one day 13 pages reading challenge #BooksForJimin #ReadingWithJimin という企画に韓国文学しばりで参加しています。 ファン・ジョンウンの作品を読んだときのポストをまとめました。
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖Years and Years by Hwang Jung Eun 『年年歳歳』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(河出書房新社) 📄P9-39 新年早々風邪引いて寝込んでいるけども、この本から読もうと思う。 斎藤真理子さんの『韓国文学の中心にあるもの』によれば、ファン・ジョンウンは〈文学の背骨に溶け込んだ朝鮮戦争を最も雄弁に描いている〉作家で、『年年歳歳』は〈若い世代が朝鮮戦争に向き合った小説の決定版ともいえそうな作品〉。イ・スンイルとふたりの娘を中心にした連作。 「廃墓」 71歳のイ・スンイルは、毎年鎌で道を作りながら行っていた山中の墓を廃墓することに決める。次女のハン・セジンが最後の祭祀に付き合う。 D-527

2024-01-01 15:05:07
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖Years and Years by Hwang Jung Eun 『年年歳歳』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(河出書房新社) 📄P43-78 「言いたい言葉」は、長女の悲しみを描いている。 イ・スンイルの長女ハン・ヨンジンは、ものを売るのが上手で、その才能で家族の生活費を稼いできた。例えば、デパートで高価な布団を受験生の母親に売るのが得意だった。 何が違うのかは実はハン・ヨンジンにもよくわからなかったが、いったい秘訣は何なのと聞かれるとハン・ヨンジンは、私は母親の気持ちがよくわかる娘だったんだと答えた。長女だからね、私。貧乏な家の大黒柱だから、お母さんとは特別な仲だったんだよ。(「言いたい言葉」より) 母親の気持ちがよくわかる娘だからこそ我慢してしまったこと。我慢しなくても許される弟。言いたいけど言えない言葉。〈嘘、と思うたびにどうして血の味がするのか、わかりはしない〉というラストがつらい。 D-526

2024-01-02 16:01:18
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖Years and Years by Hwang Jung Eun 『年年歳歳』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(河出書房新社) 📄P81-132 「無名」は、イ・スンイルの過去、ふたりのスンジャ(順子)の話。 ハン・セジンがドイツに行くと言ったとき、イ・スンイルは自分がかつてスンジャと呼ばれていたこと、そしてもうひとりのスンジャのことを思い出す。 従順の順(スン)に、子供の子(ジャ)。順子、おとなしい子。私はそれが自分の名前だと思ってた。だから、私もスンジャだった。私の友達もスンジャだった。(「無名」より) なぜ「ドイツ」といえばスンジャなのか、スンジャはどんな経緯でイ・スンイルになったのか。「廃墓」「言いたい言葉」に描かれた現在のイ・スンイルと結びついて、なんともいえない気持ちになる。イ・スンイルが誰にも手渡すつもりがなかったこと、誰にも話さなかったことが、朝鮮戦争と家族にまつわる記憶。 D-525

2024-01-03 00:19:33
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖Years and Years by Hwang Jung Eun 『年年歳歳』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(河出書房新社) 📄P135-190 読了。「近づくものたち」は、ハン・セジンがニューヨークに行って母のいとこの子供ジェイミーに会う話。 ジェイミーが祖母(=イ・スンイルの叔母)についていう〈アンナはアンナの人生を生きたの、ここで〉が記憶に残る。言えないことはあるし、わかりあえないこともあるけど、それぞれが自分の人生を生きて、お互いの人生を労ることはできるのだと思う。 あと、作中に出てきた映画「近づくものたち」を観たくなった。邦題は「未来よ こんにちは」。 『韓国の小説家たちⅠ』のファン・ジョンウンのインタビューと、『目の眩んだ者たちの国家』のファン・ジョンウンの文章にも目を通した。次は『ディディの傘』を読む。 D-524

