自分用まとめです
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良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

pixiv.net/users/357324silentsiren.yukihotaru.com くるっぷ crepu.net/user/kanfrog 成人済字書き絵描き。創作版権日常。妖怪/虫/ポケモン/DQ/長谷部沼、左右非固定燭へし推し。マシュマロ(Web欄)

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良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

光忠はある日、本丸の庭で弱った小鳥を保護する。灰色の羽に藤色の目、背中に瞳と同じ藤色の可愛らしいリボンをつけた、いわゆる「ちゅん族」。放って置けず甲斐甲斐しく世話をして、ちゅんはすっかり元気になった。光忠によく懐いてくれたけれど、時々寂しそうに空を見上げている。

2023-09-27 17:51:16
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

ある日の演練、光忠は受付で「尋ねちゅん」のチラシを目にする。半月ほど前から当本丸のちゅんが行方不明です、どんな情報でもいいからお待ちしています、備前サーバー常盤本丸まで、と。へし切長谷部タイプ、藤色のリボンをしています。 うちにいる子だ、と光忠は慌てて常盤本丸に連絡を入れた。

2023-09-27 17:51:19
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

常盤本丸で応答してくれたのはへし切長谷部、光忠の本丸にはいない刀だった。向こうの長谷部は電子端末越しに光忠の膝の上のちゅんを見るなり、「うちのちゅんだ」と安堵のため息をもらした。はせべちゅんも自分のへし切長谷部がわかるのか、リボンを揺らしながら画面に向かいちゅんちゅん鳴いている。

2023-09-27 18:09:10
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

「見つけた時はちょっと弱ってたけど、この通り元気だよ」「よかった、無事で……」不意に震えた声に驚いて見れば、へし切長谷部は泣いていた。ぽろりと一つ雫をこぼしてから、慌ててカソックの袖でそれを拭った。目の縁を赤くして、平静を装う。「すまん、見苦しいところを。……どうした、燭台切?」

2023-09-27 18:43:59
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

「……」「おい。燭台切、光忠?」「……あ、ああ、ごめん」「どうかしたのか」胸の動悸がおさまらない。光忠は、心臓が自分の肉の器の中に確かにあることを、顕現して初めて思い知っていた。顔はきっと耳まで赤いだろう。前髪を整えるフリをしてそれを隠し、光忠は言う。「大丈夫。なんでもないよ」

2023-09-27 18:47:13
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

まさか、本人の前では言えない。君の涙に、一目惚れしてしまったんだ、なんて。

2023-09-27 18:47:53
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

それから日を置かず、常盤本丸のへし切長谷部が光忠のもとを訪ねてきた。お礼の品と、ちゅん用キャリーを携えて。 てっきりはせべちゅんを運ぶためのものかと思って光忠がキャリーを覗き込むと、中にいるものと目があった。まるで光忠自身のような金の隻眼。それは、濃紺の羽のちゅんだった。

2023-09-27 19:39:46
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

「この度はうちのちゅんが大変世話になった。これはつまらないものだが、本丸の皆で食べて欲しい」長谷部は生真面目にそう言って深々と頭を下げた。「そんなに恐縮しないで。ちゅんくんと暮らせて僕も楽しかったから」「ヂュッ!!」キャリーの中からまるで光忠を咎めるように濃紺のちゅんが鳴く。

2023-09-27 20:08:23
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

「こら、やめないかみちゅ」 長谷部は鳥を嗜め、苦笑いした。キャリーの中の声を聞き、ちゅちゅん、とはせべちゅんが寄っていく。「よしよし、寂しかったなあ、はせべちゅん」「ちゅんくん達、ずいぶん仲良しなんだね」「ああ、こいつらはもう番になって長いからな」「つがい?」

2023-09-27 20:15:12
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

思わず繰り返す。あまり身近にはなかった言葉だったからだ。しかし口に出してみれば、割合すとんと心の中に落ちてくる。仲良しのつがいかあ、いいなあ。そう思ってしまったのは、目の前に長谷部がいるからだろう、きっと。「一羽きりになるのは久々だったろう。だいぶやつれてしまってな」

