さんごが語るお話。
0
さんご🐟さん @_sango_sun

「これは今で言うウルダハにいた少年のお話。 ウルダハって色んな国から色んなものが来るよね。香辛料とかはもちろんだし、お皿に宝石に…。昔は東方からの着物とかも流れてたんだよ。あ、今でもか。 そんな昔、とある豪商が、遠い国から持ってきた色んな品々を売ってたんだ。

2019-09-13 20:33:22
さんご🐟さん @_sango_sun

本当に色々だったよ!龍の絵が彫られた壺に、色鮮やかな布、あとは刀。今でこそ三国でも見かけるけど、昔は全く知られてなくてね、すごい珍しかったんだよ。だから、いつのまにかすごい人だかり。 あれも見せて欲しい、これも見せてほしい。商人は大忙し。

2019-09-13 20:33:23
さんご🐟さん @_sango_sun

そんななか、ひとつだけ後ろの荷物に埋もれてるものがあってね。 『あれはなにかしら?』 目ざとく見つけた人が商人に聞いたんだ。 『ああ、あれは東方で仕入れた代物でしてね。中に猿の手のミイラが入ってるんですわ』 そう言って商人は後ろの荷から木箱を取り出すと、蓋を開けて中を見せた。

2019-09-13 20:33:23
さんご🐟さん @_sango_sun

きゃあとか悲鳴も上がったけど、それ以上に物珍しさでみんな釘付け。 『なんでも、3つだけ願い事を叶えてくれるとか。ただ、もう使った後で残ってる願いは1こだけとか。ああ、売り物じゃないんですよ』 お金を出そうとした客を見て、商人は慌てて否定したよ。 『手放すにはちょっとねぇ…』

2019-09-13 20:33:24
さんご🐟さん @_sango_sun

商人が苦笑いをしてると、人混みからにゅっと腕が伸びてね。 『あっだめだ!』 あれよあれよと、箱ごと持ってかれちゃったんだ。 『へへっ、しめたしめた。1個でも願い事が叶えられりゃ十分だ』 盗んだのはまだ若い少年。彼は家が裕福な、いわゆる貴族でね。だけど厳しい教育にほとほと嫌気がさして、

2019-09-13 20:33:24
さんご🐟さん @_sango_sun

たまにこうやって家から抜け出してほっつき歩いてたんだ。 『何を叶えてもらおうかな』 彼は盗んだ後、物陰にこっそり隠れてうんうん唸った。 『そうだ!俺を自由にしてくれ!狭い部屋でひたすら勉強なんてもううんざりだ!』 悩み抜いた末、彼は猿の手にそう願った。けれど、特に何か変わるでもなし。

2019-09-13 20:33:24
さんご🐟さん @_sango_sun

『なぁんだ、嘘っぱちじゃないか』 少年はため息をついて、家に帰った。そしたら、なんだか様子がおかしくてね。 『早く水を持ってこいー!』 『中にまだ人がいるぞ!』 ぱちぱちと弾ける音が辺りに響いていて、慌ただしく人が行き交っていたんだ。

2019-09-13 20:33:25
さんご🐟さん @_sango_sun

なんだなんだと慌てて駆け寄った先には、炎に包まれた一軒の家。 そうそう。少年に盗まれたあと、商人が困った顔をして、こう言ったんだ。 『あの猿の手はですねぇ、良くない方法で願いを叶えるらしいんですわ。だから、お客さんに売れるようなものじゃなかったんだけどなぁ』」

2019-09-13 20:33:25

作者のオススメ