きみのてをの140字小説みたいなものをまとめました。
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君野てを @kimino_tewo

「今日は薔薇を頂きましょう」花のように美しくなるためには花食いになるしかないという教えを説く学院で、私たちは今日も花を食べる。ここでは3食が花だ。この生活に耐えられず逃げ出す者もいる。でも私は必ず美しさを手に入れなければ。この学院に私を捨てた家族を見返し、幸せを手に入れる為にも。 pic.twitter.com/sfLtHKWzVU

2018-05-10 19:38:20
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君野てを @kimino_tewo

花びらが降る街で僕ら、何を待っているんだろう。空は相変わらずに全てを祝福している。愛しさも悲しさも包み込んで。君が泣いても笑っても、優しく降る花びらが僕らの世界を綺麗に映すから、なんだか哀しくて嬉しくて、涙が温かく零れてしまうね。この街はどうやら、とても綺麗に呪われているようだ。

2018-04-25 19:41:47
君野てを @kimino_tewo

君は僕の太陽だから、いなくなっては困るのに。そう思った時にはもう遅くて、僕の目の前には合鍵と指輪が残されていた。それからというもの、僕の世界の空模様は悪くなる一方で、今じゃ雨が降りやまない。太陽は失ってしまった。僕は君がいなくなった場所で、永い雨宿りをいつまでし続けるのだろう。

2018-02-23 21:50:39
君野てを @kimino_tewo

裸足で床を歩くと、ひやりとした感覚が、心の底まで伝わる気がした。部屋の隅で壁にもたれかかり煙草を吸う。君とよく笑いながらシガーキスをしたっけ。そんなことを思い出しながら、一人天井を見つめた。煙だけが変わらず漂って静かに消えていく。「馬鹿みたいに好きだったよ」溜息の様な言葉を君に。

2018-02-16 20:45:10
君野てを @kimino_tewo

君の背骨を触るのが好きだった。日差しが白いカーテンを染めている。君の寝息が静寂の中優しく響いて、私の心に温もりを与えた。ゆっくりと寝返りを打った君の背中に見える背骨に、指をそっと添える。大事な人を支えている一つしかないもの。それを今私だけが感じている喜びに、ゆっくりと瞼を閉じた。

2018-01-26 21:25:17
君野てを @kimino_tewo

「シーグラスって青春が閉じ込められているみたい」シーグラスを日に翳しながら彼女は言った。「僕には君が青春に見えるけど」そう言うと首を傾げ僕の方を向き「じゃあ私がシーグラスみたいってこと?」いやそうじゃないんだけども、まぁいいや。海辺で楽しそうにはしゃぐ彼女は、永遠の青春に見えた。

2018-01-23 20:55:20
君野てを @kimino_tewo

「だめだよ。早く帰らないと。夜の糸がほつれてきたら、戻れなくなるよ」わかったわよ、と彼女は少しむきになって言った。僕らは今、人の姿をしている。夜がほどける前に、早く僕らの家に帰らないと。空に手を伸ばすと指先からゆっくりと消えていく。良かった間に合った。僕らの家は夜の向こう、朝だ。

2018-01-14 21:08:59
君野てを @kimino_tewo

朝に降る花は、消え入りそうなぐらい綺麗に見えた。「今日の花は特別綺麗に見えるね」窓の外を見ながら、彼に話しかけた。「僕が空にお願いしたからね。君が元気になるような花を降らせて下さいって」そう目を細めて笑う彼が愛おしい。そうなんだ、と、笑って喜ぶ。昨夜の涙が、空に愛された気がした。

2018-01-10 21:33:44
君野てを @kimino_tewo

「夜に潜ってその中で消えてしまいたいと思うのは滑稽かな」コーヒーをスプーンでかき回しながら君は言った。「そうだね。ちょっと滑稽かも。でも君らしくて私は好きかな」少し笑いながらそう答えると、君も笑い返して、窓から差す朝日に消えていった。綺麗な蒼い瞳だけが、今に焼きついて離れない。

2018-01-09 20:46:04
君野てを @kimino_tewo

冬夜、積もった雪をゆっくりと踏むとキシキシと音が鳴る。冷たい酸素を吸い込んだ後に吐く二酸化炭素は、世界を少しだけ白くした。空を見上げると星がチカチカと挨拶をする。私はそれに手を振り、少し口角を上げた。宇宙クジラが出発する時間まであともう少しだ。冷える手足を動かし、そう、君の元へ。

2017-12-13 21:21:32
君野てを @kimino_tewo

この花は私たちみたいね、と、花瓶に入れた二輪の花は、二人の想いがすれ違ったように、片方だけ枯れてしまった。枯れてしまった花が寂しいのか、咲いている花が寂しいのか、それともどちらもなのか、わからないまま。そのうち元気に咲いていた花も枯れる。花瓶はなくなり、思い出の中にだけ存在する。 pic.twitter.com/s4CksdVdev

2017-12-07 17:28:07
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君野てを @kimino_tewo