2024-01-04 00:13:18
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖dd's Umbrella by Hwang Jung Eun 『ディディの傘』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(亜紀書房) 📄P4-118 「d」は恋人のddを失ったdが主人公。ddが死んだあと、dは物品から〈ぬくみ〉を感じるようになる。 ddと一緒に住んでいた半地下の部屋の窓の前で、老婆たちがケシの花を見ながらおしゃべりをする。子供や天気や健康、そして戦争の話。 ……若いときに最初の戦争を体験した彼女らは、人生の中でいつ何時でも二度目の戦争が起こりうると思い、それは思うというよりほとんど無意識の確信と予感であり、それを抱えて生きてきたため、ときおり、知らず知らずのうちに同じようにして過去が今でもここに現存していると認めるしかないことがあり、そう考えると自分たちの人生の内側では……つまり心の中では……戦争が完全に中断されたことはないみたいだ、と言った。(「d」より) そのあとに続く漢江の橋が落ちたときの出来事、生きていることを実感した〈恥ずかしさ〉。dが〈人間の心はあごにある〉と思った理由。衰退していく世運商街と「ラブ・ミー・テンダー」のレコードにまつわる思い出。光化門で行われたセウォル号の追悼行事とデモ。どの場面も忘れがたい。 彼らは愛する者を失い、僕も恋人をなくした。彼らが戦っているということをdは考えた。あの人たちは何に抗っているのだ。取るに足りなさに 取るに足りなさに。(「d」より) D-523

2024-01-05 08:54:02
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖dd's Umbrella by Hwang Jung Eun 『ディディの傘』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(亜紀書房) 📄P120-283 読了。「何も言う必要がない」は、12本の未完の原稿を抱えていて、13番めの物語を始めたいと思っている「私」の話。 「私」と一緒に暮らしているソ・スギョンの関係、1987年と1996年のデモ、セウォル号沈没事故とキャンドル革命のことが語られる。「私」が大学をやめた経緯、会社の同僚にされたハラスメント、妹が結婚するときの父の〈勝者の微笑〉という言葉、20年前に「私」とソ・スギョンが初めて借りた家で体験した嫌がらせ。権威とか常識って何なのか。自分はどのように今日を記憶するのか。考えてしまう。 作中で言及される作品:シュテファン・ツヴァイク『昨日の世界』、ロラン・バルト『小説の準備』、ハンナ・アーレント『エルサレムのアイヒマン』、プリーモ・レーヴィ『溺れるものと救われるもの』、サン=テグジュペリ『人間の土地』、劇場版『エンド・オブ・エヴァンゲリオン』、アニメ『スカイ・クロラ』など。 D-522

2024-01-06 20:15:25
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖One Hundred Shadows by Hwang Jungeun 『百の影』ファン・ジョンウン/著、オ・ヨンア/訳(亜紀書房) 📄P6-57 ファン・ジョンウンの初長編。「2000年代韓国文学における最も美しい小説」とも呼ばれているらしい。 語り手の「わたし」、ウンギョさんは森で影を見かける。影の後をついて歩いていると、ムジェさんに声をかけられる。ふたりは道に迷ったようだ。歩きながら、ムジェさんはウンギョさんに影法師の話をする。 どこかではっきりと自分の姿を目撃したのだとしたら、それは影法師なんだ、影法師というのは一度立ち上がったらどこまでも執拗につきまとう、そうなったら本体の体はいっかんの終わり(『百の影』より) 怪談みたいな始まり。ウンギョさんはムジェさんのおかげで助かったのかもしれない。読み進めていくうちに、ふたりは電子機器類を専門に扱う雑居ビルで働いていることがわかる。ウンギョさんは修理屋のヨさんの作業室で店番とかちょっとしたお手伝いをしていて、ムジェさんはトランスをつくる工房の見習い。ヨさんも影法師が立ち上がるところを見たことがあるという。 D-521

2024-01-07 16:22:48
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖One Hundred Shadows by Hwang Jungeun 『百の影』ファン・ジョンウン/著、オ・ヨンア/訳(亜紀書房) 📄P60-78 今日は仕事でキャパ控えめの頭を使いすぎたので少しだけ。章タイトルの「口を食べる口」おもしろい。 8月の雨の日、ウンギョさんはムジェさんとユゴンさん(いつも宝くじの束を持ってヨさんの修理屋に金を借りに訪れる人)と一緒に飲み屋へ行く。ユゴンさんも影法師の話をする。怖い。 ウンギョさんとムジェさんが藤棚の下に座って話すくだりは好き。 D-520

