きみのてをの140字小説みたいなものをまとめました。
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君野てを @kimino_tewo

夢の中にひとつ家があった。入ると君がおかえりと微笑む。とても良く晴れた日の日差しと柔らかな空気に幸せが溶け込んでいた。目が覚めなければいいのにと思った。君が食事を用意している。あれ?これは夢ではない?いつまでたっても目は覚めない。なら今までが夢だったのか。遺影に写る自分が笑った。

2020-02-04 22:11:26
君野てを @kimino_tewo

「ほら!宇宙を飛び越えたよ!」子供の声がした。でも宇宙を飛び越えたとは?「ほんとだすごい!」そう言ったあと子供たちは走ってどこかへ行ってしまった。よく見てみるとそこには水溜まりがあった。これを宇宙だと言って遊んでいたんだな。ふと水溜まりを覗き込むと暗闇の中に幾千の星が輝いていた。

2020-01-28 21:41:09
君野てを @kimino_tewo

祖母は編み物が好きだった。祖母の家に訪れるといつもしわくちゃの温かい手で編み物をしている。ある日私が「何を編んでいるの?」と聞くと、少し笑って「命を編んでいるのよ」と言った。祖母が亡くなった後、祖母が編んでいたマフラーは喉の弱い私の首元へ。命を編んだ祖母は、私の小さな神様だった。

2020-01-27 17:34:37
君野てを @kimino_tewo

魔法の窓があった。その窓に描いたものは具現化して宙に浮くのだ。それがとっても楽しくて小さい頃遊んでいたら親に見つかりその遊びはもうしてはいけないと言われた。大人になった今でもその窓には行かせてもらえない。雨の日、曇った窓ガラスに指で絵を描いた時気付いた。魔法は私の中にあったこと。

2020-01-23 18:51:00
君野てを @kimino_tewo

猫の目を覗き込むと瞳の周りを円のように小さな建物がならび囲んでいるのが見えた。猫はいつものように何食わぬ顔をしている。お前もしかして目の中に街を飼ってるのか?心の中で問うと、猫はゆっくりとどこかへ歩いていってしまった。私たちは猫のこともこの世界のこともまだ知らないのかもしれない。

2020-01-16 18:01:33
君野てを @kimino_tewo

人と比べてしまう子供が一輪の花に他の花と比べないのかと問う。「比べるわよ。あの花は綺麗だな。この花は強いな。色々思うわ。でも比べるだけ、それを自己否定の材料にしないだけよ。否定してしまうなら海を見て、空を仰いで、風を感じて。彼らの心に触れるといい。それは貴方の心を元の姿に還すわ」

2020-01-15 19:01:58
君野てを @kimino_tewo

夜、水溜まりを見つめていたら小さな星が浮き上がってきた。そしてそれはそのまま宙に浮き、戸惑いながら夜空に向かっていった。恐る恐る水溜まりを踏んでみたがただコンクリートに当たるだけ。僕らにとってはただの水溜まりだが、他の生き物には出入口のようなものとして使われているのかもしれない。

2019-12-29 18:20:24
君野てを @kimino_tewo

彼に何度告白したかわからない。「好き」会う度挨拶のように言う私と彼は仲良くしてくれた。「好きな子がいるんだ」ある時他の子にそう言っているのを聞き、私は泣きながら最後の告白をした。すると彼も泣きながら返事をする。相手に100回告白されないと気持ちを伝えられない呪いが解けた瞬間だった。

2019-12-21 21:59:51
君野てを @kimino_tewo

『星は夜の花である』と誰かが言った言葉を未だに憶えている。夜空が地上だったとしたら星は花となるそうだ。そうすると地上の花は夜空からすると星なのだろうか。それとも人が灯した灯りが星となりえるのだろうか。きっとそれは夜空に棲むものしかわからない世界だろうと、夜を仰ぎながら思ったのだ。

2019-12-14 21:27:36
君野てを @kimino_tewo

君の唇に光る魚が泳いでるのを僕はぼんやり見ていた。頬杖を付いている手の爪がひんやりと冷たい。窓から差す日差しが僕の肩側だけを温めて影を生んだ。君の長い睫毛が煌めいて眩しいと心が叫ぶ。がらんどうの心。今消えてもいいのだけれど、君の唇で泳ぐ魚から目を離したくなくてまだ僕は酸素を探す。

