2018年度に執筆した140字小説まとめ
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千月薫子 @Thousands_Moon4

食卓には子どもが摘んできた野花が小さな瓶にさしてあった。今日はどこでとってきたの?夕食はその一言から始まる。瓶は子供の成長と共に立派なものへと取り替えられ、成人をすぎる頃には、もう花を摘んで来ることは無かった。からっぽの瓶に母はまだ花をさす。今日はたんぽぽが綺麗だよ。#140字小説

2018-10-29 01:35:45
千月薫子 @Thousands_Moon4

花のボディクリームを買った。女子っぽいことをした。少し嬉しくなった。歩いている時にちゃんと背筋を伸ばした。意識高いっぽいかも。少し楽しくなった。携帯を開かずに布団に入った。健康的じゃない?少し優越感があった。そんなこんなで今日も幸せで。また明日と、短くて長い夢を見る。#140字小説

2018-10-30 02:09:43
千月薫子 @Thousands_Moon4

髪を切ったから、もしかしたら気づかないかもしれない。10年ぶりに会う彼は長い髪が好きだという噂があった。だから長く伸ばしていたけど、昨日バッサリと切った。彼にあてたラブレターとともに。でもその思いは捨てきれなくて、こうして約束を取りつけた。手紙はまだ大切にしまってある。#140字小説

2018-11-10 12:38:18
千月薫子 @Thousands_Moon4

明日地球が滅ぶなら、空を青く染めましょう。雲を掃除して晴天を。太陽にお願いして過ごしやすく。風には大人しくしてもらって。せめてさいごに目に映るのが鮮やかなものでありますように。結局はこれも自分のためだけど。祈りをつぶやいて、魔女は涙を流した。嫌われた私でも最期くらい。#140字小説

2018-11-08 21:00:51
千月薫子 @Thousands_Moon4

雨上がりの朝8時41分はいつもと変わらない往来だった。冬に向けて色の薄くなった空気と寝起き特有の無気質さが喉をいためる。42分。電車が来た。53分駅に着く。大通りを横切って、細い路地に入った。ゆるく坂をくだっていくうちに目に入る。遠く遠くの白と青が引き立てる空。綺麗じゃん。#140字小説

2018-11-08 00:26:13
千月薫子 @Thousands_Moon4

「田村 呂製作所」バスの外を気だるげに眺めていた。そんなとき、ふと目に入ったタイル張りの上に並べられた店名。古い看板などは文字が逃げやすい。文字にも気質があって古いところが嫌な文字もいる。よりにもよって「風」だ。世界をまたにかける気象。そりゃ逃げ出しやすいわけだ。#140字小説

2018-11-07 08:40:15
千月薫子 @Thousands_Moon4

とうに沈んでしまった太陽を追いかけて眠りたくない。もうすぐ顔を出すのなら、待とうじゃないの。眠りたくない。このまま、待っていたっていいじゃない。わざわざ自分で意識を手放して、既にのぼっている太陽を見る。そんなのまっぴらごめん。どうせなら一緒に起きておはようと言いたい。#140字小説

2018-11-05 01:06:50
千月薫子 @Thousands_Moon4

夜の闇にお湯を注ぐと、控えめに輝く星の光があらわれる。紅葉のカップにそれを入れると、月の光を泡立てた。甘い甘い夢の粒をひとつまみいれて、よくかき混ぜる。つのがたったら、夜闇のコーヒーに大きいスプーンでたぷんとのせる。秋ブレンドの夜闇コーヒー月の光クリーム、夢を添えて。#140字小説

2018-11-05 00:56:11
千月薫子 @Thousands_Moon4

チェシャ猫の口みたい。そんな三日月がぽっかりと空に浮かんでいた。不気味なほどくっきりと、周りとは一線を画して。坂の上の空に。ちりんちりんと自転車がそばを通る。ふと目線を外したのがまずかった。もう一度空を見上げた時、そこに月はなかった。空を見回しても月はなかった。#140字小説

2018-11-12 01:08:51
千月薫子 @Thousands_Moon4

ため息が小鳥になる魔法をかけましょう。涙が花になるおまじないを教えましょう。新宿の大きな本屋の横の、細い路地に入ると一軒家の喫茶店があるの。知ってた?もし見つけられたらぜひ立ち寄ってちょうだい。いつもの日常がささやかに彩られる奇跡を教えてあげる。私はいつでも暇だから。#140字小説

