【長文】日本における舶用機関としての焼玉機関の構造と歴史など
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天翔 @Tensyofleet

香川県は琴平、金毘羅宮の参道左手にある海の科学館。外壁に沿って無造作に置かれている焼玉機関。製造は電動工具じゃない方のマキタこと槙田鐵工所、本社は高松市。 kaiyohakubutukan.sakura.ne.jp pic.twitter.com/ITAOipqne4

2017-08-23 21:22:50
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天翔 @Tensyofleet

makita-corp.com/company/about/ ペイントで塗りつぶされてしまって読みにくいが、マキタセミヂーゼルと記された銘板。機関番号2947、出力100馬力/315rpm、製造は1955(昭和30)年3月のようだ。案内板は何もなかったと思うが、漁船の主機関ではなかろうか。 pic.twitter.com/yL9c9weoxA

2017-08-23 21:27:39
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天翔 @Tensyofleet

セミディーゼルの通称からも分かるように、ディーゼル機関と焼玉機関はその原理や構造などに似ている部分が多い。けれども、すでに過去の歴史の一部となった機械であるので、特に大型の焼玉機関の運用について知ることは難しい。

2017-08-23 21:39:47
天翔 @Tensyofleet

焼玉機関の所以たる焼玉が収められているシリンダーヘッド。左はバーナー欠、中央はカバー欠で中の様子が分かりやすいが、まさかわざとだろうか。。。中央後ろのパイプは排気管。 pic.twitter.com/XXfQT5YmMU

2017-08-23 21:49:38
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天翔 @Tensyofleet

クランク室。こんなにスカスカでいいんだろうかとも思うが、多分これで正規状態。3つの潰れたまんじゅうのようなものが吸気弁カバーで、これと本体の隙間から吸気する。 pic.twitter.com/GPM3df3Nxn

2017-08-23 21:55:42
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天翔 @Tensyofleet

焼玉機関は初期のものを除いて2サイクルで、クランク室圧縮を行う。つまり、ピストン下降時にクランク室内の吸気を圧縮して燃焼室に送り込み、ピストン上昇時にクランク室が負圧となるため、吸気弁が開いて吸気が行われる。なので2ストバイクのエンジンと同じで焼玉機関のクランク室は非常に小さい。

2017-08-23 22:00:05
天翔 @Tensyofleet

オオツカデイゼルのWebサイトに、過去に製造していた焼玉機関の写真がある。製造年代までは分からないけれども、配管はこうなっていたんだなぁと思う。 otsuka-diesel.co.jp/history/ pic.twitter.com/AglrWoJP8w

2017-08-23 22:06:41
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天翔 @Tensyofleet

焼玉機関の断面図。こちらは焼玉機関としては最大級の出力だけれども、構造は同じ。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… pic.twitter.com/KensHSYQlC

2017-08-23 22:18:36
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天翔 @Tensyofleet

この700馬力焼玉エンジンを載せた船が気になって、少し調べていた。 twitter.com/Tensyofleet/st…

2017-09-06 01:07:14
天翔 @Tensyofleet

国立国会図書館デジタルコレクション「国産機械図集」より、700馬力舶用焼玉機関(コマ番50/169)。焼玉機関と言えば戦標船2E型の一部に用いられた380馬力が有名だが、こちらはほぼ倍の出力。凸型のピストン形状が確かに焼玉機関。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… pic.twitter.com/ChxLkn9X76

2017-05-16 20:58:46
天翔 @Tensyofleet

どうやら、少なくとも1台は伏見丸(1,230総トン,尼崎汽船)に載っているらしい。(22/50) 国立公文書館 アジア歴史資料センター jacar.archives.go.jp/das/meta/C0805… pic.twitter.com/bDXaYQh7L1

2017-09-06 01:10:06
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天翔 @Tensyofleet

エンジンの要目からして間違いなさそうだが、船体の方は「製造年月日」は空欄だし、「日本船名録」の製造欄は不詳だしでよく分からない。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid…

2017-09-06 01:12:50
天翔 @Tensyofleet

色々総合するに、こちらの"THALES"という船の機関を換装したものらしい。建造年1864年。。。あるいは文久3年と言いますか。 clydeships.co.uk/view.php?ref=5…

2017-09-06 01:16:07
天翔 @Tensyofleet

同船は1945(昭和20)年4月、六連島沖で触雷により沈没している。まだ海底に眠っているのかもしれない。 「なつかしい日本の汽船」でも船影付きで紹介されている。 jpnships.g.dgdg.jp/company/oginok…

