今回の主人公:学生(13歳/女性)、学生(14歳、男性) 前: 次:https://min.togetter.com/wMLoZ7Q #p_poz 宛に後追い実況や一言感想をツイートいただけると大変嬉しく思います
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いつかのどこかのお話です。 あるところに、第02特区という島がありました。 みんなはこの島をオズと呼び、日々せいいっぱい生活しています。 この島では、住民の皆が主人公。 そんな彼らの様々ないとなみを、ひととき、覗いてみましょう。

2019-08-31 21:00:01
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今日の主人公は、出会った時に9年校の7年生だった女の子と男の子。 正反対でどこか似ている2人が、ひいろ9年校の第三ルーフで過ごした二人の一年と半年を見守り続けました。

2019-08-31 21:03:00
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P-PingOZ「アリカさんと桐生くん」/ナレーション:リエフ

2019-08-31 21:05:00
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第6ひいろ地区9年校の、みっつある屋上庭園の第三ルーフ。遊歩道沿いに並ぶアベリアの植え込み、奥の芝生広場や点在するハナミズキを雨が叩いています。1

2019-08-31 21:08:00
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その遊歩道を、雨具を着て、おろしたての靴で走る女の子と、それをガゼボから眺める男の子。今は、ツユクサ月【つゆくさづき/6月頃】。そろそろ雨の季節が終わる頃。2

2019-08-31 21:11:00
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女の子の名前は、茅場アリカさん【かやば ありか/13歳/女性/学生】。男の子は、この春アリカさんの隣のクラスに転校してきた、桐生悠香【きりゅう はるか/14歳/男性/学生】くんです。3

2019-08-31 21:13:00
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アリカさんは、桐生くんが少し苦手でした。4

2019-08-31 21:15:00
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髪の毛が明るい緑色だとか、問題児で前の学校を追い出されたという噂とか、ほとんどの授業をさぼってるらしいとか、理由は色々です。お気に入りの第三ルーフガーデンに桐生くんが居着いたこともその一つですし、なにより、初対面の印象が悪くて悪くて。5

2019-08-31 21:18:00
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その時の映像を見てみましょう。6

2019-08-31 21:21:00
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サクラの月【4月頃のこと】中旬ごろ。アリカさんお気に入りの第三ルーフ庭園は、7年生にならないと入れない棟の屋上にある、一番狭くて人気のない場所です。第一と第二は下級生も入れるし、庭園部の活動場所なのですが、この第三ルーフなら、誰にも何も言われず集中できます。7

2019-08-31 21:23:00
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運動着のアリカさんが、白い屋根のガゼボに荷物を置いて、足回りのストレッチをしている時です。いつも別のベンチに座っていた桐生くんが、突然やって来て尋ねました。「B組の茅場アリカさんだよね。チア辞めたんでしょ? なんで筋トレしてんの?」8

2019-08-31 21:26:00
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アリカさんは答えず、手を強く握ります。「毎日やってるでしょ?、気になってクラスの奴に聞いたんだけど分かんなくって」斜め向かいに座った桐生くんが首をかしげると、目を覆うような緑の前髪が揺れました。「ねえ。どうして?」9

2019-08-31 21:29:00
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チアリーディング部に6年と少し在籍していたアリカさんは、7年生に上がってすぐ、部活を辞めました。それからは、週に二回、ボクシングジムに通っていました。ジムの日によって練習時間は変わりますが、毎日ここで自主練習をしています。10

2019-08-31 21:32:00
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「言いたくない」アリカさんはランニング用の靴に履き替え、学校端末のタイマーをセットしました。アリカさんの学校は、私物の携帯端末を禁止する代わりに、タブレットと携帯端末を支給します。これは最低限の機能しかなく、認可アプリのみ使用できるもので、毎年新しい物に交換して使います。11

2019-08-31 21:35:00
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「あ、俺やっちゃった? ごめんね?」桐生くん、首の後ろをさすって、すまなそうに言いました。「こっちは気にせず。どうぞやって」アリカさんはイヤフォンをはめると、返事の代わりに声をかけます。「足開いてるよ」「え、やだ」12

