魔剣の刃を刃で受け、力くらべとなったとき、 店のすみにいた女の目が、ぎらりと光った。 その瞬間、ばきんと音をたてて、魔剣の黒い刃がまっぷたつに折れた。 剣士は、あわてて剣をひいた。が、そのときには相手の刃が、ずぶりと剣士の首元にささっていた。 すわっていた女は、いつの間にか
2022-02-03 20:00:02立ち上がってこちらを見ていた。剣士は顔を覚えてもいなかったが、それは、魔剣づくりの職人の娘であった。 剣士が斃れたあと、女は、床に手をついて、ひとこえ大きく啼いた。 そして、口元の牙をぎらつかせて、折れた魔剣の刃をくわえ、走り去った。 その後、娘がどうなったかは、誰も知らぬ。
2022-02-10 20:00:01第六話 泉にとらわれた話 今度はまたおれが話そうか。 これも、戦地できいた話だ。 その昔、鬼とのいくさが今より激しかった頃。 戦地では、陣地をとったりとられたり。ようやく落ち着いても、小鬼どもがすぐやって来て何もかも壊しちまう。手間をかけて掘った井戸も、何もかもだ。 だか
2022-02-17 20:00:02ら、水場は貴重だった。 敵のいない場所に大きな泉でも見つければ、その兵士は褒美に袋いっぱいの銭をもらえたとか。 さて、偵察にでた若いふたりの兵士が、泉を見つけた。 大きさは、それほどでもない。深くもない。せいぜい、ひざまで浸かるくらいのものだ。 ただの、雨水だまりのようにも
2022-02-24 20:00:00見える。 確かめるために、兵士のうち一人が、靴をぬいで泉に踏み込んだ。中心あたりで、水面が動いているように見えたからだ。そこから、水が湧いているのだと思った。 近づくにつれ、かすかに動いているように見えた水面に、妙なものが見えた。 ボンヤリした霧のようなものが、浮いている。
2022-03-03 20:00:00手をさしのべると、逃げる。 目の錯覚のようでもある。 「オオイ、何をしている。」 もうひとりの兵士が、岸から声をかける。 「イヤ、何んでもない」 兵士は、そう答えて、手で相棒をおしとどめた。二人で足を濡らすことはない。 湧き水であることは、確かのようだ。足元に、かすかに水の流
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