2024-01-08 22:32:19
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖One Hundred Shadows by Hwang Jungeun 『百の影』ファン・ジョンウン/著、オ・ヨンア/訳(亜紀書房) 📄P80-98 ウンギョさんの過去やビルの再開発の話。影を半分以上もがれたというおじいさんが出てくる。 帯には「恋物語」と書いてある。しかし、ウンギョさんとムジェさんの恋の進行はあまりにもゆっくりだ。かなり最初のほうでムジェさんはウンギョさんに〈好きです〉と言うのに、なんと89ページでやっと電話番号を聞く。教えたけどなかなか電話はかかってこない。その悠揚迫らざる感じが、もどかしいというよりおかしみがあって心地いい。 ある日、ウンギョさんが家でコップを拭いていると停電になる。 この小説がどうして「美しい」と言われているのかわかる気がした「停電」の章。読み終わるのがもったいないので少しずつ読もうと思う。 D-519

2024-01-09 23:10:59
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖One Hundred Shadows by Hwang Jungeun 『百の影』ファン・ジョンウン/著、オ・ヨンア/訳(亜紀書房) 📄P100-119 体調よくないので今日も少しだけ。「オムサ」という、おじいさんがひとりで営む不思議な電球屋の話。 ビルの再開発が進み、建物が撤去され、人がどんどんいなくなっていく。ウンギョさんとムジェさんがスラムという言葉について語り合う場面が印象に残る。 D-518

2024-01-10 18:03:05
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖One Hundred Shadows by Hwang Jungeun 『百の影』ファン・ジョンウン/著、オ・ヨンア/訳(亜紀書房) 📄P122-183 読了。美しいんだけど、こういう美しさだったとは、という驚きがあった。 ムジェさんとウンギョさんが夜の公園で一緒にバトミントンをするくだりが最高。終盤の海を眺めるところもいい。 著者あとがきにあるように世界は暴力にあふれているし、影法師の不穏な気配もあるけれども、ふたりが一緒にいると心強い。静かで優しくて、そこはかとなくユーモラスでもある会話を読んでいるだけで。 D-517

2024-01-11 22:07:46
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 No one by Hwang Jungeun 『誰でもない』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(晶文社) 📄P13-43 8編を収める短編集。今日は荒んだ田舎の風景と印象的なおばあさんが出てくる「上京」を読む。 都会に住む「私」はオジェに誘われて田舎の唐辛子畑に唐辛子を摘みに行く。唐辛子畑の主人は、オジェのお母さんの〈新しいおばさん〉だった。 〈新しいおばさん〉の半生には、朝鮮戦争の影が。〈新しいおばさん〉は、弟と老母と一緒に暮らしていた。しかし、土地の権利を持つ弟が死に、家を失うかもしれないという状況にある。「私」たちは放置されている作物を好きなだけ持って行っていいと言われる。 なぜこの話が「上京」というタイトルなのか不思議に思いながら読んでいたんだけど、オジェが唐辛子畑に来た理由を語るくだりで納得した。都会の人も田舎の人も、野菜もウサギも寄る辺ない。 ※英語タイトル間違えてたので上げなおし D-516

2024-01-13 00:03:35
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Nobody Is by Hwang Jungeun 『誰でもない』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(晶文社) 📄P47-74 「ヤンの未来」を読む。古い団地の書店で働く「私」が、ある事件の目撃者になる話。 「私」の母親はがん闘病中で、父親が介護していて、家が貧しいので「私」は中高生時代からずっと働いている。書店はなかでもマシな職場だったが……。 救いがなさすぎて感情の行き場がなくなる。暴力をまえになすすべもない人たちの世界。 D-515