2019-08-31 21:38:00
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桐生くんは両足を閉じて、制服のスカートを整えました。それから、上着のポケットから私物の端末を取り出し、何かのゲームを始めます。校則違反ですが、アリカさんも、校則違反の音楽再生機を持ち込んでいます。桐生くんのことは、とやかく言えません。13

2019-08-31 21:41:00
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呆れているのか怒っているのか、アリカさんは桐生くんをチラリと見て、庭園の歩道を走りはじめます。14

2019-08-31 21:44:00
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これが、アリカさんと桐生くんの出会いでした。15

2019-08-31 21:46:00
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次の日から同じガゼボに桐生くんが座るようになって、放課後の時間を潰すようになりました。会話はほとんどなく、やがてアリカさんは桐生くんを風景の一部だと諦めるようになりました。16

2019-08-31 21:48:00
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さて、今のアリカさんたちにカメラを戻しましょう。17

2019-08-31 21:51:00
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雨降りの中でランニングを終えたアリカさん、息を整えてガゼボに入りますが、少し歩き方がおかしいですね。柱に手をつくと左の靴を脱ぎ、踵あたりを気にしています。「毎日真面目だね……どうした?」メイク用品をテーブルに広げる桐生くん、アリカさんの様子に気が付きました。18

2019-08-31 21:53:00
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「怪我? ポーチに絆創膏入ってるから。使って」「え」顔を上げて、そこで初めて、アリカさんは桐生くんの変化に気が付きました。ガゼボの分厚いテーブルに緑色の毛束が置かれていて、桐生くんは黒髪の上からウィッグネットをかぶっています。「アリカさん?」19

2019-08-31 21:56:00
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目をしばたたかせているアリカさんの、視線の先に気が付いた桐生くん。「あ、これ?」テーブルの毛束を持ち上げます。「ウィッグ」「ああ……」「びっくりした?」「うん」両目で違う色のラインを引いた桐生くんが、楽しそうな笑顔を浮かべました。「へっへ」「なに」20

2019-08-31 21:59:00
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「びっくりさせたなあって。ほら、使って」黒いポーチから、花柄の絆創膏を二枚出して、アリカさんの方へ押し出します。「いいの?」「いいよ」アリカさん、自分の前髪を何度か引っ張ってから、ひと言。「ごめん」21

2019-08-31 22:02:00
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「んーんー。いつも放っておいてくれてるから。お礼」「いや、そうじゃなくて」首を強く横に振るアリカさん。「あたし……ほっといたんじゃなくて……勝手にそっちのこと」雨音で消えそうな声で言い淀むアリカさんを見て、吹き出す桐生くん。22

2019-08-31 22:05:00
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「え?」「もーさあ、ほんと真面目!」笑いながら、桐生くんは言います。「フツーに話してよ。あの時は、まずいこと聞いちゃったんでしょ?」手に持った鏡を置きます。「俺、アリカさんとフツーに話したいし。ね?」「……うん」23

2019-08-31 22:08:00
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アリカさん、雨具を脱いで、テーブルの絆創膏を受け取りました。「ありがとう」「どういたしまして」24

2019-08-31 22:11:00
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濡れた足をタオルで拭いて、靴擦れに絆創膏を貼ったアリカさん。椅子から立ち上がると桐生くんに向き直りました。「あのさ……それじゃ言うけど」「なに?」「チークが赤すぎ。雰囲気に合ってない」25

2019-08-31 22:14:00
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「……高かったんだけどなあ」「合うメーカーとかメイクが知りたいなら、ARで試すのがいいよ」落ち込む桐生くんに、ロープワークの準備をしながらアリカさん。「これ終わったら、いいアプリあるの教えるよ」「ほんと! 助かる!」26

2019-08-31 22:17:00
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この日から、アリカさんと桐生くんは、少しずつお互いのことが分かってきました。27

2019-08-31 22:20:00
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二人とも末っ子同士で、ジャンルは違うけれどおしゃれに関心があること。アリカさんは病気以外で無遅刻無欠席だけれど、桐生くんは平気で遅刻してくること。お母さんとお祖母さんの仲が悪いアリカさんと、お父さんが家を出て別居中の桐生くん。28

2019-08-31 22:22:00
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けれど、二人がお話するようになっても、アリカさんは桐生くんにかまけて、練習を中断することはありませんでした。ジムの日はランニングだけ、ジムのない日はロープワークなどをきちんとこなします。桐生くんが、からかいと敬意を混ぜた視線でそれを眺める毎日は続きました。29