2018-11-14 01:09:00
千月薫子 @Thousands_Moon4

1年半のバイト生活が終わってしまった。急な閉店。店舗でお別れ会をして、店長とハタノさんにお世話になりましたと頭を下げる。小さい頃はあんなに別れに涙を流していたことを思い出す。思い出も全て、この一瞬でなくなると思っていたから。でも、そんなことはない。また、会えるから。#140字小説

2018-11-14 23:55:29
千月薫子 @Thousands_Moon4

太陽の真横に月が昇った。屋根の上で、そのツーショットを指の間に収める魔女の姿があった。「これで一緒になれるわね」太陽とともに月は昇り、太陽とともに月は沈む。夜を翔けるは箒に乗った魔女だ。月の代わりにいっとう輝くひかりを空にまぶす。「あなたの仕事は私がやっておくわ」#140字小説

2018-11-16 22:51:06
千月薫子 @Thousands_Moon4

朝起きると間に合わない時間帯。二度寝を決め込む布団の中で目を閉じると夜遅くのやり取りが思い出される。最近彼氏とは喧嘩ばかり。演習発表の準備も終わらない。バイトも面倒。友だちにそれらを愚痴るために大学へ行く。人の不幸は蜜の味と言うけれども、案外私は自分の不幸が心地いい。#140字小説

2018-11-16 23:14:16
千月薫子 @Thousands_Moon4

私はココアをつくる。ほっとみるくをレンジからとりだすと、真っ白い水面がゆれて、湯気がたちのぼっていた。茶色い粉末がそれを染める。粉が浮き上がってしまう。昔はちょっと固まっただけの粉が美味しくてよく食べてしまっていたっけ。今はちゃんとかき混ぜるよ。だって大人だからね。#140字小説

2018-11-18 23:28:05
千月薫子 @Thousands_Moon4

不幸が重なるといよいよ私も世界から嫌われたかと思う時がある。いや、いつか。大学生になってから上京してきてずっと暮らしてる部屋。当たり前だけどひとりぼっち。矮小な私と、壮大な世界では規模も違う。価値も違う。私を嫌うか、なら戦争だ。なんて言える度胸があればいいのに。#140字小説

2018-11-20 00:24:33
千月薫子 @Thousands_Moon4

好きって言って。この言葉だけは何度も言われないとわからないの。彼を困らせた。好きって言ってお願いだから。でも彼は優しくて、何度だって言ってくれた。わがままなのはわかってる。でも望む言葉を欲せずにはいられない。たとえ気持ちが逸れていくとわかっても。今日もまた私はねだる。#140字小説

2018-11-20 00:44:40
千月薫子 @Thousands_Moon4

三文字打って四文字消える。気に食わない時はなにもかもがダメで。自分が書いた文章全てが陳腐に見える。三文字打って三文字消える。それでも書いてみる。三文字打って二文字消える。多少はましに見えてくる。四文字打って一文字消える。ほら、私は単純だから。書くことしか出来ないから。#140字小説

2018-11-21 01:44:39
千月薫子 @Thousands_Moon4

真昼に月が昇った。太陽の横に並ぶ青白い月は空を嘲笑う。星々は二つの光に気圧され、その儚い命を散らした。月は太陽に焦がれ、太陽は月を羨んだ。決して会えない彼らの対面の時間はそう長くなかった。みるみると月が黒くなっていく。そして崩れていった。陽の光は紺の夜を壊し消し去った。#140字小説

2018-11-23 02:26:59
千月薫子 @Thousands_Moon4

書き降ろす。ネタは降ってくるという。それを私から降ろすのが書くという作業。なるべく忠実に、言葉を選んで、抽出し、文字に託す。私の中にはこんなに素晴らしい世界が広がっていることを。シャーペンの先と紙が擦れる音、筆圧が机を鳴らす音、どれもこれもが私から生まれる作品の産声。#140字小説

2018-11-23 02:32:43
千月薫子 @Thousands_Moon4

離れ離れ、放たれ花れ。分かたれ、別れ。去られ、去り際、花を送る。一緒に居られなくなることを、祝福しよう。僕は花束を彼女に送った。彼女は遠くへ行ってしまう。別れで縁は切れない。だが細くなってしまう縁に口づけて、僕は君の幸せを祈るよ。喉までこみあげてくる涙を押し込んで。#140字小説

