母の死から数年、成長した双子の王子。 夜毎開かれる伯父の趣味の夜会に辟易した二人は城の者に内緒で深夜の脱走を決意するが…
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「それには民の心を知る必要があると…」 リチャードの言葉に王が頷いた。 「そういうことだ、それができなかったから他の馬鹿共は滅んだのよ。 民に肩入れしすぎるのも問題だが、匙加減がわからなけりゃぁそれすらわからねぇ。お前らも見てこい、奴らがどんな風に生きて、俺らをどう思ってるかをよ」

2021-04-22 15:20:25
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「わかりました!」 リチャードは顔を輝かせて王に答えた。 が、 「俺は…」 リチャードとは対象的に、アンジェロは顔を曇らせた。 「ここに残ります、やり残したことがありますから…」 暗い声で王に告げる。 「アンジー、そんな…」 「俺は軍人だ、政治を司るお前とはやることが違う」

2021-04-22 15:25:07
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

リチャードの誘いにも頭を振るアンジェロ。 「まぁいい、気が変わることもあらァな。 すぐに答えを出せとは言わねぇ、ひとつ伯父貴の気まぐれとでも思ってどうするか落ち着いて考えておけや」 言うと王は二人に背を向けた。

2021-04-22 15:29:48
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「チェーザレ、お前とダイアナでリックに付いてってやれや。流石に未経験で何もかも一人でやれってぇのも酷だからな」 再び玉座にどかっと腰を下ろして王が後ろでようやく立ち上がったばかりのチェーザレに言った。 「は、はい、勿論でございます。王子のことは不肖このチェーザレにお任せ下さいませ」

2021-04-23 01:20:29
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「リック、お前ェにゃ郊外のペンドラゴン邸に行ってもらう。 昔俺が競馬で勝ったとき田舎貴族から分捕った屋敷だ、なに、少しばかり狭ェが悪くない屋敷だ。 お前ェにゃこれから田舎の中流貴族・ペンドラゴン家の長男の肩書で生活してもらう。 まさか王子の看板ぶら下げたままじゃやってけねぇからな」

2021-04-23 01:24:15
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「田舎貴族ペンドラゴン家の長男…王子であることは秘密…」 ぽつりぽつりと独り言を言うリチャード。 こうして口に出してこれから起こることを確認するのは彼の癖だった。 「そういうことだ、後のことァ追って話す。今日はもうハケていいぞ、ご苦労だったな」 言うと王は謁見の間の奥へと消えた。

2021-04-23 01:27:14
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「郊外ってことは町外れの森の側か…」 これから始まる新しい暮らしに胸踊らせるリチャードをアンジェロは暗澹たる面差しで見つめていた。

2021-04-23 01:30:08
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「陛下もお人が悪くいらっしゃる、あのような揉め事を起こさなくても王子方もお年頃ですから決断はご自分達で出来たでしょうに」 王の居室にて、窓辺に立つエリックの背にファルコは語りかけた。 「馬鹿野郎、ナマの修羅場ってもんを見せねぇことには町場の空気は伝わらねぇだろうよ」 笑うエリック。

2021-04-23 01:33:52
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「しかしまさか本当にあのようなならず者達と刃を交えることになろうとは。我々の監視がなければ危ないところだったと言わざるを得ません。陛下は如何お考えで?」 生真面目なファルコにはエリックの真意がわかりかねるようだ。 そんなファルコの様を見て、エリックは鼻で笑った。

2021-04-23 01:36:35
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「傷なざぁ男の勲章だぜ、ファルコ。 あれくらいで狼狽えるくれェじゃあ軍の頭は務まらねぇ、それに今度のことでアンジーはようやく目が覚めたみてぇだしな…如何に今までテメエがぬるま湯ん中にいたかってことによ」 エリックは顎髭を撫でた。 「リックは素直に乗ったが…あれはもうひと押しだな」

2021-04-23 01:41:09
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「まさかアンジェロ王子だけまた夜会に出席させるので?」 冗談交じりにファルコが言うのへ、「いやぁ、あらァ俺がもう懲り懲りだぜ」 エリックは頭を振った。 「しばらくァ酒も控えるか、あいつらの為だったとはいえ胃が重たくっていけねえ」 エリックの珍しい口ぶりに思わず吹き出すファルコ。

2021-04-23 02:14:34
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「この程の夜会の騒音と物資の無駄遣いについて農民たちからも不満の声が上がっております、これについては如何いたしましょう?」 「まあ、やりすぎたのは承知の上だ、来季三ヶ月間の税率を2割下げてやれ」 「2割も…ですか?」 ファルコが目を丸くする。

2021-04-23 02:17:54
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「さっきの話だぜ、ファルコ。 民ってやつはただ絞りゃいいってもんじゃねえ。 俺達が2割我慢すりゃ、奴らはゆくゆくは5割にして返してくれる。反対に締め上げつづけりゃいつまでも根に持って噛み付いてきやがる。そのへんの匙加減をリックにも覚えてもらわねぇとな」 エリックは小さく笑った。

