母の形見の楽器を直してくれた鍛冶職人へきちんと御礼の品を贈ったほうがいいとリュウから提案されたリチャードは、ひょんなことから沼地に詳しい蛙人族の少年・フロログと知り合い、口にした全ての人が大喜びすると言う幻のキノコを求めて未知の森へ入ることに。 新たなる仲間・フロログとの冒険が始まる!
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

やがて大きなキノコの根本にたどり着くと、一行に背を向ける形で佇む女性の姿が目に入った。 大きなキノコのかさをかぶり、まるで木の皮のような皮膚をした背の高い女性だった。 「おーい、姉さん!」 フロログが女性に向かって声を上げると、女性はゆっくりと振り返った。

2021-06-29 22:08:45
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「まあ、フロログ、久しぶりね。 …それに」 一行に対峙した女性は…森の番人マイコナは見なれぬ二人を見廻した。 「はじめまして、ペンドラゴン家のリックと申します。 王都の郊外から来ました」 帽子をとってリチャードが頭を下げる。 「あたしリュウ、紅の森から来たんだ!」 リュウもそれに続く。

2021-07-02 00:33:58
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「二人ともオイラの友達…でいいんだよな?」 二人を見回して言うフロログ。 和やかな雰囲気ですっかり意気投合していたが、思えば今日さっき出会ったばかりの三人なのだ。 「ああ、もちろん」 「え、あたしはとっくにそーだと思ってたんだけど」 なんだかおかしな感じがして、笑って返す二人。

2021-07-02 00:34:45
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「いやー、さっき会ったばっかなんだけどさ、なーんかそんな気がしなくて!」 ケラケラ笑うフロログへ、 「お父様の言いつけどおりお友達が増えているのね、いい事だわ。 ところで今日はどんな御用? 見たところお父様のお使いということではないようだけど」 一行を見回してマイコナが言う。

2021-07-02 00:35:38
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「や、それがさ、リックとリュウはある人にお礼のプレゼントをしたいらしいんだけどいいものがなくてさ。 だからきっとあのキノコなら喜んでもらえるんじゃないかと思って連れてきたんだ」 フロログはもう何回目かになる説明をマイコナにした。 「あのキノコ…ヤミ茸のことね」 頷くマイコナ。

2021-07-02 00:36:31
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「え、なんか名前怖くね?」 リュウが表情を曇らせる。 「そんなことないよ、人間の市場にも出回ってて美味いから余所の人間が勝手に取らないように姉さんが見張ってるんだぞ」 胸を張るフロログに、 「現物を見てもらった方が早いと思うわ。 付いてきなさい」 森の奥に歩み出しマイコナが手招きした。 pic.twitter.com/QVNMunrBFG

2021-07-02 00:37:33
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マイコナにつれられてやってきたのは森の奥の更に開けた場所だった。 そしてその開けた地面に小さな赤い玉のようなものが無数に落ちている。 「あった、これこれ!」 それを一つ手で毟るとフロログは二人にそれを見せた。 …赤い玉のようなものは赤くまんまるな傘の小さなキノコだった。

2021-07-03 14:50:23
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赤いボールのような傘に小さな白い水玉模様のような斑点がある可愛らしいキノコだ。 先のおどろおどろしい名前とは正反対の見た目だ。 と、 「それ、グランドフィーストじゃないか!」 驚いたようにリチャードが声を上げた。 「ぐらんどふぃーすと?」 小首を傾げるフロログとリュウ。

2021-07-03 14:51:02
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「城の出入りの業者くらいしか入手できない超高級食材だよ。 宮廷料理のテーブルにも並ぶキノコで、栽培も難しいから普通は市場には並ばない珍しいキノコなんだ」 コロンとしたボールのようなそのキノコを手に載せリチャードはあたりを見回した。 「信じられない…こんな大量に自生してるだなんて…」

2021-07-03 14:51:42
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「だからこのキノコを独り占めしようとたまに良くない人たちが森に入るのよ。 少し採っていく分にはいいんだけど、そういう人達は大抵が根こそぎ持っていってしまうわ。 ヤミ茸は干せば保存も利くからお金になるんでしょうね」 険しい顔でマイコナが言う。 「このキノコは森に住むみんなのものなのよ」

2021-07-03 14:52:13
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「本当にそんな大切なキノコを僕らみたいな余所者に分けていただいでよろしいのですか?」 リチャードは神妙な面持ちでいうとマイコナは、 「フロログのお友達ですもの。 それに恩あるの方への贈り物なんでしょう、そういうことなら数を守ってくれれば持っていってくれて構わないわ」 笑って答えた。

2021-07-03 14:52:47
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マイコナはリチャードに小さな手籠を手渡した。 「この籠に入るだけ持っていって。取り尽くすともう生えてこなくなってしまうから数を守ってね」 「こんなにたくさん!ひとつ、ふたつでも相当な値打ちなのに!」 驚いて声を上げるリチャードへ、 「だから帰りは悪い大人に取られないようにね」