2018-11-24 01:42:29
千月薫子 @Thousands_Moon4

真っ逆さまに落ちてる。頭が下向きに、世界が空へと逃げていくような光景が飛んでいった。髪が顔を叩いて、風をきる。ビルの壁面を落ちていく。ふと一瞬止まったような気がした。中に見知った顔があったから。電話片手に仕事をしている彼の姿。でもそれも飛んだ。雨が空に向かって降った。#140字小説

2018-11-26 22:37:37
千月薫子 @Thousands_Moon4

「色気ないわね」彼氏からの最初のプレゼントは靴下だった。あったかそうな毛糸の靴下。君は照れくさそうに、こちらを真っ直ぐ見てはくれなかった。足先が冷えると言った私の言葉を覚えていてくれたんだね。からかったけど、とても嬉しかった。10歳離れていても、わたしを考えてくれる。#140字小説

2018-11-26 23:56:18
千月薫子 @Thousands_Moon4

「黄色は梔子というけれど、私はそう思わないわ」葉っぱを拾いながら母は言っていた。秋に色づく黄色の中、1番綺麗で一番近くにあるもの。それは「いちょーのきー!」あたり。母の優しい笑顔をよく覚えてる。イチョウの葉を拾って母は黄色を染め出していた。見たまんまの鮮やかな気色を。#140字小説

2018-11-27 02:11:08
千月薫子 @Thousands_Moon4

メルティキッスのCMが見慣れてきた頃、いつもの道も、落ちた木の葉が埋め尽くす。私はさっき買った唐揚げ棒を一つ、串からついばんだ。そういえば、まだあんまんを食べてない。どこのがおいしいのかな。明日のおやつが決まり、沈みかけの太陽を見送った。からすといっしょに帰りましょーう。#140文字

2018-12-05 01:31:50
千月薫子 @Thousands_Moon4

いつのまにやら冬が足音を忍ばすどころか、のしのしとその巨体を運んできていた。寒さは厳しくなり、色づいた木の葉は盛りを過ぎて彩度が落ちる。家に入る前にカラカラに乾いたそれを砕いた。破片が飛び散る。目につく葉が新種のものじゃないかと無駄な妄想を捗らせた。もう、今年が終わる。#140字小説

2018-12-04 02:02:18
千月薫子 @Thousands_Moon4

「今日は煙草じゃないんですね」職場の休憩所兼喫煙所に、彼はやってきた。私がコーヒーを飲んでるのを見て、にこやかに声をかける。「やっと一段落ついたのよ」お疲れさまです。いつも鉢合わせる彼は、今日もゆずれもんを買った。未だに名前も部署も知らない二人は頑なに沈黙を守った。#140字小説

2018-12-03 00:38:57
千月薫子 @Thousands_Moon4

片手で本をぱたりととじた。つまらない。文学に親しんできた僕だったけど、最近はどうも何を読んでもつまらなくなっていた。公園のベンチは尻が冷たい。さらさらと枯葉が風に運ばれる。「読み終わったの?」いつのまにやら隣にいた男に声をかけられた。これで二度目だ。「ストーカーが」 #140字小説

2018-12-02 18:18:56
千月薫子 @Thousands_Moon4

法律的に大人になって、コーヒーのお世話になることが多くなった。何もない腹に黒い液体を注ぎ込む。十中八九腹を壊すのだが、眠気に勝てない俺はそうするしかない。かといって覚めるとも限らない。そんな不安定な毒を今日もまた、躊躇なく、あおった。やらなきゃいけないことがあるから。#140字小説

2018-12-02 13:29:33
千月薫子 @Thousands_Moon4

イチョウが朝日を己に通し、その光を黄色に染める。横縞のようにかすかな緑との調和が美しいと思った。10月下旬、淡黄が私の足をその場に縫い止める。綺麗だったから立ち止まって見ていた、なんて友だちに言うと笑われるだろう。でも、なんと言われようとあの時の景色は綺麗だった。#140字小説

2018-12-02 13:25:02
千月薫子 @Thousands_Moon4

遥か遠くからやってくるどす黒いものが私の余裕を食い潰す。それは掴めなくて、対抗しようにも姿が見えなくて、でも確実に一歩一歩近づいてくる。一足ごとに悪寒、一足ごとに不安が襲いかかった。精神を蝕んで、意気揚々といつの間にか立ち去っていく。時間と共に消えゆく儚いイキモノ。#140字小説

2018-12-01 01:16:56
千月薫子 @Thousands_Moon4

「私は誰にも理解されない」君は言い放った。遠巻きに見てただけの、ちょっとおかしなクラスメイト。話したこともなかった。たまたま、彼女が落としたノートを拾った。「ねぇ」立ち止まった君は礼も言わずにそれを取った。そしてまたすたすたと歩き去る。「なんで、いつもひとりなの」#140字小説