2021-04-23 02:20:55
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「もう一件宜しいでしょうか、件のならず共ですが、処遇は如何致しましょう?」 今までの朗らかさから一転、ファルコの声色が険しくなった。 「素性は洗ったのか?」 「は。城下で恐喝、地上げ、美人局等悪質な犯罪を行っていたゴルジ一家の一味とその頭(かしら)に御座います」

2021-04-23 02:22:53
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「そうか…城の目安箱にも随分奴らのことが書いてあったからな…」 ほう、とため息交じりにエリックが零す。 「ひとまず余罪について徹底的に吐かせろ、手段は問わねぇ。 その上で刑法第五条の基準以上の悪質さと判断できれば…」 エリックは手を握り、親指を立てると首に当て、横に引いた。

2021-04-23 02:23:56
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「仰せの通りに」 敬礼し、ファルコは踵を返すと王の居室を後にした。 すっかり西に傾いた陽が黒を基調とした居室の西側の壁に跳ね返り、血のように不気味な赤い反射光の中にエリックの姿を照らし出す。 その姿は先程の豪快な好壮年の姿にあらず、まさしく魔王のそれであった。

2021-04-23 02:25:59
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

【Ⅷ】 「失礼致します、チェーザレが参りました」 出発を翌日に控えたその夜トランクに最後の荷物を詰めているリチャードに、いつものようにチェーザレから声がかかった。 「どうぞ」 その声に応えるように扉が開きチェーザレが一歩部屋に踏み込んでくる。が、 「王子、ご覧下さい!如何でしょう?」

2021-04-24 02:01:24
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

チェーザレはいつもの礼服とは異なり、真新しい黒のタキシードを身に纏っているではないか。 「わあ、どうしたんだいそれ。…似合ってるね」 黄色い歯を剥き出して嬉しそうに笑うチェーザレのにやけ顔に釣られて思わずリチャードの頬もゆるむ。 「家内が誂えた物でございます、中々素敵でしょう?」

2021-04-24 02:03:43
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

心底惚れた女房・ダイアナが夫の為にと誂えたシワひとつないタキシードの袖を広げ、自慢気に言うチェーザレ。真面目な彼にしては珍しいことだ。 「君も楽しみなのかい、市井に降りるのが」 「勿論でございま…い、いえ、私の使命はあくまで王子をお守りすることで御座います、そのようなことは…」

2021-04-24 02:06:25
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「いいよ、そんな。俺も楽しみだもの」 するとリチャードの傍にいた金色の子犬も「わん」と短く吠えた。 「スリも楽しみだって」 金色の子犬を一撫でしてリチャードが笑う。 「左様で御座いますか…あぁそうです王子、明日は早いですからそろそろお休みになられませんと」 慌てて話を戻すチェーザレ。

2021-04-24 02:10:04
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「ああ、この荷造りが終わったらすぐ床に就くよ。これで最後なんだ」 最後の荷物を詰め終え、リチャードはトランクを閉じ、留め金をかけた。 「かしこまりました、それでは明日の朝」 言って鼻歌交じりにチェーザレは部屋を出ていった。 …沈黙が空になった部屋を満たす。

2021-04-24 04:55:57
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

先の明るさとは打って変わってリチャードは神妙な面持ちだった。 楽しみな筈の独り立ちを前に、彼の心はざわついていた。 …彼自身心残りがあったのだ。 先のアンジェロのことだ。

2021-04-24 04:58:07
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

幼い頃、伯父から聞いたことがあった。 自分とアンジェロは母の体に受胎した時、その星回りで聖王の星と軍神の星が重なり、重なった星々の影響で一つだった魂が二つに別れてそれぞれに星が宿って双子になったのだと。 …自分とアンジェロは元は一つだったのだ。

2021-04-24 05:00:55
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

そのせいなのか、物心ついた頃から二人はお互いが考えることはなぜか言葉にしなくても手に取るようにわかった。いつも二人一緒、何をするにも二人だったこともあったが恐らくそれよりももっと大いなる力で二人は繋がっているのだ。 だから今もわかるのだ。 アンジェロが抱いている心の中の霧が。

2021-04-24 05:05:36
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

そして今、自分と弟は生まれてはじめて別々の道を行こうとしている。 悩める弟の傍に有りたい気持ちもあったが、だからこそ今は自分に課せられた新たな使命を全うせねばなるまい。 何故ならアンジェロの抱える心の霧とは、自らの使命を自力で全うできない未熟さへの苛立ちなのだから。

2021-04-24 05:08:49
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

【Ⅸ】 その朝早く王宮からリチャードの荷物を積んだ荷馬車が郊外のペンドラゴン邸へ向けて出発し、少しだけ殺風景になった自室でリチャードは目を覚ました。 しばらくはこの見慣れた部屋のいつもの朝とはお別れになる。昨晩から用意した市井に降りるための真新しい服にリチャードは袖を通した。