「夜に角砂糖を落としたのは誰だい。今日の夜はやけに甘い」と、老人がコーヒーカップの中にある夜を啜り呟いていた。近くで赤いリボンをした少女が頬杖を付きながら笑っている。きっと少女が角砂糖を落としたのだろう。老人はそれを知りながらまた甘い夜を一口「甘い夜は嫌いなんだがねぇ」と笑った。 pic.twitter.com/2W2fxiN8qE

2017-12-07 17:16:11
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君野てを @kimino_tewo

死んだら僕の心臓は宝石になるんだ。と、突然彼は話し始めた。それもちょっと笑いながら。そして宝石になったら私に持っていてほしいと。何かの冗談だろうと思っていた。けれど幾年が過ぎ彼が病死した時、その遺体は心臓だけ宝石に変わったという。宝石の名はアレキサンドライト、石言葉は秘めた思い。

2017-12-03 11:04:23
君野てを @kimino_tewo

君が片方だけ忘れていったピアスは、やけに眩しく映る。触れたら君との記憶が蘇りそうで、机の上に置いたままだ。ベランダから差し込む日差しは私の体だけ温め心まで届かない。日陰と同調してしまったかのように胸の奥だけが陰る。君がいなくなっただけなのに、もうここは私の居場所ではない気がした。

2017-11-26 12:47:50
君野てを @kimino_tewo

浮気をしてみた。気付かれるかなと思ったけどそんなことはなく、また同じ日々が続くだけだった。彼はいつもと同じように私の手を繋ぎ隣で笑っている。つまらない、彼は私のことを本当に見ているんだろうか。そしてある日、突然花束が届いた。彼からだ。けれどなんでだろう、私の名前が、書いていない。

2017-11-21 21:12:50
君野てを @kimino_tewo

好きな人に振られた。わかってた結果だから涙も出なかった。なのにどうして君が泣くんだろう。結果を報告しに来た僕が戸惑った。「だって、なんでもなさそうな顔してるのが逆に悲しくて」感受性の豊かな優しい友人だった。ぼろぼろと零れる涙がとても綺麗で羨ましい。君はいい恋愛ができるよ、きっと。

2017-11-19 16:36:31
君野てを @kimino_tewo

君はある日の夜、別れを言うこともなく目を閉じたまま静寂となってしまった。そうなることは知っていたけれど、それでももう声を聞くことのできない君に心が潰れそうになり涙が頬を伝った。そしてゆっくりと時は過ぎ、いつしか君は僕の心の中の花になった。もう枯れることのない花に。きっと、永久に。

2017-11-14 14:56:27
君野てを @kimino_tewo

言葉のインクが溢れて上手く話せない。思いはあるのに形が滲んで喉に詰まって汚れてしまう。もどかしさが積もり積もってそこから転げ落ちたい気分だ。こんなことになるなら、君という存在に気付かなければよかった。このインクの海に溺れて苦しむこともなかったのにと、ペンは目の前の白い紙を想った。

2017-11-03 22:30:52
君野てを @kimino_tewo

「浅い夜はお好きですか」黒いハットを被った中年の男性が品のいい声で話しかけてきた。「今日は夜が浅いから星がよく拾えますね」と、ポケットから小さいけれど光を煌めき放つ小石のようなものを取り出し、私の手に乗せる。「きっとその星は貴女の涙を宝石のように輝かせてくれますよ」そう話して。

2017-11-03 20:04:40
君野てを @kimino_tewo

言葉は過去を彩る絵具だと、余命僅かな老女がベッドの上で独り言のように呟いた。花は過去となれば色褪せる。だけれど言葉がそれを補うのだと。空も然り人も然り、全てがそうだと。過去に色を置くのは今の言葉なんだと、穏やかな声色で話していた。その命尽きるまで過去を彩るため、言葉を置くように。

2017-10-31 18:37:43
君野てを @kimino_tewo

その花が咲く頃、いつも出会う人がいた。綺麗な長い髪を耳にかける仕草が好きだった。こちらに気づくと、柔らかく笑うところも。細い指も。澄んだ声も。次会う時には絶対言おう。そう決めた言葉があった。けれど、その次が来ることも、花が咲くこともなかった。まるでゴデチアの花がその人だった様に。

2017-10-29 22:05:39
君野てを @kimino_tewo

蒼い恋を手に入れた。情熱的になることもなく、ただ淡々と続く恋情を。この恋が叶えばいいとも思わず、ただ生きるように寄り添う気持ち。そんなのは恋じゃないと言われるかもしれない。だけれど私はこの恋が尊く愛おしい。できれば永遠にこの心にいてほしいとさえ思う。君が他の誰かの隣にいようとも。

2017-10-23 21:02:44
君野てを @kimino_tewo

「君の言葉はまるで朝が泣いているみたいだ」そう彼に言われた。何言ってるのと、笑って誤魔化したけれど、内心見破られたのかと思い心臓が止まるかと思った。姿はちゃんと人間だし、朝について話すことはしていない。人は案外鋭いのか。ああ、気を付けないと。もし見破られたら、私は朝に帰れない。