2024-01-13 23:50:43
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Nobody Is by Hwang Jungeun 『誰でもない』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(晶文社) 📄P77-103 「上流には猛禽類」は、「私」が恋人のチェヒの両親と森林公園にハイキングに行ったときの話。 チェヒの両親は失郷民(解放後の南北対立と朝鮮戦争によって北から南へ避難し、故郷を失った人)で、友達に裏切られたために多額の借金を背負った。それでも家族仲良く支え合って生きてきたが、父親が大病を患ったことをきっかけに、両親の関係が悪化していた。 「上流には猛禽類」って不思議なタイトルだけれども、その由来がわかる場面があまりにも無慈悲で居心地悪くて、ちょっと笑ってしまった。ファン・ジョンウンは暗黒ホームドラマの名手。あと、人間以外の生き物も存在感がある。「上京」はうさぎ、「ヤンの未来」はねこ、「上流に猛禽類」はクモ。 「私」がチェヒの母親の少女時代を想像するくだりが好き。 D-514

2024-01-14 23:22:04
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Nobody Is by Hwang Jungeun 『誰でもない』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(晶文社) 📄P107-130 〈そして彼女は、ノートが一冊要ると思った〉という一文で「ミョンシル」は始まる。 主人公のミョンシルは、何かを書こうとして、ノートと万年筆を探している。ミョンシルは自覚がないけれども年老いていて、今自分がしていることも忘れてしまう。恋人のシリーは、本をたくさん遺してこの世を去った。ミョンシルはシリーと一緒に妹の家に行ったときのことなどを思い出す。 万年筆が好きなので出てくるだけでわくわくするし、とても美しい話だった。登場する生き物は、机と椅子! D-513

2024-01-15 22:48:26
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Nobody Is by Hwang Jungeun 『誰でもない』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(晶文社) 📄P133-158 「誰が」を読む。悪夢の集合住宅小説。 主人公は引っ越してきたばかり。ある日、壁紙を貼ったのりでべたべたした床を7時間もかけてそうじしていると、〈上の階の者だ〉という女がドアをノックする。騒音について支離滅裂な話を聞かされた主人公は困惑する。今の家は静かなところが気に入っていたからだ。 それから、寝ようとする主人公の脳裏にさまざまな思いがよぎる。人間嫌いになる原因になった町、主人公の前に住んでいた老人が床につけたけもの道のような跡、お棺みたいな壁棚……。ふっと眠りかけたときに、上の階の人が飼っているという犬の夢を見る。 その後の展開が不条理で怖い。人に悩まされずにすむ権利を持たない、〈手段なき階級〉の苦痛の連鎖。 D-512

2024-01-16 23:20:24
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Nobody Is by Hwang Jungeun 『誰でもない』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(晶文社) 📄P161-186 「誰も行ったことがない」は、旅先で韓国が経済主権を喪失したこと(1997年のIMF危機)を知る夫婦の話。 この夫婦は過去に大きな喪失を経験し、迷子のようになっている。お互いだけが頼りで、懸命に関係を維持しようとしているのに、悲しい記憶はふたりをじわじわと追い詰める。 これからどうしたらいいんだ、という絶望が重くのしかかってくるラスト。 わたしもヘルシンキ経由でプラハに行ったことがあるので、風景を思い出しながら読んだ。 D-511

2024-01-17 23:08:25
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Nobody Is by Hwang Jungeun 『誰でもない』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(晶文社) 📄P189-213 「笑う男」は、恋人を失い〈できるだけ単純になろう〉と洞穴みたいな家にこもっている男の話。 〈DDのことを思うと、僕の顔の前に傘が一本広がる〉という一文でわかるとおり、『ディディの傘』に収められた「d」と設定が一部重なる。 DDが屋上部屋の下の道が見えるところに椅子を持ってきて座り、本を読みながら主人公を待っているくだりが好き。 D-510