2023-09-27 20:19:10
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

「はせべちゅんのこと心配だったんだね」「そうだろうなあ」長谷部がふふっと笑う。その思いのほか幼い表情に、光忠の心は波立った。もっともっと彼のことを知りたい、見たい。もしも叶うなら、つがいに。そんな芽は全然なさそうだけど、でも諦められない。「ねえ、もしよければ、僕たちも」「ん?」

2023-09-27 20:24:44
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

「……せっかく知り合えたんだ。これを機に、長谷部くんも僕と友達になってくれないかい」「……俺、でよければ。ふふ、お前、変なやつだな」いいのだ、変なやつで。今は、まだ。

2023-09-27 20:25:17
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

初めてのデート(と、光忠は勝手に決めた)長谷部の本丸を光忠が訪ねた。ちゅん達の顔が見たい、という口実で。 常盤本丸は光忠の本丸の倍ほどの刀剣を擁する大所帯で、賑やかな雰囲気は光忠も嫌いではない。 当然本丸内も広く、長谷部の後に付いて客間に向かう途中にもいろいろな刀たちとすれ違う。

2023-09-27 21:26:08
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

「あれ、僕がいる」そう言ったのは極の燭台切光忠だった。出陣帰りか、黒い戦装束姿で立ち止まる。「新しく顕現したの」「ちがう、俺の客人だ」「ふうん?」まるで値踏みするかのようにこちらをじろじろ眺めていた極の燭台切は、笑って光忠に訊いた。「はせくんの彼氏かい?」「えっ」

2023-09-27 21:58:20
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

「あまり失礼なことを言うな。……お前の長谷部が待ちわびている、早く行け」「わかったよ。じゃあ他の本丸の僕、またね」背を見送りながら、長谷部がため息をついた。「すまんな、不快な思いをさせて」「全然気にしてないよ。うーん、嵐のような人だね」「悪いやつではないんだが」

2023-09-27 22:40:22
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

長谷部はどこかの槍のようなことを言って苦笑いした。「つがいが一振り目の長谷部だからか、俺にまで馴れ馴れしいんだ」「きみ、二振り目なの」「ああ」なるほど、だからあいつは長谷部くん、ではなくて『はせくん』と呼んだのだ。「俺を長谷部と呼ぶのは、お前くらいのものだ」

2023-09-27 22:42:58
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

「長谷部くんは長谷部くんだろう」光忠の語彙のない返答に、長谷部はさっきより幾分苦い笑いを浮かべた。 情報量が多い。極の僕。そのつがいが一振り目の長谷部くん。目の前の彼は二振り目の長谷部くん、通称『はせ』。「ねえ、もしかして燭台切光忠も二振りいたりするの」「いいや、あいつだけだ」

2023-09-27 22:47:48
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

光忠の本丸には二振り目がいない。主の方針としてもそうだし、そもそもそこまで本丸を拡大できる余力をまだ持たないからだ。自分と同じ刀が既にいる本丸に二振り目として喚ばれるのを想像してみる。やり易さもやり難さもありそうだが、結局は当事者ではないからよくわからない。

2023-09-28 06:57:57
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

前をゆく長谷部の背を見つめる。彼のことをもっと知りたい、その欲は深くなるばかりだ。凛とした姿には苦労のかけらも見えない。光忠が勝手に思っただけで、実際そんな苦労なんてないのかもしれない。でも、愚痴をこぼしてくれるくらいの仲になれたら。ああでも、この本丸の中だと言いづらいかな。

2023-09-28 06:58:54
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

客間に落ち着いた光忠に、ちゅんを連れてくると言い置いて長谷部は一旦去った。 金の隻眼と藤色リボンの睦まじい二羽を思うと頬が緩み、それから光忠は顔を顰めた。この本丸、燭台切と長谷部のつがいが二組もいるんじゃないか、と。