2018-11-28 00:53:32
千月薫子 @Thousands_Moon4

「さっむ」風呂上がり、下着だけで煙草をふかしていたら唐突に寒気が襲った。冬は駄目だな、これは。すぐに服を着ればいい話なのだが、なにせ暑い。床に落ちていた上着をきて、レンチンした熱燗を机に置いた。ちびちびと、端から飲むとつんとした苦さが心地よかった。「はよ寝よ」#140字小説

2018-12-07 00:09:11
千月薫子 @Thousands_Moon4

食べ過ぎた。この時期に暖かいのは珍しいから調子にのって、どんどん口に放り込んでしまった。ため息をつく。周りを見るとニンゲンはみな、肩を上げてコートを寄せて、背を丸め、足早に歩いている。あぁやってしまった。ボクが食べ過ぎなければ、今日はこんなに寒くならずにすんだのに。#140字小説

2018-12-07 01:21:43
千月薫子 @Thousands_Moon4

吾輩はハリネズミである。名前はもうない。愛でられ、いんすたぐらむとやらにあげられたのも過去のこと。今や野良である。猫に出会ったり、たぬきに出会ったり、肝が冷える。でも吾輩は生き残るだろう。なぜか。この自慢の針があるからだ。吾輩はハリネズミ。今、旅路へと踏みだしたもの。#140字小説

2018-12-09 01:05:43
千月薫子 @Thousands_Moon4

赤く、紅く染まった君の頬に手を添える。冷たくなってる。ぽかんとしてる君の表情がかわいくて、もう片方も反対の頬に当ててみる。すると、にっこり笑ってその手を僕の手に重ねた。「かずくんの、あったかいね」心臓がきゅっとなったのが、なんだか恥ずかしくて、僕はその頬をひっぱった。#140字小説

2018-12-10 02:39:01
千月薫子 @Thousands_Moon4

「やっばい、あたし今日もカワイイわ!」「それ毎日言ってる。その自信どこからくるの、分けてほしいわ」「え、だってカワイくない?あたし!」「いや、カワイイけどさ、そうやって口に出せるのすごいよね」「そう?本当のこと言ってるだけ」「にっくったらしいな」「事実を言ったまでよ」#140字小説

2018-12-10 02:43:41
千月薫子 @Thousands_Moon4

夜になると決まって右足が何やら痛み出す。ズボンをまくってみると、そこには生まれてこのかた、見た事もない蛇の形の痣がそこにあった。ゆっくりと足を動き回っている。ずるりと動く度に、鈍い痛みが重くのしかかってきた。お願いだから動かないで。そんな私の願いは聞きいられなかった。 #140字小説

2018-12-12 02:38:54
千月薫子 @Thousands_Moon4

「最近どうです?」内ポケットから煙草を取り出した。「年度末なんで忙しいっす」すっかり日が落ちたカフェの、窓ガラスに面した席。隣に座りあった二人は、歩道の往来を眺めながら煙草をふかした。灰がどんどんと積もってゆく。「週末は」「最終調整っす」「年末は」「……空けます」#140字小説

2018-12-12 21:12:52
千月薫子 @Thousands_Moon4

「私は今日もキレイ」「そうだね、綺麗」狭い狭いカプセルに入った彼女と強化ガラス越しに手を合わせた。青い液体が吐き出される呼気で泡を浮き上がらせる。何本ものチューブが天井で複雑に絡まっていた。「君は自分が好き?」彼女は笑って問うた。「僕は僕が、好きじゃない」#140字小説

2018-12-13 01:12:42
千月薫子 @Thousands_Moon4

溢れ出した怒りとも悲しみともつかない感情がじゅぶじゅぶと私を内側から崩していく。皮膚がふやけて、まるでホットケーキのたねのように崩れていく。目玉も支える筋がなくなると、水っぽい音を立てて落ちた。髪も抜け落ちる。痛みはない。ただ、ただ虚無が音のない虚無が口から吐かれた。#140字小説

2018-12-15 00:38:54
千月薫子 @Thousands_Moon4

おやつの時間だ。時計が3時を示すと、私は砂糖の蓋を開けた。白くて甘い魔法の粉は、さらさらと私の手のひらにのった。それを持って玄関の扉を開けると、寒い風が吹く。少し歩けばすぐそこには小高い丘があった。低くなってしまった月はまだ弱々しい光を放っている。「さぁ、お食べなさい」#140字小説

