母の形見の楽器を直してくれた鍛冶職人へきちんと御礼の品を贈ったほうがいいとリュウから提案されたリチャードは、ひょんなことから沼地に詳しい蛙人族の少年・フロログと知り合い、口にした全ての人が大喜びすると言う幻のキノコを求めて未知の森へ入ることに。 新たなる仲間・フロログとの冒険が始まる!
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いばらの壁の向こうから~双子の王子の物語~ 【Episode4】みどりでクールなニクいヤツ pic.twitter.com/mBWzhhIQBT

2021-06-14 23:35:47
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【Ⅰ】 「あれから考えてたんだけどさ…」 穏やかな初夏の日差しが眩しい昼下がりだった。小川の畔で休んでいたリチャードにリュウがポツリと囁いたのは。 「その楽器せっかく直してもらったのに、おっちゃんにお礼してなくない?」 たまにこういう几帳面な所が顔を出すのがリュウの面白いところだ。

2021-06-14 23:37:09
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「一応弓矢は買ったけど…」 傍らに置いた楽器の弦を爪弾きリチャードが言う。 先日鍛冶屋の男に直してもらった楽器はあれからなんの不調も違和感もなく普通に演奏できている。 「ちゃんと使えてるよって報告がてら、なんかお礼とか持ってった方がよくね? お礼はきっちりしとけって父さんが言ってた」

2021-06-14 23:37:52
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

商人は横の繋がりや義理が命の業界だ。 いざとなった時助けになるのは金以上に人だとリュウの父は常々口癖のように言っていた。 リュウの父は商会を取り仕切っていたので取引相手には随分と大盤振る舞いをして横の繋がりを強固にし、そこから商会を大きくしていたのをリュウも間近で見ていたのだ。

2021-06-14 23:38:57
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これはリチャードからすれば面白い話だった。 市井の者達の生きる知恵の一つ、それを間近で見てきた者の生の声だ。 城にも出入りの業者がいたのは知っているが、こうした舞台裏を聞くのはリチャードも初めてのことだった。 「ところでお礼をするとしたらどうするんだ?…リュウの父上はどうしてた?」

2021-06-14 23:39:49
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リュウはしばし考え込むと、 「よくうちに招いて酒とかご馳走とか振る舞ってた。 きれいな女中を集めてさ、おシャクとかさせたり踊り子さん呼んだり」 当時の家の様子を振り返り、少し懐かしい気持ちで答えるリュウ。 「父さんが宴会好きだってのもあったんどけどさ」 リチャードは思わず吹き出した。

2021-06-14 23:40:25
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そういえばうちの身内にも一人大の宴会好きがいたっけ…と、リチャードの瞼の裏に紅玉色の瞳を嬉しそうに細める伯父の顔が浮かんだ。 「何笑ってんだよぅ、人が親切に答えてやってんのに〜」 唇を尖らせ、 「パチコ、悪いリックをやっつけるんだ!」 「ぷむー!」

2021-06-14 23:41:09
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何故かリュウはパチコを掴んでリチャードにぐいぐい押し付けてくる。 「ちょ、ちょっとよせよ、パチコも嫌がって…」 慌ててパチコを押し戻すリチャードだが、 「ぷわー」 パチコも何故かちょっと楽しそうだ。 リチャードは思わず吹き出した。 「ほら、また笑ってんじゃん! 食らえ、パチアタック!」

2021-06-14 23:42:46
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そうこうふざけあっていると、 「こんなところでイチャついてるやつがいるぞ!」 どこからともなく声が聞こえ、二人は思わずあたりを見回した。 おかしい、先までこのあたりには二人とパチコ、スリ以外に人気はなかったはずなのだが。 「なんだなんだ?オイラたちのなわばりでなにやってんだ?」

2021-06-14 23:43:20
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二人は声の方を振り返り、 「あっ!」 同時に声を上げた。 小川の中から一つ、また一つと黒く丸い物体が浮かび上がってくる。 一抱え程ありそうな大きさのその物体はやがてユラユラ揺れながら泳ぐように二人に群がってきた。 「わ、な、なんだ?!」 パチコを抱き上げ慌ててリュウが距離を取る。

