メキシコ国立自治大学のトイレ戦争について

Amargo @Marijo_ojiraM

(中休み) 哲文学部へは、化学部から歩いて20分弱。 トイレに直接に行く前に、別の話題に寄り道して一休み。 翌週、UNAMでのアカデミックなできごとが、よいタイミングではいってきます。 次の2つのニュースをあげておきましょう。

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8月25日 UNAMのジェンダー学研究所(Centro de Investigaciones y Estudios de Género) CIEG UNAM が「(トランス)フェミニズム と女性の権利 (Trans)feminismos y los derechos de las mujeres」についてのシンポジウムを開催。 filos_unam も開催を同時に告知 pic.twitter.com/g5KqsiBOD7

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8月26日 UNAMの哲文学部がジュディス・バトラーさんに名誉博士号を与えると発表のツイート。 pic.twitter.com/uKjCRbx4ct

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(それに先立ち、バトラーの名誉博士号の、大学の評議会での決定を伝えるツート24日にすでになされています) pic.twitter.com/fGPM7zXYaz

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この2つのニュースが、これからのトイレ騒ぎと関係があるのかどうかは、私には分かりません。後で見るように、関係あるという人もいますが、知りようはないです。あまり詮索してもしょうがないです。ただ、それが起きたときの大学の雰囲気が一応、伝わるでしょう。

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UNAM FFyL トイレ問題顕在化 : このあと少しづつ、情報を埋めていきますが、まず、トイレ騒動が公式、 準公式のレベルでどのように明らかになり、どうなっていくか、まず簡単に見ておきましょう。

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最も公式のレベルでは、Comisión Tripartita Autónoma FFyL (以下CTA。 組織の説明は後述)のこのツイートから始まります。タイムスタンプ、2022年8月26日 15:33。(定期: 時間はてメキシコ中央時UTC-6)。声明文が画像で添えられいます。話の起点として重要なので、ひとおり見ておきましょう。 pic.twitter.com/27pPBGLIfQ

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ツイートの題目は(ここではあて略号を持ちいずできるだけ日本語で) — メキシコ国立自治大学哲文学部の三者自治委員会による、大学哲文学部およびアドルフォ・サンチェス・バスケス別館の教室とトイレにおけるトランスフォビックなメッセージに関する声明(Pronunciamiento)。

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読んで字のとおり、FFyL(の本館)と別館のトイレにトランスフォビックなメッセージ(あとで見るように、具体的には落書き)についてのもの。アドルフォ・サンチェス・バスケス別館とは、2011年に建てられ、マルクス主義美学の研究で有名な哲学者に名を因み、本館から歩いて20分くらい。新しく綺麗です。

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最初に声明文の宛て先が列挙されています(声明文を読むとき、宛先大事です)。全部で8つ。UNAMの学術部門当局、FFyLの学術部門当局、UNAMの行政(事務)部門当局、FFyLの行政部門当局、FFyLの学生、教員、事務職員。(続きます>

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UNAMの性・ジェンダー多様性を持つ人々(las diversidades)、FFyLの性・ジェンダー多様性を持つ人々。最後に、大学コミュニティー一般へ。 宛先は、大学のトップレベルの部局から下に降りていき、そのあと、いわゆる「当事者」、一般学生・教職員へという優先順位を持っています。

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CTAのメッセージ本文です。冒頭の段落は(訳に略号を使います)、 「CTAはFFyLのコミュニティーに対し、学業、学術業務、事務のために大学に通う、性・ジェンダー多様の人々のために、その福祉を築き、権利を尊重するための安全なスペースを設置することを呼びかける。」

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この声明のオリジナルは、UNAM FFyLの公式サイトの中にある、CTAのページの中に、PDFでアップロードされています。tripartita.filos.unam.mx

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この声明を正確に読み解くためには、いくつかのことに注意しておく必要があります。

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1)まず、「…のための安全なスペース」(espacios seguros)をはじめ、いろいろな言い回しは、前出の化学部の中立トイレの発表文と同じで、具体的には中立トイレを指していると解釈することが期待されています。

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その一方で、明確に「(中立)トイレ」という言葉が使われていないことも注目に値します。そまで踏み込んだ文言にできなかった事情があったようですが、明確には分かりません。