2019-11-26 20:55:52
君野てを @kimino_tewo

手は星を作るもので目は月、その他の体は夜だ。夜は闇を孕む。指先は繊細に光を作って、そしてそればかり他人の目に留まる。私は闇なのに。そんなか細い声を出しても誰も聞いてはくれず、月が湿り涙が零れる。でも星を作り続けないと死んでしまうから、生きる為に涙を零しながら指先に星光を宿すのだ。

2019-11-15 18:26:04
君野てを @kimino_tewo

夜明け前のペトリコール。その記憶を月白色と呼ぼう。自身の高慢さに気付けない私はかすみ草を見下すように見つめていた。ふと目が合った猫の目が『うそつき』と私を責めた時の焦燥。それが本当の私だったと気付いたのは、劣等感に苛まれて枕を濡らした深夜3時だった。雨は私を叩くように鳴っていた。

2019-11-14 21:12:12
君野てを @kimino_tewo

群青の空白に南十字星をはめ込んで彼は砂糖菓子を頬張った。たまに星座が逃げ出すので、その後始末をするのが彼の役目だ。星影も正常に機能していることを確認すると、その眼からアクアマリンの雫を落とす。煌めく雫を手に取り掲げると、ゆっくりと透明になって消えた。それが仕事終わりの合図だった。

2019-11-13 21:47:41
君野てを @kimino_tewo

死にたい魚が夜月を目指して泳いでいる。『あれは月じゃないんだ。天国の入り口だよ』そう誰かに教えられたのを信じて。死にたい魚は懸命に月を目指して泳いでいる。辿り着けない場所に辿り着くために。いつか老いぼれて、瞼も重くなって、永遠の夢の中で、月に辿り着く。死にたい魚の、しあわせな話。

2019-11-12 21:09:25
君野てを @kimino_tewo

鉱物の中の音が跳ねるように小さく鳴っている。海色の瞳にそれを映し、値踏みするように見つめる。「これはいい音だな」右のポケットにそれを入れ歩き出す。左ポケットには虹の欠片が入っていてシャラシャラと鳴っている。彼は鉱物の中に入った音を売り、虹の欠片を手に入れて虹の頂きに行くのが夢だ。 twitter.com/kimino_tewo/st…

2019-10-24 21:55:17
君野てを🌿5月二人展「終わらない線」☕新宿scopp cafe @kimino_tewo

きみのてをは音を売る人です。鉱物の中に入れて売っています。瞳の色は海色。虹の欠片を代価にしています。時を売る人と仲が良いようです。 #幻想を売る人 shindanmaker.com/914257

2019-10-24 21:47:35
君野てを @kimino_tewo

夜長月は夜を長くするために夜職人が漆黒の糸を使い夜を縫い、時を管理する者たち、時の守り人がその夜を一日に染み込ませていくのだ。夜職人は楽しそうに夜を縫ってゆく。時の守り人はせっせと夜を染み込ませる。その姿を静かに見守っているのは、夜の母のような存在の月と、星というその子供たちだ。

2019-10-02 20:40:24
君野てを @kimino_tewo

魚たちの夢が集う街がある。深海を通り過ぎ、海の空を越えると見えてくる街だ。そこには亡き海洋生物たちが空中を漂っている。その街を守り見守っているのが鯨たちだ。そしてその鯨たちは瞼の裏から世界を見ている。静かに漂い。まるで酸素になったかのように。そう、この街は、鯨の街と呼ばれている。

2019-09-26 21:05:16
君野てを @kimino_tewo

夜は光っている。星が、とか、月が、とか、そういうことではない。暗闇自体が光なのだ。空はいつまでも色を変え光り続けている。だが光りのエネルギーがどこからきているのかわからないまま、私たちはそれが永遠であると思っている。消えかけの夜が今、チカチカと点滅しているのを、誰が知る由もない。

2019-09-16 20:47:03
君野てを @kimino_tewo

夕刻、細い糸で夜を編む音が聞こえる。瞼を閉じたまま夜を編み続けるそれは少し口角を上げて編み続ける。瞳を見せないのは瞼を閉じたままでないと糸に夜を染み込ませれないのと、その瞳は星月のように輝くからだ。さぁ夜ができたようだ。黄金に光るハサミで余った糸を切る。今夜は少し、銀糸が見えた。