2021-06-14 23:43:50
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「お、オタマジャクシ?」 リチャードが声を上げた。 リチャードの言うとおり、小川を泳いで来た黒い物体は一抱えほどもある巨大なオタマジャクシだった。 オタマジャクシたちは水面から顔を出してこちらを見ている。 「やい、オイラたちのなわばりでなにやってんだい!」

2021-06-16 01:42:09
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「ここはオイラたちのはなわばりだ!かってにはいってきてなまいきなやつらだな!」 「そうだそうだ!」 何やら拙い口調で次々と騒ぎ出すオタマたち。 と、 「うっせーな!ここがお前らの場所なんて誰が決めたんだよ!土地の権利でも持ってんのか?!」 今度はリュウがオタマ相手に啖呵を切った。

2021-06-16 01:42:43
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「とちのけんり?」 「なんだろそれ?」 「あんちゃんにきけばわかるかな?」 さっきまでの威勢はどこへやら、オタマ達が固まってヒソヒソやりだした。 すると、 「ワン!」 不穏な空気を察知したのかオタマ達の前に普段大人しいスリが躍り出た。 「ひ、ひえぇ!」 スリの剣幕に押されるオタマ達。

2021-06-16 01:43:28
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「ワンワン!ウゥ〜…ワン!」 まだ子犬ながら中々迫力のある太い声で吠えるスリ。 オタマ達は震え上がり、 「あ、あんちゃ〜ん!たすけて〜!」 逆に身を寄せ合って泣き出した。 「スリ、もういい!」 リチャードが慌ててスリを制すがオタマ達はすっかり縮み上がってしまった。 と… 「どうしたー!」

2021-06-16 01:44:24
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今度は遠くから聞き慣れないダミ声が聞こえてきたかと思うと、バシャバシャと水をかき分け小川の向こうから何かが走ってくるのが見えた。 「あんちゃ〜ん!」 それを見て助けを求めるように泣くオタマ達。 やがて、 「大丈夫かお前ら、だから知らないやつに近寄っちゃだめだって言っただろ!」

2021-06-16 01:44:53
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オタマ達が助けを求めたそれは、オタマたちをあやすように撫でるとこちらを振り返った。 「わっ」 見慣れないその姿に思わずリュウが声を上げる。 やってきたのはこれまた巨大な緑のカエルだった。 背中に紫のまだら模様があるが鮮やかな緑の体に白い腹とこれまた瑞々しい橙色の手足をしている。

2021-06-16 01:45:48
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「お前ら、こいつらに何したんだ?」 ふんすと鼻を鳴らしてカエルは大きな金色の目で二人を睨みつけた。 「ち、ちげーよ、あたしたちがここで遊んでたらそいつらが縄張りに入るなってケチつけてきたんだぞ!」 負けずにリュウがカエルに言い返す。 そんなリュウをよそにリチャードはカエルを見つめた。

2021-06-16 01:47:21
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前に学習の折にチェーザレから聞いたことがある。 この大型のカエルはおそらく蛙人族(あじんぞく)だ。 湿地や沼沢地に住む獣人の一種で水の中でも陸でも生活できるという。 大抵は水場に住む故、都ではなかなかお目にかかれない珍しい人物の登場に、リチャードは興味津々でカエルを見ていた。

2021-06-16 01:48:48
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すると、 「なんだよ、オイラの顔になんか付いてるか?」 ムスッとした表情でカエルがリチャードに問うた。 「ご、ごめん。君達ひょっとして蛙人族の人かい?」 リチャードが問うのへ、 「おうよ、オイラはフロログ。 沼地から来たんだ!」 どんと胸に手をやり自慢気にカエルは…フロログは答えた。 pic.twitter.com/sgcJf0nYJl

2021-06-16 01:50:18
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「ごめん、街中は石造りだから中々君たちみたいな人には会えなくてね。 話は今この娘が言ったとおりだ。 俺達が話してたらその子達が寄ってきてね、そしたらうちのスリが…」 リチャードが言うと相変わらずスリは低い唸り声を上げている。