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2) 声明の次の段落。3つの文にに分かれています。最初の文(Lo anterior, derivado…)は、「上記のことは、哲文学部と、(A.S.V)別館の教室とトイレに刻まれたトランフォビックなメッセージから導かれたものである」と、最初の段落の呼び掛けを根拠づけます

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次の文(Desde la Comisión Tripartita Autónoma rechazamos)は、「CTAとして、我々は憎悪メッセージ(mensajes de odio) と、性・ジェンダー多様性に対するあらゆる種類の暴力と差別を断固として拒否する…」。これはまったく当然です。

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その次の文でまた、”建設的でオープンな対話により、コミュニティーとして、差別のない「安全なスペース」の設置の促進すること、そのことに向け注意を喚起する”というようなことが、さらに言葉を増やして述べられます。

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実は最初に読んだときに、全体の構成に、違和感を覚えました。 いきなり最初の主文の段落で、「安全なスペースの設置」では、声明のタイトルとつながらないからです。

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2番目の段落だけで、憎悪メッセージがみつかった→許しがたい→(対策が必要なので対策の一環として)安全なスペースを設置を求める…それだったら普通と思いますが、いきなり結論ありきの印象を否めません。

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その割に「憎悪メッセージ」の現状の具体的な確認(日時、場所、形状)が皆無です(内容はさしさわりあるとして)。私がひっかかるのはまずそこでした。どうも、隣の化学部と同じ中立トイレ設置の結論が最初から用意されているように読めてしまいます。

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3) また、声明の中の「(安全なスペースを設置することをFFyLのコミュニティーに対し)呼びかける (hace un llamado)」言い回しにも注意が必要です。CTAは学部施設の決定機関ではなく、後述の特定の一定の役割を担っている組織です。

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その一定の役割の中で、「安全なスペース(=中立トイレ)を(どこどこに)設置することに決定した」と宣言はできないはずですが、ただ、この委員会の意見は大きく尊重されますから、この後、しかるべき手続を経て、化学部のように正式に「中立トイレ」の設置が決まり、宣伝されたかもしれません。

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4)そして、CTAの公式発表で、中立トイレに関係したものは、このときの「安全なスペース」との言及によるこの声明だけです。このあと、CTAから発される別の文書や、ツイートとFBの投稿はありますが、このトイレ問題とは関係ありません。

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5)しかし、ここに別の役者がツイッターで登場し、話がややこしくなります。それが、CTA(自治三者委員会)、一者と関係のあるアカウントで、”Tripafrita estudiantil uwu” を名称とするアカウント Tripafrita です。スレッドを改めます。

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”Tripafrita estudiantil uwu” を名称とするアカウント Tripafrita は、現状でこうなっています。CTA 自治三者委員会は、学生、教員、行政事務職員の3者で構成されるので ”Tripafrita estudiantil uwu” はその中の学生部門のアカウントといえます。

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厳密に言うと、実際は、組織上部門が決まっているわけではなく、それぞれの委員は、どちらかを選挙母体として個人の資格で選ばれ構成員となっているので、選ばれた学生たちが一体となる必要や、それが正式な下部組織ではないです。委員に選ばれた学生たちが友誼的に作っているものといえるでしょう。

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プロフィールでは「私たちはすでに三者自治委員会学生部門の第2代目です uwu。相変わらず仕事に追われています :pと」絵文字など(uwu, :p)を使って、プロフィールで軽やかに、自己紹介しています。カエルは可愛いです。

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構成メンバーは分かりません。あとで見るように、3人いる今期CTAの学生委員と考えるのが自然ですが、公表していないので分かりません。また委員のほかにどのくらい、どういうメンバーがいるかも不明です。

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さて、この学生委員アカウントが Tripafritaが、中立トイレについて、本家のCTAとは違い、 最初の日の8月26日から、どんどんと発信していきます。

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8月26日、午後3時過ぎの、CTAのアカウント(Tripartita)の、発表が「安全なスペースの設置」の呼びかけにとどまっていたのに対し、Tripafritaのほうは、「中立トイレ」について5時過ぎの2つののツイートで明言します。