2017-09-06 01:19:35
天翔 @Tensyofleet

舶用焼玉機関についてその発達を一言で述べるとすれば、当初は注水式であったものが無注水式となり、ディーゼルエンジンに取って代わられるまで小型舶用機関として一世代を築いた、といったところだろうか。 pic.twitter.com/HiFjtblThm

2017-09-06 22:21:13
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天翔 @Tensyofleet

焼玉エンジンは、その名のとおりシリンダー上部に焼玉と呼ばれる球状の燃焼室兼燃料気化器を持ち、ここに燃料を噴射して焼玉の熱と圧縮熱によって着火するものである。製造元の会社によって燃焼室の形状や燃料噴射弁の配置が異なり、それぞれの会社の名を冠して「○○式」と呼ばれていた。

2017-09-06 22:26:07
天翔 @Tensyofleet

一応解説などしてみると、青い部分が吸気口(掃気口)にあるシリンダーへの注水機構で、クランク室で圧縮された空気が吸気口を通ってシリンダ内に入る際、同時に清水(非常時海水)を送り込むもの。吸気の通路として、ピストンの一部に切り欠きが設けられているのが分かる。赤が焼玉への燃料噴射機構。 pic.twitter.com/UZ97hc8LO2

2017-09-06 22:42:43
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天翔 @Tensyofleet

製造会社による焼玉の形状の差異。ミーツワイスはミーツアンドワイス社(英)で、こちらはむしろ小型エンジンに用いられた逆転機の製造会社として有名なのではなかろうか。ボリンダ―式に「着火栓」とあるが、これは言ってみればただの中空のピンで、焼玉加熱時に熱伝導を良くして着火性を上げるもの。 pic.twitter.com/zhUPdbfauo

2017-09-06 22:53:56
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天翔 @Tensyofleet

(英)ではなく(米)ですね。。。

2017-09-06 22:57:59
天翔 @Tensyofleet

すでに坂上先生ご指摘済みではあるが、これからも昭和造船史第1巻P120の第60図(ミーツアンドワイス型)と61図(ボリンダ型)の図面が入れ替わっているのが分かる。

2017-09-06 22:56:44
天翔 @Tensyofleet

そもそも何故焼玉機関に注水が必要であったかというと、焼玉の温度をコントロールするためであった。構造の簡便さゆえに点火時期を直接制御する機構を持たない焼玉エンジンは、焼玉の温度管理によって間接的に着火を制御しており、焼玉が過熱すると過早爆発を起こしてしまうからである。

2017-09-06 23:04:18
天翔 @Tensyofleet

やがて注水式が廃れていく理由として、燃料に重油を用いると含有する硫黄分と注水した水が反応して硫酸が生成され、摩耗が激しくなるためである。燃料と注水量は通常1:1程度の割合というのが建前であったようだ。

2017-09-06 23:11:10
天翔 @Tensyofleet

焼玉機関を装備した漁船や小型貨物船は、その運航の性質上往々にして過負荷運転を強いられることがあり、また注水量を増やせば出力も向上する(水が酸素と水素に分解される)こともあって、時として1:2~3になったようだ。為に機関の摩耗が進み、燃料消費も増大するという悪循環があったという。

2017-09-06 23:16:25
天翔 @Tensyofleet

焼玉エンジンについてなんぞ書こうかと思ったのだが、例によってすでに坂上先生が(趣旨は若干異なるけれども)書いていたのでもういいかなと思う。でもDL回数4回のうち2回は私なので、みんなもっと読もう。 dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/il/meta_pub/G0…

2017-09-06 21:27:39
天翔 @Tensyofleet

こちらはボリンダ―社(瑞)の注水式焼玉機関の断面図。ピストン上面が斜めになっているのが気になるが、こうなっている理由については未見。注水を排気孔に逃がすためかとは思う。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… pic.twitter.com/gHrd1chQnt

2017-09-06 22:33:55
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天翔 @Tensyofleet

引き続きこれの使い方を探してたのだけれども、いくつか焼玉機関の組立図を眺めていてもそれらしいものがない。 twitter.com/Tensyofleet/st…

2017-09-10 21:49:19
天翔 @Tensyofleet

戦前の雑誌「漁船機関」(だったかな?)の広告。始動にバーナーが要る機関なんてそうそうない訳で、焼玉機関始動用なんだろう。使い方がよく分からないのだけれども、バーナーの代わりにこれで焼玉を加熱するのかしらん。 pic.twitter.com/pRSX3a25P7

