プロローグ「オートマタによるグラン・ギニョール」(前編)
どうにかならないものですかね、なんて思いながら特に目的地もなく歩いていると、カグヤはいつの間にか先程の繁華街以上にギラギラ下品に輝く場所に迷い込んでいた。
2022-10-28 22:02:49老若男女、なんならぼろきれみたいな服を着た酷い臭いのする人間すらも店は差別なく受容し、ギラギラした店内に吸い込まれていく。
2022-10-28 22:04:22まるで誘蛾灯に惹かれる害虫みたいですね、なんて思いながら眺めていると、少し先にあるパチンコ屋の店先で話し合う者が2人。
2022-10-28 22:04:57くすんだこの場所に似つかわしくない純白の衣装を着た少女と、可愛らしい黒のワンピースのような衣装を着た少女は顔を向かい合わせ、二人の間にある小さな端末____スマートフォンを共に見合っていた。
2022-10-28 22:05:37「______こいつがケンゴってヤツで、それでこのパチンコ屋がケンゴがよく来る場所だな。」 「へぇ。その人ってどんな事した人なの?スーパーあめめ。」 pic.twitter.com/Xbc7YbBJWd
2022-10-28 22:06:18「そうだな、愛音から教えてもらった情報によると…前妻とその息子へのDVで離婚、そして再婚した後妻の連れ子への性的虐待。前妻への養育費もまだ払ってない。…とんだ悪人だな。」
2022-10-28 22:07:29そう話すスーパーあめめの顔は嫌悪いっぱいの表情で歪んでおり、元の可愛らしい顔は見る影もない。 きっと、相当な不快感を持っているのだろう。
2022-10-28 22:08:13「今は悪人かもしれないけれど、自分の罪を認めて改心する素振りを見せたら僕達は赦してやればいい。罪は、善い行いで洗い流せるから。」
2022-10-28 22:09:42「…まぁ、アベルがそう言うなら…。」 そんな御使いの言葉を聞いた信徒、スーパーあめめは抱いていた怒りを抑え、はぁとひとつ大きなため息をついた。
2022-10-28 22:11:21「…アベル、こいつ______ごほん。 アベル、この人よ。」 「そう、ありがとうスーパーあめめ。大丈夫、話せばきっと分かって貰えるから。僕が話すよ。」
2022-10-28 22:14:51「あぁ…?んだテメーら…」 目の前で何やらヒソヒソと話される事に苛立ちを感じたのか、ケンゴという人物は意地悪そうに吊り上がった眉を更に天へと向け、二人と対峙した。
2022-10-28 22:15:24「____ケンゴ、貴方は罪を犯した。自覚はありますか。」 「はぁ?罪ィ…?何言ってんだテメー…変な言いがかりつけやがって…俺は今虫の居所が悪ィんだよ!ふざけたこと抜かすんじゃねェぞ!!」
2022-10-28 22:15:58余程鬱憤が溜まっていたのだろうか。 アベルの問いにカッとなった愚者は、話もよく聞かずにその胸ぐらを掴もうと手を伸ばした。
2022-10-28 22:16:31見ず知らずの人間に突然自分の本名を呼ばれたケンゴは驚いたのか、ピタリとその手を止めた。 そして視線はゆっくり、スーパーあめめへと落ちる。
2022-10-28 22:18:25「…お前の事は、全部調べて貰った。名前だけじゃない。 前妻との子へのDV、再婚相手の連れ子への性的虐待、養育費の未払い。…自覚が無いなんて言わせない。」 スーパーあめめは愛音から得た情報を暴露し、ケンゴへギロリと睨みを飛ばした。
2022-10-28 22:19:04「…そう、それが貴方の罪。でも大丈夫。 罪を認めて善い行いをすれば洗い流せる。そうしたら、貴方は赦される。」 アベルは先程スーパーあめめに話したように、素晴らしい教えをケンゴヘ説いた。
2022-10-28 22:19:40「…どこで聞いたか知らねぇが、全部本当だ。」 その言葉を聞いたアベルの顔は、告解室で信者の罪を聞く司祭様の様にひどくたおやかな表情を浮かべていた。
2022-10-28 22:20:59「…けどよォ…それの何がいけねェんだ?テメェらには関係ねェだろ?」 そう話すケンゴの顔には、反省の色はひとつも浮かんでいなかった。 寧ろ、さも愉快そうにケンゴは続ける。
2022-10-28 22:22:16「ガキは煩いから殴った。嫁はガキを庇うから殴った。それだけだ。俺は悪いか?悪くねェだろうが。だから養育費も払わねぇ。それに__________」 「…お前、本当に最低なクソ野郎だな。」 唾を飛ばし興奮しながら喋るケンゴを遮るように止めたのは、不快そうに顔を顰めたスーパーあめめだった。
2022-10-28 22:22:58「…てめェを見てるとよく思い出すよ、ツレのガキの事をよォ。 てめェみたいな背丈で、てめェみたいに俺を睨むんだ。誰のお陰で暮らせてんのかも分かってない、生意気なガキだった。」 「は______」
2022-10-28 22:24:21「だから____ハメたんだよ。最初はやめてって喚いてたのによォ、しまいにはごめんなさいって謝りだしたんだよ。その変わり身は傑作だったぜ? それからは俺に逆らうことも無し。それでいいじゃねェか。」
2022-10-28 22:25:41しかし、スーパーあめめは恐怖で足でも竦んでいるのだろうか。 身体を小さく震えさせるだけで、避けようとする素振りもない。
2022-10-28 22:28:12だくだくと溢れる血はコンクリートへこぼれ、乾いた表層は血液をごくごくと深層へ飲み込んでゆく。 そして槍伝いに滴る血は、アベルの純白の衣装をじわりと赤く染め上げていた。
2022-10-28 22:30:47アベルはケンゴの瞳を真っ直ぐと捉えながら言ったものの、心臓を穿かれて生きていられる人間などいない。 ただの人間であるケンゴも然り、息などあるはずもなく。 その言葉は、ケンゴの耳には聞こえていなかった。
2022-10-28 22:33:50断罪の済んだアベルは突き刺した槍をず引き抜くと、支えの失くなったケンゴの身体は重力に従いずるりと落ちる。 アベルはそれを見て、ポツリと呟いた。
2022-10-28 22:34:25どこからか吹いた北風がアベルの絹糸のような髪を巻き上げ、表情を隠した。 その顔には、さぞ慈しみに満ちた表情が浮かんでいるのだろう。
2022-10-28 22:35:52