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最初のツイートが、大学の(大学生活と学業評価に全般について扱う)技術評議会と問題の憎悪メッセージと、中立トイレの開設について話し合ったことを述べるもの、 pic.twitter.com/gNIv5WVcDL

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次のツイートが、翌日に、学部の経営責任部門(学部長ら)と話し合い、トイレの諸条件、特に開設を希望する中立トイレについて交渉する予定だと述べるものです。大学の組織の中では、正式にはCTAのメンバーの資格ですが、一定の重みを持っていることが窺えます。 pic.twitter.com/HoOBJJMico

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トイレの問題について、このTriparfita がこのあと何をしていくか観察する前に、そもそもCTAが何か、学生メンバーがどう選ばれているかについて見てみます。

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CTAはUNAM FFyLのサイトの中にサブドメインを持ちます。 tripartita.filos.unam.mx 中に沿革や概要など説明があります。 tripartita.filos.unam.mx/inicio/funcion… tripartita.filos.unam.mx/inicio/acerca-…

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説明によると、かねてから性暴力で問題のあった同学部が、UNAM全学規模で、2019年に女子学生たちが性暴力に抗議して行なったゼネストに、11月に参加し、その運動の中で学生の要求で12月に設置が決定したと述べられています。

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UNAM全学規模のストライキはメキシコの現代史に残るできごとでしょう。このトイレ問題を理解するためには、どうしてもこの背景を知っておく必要があります。

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これについては「UNAMにおけるハラスメントに対する抗議諸行動」と題し、スペイン語版のWikipedia にざっとした説明があります。 es.wikipedia.org/wiki/Manifesta…

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発端は、2019年の2月に、理学部の女子トイレで盗撮されたビデオがポルノサイトに投稿されるという事件、それに対する抗議です。そう、最初からトイレの問題でです。その他、学内でのレイプ事件、全般的な教職員、男子学生によるハラスメトの抗議から、

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10月初旬にいくつかの学部で女子学生たちによるキャンパス占拠と伴う無期限ストライキに入り、11月にはFFyLも参加。11の学部に飛び火した、全学的ストライキとなり、年明けの2020年まで続きます。

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動画などはいろいろあります。が、こういうときのメディア報道の常、学生たちの暴力的な部分を切り取って(実際にありました)、強調するので注意が必要で、比較的、学内の目線になっているよいまとめは、これの最初15分くらいでしょう。 facebook.com/CIEGUNAM/video…

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先程のスペイン語版Wikipediaにも解説がありますが、ここで、重要な役割を果たしたのが、分離主義者と呼ばれるレズビアンを主体としたグループで、FFyLでは彼女たちにより4月まで、ストが続行します

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その結果、FFyLの学部長を含む、学内の要職の人物が退き、ハラスメント対策や平等促進のための、新組織の創設を含む学内の改革が行われます。

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このストライキはについてはまた、フランス語ですが次のサイトに詳しいです。 trounoir.org/?Mexique-Entre… この記事で印象に残ったことが、2つありました、1つは女子学生も怒るとすごい落書きをするな(「男子トイレ」の「男子」を消して「強姦者の」とか)というの。

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もう一つはすでに、ここでストライキの女子学生たちの中の、フェミニストの「トランス女性」の存在、仲間に含めるかが問題になっていることです。記事の中では、「彼女たちの」の声も大事にという好意的な証言になっていますが、これが、今から見ると問題の種となることになります。

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脱線したので、CTAの沿革の話に戻ります。

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CTAの沿革の説明では、これまでの大学側のハラスメント委員会がうまく機能していなかったので、新しい機関を作る必要があり、学生、教員、事務職員の三者からなる、新しい委員会を作る必要があったと述べられいてます。

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その任務は、ジェンダー暴力 violencia de género の廃絶と予防のため、 大学当局上部に、当事者の告発を受け処分について大学に勧告し、また予防のための方策提言し、関係部門と協議するというものです。さきほど見た、憎悪メッセージについての声明はこの任務に従って出されているわけです。

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ここで、ジェンダー暴力 violencia de género という用語がちょっと面倒です。この語はもともとviolencia sexual 性暴力の言い換えとして用いられていました。