2017-08-26 16:13:12
天翔 @Tensyofleet

どうやらこれに装填されて焼玉エンジンの冷間起動に用いられてしかるべきものではないか、と思うのだが、やっぱりこれを図面上に記したものがない。 pic.twitter.com/yJg0WyeCAz

2017-09-10 21:52:00
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天翔 @Tensyofleet

3 「マッチと軽火工品」に始動薬、冷始動薬などとして名残があるけれども、もはや持ち込まれることはあり得ないと思う。法令上制定されているから未だに残っているのだろう。 jreast.co.jp/ryokaku/beppyo…

2017-09-10 21:56:14
天翔 @Tensyofleet

焼玉エンジン900馬力/6気筒(神戸発動機)、700馬力/5気筒(日本発動機)ときて、3番目の600馬力/4気筒(神戸発動機)を載せた船がこちら、生田丸(485総トン,共立海運)。1気筒当たりの出力は150馬力で900馬力と同じ。 pic.twitter.com/f0Dl6wqkz8

2017-09-10 22:42:11
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天翔 @Tensyofleet

どうも900馬力は大阪丸/兵庫丸、700馬力は伏見丸だけのようだが、600馬力は5~6隻に載っているらしい。生田丸の要目はこちら。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… pic.twitter.com/KAeuX0oyUw

2017-09-10 22:44:38
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天翔 @Tensyofleet

600馬力焼玉機関搭載船、住吉丸(480総トン,神戸桟橋)、長田丸(479総トン,神戸桟橋)、廣田丸(479総トン,神戸桟橋)と、いずれも運航会社が同じで建造は笠戸船渠、機関製作は神戸発動機となっていて面白い。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid…

2017-09-10 22:52:09
天翔 @Tensyofleet

あ、蛭子丸(490総トン、神戸桟橋)忘れてた。これで5隻かな、要目を見るに、いずれも同型船のようである。笠戸船渠の社史は戦前建造船かなり省略してるのでよく分からないんだよね。。。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid…

2017-09-10 23:04:14
天翔 @Tensyofleet

じゃあ諸外国ではどうだったんだ、というと、デンマークで450馬力2基を搭載した"Djursland(1934)"というフェリーがいたらしい。 CiNii 論文 - 大馬力のセミヂーゼル機 ci.nii.ac.jp/naid/110003874… pic.twitter.com/4E27Ntam3d

2017-09-10 23:19:55
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天翔 @Tensyofleet

焼玉機関はその始動方法上むしろ寒冷地である北欧でよく用いられたらしいが、どれほどの普及率であったのかはよく分からない。とはいえ、客船に用いた例はあまりないように思う。

2017-09-10 23:23:10
天翔 @Tensyofleet

まあこの辺りだと2サイクルディーゼルという扱いになっているくらいだし、あまり一般的ではなかったのだろう。同船は1942年にドイツに徴用されて”Wiking”となった後、同年英空軍の爆撃により沈没しているようだ。 kwmosgaard.dk/ferries/djursl…

2017-09-10 23:25:01
天翔 @Tensyofleet

焼玉エンジンの始動薬始動機はどうやらこんな感じらしい。始動薬は直径約10mm、長さ約65mm、硝酸バリウムを主成分とし燃焼時間35秒程度とのこと。 pic.twitter.com/UHmdkQ2wp9

2017-09-15 21:58:00
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天翔 @Tensyofleet

始動薬に点火して挿入し、20~30秒加熱した後に始動操作、とのことなので、やはりバーナー代わりの加熱器といったところだろう。バーナーに比べて加熱範囲が小さいので焼玉の寿命は長くなるものの、燃焼カスがシリンダ内に落ちるので摩耗が早いとの評価のようだ。

2017-09-15 22:01:35
天翔 @Tensyofleet

アジ歴にこんな資料がある。 表紙「舶用30馬力焼玉機関研究原簿 昭和19年12月~昭和20年6月」 jacar.archives.go.jp/das/image/C140… pic.twitter.com/Jers4qoOOz

2017-09-15 22:14:06
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天翔 @Tensyofleet

一言で言うと大発用の2気筒30馬力の焼玉エンジンなのだけれども、図面には「冷始動式三〇馬力焼玉機関」との表記がある。 pic.twitter.com/GjLeN0ODgT

