帝都術は宗教() 摩玖主教アンソロ 摩玖主教に関わる人々の記録
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🦋 @Drsumire

石段を上がる足が急に重たくなった。朝からずいぶん長いこと歩いていたし、手を引く僧侶は一歩が大きくて早足になるのだ。上を見上げればまだまだ続く白い石段。寂しい。疲れた。もう嫌だ。新緑がぐにゃりと滲む。父や母に教えられて、歳上の子が連れて行かれるから、そういうものだと思っていたけど。

2020-05-13 01:15:10
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🦋 @Drsumire

初めて村の外に出て、目新しい景色にはしゃいでいたけど。これっきり皆に会えなくなるのだと思ったら、堪らなくなった。ぼろり、ぼろりと涙の粒が頬を伝う。おかぁ…おとぅ…乾いた口から声が漏れた。ベソをかいても手を引かれる強さは変わらない。目が腫れて前が見えなくて、躓きながら足を動かした。

2020-05-13 01:26:23
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🦋 @Drsumire

「ああ、乱暴にしてはいけませんよ」すぐ頭上から声がして、初めて僧侶が歩みを止めた。思わずその場にしゃがみ込む。顔を上げると、人が近付いてきていた。さっきまで誰も居なかったのに。「痛かったでしょう?」穏やかな声と共に、階段で打って痣だらけになった脛に指先が触れた。びくっと肩を揺らす

2020-05-13 01:43:49
やくも @yakumo_wall

「私は人類の幸せのために生み出されたのに、どうして誰もが自ら不幸になることを選ぶのだろう」と不思議でしょうがないマク推せる。

2020-05-13 01:46:26
🦋 @Drsumire

そっと爪先を持ち上げられ、血が出ている膝の上を指がなぞる。すると、みるみるうちに傷が塞がった。両足を撫ぜられると、さっきまでの痛みが嘘のように無くなった。奇跡、だと思った。ぽかんと、深緑の人を見上げる。見たことのない眼帯を両目につけたその人は、頬を包むように目元をぬぐってくれた。

2020-05-13 01:57:35
やくも @yakumo_wall

摩玖主様のとこに行ったら沢山勉強して手紙書くんだと意気込んでいた我が子へ、息災か、今日はどんなことを学んだんだと我が子を愛おしむ手紙を出せども出せども返事が返って来なくて、どんどん不信と信仰の板挟みに苛まれる親もいただろうなぁ。

2020-05-13 01:59:18
やくも @yakumo_wall

(スーパーウルトラアルティメット恵比寿顔)

2020-05-13 02:00:07
やくも @yakumo_wall

学はないけど出来る限り我が子に分かりやすいような文章を時間かけて書いて、いずれ我が子が自分よりも賢くなって帰ってくると信じて手紙を書いた親😊

2020-05-13 02:02:32
🦋 @Drsumire

泣いてふやけた熱い頬に、ひんやりした掌が心地よかった。 母の滑らかな手を思い出す。小さい頃、夜に起きて眠れないでいると、そうして子守唄を歌ってくれた。「ーーしふと」何か小さく呟くのが聞こえた。細めていた目を開けると、瞼はもう腫れてはいなかった。

2020-05-13 02:08:00
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やくも @yakumo_wall

燕の子が巣立つ頃に、彼女は我が子を見送った。 かあちゃん帰ったら沢山手伝うから、いっぱい勉強してかあちゃんを驚かせるからと元気よく手を振って山の中へと消えていった。 今まで親元を離れた子が急に離れ離れになっては寂しかろうと、彼女は我が子に手紙を書くことにした。

2020-05-13 02:12:14
やくも @yakumo_wall

そもそも学のない彼女の、慣れない字はどう見たって下手くそで、それでも一生懸命気持ちを込めて書いたつもりだった。 皆一応に同じ姿をした僧兵に、想いを込めた手紙を渡して、返事が返ってくるのを今か今かと待ちわびた。 返事は返ってこなかった。

2020-05-13 02:14:11
やくも @yakumo_wall

雨が鬱陶しい季節がやってきた。 今までとは違って、摩玖主様のお陰で田んぼの心配をする必要はない。何もしなくたって生きていけるのだから。飢えの苦しみ、病の辛さを知る彼女にとって、それがどれだけありがたいことかを噛みしめながら、炭を擦る。