2017-10-22 22:53:17
君野てを @kimino_tewo

失恋したことのない人が言った。「僕は恋の勝者」だと。失恋したことしかない人が言った。「私は恋の従者」だと。恋は笑った。君たちは私を馬鹿にしていると。恋は叶えるのも失うのもどちらも必要なんだと。花が咲き枯れるように。日が昇り沈むように。空が笑い泣くように。君が育ち老いるように。

2017-10-12 21:39:42
君野てを @kimino_tewo

夏の間だけ眠りにつく病に罹っていた。夏が近づくとタイムカプセルのような容器の中に入り眠る。夏の暑さや梅雨の鬱陶しさ、空の青さや立派な入道雲、それらを写真や映像でしか感じることができない。友達や君と過ごす時間も削られる。目が覚めた秋、いつも最初に感じることは僕の頬に伝う何かだった。

2017-09-23 14:00:19
君野てを @kimino_tewo

「僕らは時を流れる星である」小学生の頃、担任の先生がそう言っていた。そして最期は流れ星と同じように消えていくと。その言葉思い出す度、自分は流れ星のように光っているだろうかと不安になった。「お父さん!」子供に呼ばれ振り返る。でも僕は今、この流れ星を見守る星になる為に生きたいと思う。

2017-09-22 21:04:16
君野てを @kimino_tewo

恋歌ばかり蔓延るこの世の中は、本当に平和だろうか。雑踏の中、ヘッドフォンで曲を聴きながら思う。確かに恋愛は魅力的だけれど、あまりにも多い恋歌に少し疑問を感じる。まるで何かを隠すように、意識を操作されているような。視線を上げると、君が僕に手を振っていた。僕らはこれでいいのだろうか。

2017-09-22 10:57:54
君野てを @kimino_tewo

彼はどうやら私たちの事に気づいたらしい。他の花々が最近よく噂している。人が私たちの秘密に気付いたと。だけれど知ったところで何もできない。花になりたいと願ったとしても、それが叶うかは誰にもわからないのだ。私たちが花になるまでどれだけの命を燃やしたか、それを知っても尚、彼は願うのか。

2017-09-20 12:25:18
君野てを @kimino_tewo

雨空になりたかった少年が俯く。美麗な世界に息吐いて。少年は心であり瞳であり全てだった。それは枯葉の記憶を辿っていくよう。少年は言う、「僕が大切にしたいのはひとつだった」と。両手で包むように掬った花のような思いを、空に解き放つ。深い森で傍観していた梟が、その時ゆっくりと瞼を閉じた。

2017-09-18 17:10:16
君野てを @kimino_tewo

白昼夢になりたかった少女が微笑む。哀する世界を弄んで。少女は空であり夜であり孤独だった。いつかを越えて遥かな約束を詰んでいく。少女は言う、「誰もが私を必要とし孤立させる」と。憂いを帯びた瞳には深い海が映り、包み込めない現実を沈めていった。『彼女を助けるのは誰?』と、黒猫が鳴く。

2017-09-18 14:53:22
君野てを @kimino_tewo

静けさが深い夜ほど近づいてはいけないという言い伝えがあった。少女はそれを知っていた。けれど好奇心に勝てずに音が盗まれたような夜、たまたま落ちてきた夜の欠片に触れてしまう。すると少女が触れた場所からみるみる夜と同化していくのだ。いけないと思った頃にはもう、誰の記憶からも消えていた。

2017-09-16 19:58:22
君野てを @kimino_tewo

恋という形を作るには、あと1ピース足りなかった。君と手を繋ぐにはあと1cmの距離が足りなくて、君と同じ気持ちで笑い合うにはズレた感情がはまらなくて、君と支えあうには僕は情けなかった。哀しいね。それだけで僕ら隣にいれない。それだけで僕ら違う日を生きる。それだけで僕ら、愛を想像する。

2017-09-16 11:08:51
君野てを @kimino_tewo

花は死んでいるから美しい、と、花に魅せられた彼は言った。彼が言うには花は死後の世界に生きているらしい。「いつか僕も花になりたい。死んだら花になれるなら死んでしまいたいよ」そう話す顔はとても優しく儚い表情をしていた。それはまるで死別した恋人を思うかのようで、私はいつも花に嫉妬する。

2017-09-15 21:25:28
君野てを @kimino_tewo

黒猫は宇宙の秘密を内包している。そんな話をどこかで聞いたけれど、まぁ信じてはいない。本屋に行った帰り、そんな話を思い出しながら歩いていると、黒猫が一匹、塀の上からこちらを見ていた。猫の瞳は綺麗だなぁ。そう思い通り過ぎた瞬間『知りすぎるのはよくないよ』と、頭の中で声がした気がした。

2017-09-15 21:09:39
君野てを @kimino_tewo

空が海のように波打ってその中で星が光っている。セーラー服を着た少女が何食わぬ顔をしそれを仰ぎ、そして目を逸らした。世界は淡い蒼で包まれて空気中に蛍のような光が所々で現れたり消えたりしている。この世界には人の気配がしない。一人佇んでいる少女さえ。美しい黒髪が揺れ、唇が世界を楽しむ。

2017-09-11 20:33:55
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君野てを @kimino_tewo

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