2024-01-20 00:33:19
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 Nobody Is by Hwang Jungeun 『誰でもない』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(晶文社) 📄P217-253 読了。「わらわい」は地獄の接客業小説。めちゃくちゃ面白い。 語り手の「私」は白血病を患った母を看取って、〈人間らしさの条件は余力の有無〉と悟り、けものにならないようお金を稼がなきゃと思っている。デパートの布団売り場で働き、別に笑いたくはないが毎日笑っている。「私」が自らの笑いを〈わらわい〉と名付けるまでの出来事を描く。 従業員がお互いに憎しみ合う様子を「ふるポテ」にたとえたり、「ドゲザ」の本質を考察したり、クレーマーの持ってきた布団の臭いを描写するくだりなど、ファン・ジョンウン流のユーモアが冴える一編。 わたしもときどき書店員として働いているので、共感をおぼえるところが多くて笑ったしゾッとした。店員というのはほんとに、「誰でもない」「何でもない」人々として扱われやすいと思う。 〈そうした「誰でもない」人々の現実は、まぎれもなく二十一世紀の韓国のものだ〉と「訳者あとがき」にあるけれど、まぎれもなく21世紀の日本のものでもある。そしてわたしはファン・ジョンウンの「仮借ない」書き方が好き。 D-509

2024-01-20 11:09:16
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 SAVAGE ALICE by Hwang Jungeun 『野蛮なアリスさん』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(河出書房新社) 📄P7-91 女装ホームレスのアリシアが四つ角に立ったまま見る悪夢を「君」に語る。 「内」「外」「再び、外」の三部構成。「内」を読んだ。 夢のなか。少年アリシアは「コモリ」のどんづまりにある家で、年老いた父と凶暴な母とあまりしゃべらない弟と暮らしている。家の隣には犬のケージがある。犬は食べるために飼われている。母は兄弟に暴力をふるう。 再開発のおかげでコモリに古くから住んでいる人たちは金持ちになる予定だ。より多くの金を得るために、父は新しい家を建てている。 アリシアが寝る前に弟に語って聞かせる話が印象的。グロテスクなんだけれども、弟のツッコミにおかしみがある。 父の〈知ってるか?〉という口癖は、「笑う男」(『誰でもない』収録)の主人公の父の口癖と同じ。父は戦争のとき北から南へ避難して生き残り、コモリで下男になった。元主人が営む焼肉屋に家族で行って嫌がられ、〈命にはみんな価値がある〉と言って陰惨きわまりない話をする。 D-508

2024-01-21 19:29:06
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 SAVAGE ALICE by Hwang Jungeun 『野蛮なアリスさん』ファン・ジョンウン/著、斎藤真理子/訳(河出書房新社) 📄P95-207 読了。底なしの闇。容赦ない。 コモリの住人は増えていく。ある日、アリシアは母の身体が自分よりも大きくないことに気づき、今なら勝てるのではないかと思う。ずっと勝ち続ける方法を聞くために、友達のコミと一緒に区庁へ行く。家庭内暴力を受けていると相談すると、カウンセラーを紹介される。話が通じないまま終わる。 土地建物の買い取り交渉をめぐるコモリの人々の狂騒が描かれる。アリシアが弟に少年アリスの話を語る。夜と昼がひっくり返るのを待っているアリス。兎穴に落ちて、落ち続ける。やがて事件が起こる。 訳者あとがきで背景の解説を読むと、こういう現実がこういう小説になるのがすごいと思う。生々しいまま幻想的というか。 D-507

2024-01-21 22:15:33
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 I'll Go On by Hwang Jungeun 『続けてみます』ファン・ジョンウン/著、オ・ヨンア/訳(晶文社) 📄P8-48 第23回大山文学賞を受賞した長編。 大人になって建設会社で働くソラが、子供のころをふりかえる。ソラと妹のナナの父は、工場で巨大な歯車に巻き込まれて死んだ。母のエジャは生きる意欲を失い、ソラとナナを連れて半地下の家に引っ越す。半地下には二つの貸し部屋があった。姉妹は隣の部屋に住むナギという少年と出会う。 父の法事を執り行う息子がいないという理由で、事故の補償金は父方の親族が受け取ったとさらっと書いてあって、うわあとなった。絶望した母の言葉、ナギとの鮮烈な出会いの場面が印象に残る。 D-506

