【長文】1938(昭和13)年3月1日のパナマ運河の通航料改正に伴う本邦高速貨物船の総トン数増について ―あるいは遮浪甲板船(Shelter decker)盛衰記―
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天翔 @Tensyofleet

1955(昭和30)年6月竣工の羽黒山丸(7,249総トン,三井船舶)。姉妹船の穂高山丸と共に、最も後期に建造された遮浪甲板船。 pic.twitter.com/dOPFNMojDo

2020-04-30 00:06:56
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天翔 @Tensyofleet

羽黒山丸の図面。赤枠内が減トン開口。戦後建造された高速貨物船のうち、最後まで遮浪甲板船を建造していたのは、三井船舶の三井玉野建造船であったようだ。 pic.twitter.com/swgICDex8o

2020-04-30 00:14:30
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天翔 @Tensyofleet

一方で日本郵船のように、頑なに三島型船と全通船楼船のみを建造していた会社もあり、船型選択のほとんどの部分は航路と積荷の性格によるのだろうけれども、ひょっとするとそれ以外の何かもあるのかもしれない、と思わせる。

2020-04-30 00:16:08
天翔 @Tensyofleet

ちなみに、三島型船は大型化・高速化すると、船体強度の都合で船橋楼直前直後の船体に漏れなくクラックが入る事故が多発するらしく、以後コンテナ船登場までの大型高速貨物船は全通船楼船の天下となっている。

2020-04-30 00:20:11
天翔 @Tensyofleet

日本郵船のN級貨物船長良丸(7,142総トン,1934(昭和9)年竣工)。大阪商船の畿内丸級(1930年竣工)に手酷くやられたニューヨーク航路での立ち遅れを取り戻すために投入された、郵船期待の新造高速貨物船。 history.navy.mil/content/histor… pic.twitter.com/RydbtIsgxU

2020-05-03 20:56:29
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天翔 @Tensyofleet

けれども、「日本郵船株式会社百年史」にはこう書かれている。 『結果的にこれらのN型船は,性能の面では大阪商船の畿内丸型を,なお若干下回っていた。』

2020-05-03 20:58:07
天翔 @Tensyofleet

畿内丸と能登丸は共に三菱長崎の建造船である。昭和14年版の日本汽船名簿で主な要目を比べてみると、下記のとおり。 【畿内丸】/【能登丸】 総トン数:8,360t/7,190t 長さ/幅/深さ:135.9/18.4/12.4m/137.0/19.0/10.5m 載貨重量トン数:10,303t/9,804t 載貨容積(ベール):16,175m^3/14,902m^3 pic.twitter.com/q3NjyUBSA3

2020-05-03 21:12:34
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天翔 @Tensyofleet

船の大きさはほぼ同大であり、他に要目が異なる点と言えば、畿内丸が主機2基2軸の全通船楼船、能登丸が主機1基1軸の重構船(三島型船)であることくらいだろう。写真は畿内丸級2番船の東海丸。 history.navy.mil/content/histor… pic.twitter.com/V9gdViWtFA

2020-05-03 21:16:05
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天翔 @Tensyofleet

有体に言って、どこが劣っているのかよく分からない。むしろ4年の技術の進歩によって、航海速力16ノットを発揮するための主機が1基で済むようになった結果、船体重量に占める機関重量が減少して、より経済的になっている気がする。

2020-05-03 21:28:33
天翔 @Tensyofleet

実はこの記述、有吉義弥氏(1965(昭和40)年~ 日本郵船社長)の著書にも出てくる。2冊に略同様のことが書かれているので、よっぽど悔しかったに違いない。氏は1930年代、客船部門に注力する日本郵船の中にあって、貨物部門の重要性を主張していたようだ。

2020-05-03 21:37:53
天翔 @Tensyofleet

本によって数字が若干異なったりするが、その内容は次の2点。 1.「建造が遅れたのに性能は劣っていた」 2.「船価が霧島丸(※国際汽船の高速貨物船)180万円、畿内丸240万円に対し、長良丸は330万円で結果として採算性がよくなかった」

2020-05-03 21:46:22
天翔 @Tensyofleet

正直なところ、1は総トン数だけを比較した思い違いだろう。2については検証するだけの資料の持ち合わせがないが、満州事変(1931年9月)を挟んでいるだけにさもありなん、とは思う。

2020-05-03 21:49:33
天翔 @Tensyofleet

いずれにせよ、「性能が劣る」と評した郵船百年史の記述は信憑性に欠けるように思う。出典の明示がないまま、これがN級の公式な評価として後世に伝えられていくのは、どうにも受け入れがたい。 写真は蘭印に寄港中の6番船野島丸。 awm.gov.au/collection/C25… pic.twitter.com/mKsbXrViue

2020-05-03 22:17:58
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天翔 @Tensyofleet

大阪商船のニューヨーク航路主要貨物変遷表、単位は千トン。積荷が時代によって変化していく一方、往航と復航で積荷が全く異なる。また、この表はあくまで輸送トン数であって、どの積荷で輸送料収入を稼いでいるかは別に考える必要がある。 pic.twitter.com/7SrPOmTRrV

2020-05-03 23:23:36
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天翔 @Tensyofleet