2023-09-28 07:00:04
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

はせくんは? 考えもしなかったけれど、もしも恋人がいたら。まさか、それも燭台切光忠だったら。ああ、でも今ここで聞けることじゃないな。 光忠が早くも次のデート(と言い張る)の算段を立て始めたところに、ちょうどちゅんを連れた長谷部が戻ってきた。「ずいぶん面白い顔をしてるな」「ええ?」

2023-09-28 07:03:35
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

「まるで福笑い?百面相?……ふふ、ふ」彼の何かにヒットしたらしく、長谷部は声を堪えながら笑っている。撓む藤色の瞳、桃色の頬、笑うと思いのほか高くなる声。かわいい、やっぱり好きだ、と思った。一目惚れしたのは泣いている姿だったけれど、彼は笑っているのが似合うな。

2023-09-28 07:06:24
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

格好悪くたって、長谷部くんが笑ってくれるならいいか。「いつまで笑ってるつもりだい。……ほらほら、早くちゅんくん達と会わせてくれないか」「ああ、すまんすまん」つがいのちゅんと遊んでやりながら、光忠は言った。「今度は僕の本丸においでよ。……みんなもはせべちゅんに会いたがっててさ」

2023-09-28 07:09:57
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

「そうか?」クールに、しかしまんざらでも無さそうに少しだけ目尻を下げて長谷部は言った。「そのうちお邪魔するか」「いつにする?」「あ、ああ。そうだな……」 ちゃっかりと次の約束を取り付けてから、光忠は常盤本丸を辞した。長谷部とちゅん達のために座布団でも新調しよう、などと思いながら。

2023-09-28 12:52:59
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

次に長谷部と光忠の非番が合った日、今度は長谷部が光忠の撫子本丸にやってきた。ちゅん保護の礼に来た長谷部を本丸の皆は好ましく思っており、撫子にはいない刀であることも相まって、男士にとどまらず主までもが彼(と、ちゅん達)を玄関で出迎えた。長谷部は熱烈な歓迎に面食らっていたものの、

2023-09-28 18:23:28
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

お出迎え感謝いたしますとすらりと告げて、主に手土産を渡した。常盤の歌仙と小豆の作った菓子らしく、とても美味いんですよ、と長谷部がささやかに自慢していたのが可愛らしかった。 つがいのちゅんは早々に短刀たちに攫われて、本丸中を案内されることになった。

2023-09-28 18:23:29
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

その間、長谷部は光忠の誘いで、光忠の部屋で時間を潰すことにした。短刀くんたちにはあとでお菓子を振る舞わないと。光忠はこの日のために新調したクッションを長谷部に勧め、自分はこれまた新調したラグマットの上で足を伸ばした。「うちの本丸は君のとこと違って狭いし、皆すぐ戻ってくると思う。

2023-09-28 18:23:29
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

楽にして待ってて」「かたじけない」「もっと肩の力抜いていいよ。今は僕と長谷部くんしかいないんだし」「ああ。……そうか。力んでいるように、見えるか?」「なんとなく、ね」「そうしたいわけではないんだが」長谷部は俯いた。もともとのへし切長谷部も、割にお堅くて生真面目な個体が多いと聞く。

2023-09-28 18:23:29
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

しかしそれを差し引いても常盤の長谷部は堅苦しさが目立つのだ。それに光忠はすでに彼の素の表情、本来は泣いたり笑ったり、感情豊かな姿を知ってしまっているからこそ、窮屈そうな態度がよけいに痛々しく映る。遅れて参陣した刀としての引け目や焦り?

