Xでたまに書き連ねているSSSとでも呼ぶべき何か
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@kai3years

今回だけ、のつもりだった。「この馬鹿野郎が!」「ゲフゥ」その「だけ」をしっかり見抜いた男に、腹へ拳をめり込まされる。臍の中を針でつついたときとは比べものにならない。口に上がってきた酸っぱさを、慌てて飲み込み、下へ戻した。「悪かっ、た、って」これはもう、甘く流せる状況ではない。

2024-02-29 14:33:05
@kai3years

咳き込みながらも誠心誠意、怒りを鎮めることに努める。「二度としないと誓うか」「誓う」「何に?」「お前に」信仰対象を持たない自分の、最も大切なものに。「約束する」苛烈に燃える太陽のような目を見つめて言葉を紡ぐと、太陽は次第に炎を和らげ、やがて、熱のない琥珀に戻った。

2024-02-29 14:33:06
@kai3years

そして、その琥珀を収めた二つの眼窩が閉じられると、頭が、上体が傾いて、胸へと倒れ込んでくる。「この馬鹿野郎が」本日二度目の台詞は、一度目と違ってひどく小さく、囁きのような威勢しかなかった。「俺はもう、ケアルが使えないんだ」針でつついたように痛んだ。臍ではなく、胸の奥が。

2024-02-29 14:33:08
@kai3years

「悪かった」「約束、破るなよ」「ああ」俯く顔を持ち上げて、白い髪を掻き上げる。許しを与えるようにひらいた唇に触れようとして、思いとどまり、身を離した。「どうした」「いや。ちょっと、嗽してくる」「何だ、今更」呆れたように立てられた、脚の白さが目に眩しい。今すぐにでもベッドに戻って、

2024-02-29 14:33:10
@kai3years

むしゃぶりつきたいところだが。「さっき、腹に食らったときに、胃液が上がってきたんだよ」無理やり飲み込みはしたものの、まだ残っているような気がする。このままキスを交わすのは、互いによろしくないだろうから。告げると、サンクレッドはしばらく呆けてから、愉快そうに笑った。

2024-02-29 14:33:12
@kai3years

過去視というのは、便利なものだ。視られる過去を選べない、発生には苦痛を伴う、過去を視ている間は完全に気を失った状態になる、などの、冒険者としては致命的なデメリットの数々に目を瞑れば。「つ…ッ」彼の異常を目にしたのは、紛れもなく、自分が最初だった。ちょうど大技を放つべく

2024-03-10 20:04:50
@kai3years

マナを練り上げていたアリゼーは、盾を構えた彼の背に護られる位置にいたのだから。それが傾く瞬間も、膝を突きながら盾だけは動かすまいと抗う仕種も、誰より近くで見ていた、のに。「駄目…!」技の発動は間に合わない。練り合わせたマナをほどいて、細剣を構え、前に跳ぶ。正確に彼の頸を狙って

2024-03-10 20:04:50
@kai3years

振り下ろされる獣の爪を、止めることはできなくとも、弾き、怯ませることならば、充分に可能なはずだった。が。「はあッ!」その白い影は、弾丸の如く、飛んできた。ソイルを爆ぜさせたガンブレードは、獣の爪を根から斬り落とし、翻された長い脚が、獣の腹を鋭く蹴る。どぅん、と鈍い音がして、

2024-03-10 20:04:51
@kai3years

辺りの空気がびりびりと震えた。「エスティニアン!」名を呼ばれた男は、既に上空で構えていた。そして、降下。空を全力で蹴ったかのようなスピードと爆発力で、魔槍は獣の真ん中を完全に貫いたのち、そのまま地面に縫い留めた。「いいタイミングだ。助かった」「たまたまだ。で、相棒は?」

2024-03-10 20:04:51
@kai3years

どうということもない。エスティニアンに獣を任せたのち、倒れる体を受け止めて、頭を打たないよう慎重に地面へ横たえるサンクレッドを、そのすべてをガンブレードを片手に提げたままおこなう男の姿を、アリゼーは見ていた。自分ではきっと重みによろめき、尻餅を突いてしまった流れを。「問題ない。

2024-03-10 20:04:52
@kai3years

いつもの、ってやつだな。目が覚めるまで寝かせておこう。…アリゼー?」「何よ」「大丈夫か?」当然だ。もともと彼に護られていたのだ、怪我もない。それでもサンクレッドが声をかけてきたのは、自分の顔があまりにも、ここに鏡があったとすれば叩き割ったに違いないほど、顰められていたからだろう。

2024-03-10 20:04:52
@kai3years

「ええ、平気よ。おかげさまでね」自分も、彼も。重い鎧を着けたまま気を失ってなお、それを片手で支えられる、二人の大人の男のおかげで。「その割には、えらく不機嫌じゃないか」「おい」そのうち一人はデリカシーというものを知らない男のおかげで!「平気だって言ったわよ」細剣を鞘に収めつつ、

2024-03-10 20:04:52
@kai3years

横たわる彼に目を向ける。今回はさほど悲惨でもない過去の光景を視ているのか、穏やかに呼吸を繰り返す姿は、すやすや寝ているだけにも見えた。「行きましょ。まだ獣はいるわ」「そうは言っても、相棒が爆睡中だぞ」「問題ないわよ。王子さまが傍に就いてるんだもの。ねえ?」「…アリゼー」苦々しい