こちらは日本郵船の主要輸出入品の運賃。1937(昭和12)年のN級船の消席率(=載貨容積に対する載貨実績の割合)は往復航とも平均93%、1隻平均収入運賃は往航31万4,900円余、復航16万900円余だったという。 pic.twitter.com/XMYa0VeNUZ

2020-05-03 23:41:12
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天翔 @Tensyofleet

重量あたり運賃の高い嵩張る貨物と、運賃の安い重い貨物。戦前北米航路の華と言えば生糸の輸送だけれども、このバランスを船に反映させるのは中々難しかったのではなかろうか。

2020-05-03 23:45:20
天翔 @Tensyofleet

日本郵船も北米ニューヨーク航路のN級、欧州リバプール航路A級と重構船(三島型船)を建造して、最後に世界一周航路のS級で遮浪甲板船(のち減トン開口を閉鎖して全通船楼船)を採用しているので、何か考えがあったのかもしれない。 写真はA級1番船赤城丸。 history.navy.mil/content/histor… pic.twitter.com/sqRzGUPJG2

2020-05-04 00:21:08
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天翔 @Tensyofleet

1937年10月13日、防波堤を交わしてパナマ運河大西洋側のリモン湾に入港する聖川丸(6,862総トン,川崎汽船)。戦前は米東海岸行きのニューヨークライナーとして、戦時中は水上機母艦として、また戦後に生き延びたことでも有名かもしれない。 history.navy.mil/content/histor… pic.twitter.com/R7wAk9JWKw

2020-01-06 21:04:39
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天翔 @Tensyofleet

さて、本船は「遮浪甲板船」である。そう書いてあるから間違いない。では「遮浪甲板船」とはなんであろうか? 昭和17年版 日本汽船名簿 其の1(上)(5) jacar.archives.go.jp/das/image/C080… pic.twitter.com/MmsyQx9nHe

2020-01-06 21:08:11
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天翔 @Tensyofleet

「遮浪甲板船」は『常設閉鎖装置を備えざる甲板口』を持ち、その開口部を持つ区画の容積を除外して総トン数を小さくするもの。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… pic.twitter.com/xcqcdbbs5e

2020-01-06 21:26:33
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天翔 @Tensyofleet

『常設閉鎖装置を備えざる甲板口』を通称「減トン開口」などと呼んだりするが、聖川丸の場合はこのハッチがそれ。通常、防水布と木の板で閉鎖されている。 history.navy.mil/content/histor… pic.twitter.com/N72aJjltgw

2020-01-06 21:46:17
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天翔 @Tensyofleet

図面上でも6番と7番の倉口に挟まれて存在するのが分かる。 J-STAGE Articles - 沈船聖川丸の修復工事に就て doi.org/10.14856/kansa… pic.twitter.com/dCE9ryF56B

2020-01-06 21:49:48
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天翔 @Tensyofleet

この減トン開口により、聖川丸の総トン数からは、図の青枠区画の容積が除外されている筈である。 pic.twitter.com/3HOR3TEHoY

2020-01-06 23:30:17
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天翔 @Tensyofleet

なお、遮浪甲板船は規程上必ず排水口を設けることになっているので、側面からでも判別可能な場合がある。 pic.twitter.com/hpyQyoKTU2

2020-01-07 21:20:41
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天翔 @Tensyofleet

遮浪甲板船が減トン開口を閉鎖して、全通船楼船になるとどうなるか。ここでA丸/B丸はそれぞれ霧島丸(国際汽船)/有馬山丸(三井船舶)なのだけれども、総トン数の増加に加えて満載喫水も増加、つまり載貨重量も増加する。 pic.twitter.com/HxtmQLLbQF

2020-05-06 12:25:45
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天翔 @Tensyofleet

遮浪甲板船が軽量貨物に特化した船型であることが分かると共に、戦前の高速貨物船は注意して見ないと大きさの判断を誤る可能性がある。 写真は戦後(1952年)撮影の有馬山丸。 searcharchives.vancouver.ca/m-s-arimasan-m… pic.twitter.com/o8doQsdKjc

2020-05-06 12:29:47
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天翔 @Tensyofleet

遮浪甲板船は日本の専売特許、という訳ではもちろんない。アメリカの標準船C1/C2/C3型も、遮浪甲板船として計画されている。写真はC3型のモーマックペン、図面中赤枠が減トン開口。 pic.twitter.com/JOQEj2sS6D

2020-05-06 14:41:32
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天翔 @Tensyofleet

C3型は長さ/幅/深さ:141.7/21.2/13.0m、8,500総トン、機関出力8,500馬力で航海速力16.5ノット(いずれも計画値)という要目で、本邦の高速貨物船と比べても遜色ない。まあ、これを戦争しながら230隻余り作ってしまった訳であるが。。。

2020-05-06 15:14:23
天翔 @Tensyofleet

8,500馬力の主機にはタービン1基1軸とディーゼル4基1軸があり、後者はBusch-Sulzer2サイクル7気筒4基を電磁継手と減速ギヤで1軸に繋いでいる。戦争しながら作る船かねこれ。。。 pic.twitter.com/Jca1HyTALt

2020-05-06 15:29:59
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