2021-07-03 14:53:14
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3人がかりでキノコを摘むとすぐにカゴはヤミ茸でいっぱいになった。 そのうちの2〜3個ずつをリュウが日頃世話になっているアンナに、フロログは父に持って帰ることとなった。 「これで結構です、ありがとうございました」 手籠の蓋を閉めるとリチャードはマイコナに礼を言う。

2021-07-03 14:54:22
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「どういたしまして。 ただ、この場所のことは他の人達には内緒にしてちょうだい。 そうしないと部外者に森を荒らされてしまうからね」 「約束します、こちらのことは内密に…」 マイコナの言葉に頷く一行。 「それとこの奥の谷から安全に森の外に出られるわ。 道はフロログが知っているはずよ」

2021-07-03 14:55:01
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「フロログ、帰りはあなたに任せて大丈夫かしら」 「カエルが泣いたら帰ーえろってな!任せとけよ!」 マイコナの言葉に笑って返すフロログ。 「それじゃ、みんな気をつけて帰るのよ。 フロログ、お父様によろしくね」 「がってんだ!」 ガッツポーズで答えるフロログ。 一行にマイコナは手を降った。

2021-07-03 14:56:06
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銘々マイコナに頭を下げ、一行は谷を流れる沢を下っていった。 やがて沢は小さな山道に出て、そこから人里が見えた。 どうやら東の山裾の村の側らしい。 「いやー、なんか大冒険だったなあ」 リュウが茜色の空を眺めて言った。 「本当に。俺も長いことこの国に住んでるけどあんな景色初めて見たよ」

2021-07-03 14:56:59
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と、 「あー、でも今度はマイコナさんになんかお礼持ってかなきゃだめじゃないかこれ。 うちら恵んでもらっただけじゃん」 難しい顔でこぼすリュウ。 「永遠のお礼ループだなそれ」 苦笑いするリチャードの横でフロログが肩をすくめる。 三人の笑い声が夕暮れの涼しい風に乗って森に響いていった。

2021-07-03 14:58:20
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【Ⅳ】 「いやー、びっくりした!めっちゃくちゃ美味かったあのキノコ!」 翌朝、東の山裾の小川のほとりで待ち合わせしたリチャードとフロログに、開口一番リュウはそう言い放った。 「だから言ったろ、あれならきっとその恩人て人も喜んでくれるって!」 リュウの反応にフロログもご満悦だ。

2021-07-04 00:33:38
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昨晩持って帰ったヤミ茸をアンナがスープに仕立ててくれたのだが、二人は驚きでテーブルをひっくり返す勢いだったそうだ。 いつものスープがまるで別物、高級料亭で饗されるご馳走に大変身したと鼻息も荒くリュウは語った。 「それならお礼に不足はないな」 リチャードも頷く。

2021-07-04 00:36:50
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「ところでその恩人って人はどこにいるんだ?」 フロログは頭の後ろに手を回しながら二人に問うた。 「そうか、フロログにはまだ話してなかったんだな。 この山道の先に鍛冶場があるんだ、こっちだよ」 リチャードは道の先を指差すと山道を歩き出した。 「え…?山の鍛冶場?」 フロログが独り言ちる。

2021-07-04 00:40:46
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先日と同じように山道を行くとやがて小山のような鍛冶場の屋根と煙突が見えてきた。 と、 「あぁッ!やっぱり!」 言うが早いかフロログは我先にと二人を置いて走り出した。 「あ、おい、どーしたんだよあのカエル野郎!」 リュウが声を上げると二人は慌てて後を追った。

2021-07-04 00:47:05
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やがて二人がフロログを見つけた頃にはフロログは鍛冶場の前で見慣れた男と話をしていた。 小山のような大柄な体に半身を覆う刺青、革の前掛けに優しい目をした大男…鍛冶屋の主人だ。 「おいフロログ、どーしたんだよ急に一人で走り出しやがって!」 息を切らしてリュウが唇を尖らせた。

2021-07-04 00:50:55
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「この間の仔山羊のお嬢ちゃん…フロログの友達だったのか」 少し驚いたように、だが明るい声で男は言った。 「え?!フロログ、お前おっちゃん知ってんの?!」 意外な事実に素っ頓狂な声を上げるリュウ。 「おうよ、ベアのおっちゃんはオイラの父ちゃんの友達さ、卵の中にいた頃から知ってるんだぜ」

2021-07-04 00:54:12
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「こいつの親父さんとは長い付き合いでな」 男は笑ってフロログの頭を無造作に撫でた。 と、 「ごめんください、連れが失礼を」 少し遅れてリチャードも合流した。 「先は楽器の修理をありがとうございました。実は今日はお礼の品をお持ちしました」 帽子を取り男に頭を下げるリチャード。 と、

2021-07-04 00:56:51
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「…やっぱりそうだったか」 男はリチャードの顔をしげしげ見つめ独り言ちた。 「フロログの案内で森で取ってきた食用のキノコです。お口に合うと良いのですが…」 言って男にヤミ茸が満載の籠を手渡す。 「ヤミ茸か!こいつはありがたい、俺はこれに目がなくてな!」 破顔一笑、男は嬉しそう言った。