2023-09-28 18:23:30
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

二振り目として、古参で主戦力であろう一振り目と比較されることへの苦しみ?何が長谷部をそうさせているのだろう。「君さえ嫌じゃなかったらちょくちょく遊びにおいで。へし切長谷部、なぜかうちの本丸とは縁が無くてね。今日も皆、君が来るのを楽しみにしてーー」

2023-09-28 18:23:30
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

そこまで言ったところで、光忠の部屋の障子がコツコツと揺れた。どうぞ、と言う間もなく、ちゅんを抱っこした短刀や脇差のみんなが部屋に雪崩れ込んでくる。「長谷部さん!」「はせべ!」「長谷部!」「ちゅんと本丸探検を」「お庭でかくれんぼをしました!」「おやつにミルクをあげてもいい?」

2023-09-28 18:23:31
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

めいめいが勝手に喋り出すものだから、何を言っているのかさっぱりわからない。「ちょっとみんな落ち着いて、静かにしよう。長谷部くんが困っちゃうだろーー」「あっはは」上擦った笑い声に、皆が長谷部を見つめる。長谷部はなんの屈託もない澄んだ表情で、腹を抱え、思いきり笑っていた。

2023-09-28 18:23:31
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

「ふふ、ふっ」「長谷部くん?」「ここの本丸は面白いな、光忠。みんな元気で、みんな自由すぎるほど自由で」「……長谷部くん」「そうだぞ!」「ほら、長谷部さんも探検行こ?」「花壇をお見せしたいです!」「馬も見てほしいな」短刀らに手を引かれ、長谷部が立ち上がる。

2023-09-28 18:23:32
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

「光忠、」助けを求めるように振り向く長谷部に、「行っておいでよ」と背中を押してやる。「お菓子とお茶の準備、しておくから」 部屋に残されたのは、光忠の二羽のちゅんだけ。「君のご主人、攫われちゃったね」「ちゅん」「でも、楽しそうだった」「ちゅん、ちゅん」

2023-09-28 18:23:32
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

「デートどころじゃなくなっちゃったけど、まあいいか。長谷部くん笑ってたしね」「ちゅん!」ちゅんの合槌に、何だか礼を言われているような気がして光忠は微笑む。 さて、拉致された長谷部はいったいいつ帰ってくるのか。光忠は皆のお八つを用意すべく、ちゅん達を肩に乗せて厨へと向かうのだった。

2023-09-28 18:23:33
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

案外押しに弱いと見えて、長谷部は撫子本丸で夕餉を取り、その後流れで始まった宴会にも巻き込まれ、結局はこちらの本丸に一晩泊まっていくことになった。 長谷部には手入部屋の隣の内風呂を使ってもらい、まだ住人がいない空き部屋へと案内する。多少酒が入って緩み、風呂上がりの長谷部は、

2023-09-28 20:32:02
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

彼に恋する光忠にはあまりに刺激的すぎた。「布団を持ってくるから、くつろいでいてね」「すまんな。ありがとう」へにゃん、と無防備に笑う長谷部を独り占め。布団なんか持ってきている場合ではないが、そうも言っていられない。可及的速やかに任務を果たそう、そして長谷部とおしゃべりでもしよう。

2023-09-28 20:33:51
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

布団を抱えて戻ると、廊下に微かに声が漏れている。「みちゅ、はせべちゅんも楽しかったか」「ちゅ」「ちゅん」「そうか。俺もだ」「ちゅ?」「ここでは俺みたいなやつでも『へし切長谷部』らしい」「ちゅ」「はせくん、じゃない。長谷部、なんだ……」光忠はその場から動けなくなり、廊下で固まった。

2023-09-28 20:38:44
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

長谷部が向こうの本丸にいる間、おそらく必死に隠していたであろう僅かな綻びを、光忠は聞いてしまった。へし切長谷部は、主のいちばんになりたい刀だと噂に聞いている。それが、彼はどうだ。生まれた瞬間から二番手のへし切長谷部。他の刀達がすでに極めている中、特もつかない新刃。

2023-09-28 21:02:50
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

彼が苦悩することなんて、考えなくても分かったではないか。いや、わかったつもりになっていた。大変だろうな。大所帯で苦労するだろうな。その程度には。結局それは、つもり、だったわけだが。「明日には常盤に戻るんだ。呆けてはいられんな」「ちゅん」「ちゅんちゅん」胸が張り裂けそうだった。

