうすうと寝息を立てている夫の頭を撫でながら、尾はなんとも言えない気持ちを抱えていた。彼の体力は日に日に回復している。固形物に近いものを食べられるようになったからだろうか。少しだけ、脚や腕に筋肉がついてきたように思える。そして少し尻にも。筋肉で太かったであろう首をそっとなぞる。

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とくとくと穏やかな脈が尾の指の腹を叩いた。なぜだかそれが稚いもののように思えて、尾はそのまましばらく、脚がしびれて立てなくなるまで膝を貸していたのだった。 そしてしばらくすると尾は屋敷に反物屋を呼んだ。U作には資産はそこそこある。一着くらい新しく仕立ててもいいだろう。

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そうでなければ普段着で社交することになる。良い笑いものだ。おそらく元婚約者やあの忌々しいヒロインはそれをお望みだのだろうけど。一応着物のことはU作に告げた。相変わらずあうあう言っていたが頷いていたので反対はされていないだろう。それに久しぶりに自分好みの物が仕立てられることが嬉しい

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元婚約者は淡い色を女に着せることが好きだった。そして尾は壊滅的に淡い色が似合わなかった。肌が白く、髪の色が濃いため淡い色は似合わない。それを見た元婚約者は不満げに顔をゆがめていた。あの愛らしいヒロインは彼が好んで仕立てさせた薄桃色の着物を着るのだろう。尾は死ぬほど合わなかったが

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反物屋は元婚約者から与えられた人脈でほぼ唯一と言っていいほど有益な男だった。毎回尾に合わない反物を見て、ほんとろくでもない男っすね、と言い放つ。夏太郎という男はいつも良い反物を持ってくる。尾の状況を理解しているから、きっとさほど高価ではないが良いものを持ってきてくれるだろう。

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だが実際に彼が持ってきたものら最上級の反物だった。とても手が届かない。しかし夏太郎が、うちの旦那様からの結婚祝いだそうです！お好きな反物を贈ります！と。旦那様とは確か大商人土方歳三だ。渋みのある色男だ。齢は尾よりかなり上だが、昔から忙しい合間をぬって尾を可愛がってくれた。

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尾はふと思い夏太郎に提案する。これは夫婦が受け取れるものかと。夏太郎はにかりと笑った。旦那様はご夫婦に、と言ってましたよ、と。尾は上等なスーツ生地を指さした。グレーの色合いが似合うと思ったのだ。そして自分には黒に銀糸の刺繍が施された反物を選ぶ。今回は自分の物だけを仕立てるつもりだ

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りん、りんとまた夜にベルが鳴る。またか、と尾は尿瓶を手にU作の部屋に入った。すると尾は目を見開いた。夫は膝をついて座っていた。背筋も伸びている。未だやせ細っていたが初めてあった時より大分人間らしくなっていたのだと実感した。U作はもつれる舌で百さん、と呼んだ。

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この男は本当に自分の夫なのだろうか、と尾は持っていた尿瓶を抱きしめた。それを見たU作は苦笑する。尾もさすがに尿瓶を抱きしめるのはどうかと思い床に置いて尾もその前に膝をついた。U作は、これまで大変お世話になりました、そして私にも反物を選んでくれて嬉しい、いずれそれでスーツを仕立てたい

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ただ、今回はあなた一人を社交界に送り出してしまう不甲斐なさを許してほしい、という事をゆっくり、ゆっくり何度もどもりながら舌を縺れさせながら言った。言い終わる頃にははぁはぁと息を乱している。尾は立ち上がってU作の横に腰を下ろした。そして息を乱し上下する背中をゆっくりと撫でる。

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水差しで水を飲ませる。横になる様に促し、なんとなくいつもの癖でU作の頭を自分の膝に導いた。やっぱりあうあうとしていたが、もしかしてこれは赤ちゃん返りなのだろうかと思う。そして柔らかな髪に指を絡めながら背中を撫でる。随分と人間らしくなりましたね、と。相変わらず可愛げのない言い方。

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それに一瞬眉をひそめてしまう。このような物言いをするから可愛げのない女だと言われてなかなか婚約者も決まらなかったのだ。決まったあの相手も尾のことを毛嫌いしていたが。するとU作は、あなたのおかげです、と喘鳴交じりにいう。にこりとほほ笑む顔が、とても綺麗なことに気づいた。

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それと同時にぞわりと尾は恐ろしくなる。あのヒロインの笑みと同じ屈託のない笑み。このままU作が回復して、社交界に出たときのことを思う。きっとあの女と出会うだろう。そうしたら、尾のことを可愛げのない女だと気づいてしまうだろう。尾は髪を撫でる手を退けた。夫に尽くすのは、妻の役目です