2021-06-18 15:45:41
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「スリ、もうよせ」 少し強めの語調で言われ、ようやくスリは唸るのを止め、リチャードの足元に並んだ。 「びっくりさせたなら謝るよ、ごめん」 リチャードが言うのへ、 「そういうことだったのか、こっちこそ悪かったよ。 こいつら、ようやく後ろ足が生えたばっかりで今調子に乗ってるんだ」

2021-06-18 15:46:20
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「悪いのはお前たちだろ、ごめんなさいは?」 フロログが促すと、 「ごめんなさい…」 「ごめん…」 小さな声でオタマ達が謝罪の言葉を述べた。 「それじゃあこれでおあいこだ、もういいよ」 リチャードがリュウに目配せすると、 「しょ、しょーがねーなぁ…」 唇を尖らせながらリュウも頷いた。

2021-06-18 15:47:36
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【Ⅱ】 「お礼?」 「そう、俺の楽器を直してくれた親切な職人さんになにかお返しできないかと思ってたんだけど…」 あのあとすっかり打ち解けたフロログと二人はオタマ達も交えて池の畔で談笑に花を咲かせていた。 「でもさー、御礼の品って好みがあるじゃん。だからどうすっかなーって」

2021-06-22 01:03:00
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リュウは胡座をかいて頬杖を付きながら答えた。 「調度品とかで喜ぶような人じゃなさそうだし、無骨な職人さんにお花をプレゼントしてもしかたないだろ?」 困った様子のリチャードにフロログもしばし考えて、 「あ、それなら食べ物とかどうだ?」 明るい声で言った。

2021-06-22 01:03:33
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「それこそ好き嫌いある土産の最たるもんじゃん、何が好きかわかんねーし」 リュウが唇をとがらせるのへ、 「それがいいのを知ってるんだよ! 今までこれを食べさせて喜ばれなかったことはないって百発百中、鉄板のシロモノ!」 自慢気にフロログが言うのへ、 「なんだそれ?」 いぶかるリュウ。

2021-06-22 01:04:09
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「あんちゃん、それひょっとしてあのあかいきのこのこと?」 一匹のオタマが言うのへフロログが頷く。 「沼地の奥にキノコの森があってさ、そこにもうめっちゃくちゃ美味いキノコが生えてるんだよ。 煮てよし焼いてよし、干してスープに入れてよし、絶対喜んでもらえるぜ!」 自慢気にフロログが言う。

2021-06-22 01:04:42
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「それってカエルだけが美味いとかそういうんじゃなくて?」 訝しげに問うリュウへ、 「そんなことないぞ、こないだ知り合いの人間のおっちゃんに持っていったら大喜びで食べてた!」 どうやらフロログの話を聞く限りでは心配は無用なようだ。 「それならそのキノコの森まで案内してもらえるかい?」

2021-06-22 01:05:18
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リチャードが問うと、 「任せとけって!絶対満足してもらえる最高のプレゼントにしてやるよ!」 ぱっと明るく笑うフロログに、 「さすがあんちゃん!」 「かっこいい!」 オタマ達から歓声が上がる。 その様子を見てふとリチャードは思った。 どうやらフロログはこの水場では一目置かれる人物らしい。

2021-06-22 01:05:59
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確かに喋りは達者だが自分より年少と思われるオタマ達の面倒を積極的に見る姿は如何にも兄貴分という感じだ。 少しばかりお調子者の気配はあるが気前が良く話の筋も通っている。 現段階では信用に値する人物だろう。 それを鑑みてリチャードはひとまずフロログに道案内を頼むことにした。

2021-06-22 01:07:12
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「いいか、キノコってのはこっちからアクションを起こさなきゃ基本無害なんだ、でも下手に触ると手がただれたり、ものすごくくさいガスを出すのとかもあるから注意して進むんだぞ」 沼地のキノコの森の前にやってきて手慣れた様子でフロログがリチャードとリュウに告げた。 pic.twitter.com/l4h7gKHVn4