2019-09-11 18:21:41
君野てを @kimino_tewo

朝が咲いていたので摘んで籠に入れた。この花畑にはいくつもの朝が咲いていて、最後のひとつになるまで摘まないと次の日の朝が上手く生まれないのだ。摘んだ朝はすり潰して目覚めの薬にする。ただその薬は私たちは飲まない。魂だけになった者たちが現世に目覚めるための薬だ。ほらまた一つ空に飛んだ。

2019-09-10 17:58:36
君野てを @kimino_tewo

私の瞳にはクジラが棲んでいて、瞼を閉じるたびそれが顔を出す。なのにそれは私なんか気にしてはいないというふうに一人瞳の中の海を優雅に泳いでいるのだ。私はいつも見つめているのに。夜、眠りにつくと、私は海に居て、隣にはそのクジラがいて、一緒に広大な海を泳いでいる。目は合わさないままで。

2019-09-03 21:01:01
君野てを @kimino_tewo

毎日夕方に空が枯れることが僕の楽しみだった。朝に芽吹いては午後に咲いて夕方に枯れていき夜に溶ける。それが空だ。でもその中でも枯れた時の美しさが僕は好きで、毎日枯れていく空をカメラで切り取って収集している。枯れることが美しいってなんて素晴らしいのだろう。今日も夕方を待ち侘びて僕は。

2019-08-26 18:49:14
君野てを @kimino_tewo

瞭然とした夜がそこに立っていた。月を抱えて。私には背を向けて。長い髪が地につくまで伸びていて、私はそれに少しの間目を奪われた。星々が髪の一本一本に隠れている。日が差さずとも煌めくそれに一歩踏み出した。その時、夜がこちらに振り向いたと思ったら暗転、視界は奪われ私は夜中に目が覚めた。

2019-08-11 21:42:54
君野てを @kimino_tewo

夜の淵で足の爪を切っている子供がいた。睫毛は月明かりに照らされ星のように煌めいている。唇は純粋そのものというように綺麗なピンクだ。肌は雪のように白い。髪は短いブロンド。爪を切る音が夜闇に響く。切られた爪が弾かれて星屑に変わる。夜の淵では、どこかの子供が迷い現れることがあるという。

2019-07-10 22:23:19
君野てを @kimino_tewo

前世の記憶がある男女。この二人は転生されるごとに結ばれたがことごとくいい結果にはならなかった。そして100回目の今世、二人は隣にいながらも自分の本当の気持ちを話すことはしなかった。結ばれない形で、傍にいることを選んだのだ。しかし二人は呪われており、それは100回目で解けるとも知らず。

2019-07-01 18:49:47
君野てを @kimino_tewo

幽霊が見える少年は幽霊を驚かせたかった。いつも幽霊を見ては驚いてしまって何だか悔しいからだ。だから幽霊を見つけたら先回りをして隠れて脅かしてやろうと思っていた。そしてその時が訪れる。「どお?びっくりした?」「お、驚いたけど、幽霊が幽霊を驚かしてどうするんだよ」そう、少年の足元は。

2019-06-25 22:19:21
君野てを @kimino_tewo

「空と海上下間違えて世界作っちゃった」小さな創造主がぺろっと舌を出した。「でもこれはこれで新鮮なんじゃない?」隣にいた少女が世界を興味ありげに眺めている。「君がそういうならいいのかも」少女はうんうんと頷いてからゆっくりと姿を消した。ひとつの世界に二人の創造主は存在できない、から。

2019-06-22 14:17:03
君野てを @kimino_tewo

「小指には星が住んでいて、その人が助けてほしいと思っている時には星が光って教えてくれるんだ」少年にはその光がいつも見えているらしい。少年は毎日誰かを助けようとした。だけど見える光りは多すぎてとてもじゃないけどすべてを助けられない。いつしか私は、少年の小指が光ったのを見た気がした。

2019-06-22 10:01:18
君野てを @kimino_tewo

「本当のことを言ったところで何も変わらないよ」窓辺でホットココアを啜る。月明かりが彼女を照らして、影が本当を語るよう。「私たちは夢をみてる。いつも、現実という」俯いた睫毛が碧く煌めく。彼女は僕と視線を合わさず、でも全てを見透かしたように語る。突然現れた彼女はカーテンの陰に消えた。

2019-06-03 21:27:40
君野てを @kimino_tewo

少女には「この人生はノンフィクションです」と、誰の背中にも張り紙がしてあるのが見える。街中を歩くとみんな同じ張り紙を付けて歩いている。でもたまに「フィクション」という文字が見えるのが気になってその人を追いかけていくと、いつしか別世界に迷い込んで行き、そのため少女はよくいなくなる。