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なんていう。ここで喜び、愛ゆえだと訴えれば良かったのだろうか。だが愛を知らない尾はそんなこと言えなかった。きっとあのグレーの記事で仕立てたスーツは、淡い色の着物によく合うだろう。喪服の様な着物で並び立つ女など、目に入らないだろう。尾は目を細めてU作を見下ろした。

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U作はぽつ、ぽつ、と話す。もっと沢山鍛えて、話す訓練もしたい、そしてあなたの恩に報いたいと。尾はそれに返事をすることはない。それはつまり、尾にとってはカウントダウンだと思っているから。この男ならば一人でも花沢家を盛り立てるだろう。なんせ芋虫から赤ん坊まで自力で行ったのだから。

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そうしたらもっと地位が高く、社交も上手い令嬢と再婚すればいい。これは彼が花沢家を保ち続けるための結婚なのだから、それ以上を与えられない尾の役目は終わるはずだ。まさしく尾の役割は繋ぎなのだ。尾はU作の話に明確に返事はしない。だがそろそろお休みしてください、とだけ声をかけた。

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疲れたのだろう、U作はすぐに目を閉じる。こもりうた、ともごもごというので、いつものように子守歌をうたってやると、すうすうと寝息を立てる。まるで一夜の夢でも見たかのようだと思う。背筋が伸びたあの姿は、かれが陸軍将校だという事を思い出させた。尾はU作を寝かせて自分の部屋に戻ろうとした。

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床に転がった尿瓶が目に入る。これももうお役御免だろうか。ふと彼がこれに用を足すところを思い出す。ぞくぞくと、興奮ににたものが背筋を駆け巡る。我ながら趣味が悪いと自嘲した。次の日気を取り直して反物に合わせる帯を選んだ。これも黒で黒糸の刺繍を施したものにする。

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いやー極めてるっすね！となれなれしい夏太郎。だがこれが彼の愛される所以なのだろう。土方も彼の人懐っこさを気に入っている様だった。そして彼はU作のことも気に掛ける。というか土方が気にかけている様だ。先の戦争の英雄ともいえるU作だ。上手く使えば政財界でも良い駒になるだろう。

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もし離縁になったら土方にちょうどいい後妻の枠でも紹介してもらおう、と尾は思っている。散々一方的にしゃべり倒して帰った夏太郎。だが尾は勝手に喋って色々な情報を与えてくれることは嫌ではなかった。だが夏太郎が屋敷を出入りするようになると、U作の機嫌が悪いことに気づいた。

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U作は何か言いたげにしながら、いや実際あうあうと何事か言っているが、あの日は必死に舌を動かしていたのだろう。今はその舌が言いたい言葉に着いてこれていないようだ。わざと分からないふりをして、膝枕をする。相変わらずすりむき気味の膝と掌に薄く軟膏を塗ってやる。飛び切りしみるやつだ。

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だがそれを縫ってやっているとにこにことしている。脳が欠けているから、変な嗜好なのだろう。噂に聞くと陸軍では脳欠け仲間が他にもいるらしく、そのうちの一人は興奮すると脳汁を垂れ流すらしい。脳汁を垂れ流す夫を想像する軽く恐怖小説の世界だ。今はにこにこと可愛くほほ笑んでいる。

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大分固形物を食べられるようになってきたこともあり、少しずつ筋肉がついてきた。とはいってもまだ骨と皮だけの身体。骨の太さは流石軍人という感じだ。ここに筋肉が付けばそれなりの太さになるだろう。旗はとても重く風が吹けば尾よりも重く感じるらしいと聞いた。武蔵坊弁慶とどちらが力持ちだろうか

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それを夫に話すと、ふんすふんすと息を荒げて自分の胸を叩いていた。自分の方が力持ちだと言いたいのだろうか。だが今は非力な傷病人だ。いつか見てみたいです、という言葉を尾は飲み込んだ。未来の約束など無価値だ。そもそもどうせ今は自分の世話をしてくれるのが尾しかいないから親しいのだ。

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どうせ男などあのヒロインのような女が好きなのだ。期待するだけ労力の無駄である。ならば好かれる努力をするより好きに生きる努力をすべきだ。愛されようと努力することなど、人生の時間の浪費だ。尾は空いた時間で刺繍の内職をこなしていた。報酬の何割かはへそくりとして貯めている。

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そしていよいよ社交が近づき、着物も仕立て終わる。当日は夏太郎が着付けを手伝ってくれるらしい。尾は実家から持ち込んだ白粉と紅を点検する。嫁いでからはほとんど使っていない。もしダメになっていたらへそくりから出すしかない。紅は少々硬くなっていたが、使えないことも無さそうだ。