2021-06-22 01:12:05
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基本無害なのは理解できるのだが、トゲ付きのキノコや見るからに毒々しい色の巨大なキノコにいやが上にも二人の緊張は高まる。 「あ、それと!そこのちっちゃいブタが間違って危ないもん食べないようにきちんと見てるんだぞ」 「ちっちゃいブタじゃねぇ、パチコだ!」 どうでもいい反論をするリュウ。

2021-06-24 01:12:49
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「キノコの森は獰猛な生き物は少ないけど刺激したら攻撃してくるやつらもいるから、基本無視でいくぞ」 言うとフロログは先頭を切って歩き出した。 その後をリュウが、周囲を警戒しながら弓を構えてリチャードが殿(しんがり)を行く。 フロログの言うとおり、一見キノコの森はとても静かだ。

2021-06-24 01:13:44
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しばらく進むと、 「うぅ…」 急にスリが眉間にしわを寄せ低い唸り声を上げた。 スリが反応するのと同じ頃リチャードもその「気配」を感じていた。 …大きなキノコの影から視線を感じる。 それも一つじゃない、複数の目が見ている気がして弓を握る手に力が籠もる。 と。 突然目の前に白煙が上がった。

2021-06-24 01:14:42
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「う、うっわぁ、くっせえ!」 白煙と共にあたりに立ち込める刺激臭に、堪らずリュウが悲鳴を上げた。 「バカ、スカンクマッシュを踏んづけたな!」 フロログは慌てて飛び上がりリュウとリチャードを後ろに追いやった。 と。 「ひゃー!くさい!」 「けほっ、けほっ」 一行の後ろから小さな声がした。

2021-06-24 01:15:35
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リチャードは声の方を振り返った。 恐らく先程から彼らに付いてきていた気配の主だろう。 「ひえーっ、目が痛いよぉ!」 と、彼らの後ろにいたのは恐ろしげな想像とは程遠い者たちだった。 恐らくリュウの膝くらいまでの背丈の小さなクマに似た生き物たちが煙にむせて転げ回っているではないか。

2021-06-24 01:17:10
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「あ、ピエニのみんな!」 その生き物に気がつくと、フロログが声を上げた。 その「ピエニ」と呼ばれた小さな生き物たちは、助けを求めてフロログの足元に駆け寄ってきた。 「ごめんよ、こいつらまだ森に慣れてないからスカンクマッシュを踏んじゃったんだ」 ピエニたちの頭を撫でてなだめるフロログ。

2021-06-24 01:18:07
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「小型の獣…二足歩行…ピエニ族…この森に住んでるのか」 リチャードがいつもの癖で独り言ちた。 これもまた学習の際にチェーザレに教えてもらった種族だ。 ピエニ族はクマに似た見た目の極小型の獣人族である。 性質は臆病だが友好的で、敵意がない相手には協力的。 普段は採集により生活している。

2021-06-24 01:19:31
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中には市街地の建物の床下や天井面に住み着く者たちもいるが、大体が天敵となる大型の獣の少ないこうした森で静かに暮らしている。 と、ここまで知っていたものの、蛙人族同様リチャードが彼らを見るのはこれが初めてだった。 「見ない人たちだね」 と、ピエニの一人がリチャードを見上げて言った。

2021-06-24 01:20:33
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「はじめまして、俺はリック、王都の郊外から来たんだ。いきなり来てお騒ごせしてしまってごめん」 リチャードはピエニに深々と頭を下げた。 「すごい、小さいブタさんだ」 「しかも牙がないぞ」 残りのピエニはパチコを物珍しそうに見ている。 どうやら害はないと判断されたようだ。 pic.twitter.com/vsMf97P4Bl

2021-06-24 01:23:28
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「フロログ、見慣れないお客さんまで連れて今日はどうしたんだ? お父さんのお使いってわけではなさそうだな」 リチャードに話しかけた先頭のピエニがフロログに問うた。 「や、それがさ、ちょっとした人助けなんだよ」 「人助け?」 ピエニが首を傾げる。