2021-04-24 13:20:11
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「それでは伯父上、行って参ります」 謁見の間でリチャードは伯父・エリックに暫しの別れを告げた。 「まぁしばらく慣れるまでァ何かってーと不便もあるだろうが、それも勉強のうちだ。なんにしても気ィ付けてな。なんか困ったことがあったらチェーザレ通して言ってこい、カラス共もその辺にいるしな」

2021-04-24 13:28:58
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「承知しました、それでは伯父上もお健やかに」 いざ立ち去るとなると小さくなっていく伯父の姿に後ろ髪惹かれる思いがする。 アンジェロ同様、伯父もいつも自分の傍らにあった。いつも大きな手で自分達を守ってくれた。その手から、今自分は巣立っていくのだ。リチャードは改めて旅立ちを実感した。

2021-04-24 13:33:41
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「それでは王子、馬車にお乗りください。ペンドラゴン邸へ向けて出発致します」 真新しいタキシード姿のチェーザレが半馬のリチャードでも乗れる大きな馬車の前で彼を待っていた。 しかしリチャードにはやはり心残りがあった。 「チェーザレ、アンジーは…」 あの一件以来アンジェロの顔を見ていない。

2021-04-25 02:59:38
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「アンジェロ殿下はこのところはご自分のお部屋に閉じ籠もっておいでで…日頃は傍若無人な殿下にも思う所があるのでございましょう」 しみじみ頷くチェーザレに、 「誰が傍若無人だって?」 不満げな声がかかり、震え上がるチェーザレを尻目にリチャードは声の方を振り返った。 「アンジー!」

2021-04-25 03:02:52
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「いよいよ独り立ちか…気をつけて行ってこいよ」 少し口ごもりながらアンジェロは言葉を選ぶようにしてリチャードに告げた。 「アンジー、お前は…」 「俺は当分残ることになりそうだ、やり残したことがあるからな」 珍しく神妙な面持ちのアンジェロに、 「出来るさ」 リチャードははっきりと答えた。 pic.twitter.com/na9mKAwbSk

2021-04-25 03:06:30
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「だって俺達は双子だぞ、俺に出来てお前にできないことなんてないさ。 確かに俺とお前とじゃやることは違うかもしれないけど…お前ならきっとそれをやり遂げてすぐに自由になれるさ」 真っ直ぐにアンジェロの目を見つめるリチャードに、アンジェロは照れ笑いしながら、 「だといいけどな」

2021-04-25 03:08:54
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目を伏せ苦笑いする。 だが、ややあって、 「まあ、やれるだけのことはやるさ」 言うと拳を前に突き出した。 それに倣い、 「成功を祈るよ」 リチャードも拳を突き合わせる。 「じゃあ暫しのお別れだ、寂しくなったからってすぐ帰ってくんなよ?」 冗談めかしながらいつもの調子でアンジェロが笑った。

2021-04-25 03:24:39
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「お前こそ俺がいないからって寂しくて泣くなよ」 朝の白い光の中で笑い合う双子の王子。 やがて、 「じゃあ、行ってくる」 「おう、気をつけてな」 アンジェロに見送られながらリチャードの乗った馬車が城下への道を走り出す。 遠ざかる馬車が見えなくなるまでアンジェロはその姿を見送った。

2021-04-25 03:25:35
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「王子、こちらの屋敷で御座います」 馬車が停まり、先に降りて扉を開けたチェーザレに言われてリチャードは馬車を降りると顔を上げた。 眼の前にあるのは古めかしくも小綺麗な屋敷。 王宮からすればちっぽけではあるが立派な鉄の門、門の奥には薔薇の生け垣が生い茂る小さな庭もある。

2021-04-25 14:53:21
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「かつて陛下が乗馬レースで貴族に勝利して勝ち取ったお屋敷にございまして、これまで陛下はここを隠れ家にされて参りました。 中は陛下のプライベートの書斎となっておりまして、学習の際に書籍はご自由に使用して良いとのことです」 チェーザレの説明を言葉半分に聞きつつリチャードは門をくぐった。

2021-04-25 14:58:58
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「わぁ…」 中の様子を見てリチャードは思わず声を上げた。 エントランスから館内を本棚が埋め尽くした不思議な屋敷。 翡翠色の美しい壁紙に彩られ、なぜだが懐かしい匂いがする。 大窓から差し込むまばゆい光線の前でリチャードは足を止めた。 そして心の裡で思う。 今日からここが家になるのだと。 pic.twitter.com/dm7nfm0jeR

2021-04-25 15:04:16
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

と、 「わん!」 リチャードについで屋敷に入ってきた愛犬・スリが吠えた。 リチャードはスリを抱き上げると、 「スリ、今日からここがお前のお家になるんだよ」 嬉しそうに尻尾を振るスリに語りかけた。 王子・リチャードの新しい日々が幕を開ける。 【To be next episode…】

2021-04-25 15:29:49
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まとめたひと
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

Dazレンダリング中に絵を描いてる日本のおばちゃん。一応18歳以上推奨。※All rights reserved.🚫AIの無断学習禁止。我愛台湾.Xforio→xfolio.jp/portfolio/Seir…🔞クルップ→crepu.net/user/SeiryuD