2019-06-02 19:52:59
君野てを @kimino_tewo

「消えてしまいたい」と言うとその人が本当に消えてしまう世界があった。僕の友人も恋人も、そうやって消えてしまった。でもまた人と出会う。でも消えていく。消えた人がどこに行くかはわからない。いつしか僕一人だけの世界になった。なんだ、面白くないな。夜に呟く。こんな世界創るんじゃなかった。

2019-06-02 19:36:12
君野てを @kimino_tewo

家族と喧嘩して家出した。携帯を置いていったから連絡も取れない。でもそれでいいと思った。一人で来る海はなんだか清々しくて自由に感じる。暫く海を眺めていると涙がボロボロ零れた。やっぱり帰ろう。もう少し冷静になろう。家に戻り家族と話し合いマリオカートをした。だから僕にバナナを投げるな!

2019-05-25 21:39:16
君野てを @kimino_tewo

願えば亡き人ともう一度だけ会えるという花があることを知り、私はその花を手に入れ、そして亡き妻を願い再会した。けれど妻は怒っていた。「家の掃除、全然してない。ゴミ出しもちゃんとして。しっかりしなさい!」散々怒られた挙句、姿を消してしまった。これじゃ妻を追って死んでも更に怒られるな。

2019-05-25 12:07:20
君野てを @kimino_tewo

「君の中の宇宙に私は成れていただろうか」机にグラスを置く音が静かに響いた。成れていたと思うよ。そして僕の星になって願いを叶えてくれた、だから。横に置いていた鞄を手に取った。何も言わず去ることが最後の礼儀だと感じたから。ドアノブに手を回す、視界が滲んで立ち止まった。君のいない世界。

2019-05-23 21:18:58
君野てを @kimino_tewo

夜の波間に琥珀糖を食べさせて遊んでいた白い髪と空色の瞳を持った少女は、透明な月からの手紙をポケットに入れたまま夜が終わるのを待っていた。ハッカ飴みたいな海風が少女の頬や膝を赤く染める。手を空に伸ばせば指先だけが空に浸る。時計は12時を回り、しゃがれた波音も少女の耳には届かなかった。

2019-05-16 21:42:01
君野てを @kimino_tewo

名のない花になりたかった。夜を少し鼻から吸い込み、細く長い息を口から吐き出す。幻のような存在に憧れた。名のない花のように、誰に知られなくても咲き誇っていたかった。でもそれは、この世に人として生まれた瞬間、叶うはずのないものになった。煌めく星々が煩いのに目が離せない。月が見ている。

2019-05-05 22:04:45
君野てを @kimino_tewo

今日は夜の砂を集めよう。砂時計職人は屋根に上り特別なハシゴを夜に掛け登った。夜の砂を採るには星の光を宿したスコップを使わなければならない。そのスコップを片手に夜をザクザクと掘っていく。そしてそれを月明かりを十分にあてた袋へ入れる。これが夜の砂となり、夜世界を刻む砂時計となるのだ。

2019-04-29 21:40:57
君野てを @kimino_tewo

夜を切った侍がいた。その刀の切っ先が夜に丁度触れたらしい。夜は布が切れ落ちるように倒れた。だがその先には先ほどの夜より深い色をした夜が待ち構えていた。侍の頬に汗が伝う。どうだ切り殺して見せろ、と嘲笑うかのように空気が振動し、侍の吸う酸素を痺れさせ、その刀を持つ手が小刻みに震えた。

2019-04-28 20:50:37
君野てを @kimino_tewo

絵描きになれなかった字書きが鉛筆を使って絵書くのは字を連ねて語る絵になれなかった物語だ。絵になりたかったイメージが白い紙に鉛を擦ることで線として字としてこびりついていく。深く深く、白を汚す。書き続けて書き続けて自分の字がついに絵になった時、私は描き続けていたのだと、気付いたのだ。

2019-04-15 21:15:20
君野てを @kimino_tewo

彼女の指には夜が住んでいて、その指でなぞる場所はどんどん夜と化していく。花びら、ガードレール、風、グラス、僕の手の平。触れたすべてが夜を覗かせるように夜と星々に染まっていくんだ。そして彼女は不敵に笑う。そう言えばすべては宇宙(よる)だった。僕は自分の手の平の夜を眺めながら悟った。