2018-12-15 00:53:45
千月薫子 @Thousands_Moon4

「本気」はあらかじめ小分けにして、いつも手の届く所に置いておきます。そして、毎日朝にそれを使用してください。一週間に一度、残量を確認しましょう。1回の「本気」がどれくらいのものか、どれくらい小分けにすればいいのかわかる目安となります。「やる気」とは別物なので注意です。#140字小説

2018-12-17 00:16:36
千月薫子 @Thousands_Moon4

君が嫌いな赤い口紅をしてみた。反応無し。いや、いつもより少しだけ無言の時間が多かった気がする。今度は君の好きな薄い桃色のリップ。会った途端に、ぱっと笑顔が輝いた。君はわかりやすい。私がわかりにくいだけだ。またね、と言って別れると、私は唇を拭った。着せ替え人形の気分だ。#140字小説

2018-12-17 00:54:06
千月薫子 @Thousands_Moon4

冷たい空気が頬に触れた気がした。起きると朝。目の前が二重三重にかすんで見えた。手足を動かそうとしても動けない。これは……?カフカのように虫になったという訳でもないのに。すぐ横の窓を向くと、そこには綺麗な正方形の塊があった。きらきらと輝くそれは、塩の結晶だった。私は塩。#140字小説

2018-12-23 01:04:59
千月薫子 @Thousands_Moon4

「死ねばいいのに」ことあるごとに口から転がりでた。自責の思いを駆り立てておけば許されると思って、誰にも聞かれず一人で言葉を吐いた。血を吐くように、薔薇の花弁を吐きだすように。泣くほどのことでもない、私さえうまくできれば。私は頭の中で、自分を刺す小さな自分を飼っている。#140字小説

2018-12-23 21:16:19
千月薫子 @Thousands_Moon4

宵闇の水面に、灰色の雲を三滴垂らすと冬の夜空のできあがり。コツは、たくさん広がるように上から落とすこと。そして、月の光でできた串で柔くゆるくかき混ぜること。どこまでも広がる夜空に気まぐれで星を散らせば、見上げた時の幸せが増幅するような気がして、今日も多めにしちゃった。#140字小説

2018-12-25 00:46:26
千月薫子 @Thousands_Moon4

年上の彼女は忙しくて今年のクリスマスも会えそうにないと返信が来た。うん、無理しないでね。俺は大丈夫だから。例年通りのテンプレを送ろうとして、キーボードを打つ手が止まる。やっぱり、寂しいなって送ってみようかな。でもそれは、困らせるだけだから。一瞬の躊躇は、僕だけが知る。#140字小説

2018-12-25 00:51:46
千月薫子 @Thousands_Moon4

風のように、あなたは走る。どこまでも。私はそんな背中に憧れて、いつの間にか好きになって、一緒に走れたら、どれだけ楽しいだろうって。思い始めて、告白した。あなたの走る姿が好きです。彼は無言でひとつ、首を縦に振った。その瞬間彼の起こす風が私を包んで離さなかった。#140字小説

2018-12-26 02:53:31
千月薫子 @Thousands_Moon4

かけよってくれる手を待った。日が暮れても、星が瞬いても、日が昇っても。ひたすら待った。霞みゆく記憶に存在するあの、かさかさに乾いてしまった優しい手。忘れないように、それを必死に掴んだ。それでも手首より上は忘れてしまった。どんな顔だったのか、もう思い出せない。お母さん。#140字小説

2018-12-27 01:38:05
千月薫子 @Thousands_Moon4

犬の散歩で外へ出る。冬の夜七時は真っ暗で夜空は雲ひとつない鉄紺に染まっていた。前へと進む小さな犬のあとをついていく。急に背後からナイフで貫かれたら、羽交い締めにされたら。変な妄想が頭に浮かんだ。刺されて血が出たら、傷口って寒さを感じるのかな。ちらっとうしろを確認した。#140字小説

2018-12-27 22:09:17
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まとめたひと
千月薫子 @Thousands_Moon4

千月薫子(センヅキ カオルコ) ⚡️🧪🍫と申します。ることお呼びくださいませ。主に一次創作の字書き20↑140字掌編作家。相棒(@ame_susk_ringo)とサークル名:つれづれえんにちで活動中。nyanyannyaさん尊敬/アイコンは至極お姉さま@N_satiwo