2021-07-04 01:00:16
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「こんなにたくさん…集めるのも大変だったろう」 籠に満載されたヤミ茸に目を落とし、男は目を細めた。 「そんなことねーよ!オイラのコネでチョチョイのチョイだぜ!」 自慢気に笑うフロログを知り目に、 「わざわざありがとうよ、大事に味わわせてもらうよ」 男はリチャードに頭を下げた。

2021-07-04 01:03:05
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

と、 「ちょっと待っててくれよ」 片手を前に突き出す仕草をすると、男は鍛冶屋に入って言った。 そして数分後… 「なんスか親方、俺に客って。 家の奴らには来んなって言って…あっ!」 まさかここで聞くはずのない声がして「彼」とリチャードは同時に声を上げた。 pic.twitter.com/pjrjMt1uyL

2021-07-04 01:06:05
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「え?!り、リックが二人?!」 「こりゃどーいうことだ?!」 事情を知らないリュウとフロログはおろか、まさかの場所で片割れと出くわした双子の王子もこれには度肝を抜かれた。 「アンジー、お前どうしてここに?!」 「っつーかリック、こんな所に何しにきたんだよ?!」 騒然となる鍛冶場前。

2021-07-04 22:31:41
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「なんでってお前、手紙に書いたじゃねーか…って、そうか、此処からじゃまだお前んとこに届いてねえのか…」 頭を掻きながらアンジェロは独り言ちた。 「あの、ご主人、その、弟が…」 状況が上手く飲み込めずさしものリチャードも言葉に詰まる。 「弟?!」 驚きの声をハモらせるリュウとフロログ。

2021-07-04 22:32:33
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全く状況を理解できていない若者達の様子を笑う男。 「やっぱりお前さんがアンジーの兄さんだったのか。 ついこの間お前さんがうちに来てすぐ、アンジーは訳あってうちの工房に弟子入りすることになってな」 ぽん、と新弟子アンジーの肩に手を置く鍛冶屋の男。

2021-07-04 22:33:37
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「おいリック、お前気安く口利いてるけどこの人ぁ当代一の刀鍛冶、名工ベアンハートだぞ! もうちょっとその辺気ィ使って…」 「知ってるぞ!こないだ聞いたもん」 アンジーの言葉に割って入るのはリュウだ。 アンジーは初めて見るその見慣れない身なりの少女に目を丸くした。

2021-07-04 22:34:23
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「マジかよ、お前、女遊びまで…」 「ち、違う、そんなんじゃないよ!…彼女はリュウ。東大陸から来た俺の友達なんだ」 改めてリチャードがリュウをアンジェロに紹介する。 「こっちはフロログ、昨日知り合ったばかりの新しい友達だ」 リチャードが言うのへフロログは満面の笑みをアンジェロに向けた。

2021-07-04 22:36:08
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「で、彼はアンジー。俺の双子の弟なんだ」 今度は二人に向けてアンジェロを紹介するリチャード。 「うちの泣き虫リックが世話ンなってるみてぇだな、よろしく頼むぜ!」 腕組みして気取ってみせるアンジーに、少しだけベアンハートが吹き出す。 「何笑ってんだよおっさん!」 「いや悪いな、つい…」

2021-07-04 22:36:52
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

この間これ以上ないほど格好悪いところを見られた身として赤面しながら喚くアンジェロ。 そんな二人のやり取りを頭に疑問符を浮かべて見つめる三人。 「まあ、ともかくだ」 場を切り替えるようにぱん、と手を鳴らしてベアンハートが声を上げた。

2021-07-04 22:37:27
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「これだけたくさんもらったキノコだ、半分は乾燥させて保存するとして、今日はこいつでシチューやソテーでも作ってみんなでランチと洒落込むか」 満載された籠から一粒ヤミ茸を取り出すとベアンハートはリチャードたちを見回して言った。 「え、いいんですか?!」 リチャードが上ずった声で問う。

2021-07-04 22:40:43
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「っつーかこれグランドフィーストじゃねぇか!おいおいマジかよ、なんでこんなすげぇもん…」 リチャードと同じ反応で返すアンジェロを見て、 「リックとおんなじこと言ってら!」 「やっぱ双子だな!」 リュウとフロログが笑い声を上げた。

2021-07-04 22:42:57
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「よし、少し早いが飯の支度だ。 アンジー、お前も手伝え」 「よしきた!」 ベアンハートが言うのへ腕まくりをしてアンジェロは答えた。 そんな二人の後姿を見つめながら、リチャードは少しだけ羨ましくなった。 心から尊敬して教えを請える、甘えられる存在が今のアンジェロにはあるのだろう。

2021-07-04 22:45:34
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

こうして沼地の奥から持ち帰った幻の食材・ヤミ茸は安いモツの煮込みと屑肉の炒め物を美食家も唸らせるご馳走に変え、双子の王子は久々の再会を新たなる仲間たちと最高の料理に舌鼓を打つという最高の形で果たしたのだった。 【To be next episode...】

2021-07-04 22:48:56