2019-04-15 17:37:53
君野てを @kimino_tewo

浅い夜が波打って、私の足元に触れてくる。月はゆっくりと粉の雨を降らせてその形の終わりを教えてる。子供たちが今見ている夢も色を失う。夜は永遠じゃない。形を変えて生きている。私はそれをただ静観し見えない本に記録していく。「星屑のペン、インクがもう残り少ないな」次の夜は世界をどう扱う。

2019-04-01 21:31:18
君野てを @kimino_tewo

朝が濡れている。夜明けの掃除屋が、水の入ったバケツをひっくり返したらしい。そのため朝を組み立てる者たちまでもが慌てて拭き掃除に徹している。命あるものにこの水は毒。彼らはそれを知っている。濡れた朝が朝日により煌めいて、見た者はその光に吸い込まれるように命を亡くすことがあるのだから。

2019-03-30 10:47:40
君野てを @kimino_tewo

「ねぇ知ってる?花が咲くたびどこかで命が失われてるのよ」屈託のない笑顔で君が言うから、戸惑いを隠せなかった。それを見て君はまた笑う。そんな君は今長方形の箱の中で眠っている。花で周りを飾って。「君の命は花になったのかな、それとも花に奪われたのかな」涙と共に言葉が零れる。止まない雨。

2019-03-21 21:43:02
君野てを @kimino_tewo

あなたが好きです。そう手紙に書いた。でもこの手紙は、ポストにも出せない。郵便局にいってもダメ。届かないことを知っているから。宛先がわからないのではない。届け方がわからないのだ。だって宛名は『夜』なのだから。私は手紙をそっと引き出しにしまっては、何も知らない夜を、見つめ続けている。

2019-01-27 21:40:41
君野てを @kimino_tewo

死んでしまった僕はなぜか恋人にだけ姿が見えた。触れることはできないにしても一緒にいることで彼女の悲しみを半減させることはできたようだ。でもいつからか彼女は別の男性に惹かれ始めていることに気付き「それは恋だよ」と言うと彼女は大粒の涙を零し煌めかせる。まるで涙に星が住んでいるように。

2019-01-22 20:26:40
君野てを @kimino_tewo

使われていない音楽室によくいる少年と仲良くなった少女。少年は少女が聴き覚えのある曲を弾けた。でもどこで聴いたのかわからない。そしていつしか少年は音楽室には来なくなった。少女は大人になって少年が弾いていた曲を知る人を見つけた。昔、天使が恋人に捧げる曲だと言われていたと聞き、涙した。

2019-01-20 21:11:32
君野てを @kimino_tewo

友人から送られてきた手紙の裏にこびりついた夜があまりにも綺麗で、手紙の文より長い時間見つめてしまう。手で触ると夜が粉のように少し落ちる。君の夜は美しいけれどきっと哀しいんだね。手に付いた夜の粉をそっと封筒に入れる。『私も元気です。』という文字の色だけが、息をしていないようだった。

2019-01-14 12:04:29
君野てを @kimino_tewo

あの星と友達になるには僕は死ななければいけないことに気付いた。あの星はとうに死んでいるからだ。子供の僕はどうしても友達になりたかった。父親にはいつか会えるよと言われた。大人になり父親になり老人になった今でもあの星を見つめる。返事をするように星が煌めく。死なずとも僕らは友達だった。

2019-01-07 19:46:11
君野てを @kimino_tewo

「夜はいつも綺麗に汚れているから本当にムカつく」片頬を膨らませて彼女は頬杖を付いた。「それは八つ当たりなんじゃない」珈琲をカップに注ぎながら言うと君は僕を睨んで「そう言われるのが嫌」と吐く。じゃあどうしたらいいんだと、月の喫茶店で二人、彼女の愚痴を聞きながら珈琲を飲んで過ごした。

2019-01-01 21:00:50
君野てを @kimino_tewo

夜が雨のように降り体に沁みる。星も小さく煌めいて私の肌の上で揺蕩っている。それを感じながら私は貴方に手紙を書く。違う世界にいる貴方に。そちらの夜は降るのでしょうか?なんて、言いたいことを隠して。会いたい、その一言がどうしても書けない。嗚呼、今夜はきっと貴方のせいで眠れないだろう。

2018-05-22 21:43:37
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君野てを @kimino_tewo

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