2017-09-15 22:16:41
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天翔 @Tensyofleet

始動方式は『「カートリツヂ」或いは焼玉に依り』となっており、焼玉の冷始動(冷間始動)と言えば概ね始動薬を用いたものを指す(他に電熱式や化学式もあるが)ので、同様の方法で始動するものなのだろう。 pic.twitter.com/TUnSz2JQP8

2017-09-15 22:22:37
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天翔 @Tensyofleet

でもやっぱり、始動薬始動機は図面にないのだな。。。 pic.twitter.com/HQvzsCl0v1

2017-09-15 22:25:59
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天翔 @Tensyofleet

登場当初、焼玉機関はすべて注水式であったので特に問題はなかったが、注水式に遅れること十余年、シリンダ内への注水を不要とするものが現れたため、それぞれ「注水式」「無注水(無水)式」と冠して呼ばれるようになった。 pic.twitter.com/UVJEdM6kdQ

2017-09-18 19:46:25
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天翔 @Tensyofleet

注水式と無水式で最も大きく異なるのは燃料である。前者が軽油を用いていたのに対し、後者は重油の使用が可能になった。折しも欧州大戦の頃で軽油の値段が高騰しており、市場からの要求に拠るところが大きかったようだ。 twitter.com/Tensyofleet/st…

2017-09-18 19:49:10
天翔 @Tensyofleet

注水式には他にも欠点があり、燃料と同量以上の清水を搭載しなければならい、注水によりシリンダ内が潤滑不完全となりやすく摩耗が早い、負荷に応じて注水量を加減するために人による監視が必要、などが挙げられる。

2017-09-18 19:52:07
天翔 @Tensyofleet

ボリンダ―社(瑞)式の無注水式焼玉機関の断面図。無水式に比べ、ピストン形状と燃焼室の形状が異なる以外大きな違いはないようにも見える。 pic.twitter.com/0tST6kaJz6

2017-09-18 19:57:15
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天翔 @Tensyofleet

こちらも一応解説などしてみると、青色のシリンダーヘッド(焼玉下部)に水冷用のウォータージャケットが設けられているのが無水式との大きな違い。また吸気経路の緑色部分に吸気量を調整する弁が設けられており、シリンダへの空気の量を調整して特に低回転時の焼玉の温度低下を防ぐもの。 pic.twitter.com/mM7X2LtXnJ

2017-09-18 20:03:41
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天翔 @Tensyofleet

焼玉付近の拡大図。燃料ノズル付近にも冷却水が循環しているのが分かる。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… pic.twitter.com/VFSTFI6D6l

2017-09-18 20:09:22
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天翔 @Tensyofleet

注水式と同じく無注水式の燃焼室も各社がさまざまな方式を開発し、何種類かは日本でも製造されて用いられたものの、昭和初期にはほぼボリンダ―型にほぼ統一され、以後日本での焼玉エンジンはすべてこの方式を採用しているようだ。 pic.twitter.com/0cPbq2IymW

2017-09-18 20:16:22
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天翔 @Tensyofleet

なお、注水式のシリンダーヘッド周りだけを交換して無注水式に改造することもできたようである。 pic.twitter.com/kamcfFd2n7

2017-09-18 22:23:11
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天翔 @Tensyofleet

日本における舶用焼玉機関は、小型ディーゼル機関がなかなか普及しなかったこともあって、昭和30年代の半ばまで漁船などの小型船に用いられ、高い普及率を占めていた。一方で、戦前の一時期に大出力の焼玉機関が登場したこともあった。 twitter.com/Tensyofleet/st…

2017-09-18 22:48:44
天翔 @Tensyofleet

では日本最大の焼玉機関は何馬力かというと、おそらく昭和10年に製造された神戸発動機の900馬力で、世界最大ともいわれたようだ。これを載せたのが 兵庫丸と大阪丸の姉妹船2隻(神戸桟橋,1,471総トン)。なんとも味わい深い船橋である。 archive.hnsa.org/doc/id/oni208j… pic.twitter.com/abB7kTnr6z

2017-05-16 21:08:15
天翔 @Tensyofleet

1935(昭和10)年製作、神戸発動機製6気筒900馬力無水式焼玉機関。空気起動逆転装置を持ち、焼玉の予熱にはバーナーを廃して電熱栓を用い、30秒で起動可能であったという。 pic.twitter.com/xbWYurMlVD

2017-09-18 22:55:02
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