2021-06-26 17:50:44
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「リックたちはある人にお礼がしたくてプレゼントを探してたらしいんだけど良いものがなくてさ。 だからあのキノコをプレゼントしたらどうだろうってことで採りにきたんだよ」 「なるほど。それならマイコナさんに話を通せば分けてくれるんじゃないかな?」 ピエニは森の奥を指差した。

2021-06-26 17:51:20
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「マイコナさん?」 聞き慣れない名前に問うリチャード。 「この森には珍しい薬草やキノコがたくさんあるんだけど、だからたまに良くない奴らが入って来て勝手に採ってっちゃうんだよ。 マイコナさんはそうならないように森の資源を守ってる番人なんだ」 ピエニは答えた。

2021-06-26 17:51:47
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「マイコナ姉さんはオイラの父ちゃんの友達だからオイラが話せばきっとわかってくれるよ。 番人ていうと怖く聞こえるけど、優しい人なんだぞ」 フロログが胸を張る。 「ってーか思ったんだけどさ、お前顔広いな」 他のピエニたちと戯れていたリュウが不意に声を上げた。

2021-06-26 17:52:24
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「フロログのお父さんは有名な薬師なんだよ、この森で知らないやつはいないくらいさ」 ピエニが答えるのへ、フロログが頷いた。 「うちの父ちゃん、見た目がちょっと良くなくてさ。 だけどお前は見た目がいいし明るいから沢山の人と触れ合って友達になれって小さい頃から言われてるんだよ」

2021-06-26 17:53:32
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「へー、お前の父ちゃん立派な人なんだな。 あたしの父さんもすごいんだぞ!」 興奮気味に話すリュウへ、 「リュウ、暗くなると危ないからその話はまた今度にしよう。 今はそのマイコナさんに会ってキノコを分けてもらわないと」 リチャードが割って入る。

2021-06-26 17:53:58
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「ならリュウ、その話後で聞かせてくれよ、約束だぞ!」 ちょっと膨れるリュウにフロログは明るく返した。 「森が初めてなら道がわからないだろ、僕らも付いていくよ」 パチコと遊んでいたピエニ達もやってくる。 「マイコナさんは森の奥にいるんだ、ついておいで」 ピエニたちは3人に手招きをした。

2021-06-26 17:54:38
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

【Ⅲ】 森の奥に進むに連れ、先とは様子が異なることにリチャードは気がついた。 森の入口には棘がついたり毒々しい色をした大きなキノコが道を塞いでいたが、それらの姿は次第に見なくなった。 代わりに更に背の高いキノコが立ち並び、その足元でピエニ達が食料などの採集に勤しんでいる。 pic.twitter.com/TY9AFsINhh

2021-06-29 00:20:26
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セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

よく見れば大きなキノコの木立の隙間を縫ってガラス球のランプまで下がっている。 おそらく夜になるとこれが光って道を照らすのだろう。 「森の入口とは随分印象が違うね」 リチャードは思ったままを先頭を行くピエニに言った。 「森の入口は変なやつらが入ってこないようにああしてあるのさ」

2021-06-29 00:20:46
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「森の入口をああしたのはマイコナさんなんだ。 僕らみたいなのじゃゴブリン相手でも太刀打ちできないからね」 口々に言うピエニたちの話を聞くにつけ、どうやらその番人マイコナとはとても聡明な女性らしい。 「ま、フツーのやつならスカンクマッシュ一発踏んだだけで嫌になって逃げ帰るぜ!」

2021-06-29 22:07:09
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

リュウの方をニヤニヤ見ながらフロログが言うと、 「んじゃあ帰りに何個か摘んでお前んとこに投げ込まねぇとな!」 唇を尖らせてリュウが返した。 と、 「ほら、見えるかい、あの大きなキノコの家。あそこにマイコナさんが住んでるんだ」 巨大な樫を思わせる大きなキノコの家が前方に見えてきた。

2021-06-29 22:07:57