2019-08-31 22:25:00
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2019-09-01 20:00:00
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……1か月半の夏休みが終わって、最初の登校日。30

2019-09-01 21:02:00
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「え、桐生、勉強してる」桐生くんが学校支給のタブレットを前に頭を抱えていると、アリカさんがいつものように、大きなバッグと第三ルーフにやってきました。桐生くんは電子ペンを投げ出して、大きく伸びます。31

2019-09-01 21:04:00
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「数学の夏季課題。2回目の授業で出せばセーフだよ」少し低く、かすれた声で桐生くんは言いました。「嘘でしょ」空を仰いで、アリカさんは額に手を当てました。「……いいや。頑張って」アリカさん、ストレッチして靴を履き替えると、ランニングに出ていきます。32

2019-09-01 21:07:00
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その背中を、桐生くんは暑そうな顔で見送りました。「真面目だなあ」日に焼けて少し背が伸びたアリカさん。桐生くんにはどう見えているんでしょうか。33

2019-09-01 21:10:01
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40分後。アリカさんがガゼボに戻ってくると、桐生くんはウィッグを外して、折りたたみ鏡を片手にメイクをしていました。「おかえりー」「終わったんだ」「飽きちゃった」「そう」もう怒りもしません。アリカさんは水を飲むと、クールダウンのストレッチを始めます。34

2019-09-01 21:13:00
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「桐生、さあ。クロコレ【クローゼットコレクション/半期に一度開催の、服飾系展示即売会イベント】、いなかった?」桐生くんの手元が狂いました。「え? アリカさんも?」桐生くん、ズレたつけまつげを剥がします。35

2019-09-01 21:16:00
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「趣味とは違うけど、おねえの付き合いで」「どうして声かけてくれなかったの! 俺たち友達じゃなかったんだぁ……」大げさに悲しみを表す桐生くんのお芝居に、アリカさんが戸惑うこともなくなりました。「そっちも誰かと一緒だったから」36

2019-09-01 21:19:00
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桐生くんは記憶をなぞるように頷きます。「そっか……あー、そうだね」それから、大切なことを尋ねるように、アリカさんへ聞きます。「どうして俺って分かったの?」「ほくろが。同じところにあるなーって思ってた」左頬のあたりを指さすアリカさん。37

2019-09-01 21:22:00
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「声もちょっと変わってたけど、喋った時の嫌味っぽい言い方がそっくりで」「そこぉ?」アリカさんの答えを聞いて、桐生くんは体を揺らして笑います。「私服の俺に気が付いたの、アリカさんが初めてだ」38

2019-09-01 21:25:00
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桐生くん、私物の携帯端末をポケットから取り出して、アリカさんに見せました。画面には、どこかの姿見に全身を映した桐生くんの写真。白と淡い緑のドーリーファッションです。「これ?」「そう! やっぱり桐生だったんだ。メイク上手くなったね」39

2019-09-01 21:28:00
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「休みの間練習したんだよ。あと、教えてくれたARアプリ凄い便利。ありがとね」「あれは、おねえが教えてくれたやつだから」照れ隠しのように、アリカさんは髪を結び直しました。「アリカさんち、仲良くて羨ましいよ。あ、休みでお兄さんにも会えた?」40

2019-09-01 21:31:00
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アリカさん、心底うんざりした顔になりながらロープワークを始めました。「来た来た。プロテイン10kgもあたしに持ってきて」「まじ? 面白い人だね」「あたしにボクシング勧めたのも、おにいなんだ」「ああ」41

2019-09-01 21:34:00
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桐生くんが、春以来の質問を投げかけます。「チアやめたのって、ボクシング始めるからだったの?」アリカさんは答えず、ロープワークの速度を上げました。3分を告げるタイマーが鳴って、1分のインターバルに入ります。そこで息を切らしながら、ようやくアリカさんは口を開きました。42

2019-09-01 21:37:00
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「……勝ったら教える」「試合に?」アリカさんは首を振って、顎を伝う汗を手の甲で払いました。アリカさんの様子を見て、桐生くん、聞き方を変えました。「ボクシング、楽しい?」43

2019-09-01 21:42:00
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まとめたひと
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