2024-03-10 20:04:53
@kai3years

声をして言ったところで、自分は見たのだ。斬り込んでくる白い影。傾く体を片腕で抱き留め、そうっと寝かせた仕種のすべて。自分がしたくてもできないことを、サンクレッドはやってのけた。だったら、立場に見合った嫌味くらいは、甘んじて受け止めてもらおう。(見てなさいよ。身長だけなら、

2024-03-10 20:04:54
@kai3years

五年で抜いてやるんだから)もちろん併せて筋力も鍛えに鍛え抜いてやろう。もともと「女性らしいライン」なんてものに未練はない。筋肉の付きにくいエレゼンの体では限界があるだろうが、それでも、王子さまが遅れたときに、代わって彼を抱き留めて、鼻で笑ってやれる程度には。「先が楽しみね」

2024-03-10 20:04:54
@kai3years

「ん?…おう」横を行くデリカシーのない男は、デリカシーのない男らしく、理解してもいないくせに、適当な返事を寄越した。

2024-03-10 20:04:55
@kai3years

王子さまと王子さま候補と何もわかっていない男の光サン #meteorcred

2024-03-10 20:04:55
@kai3years

サンクレッドという男は、いつも、真っ直ぐに立っている。そう感じたのは第一世界で彼と再会してからだ。かつては刃の薄いナイフみたいに、掴みどころなく舞っていた男は、護るべきものを失い、得て、きつく地を踏み締めるようになった。揺らぐことなく、煽られることなく。まるで不動の壁のように。

2024-04-09 17:57:04
@kai3years

それはそれで、言うまでもなく、魅力的なさまだと思う。もとより見目のよい男が、いかにも堅牢な装備を着込んで、巌のように立っているのだ。頼り甲斐というものが、痛いくらいに伝わってくる。その背に護られた者は皆、安堵に蕩けてしまうだろう。しかし、だからこそ、知り得ないのだ。

2024-04-09 17:57:05
@kai3years

「待て、って…!」「待たない」膝裏を掬い上げるたび、後ろに倒れかける上体。焦ったように肩へ縋りつき、首の後ろに廻される手は、期待に細かく震えている。「ッう、く…!」抱き合ったまま貫けば、それらの支えさえ安定を失う。強く爪を立てたかと思えば、力を失くして緩んでしまう。

2024-04-09 17:57:06
@kai3years

「あ、ァ、」捕らえていなければ、いつ倒れるかもしれない体。突き上げるたびに髪を振り乱し、ぐらぐらと前後に揺れる頭。「い、ぃ、そこ、もっと…!」発する言葉さえ千々に乱れて、さっきは「待て」と拒んだものが、今度は「もっと」とねだってくる。涙に濡れた眼差しは、胡乱でちっとも定まらない。

2024-04-09 17:57:07
@kai3years

不動。堅牢。頼り甲斐。そんなものは、何処にもない。サンクレッドが自ら手放しているのだ、必要ないからと。今だけは、このときだけは、サンクレッドは芯を融かして、液体のように形を失くす。それを受け止める器があると、誰よりも理解しているからだ。「ッ、あ、」

2024-04-09 17:57:08
@kai3years

がくりと仰け反った頭を即座に支えてやる。肩に導き、噛んどけ、と促すと、犬歯の刺さる痛みがあった。とはいえ、これだって、いつまで保つやら。声の一つですぐにでも抜けてしまうに違いない。「サンクレッド」名を呼び、揺すると、小さな呻き声がして、収めたものが締め付けられる。

2024-04-09 17:57:09
@kai3years

体内だって、きつくはあるが、堅いという訳ではない。濡らし、掻き回し、擦り上げたそこは、ぐずぐずに熟した果実の中身だ。だから、自分のような男に、マナーも何もなく、貪られる。齧られ、啜られ、食い尽くされて、残った薄い皮だけが、朝になるまでベッドの中で、ぺたりと自分に貼りつくのだ。

2024-04-09 17:57:10
@kai3years

脆い。果敢ない。頼りない。普段の彼とは別人の、このときだけのサンクレッドを、自分以外は誰も知らない。その事実を噛み締めるたび、完全に満たされた独占欲が、沸騰するような心地になる。そうして溢れ出た熱い欲を、また、彼の中にぶち撒ける。「ひぅ、あ、あー…っ!」吐かれた精を感じた隘路が、

2024-04-09 17:57:12
@kai3years

生き物のように蠢き出す。ざわめき、吸おうと必死になって、強く先端を締めつける。「ぁ、あ…」そして残るのは、くたりと脱力しきった体。中に収まるものを抜くのも、乾いたベッドに移るのも、一人ではとても覚束ない、輪郭を失くした液体だ。それを余さず器で掬って、運び、ぴったりと抱えて、眠る。

2024-04-09 17:57:13
@kai3years

朝になれば、サンクレッドは再び、真っ直ぐに立ち上がる。ガンブレードを背に負って、しっかりと地を踏み締めて。多くのものをその背に庇い、選んだ生き方を全うする。不動にして堅牢な彼は本当に美しく、高潔な強さを持った姿で、──それを崩せる一点を、自分だけが知っている。

2024-04-09 17:57:14
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まとめたひと
@kai3years

18歳をめちゃくちゃ超えてる、急に文を書くタイプのshipper。基本がNSFWのため、フォローは18歳以上を推奨。日本語しか喋れませんが、海外の方とも翻訳ツールを使ってお話しするよ。光サン(ひろサン/meteorcred)生産中。アイコンは節さん(@setsu1225)からいただいたものを永遠に使い回しています