2023-09-28 21:03:47
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

ちゅん達がどうにも聴き慣れていて、彼は向こうの本丸でもいつもこうしてちゅんに悩みを聞いてもらっていたのではないか、その推測がすんなりと光忠の胸に落ちた。きっと長谷部くんは、主にも他の男士にもこんな弱音は吐かないだろう。彼が心を開けるのはちゅんだけ、なのかもしれない。

2023-09-28 21:09:17
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

そう思うと目の奥が熱く、ツンとしてくる。「そろそろ光忠が戻る。『へし切長谷部』らしく、しなければ」「ちゅん?」「ふふ、何だその顔」「ちゅんちゅん?」「どうせ俺は、」「……長谷部くん、お布団持ってきたよ。開けてもらえるかな」「あ、ああ、光忠。今開ける!」わざとらしかっただろうか。

2023-09-28 21:14:11
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

でももう聞いていられなかったのだ。頑張り屋で笑い上戸で涙もろくて。ちゅんをとても大切にしていて。そんな長谷部くんを、常盤本丸の皆はどれほど知っているのだろう。「まだ寝てなかったね、長谷部くん」「当たり前だ。まだ宵の口だろう」「もう少し暮れてはきてると思うけど」「そんなのは誤差だ」

2023-09-28 21:17:32
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

「まだ元気なら、僕の晩酌に付き合ってくれないかな」「俺は構わないが」「嬉しいよ。……長谷部くんがよかったら、厨に来ない? おつまみ、一緒に作ろう」「俺は、料理は」手伝わせてもらえなくて、と長谷部が小声で呟くから、光忠の涙腺はまたぐらつく。「教え甲斐があるよ」

2023-09-28 21:24:08
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

「そ、そう言ってもらえると、嬉しい」はにかむ長谷部の名を、彼に気づかれぬ程度に何度も、光忠は呼ぶ。「じゃあ行こうか、長谷部くん」ここにいる間はせめて、はせくん、ではなくて、へし切長谷部でいられるように、と。

2023-09-28 21:26:05
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

一度行き来してしまうと、次からは少しだけ会うハードルが下がった。とはいえ光忠が長谷部を訪ねる方が多く、長谷部はなかなか撫子本丸に来ようとはしなかった。いつか廊下で立ち聞きした声のことを考えるに、あまり撫子に馴染むと常盤での生活が辛くなるからかもしれない。

2023-10-01 07:34:20
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

けれど本当のところはわからない。友人となったとはいえ、まだそんなに柔らかいところに斬り込むほどは親しくなりきれていなかった。 それに、長谷部との関係が近くなるにつれ、光忠は自らの恋心が肥大していくことに気付かざるを得なかった。

2023-10-01 07:34:59
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

見つめたい、触れたい、できるなら彼にも自分と同じ心を持って欲しい。そんな自分勝手な思いに絡めとられることのないよう、光忠は自制のきく程度の距離を保つことを心がけていた。 長谷部が来ない代わりにと言っては妙だが、撫子本丸にははせべちゅんとみちゅがたまに顔を見せるようになった。

2023-10-01 07:35:33
良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

引率の長谷部なしで、である。 初めてはせべちゅんと出会った時のように弱ったりはしておらず、二羽とも機嫌がよさそうなのが幸いなのだが、光忠がその度に長谷部に連絡し、長谷部が慌てて迎えに来るというのが近頃の定番になっていた。

2023-10-01 07:36:09
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良崎◆6/16 文学フリマ岩手A-03 @kanfrog

一次・二次創作を書いたり描いたり。創作のことも日常のことも呟きます。漫画/ウクレレ/吹奏楽/妖怪/昆虫/ポケモン/DQ1〜6/シャウト/年の差/人外/楽天イーグルス/震災。twnovelは虫好き男子の恋愛物>サイトにまとめ。気軽にフォロー・リム・ブロックしてください。創作関係の方中心にフォローしてます。