2024-01-22 20:17:51
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 I'll Go On by Hwang Jungeun 『続けてみます』ファン・ジョンウン/著、オ・ヨンア/訳(晶文社) 📄P48-101 昨日の続き。ソラが語り手の章を読み終わった。 弁当にまつわる考察。エジャは子供たちをネグレクト気味で、ソラとナナはお腹を空かせていた。ナギの母のスンジャさんが姉妹に弁当を作ってくれた。スンジャといえば『年年歳歳』を思い出すけど、スンジャのスンは旬らしい。 現在のソラとナナ、ナギのことが語られる。いちごを食べられないナギ。 ソラは〈ソラとして一生を終えるつもりだ〉〈絶滅するの〉〈ソラ、という名の部族として〉と思っている。自分ひとりでも部族という考え方を教えてくれたのはナギ。ナナという部族は絶滅しない(かもしれない)。 父の死が母の人生を壊し、ふたりの娘にも影響を与えている。 D-505

2024-01-23 23:13:08
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 I'll Go On by Hwang Jungeun 『続けてみます』ファン・ジョンウン/著、オ・ヨンア/訳(晶文社) 📄P104-142 昨日の続き。語り手がナナに替わる。 ナナの語りは敬体で一人称は「あたし」。(ソラは常体で「わたし」)ナナの言葉は少し幼い感じがする。幼いけど辛辣。 〈ときどき自分で自分のことをナナと呼びます。自意識の強い人にかぎって自分のことを名前で呼ぶのよと、上から目線で指摘されることもあるけれど、その程度の自意識を指摘してくるような自意識も相当なものだというのがナナの考えです。〉 というくだりで笑ってしまった。〈続けてみます〉という言葉が出てくる。ナギの他に、いちごを食べない男がもうひとり。 ナナとソラが銭湯で垢すりをするところがよかった。 D-504

2024-01-24 23:07:16
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 I'll Go On by Hwang Jungeun 『続けてみます』ファン・ジョンウン/著、オ・ヨンア/訳(晶文社) 📄P142-189 昨日の続き。ナナがソラの質問に〈答えてみます〉というところから。 ナナが語る子供のころの思い出。ナギと黒い金魚のエピソードは、後に起こる出来事の伏線になっている。〈人の痛みなんて考えない化け物〉にならないように覚えておかなければならないこと。 〈愛に満ち、愛を失った〉エジャのようになってしまうことを、ナナは警戒している。ソラとナナとナギが毎年恒例の行事(キムチとキムチ入り餃子を作って食べる)をする場面がいい。韓国餃子(マンドゥ)が食べたくなる。 一筋縄ではいかない家族の描き方が、既成概念に対する抵抗になっていると思った。 D-503

2024-01-25 18:48:14
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石井千湖 @ishiichiko

✅13pages 📖 I'll Go On by Hwang Jungeun 『続けてみます』ファン・ジョンウン/著、オ・ヨンア/訳(晶文社) 📄P192-273 読了。分類できない関係を描いた小説が好きな人にぜひ読んでほしい。 語り手がナギに替わる。一人称は「俺」。ごくたまに吸う煙草の匂いが、13歳のときに出会った「お前」の記憶を呼び起こす。いろんな伏線が回収される感じ。 ナギの母スンジャさんは戦争で避難する途中に家族を失い、6歳のとき奥地に住むおじいさんに預けられた。途中で伯母に引き取られたけど、今もそのおじいさんの墓参りをするという話も印象的だった。軍事境界線の近くにある墓。 エジャの状態を壊れたのではなく〈自分の苦痛を完成させ〉たと表現してるところもすごい。 最終章の語り手はナナ。タイトルはエジャの呪いめいた言葉に対するアンサーなんだと思う。めちゃくちゃよかった。 D-502

2024-01-26 18:30:31
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まとめたひと
石井千湖 @ishiichiko

ライター。新聞や雑誌にブックレビューを書いています。「ポリタスTV」の「石井千湖の沈思読考」でも本を紹介(3週間に1回、木曜日)しています。youtube.com/@PolitasTV 著書 『名著のツボ』(「週刊文春」連載をまとめたもの。文藝春秋) 『文豪たちの友情』(書き下ろし。立東舎→新潮文庫)