台所で蹲み込んだままの杉を足蹴にしテーブルの前に押しやって、冷蔵庫から黒い瓶を取り出す。 狭いシンクの上でしゅわと泡立つ炭酸をグラス注ぎ、それをテーブルに運んだ。 いつもはグラスなど使わず、缶のまま瓶のまま飲むそれを訝しんでか、くん、と鼻を鳴らして、杉は瞳を丸くした。 「…これ」
2020-02-14 20:30:02「ただのビールだ」 未だにこの関係に名前が付けられずにいる。 連絡もなしに訪れて、去っていく男。 だから、何を用意したらいいのか、用意してもいいのかわからなくて、しばし悩んで、ぽちっとクリックしてしまったそれ。 甘いものが嫌いと言ったから。 甘くないもの。
2020-02-14 20:30:57酒好きが好みそうなそれは、甘いチョコの匂いだが、口の中に広がるのはパチパチと弾ける炭酸と苦味と強いコクで、味わいは黒ビールに近い。 甘みと苦みが絶妙なバランスだと俺は感じたが、果たして杉はどうだろうか。 「…うまい」 瞳のはちみつが撓んだ。
2020-02-14 20:31:50疲れた表情が少し和らいで、ほっとしたのも束の間。杉が小さな箱を俺に向かって放り投げた。リボンも何もない。黒い箱。 「…お前から何もなけりゃどうしようかと思った」 その蓋を開けば、数種類のチョコが美しく整列していた。 プレーンなものをひとつ摘んで口に含んだ。
2020-02-14 20:32:36甘いのが苦手な男が選んだように渋みの強いビターなチョコレート。 ナッツに絡めたもの、オレンジピールに絡めたもの、いくつか詰まったこの小さい箱は、杉が俺にと選んだものだ。 マフラーに続いて、ふたつめ。
2020-02-14 20:33:20昔、イベントの差し入れにチョコレートビールをいただいたんですよ。恐々飲んだそれが、殊の外美味しくて驚いた記憶を引っ張り出しました。 物理も心理もどちらもがあまくてにがくてすっぱいのが「匂い」のしゅぎおです。
2020-02-14 20:38:21匂いと麺の温度差について考えながらおやすみなさい。 今日は出勤前も退勤後も家事を手抜きして頑張ったので閉店ガラガラガラガラガラ…
2020-02-14 21:06:55