2020-05-13 02:18:03
🦋 @Drsumire

「もう大丈夫ですね」目の見えない人は微笑むと、手を取って立たせてくれた。改めて見たことのない格好をしていることに気付く。「だれ?」首を傾げた。「…摩玖主、と申します」まくす!うちや村の人達が拝んでいた神様の名前ではなかっただろうか。「かみさま?」再び尋ねると、彼は困った顔をした。

2020-05-13 02:22:35
やくも @yakumo_wall

我が子は新しい暮らしに馴染めているのだろうか、慣れない場所で過ごすのは、幼い我が子にとっては大層辛いだろう、そんな我が子を愛しむかのような想いを認めた手紙を、決して愛想が良いとは言えない僧兵に手渡し、返事が来るのを待ちわびた。 手紙は返ってこなかった。

2020-05-13 02:22:57
やくも @yakumo_wall

蝉の声が響く季節がやってきた。 きっと我が子は朝早くから夜遅くまで学問に励み、神仏の有り難さに触れているはずだ。そんな我が子に負けないように、一文字一文字を丁寧に書いたつもりだった。 少しは上手くなったような気もするが、下手な字には変わりなく、きっと我が子に笑われるだろう。

2020-05-13 02:26:59
やくも @yakumo_wall

いいや、笑ってくれればいい。 それは大きくなった証なのだから。そんな期待を込めた手紙をいつものように、表情の分からぬ僧兵に手渡した。 返事は返ってこなかった。

2020-05-13 02:28:40
やくも @yakumo_wall

山が真っ赤に染まる季節がやってきた。 一向に我が子からの返事が来ないことに疑問を持ちながら、今までの中で一番長い手紙を書いた。 息災であるか同じ年頃の友達はできたかどんな事を学んだのか、とにかく我が子のことが、少しでもいいから知りたくて、必死の思いで手紙を書いた。

2020-05-13 02:31:57
🦋 @Drsumire

「うーん。そういうことに、しておきましょうか」しばしの間があって、返事が返ってきた。…すごい、すごい!神様は居たんだ!奇跡を起こせるんだ!頬が熱くなる。じっと見つめると、神様は眉を下げて頭を撫でてくれた。優しい神様。これからこの神様と暮らすのだと思うと、胸がいっぱいになった。

2020-05-13 02:32:08
やくも @yakumo_wall

摩玖主様のお陰で今年は何もせずとも食べるものに困る者は一人もいない。正に地上の楽園と言っても過言ではなかったが、彼女には極楽にあって極楽に有らず、ただ一つだけ欠けているものがあった。そんな焦燥に苛まれた手紙を、大柄な僧兵に手渡した。 返事は返ってこなかった。

2020-05-13 02:35:59
やくも @yakumo_wall

しんしんと雪が降る季節が来た。 これはきっと摩玖主様がお与えになった試練なのだ、摩玖主様が困っている衆生を見捨てるはずがない、でもどうして、ただの一通の手紙が欲しいとの願いが叶わないのか。こんなにも摩玖主様に近い場所にいるのに、祈りは摩玖主様に、我が子に届いているのだろうか。

2020-05-13 02:39:21
🦋 @Drsumire

ぱちん、と神様が指を鳴らす。それまでぴくりともしなかった僧侶が再び動き出した。あっ、と思わず声が出る。「先に行って待っていてください」神様は立ち止まったまま、後ろに手を組んで仰った。はい、と返事をしたいのだけれど、ぐいぐい手を引かれるものだから、舌を噛みそうになって言えなかった。

2020-05-13 02:44:55
やくも @yakumo_wall

容赦なく吹き荒ぶ吹雪の中で、落ち窪んだ目はぎょろりと山中を睨みつけ、脚は迷うことなく御堂へ向けて歩んでいく。厳しい寒さよりも、一方近づくごとに我が子に近付ける喜びの方が勝っていた。 懐に初めての手紙よりも乱れた字を認めた紙を大切にしまった彼女の顔は、どこか晴れやかだった。

2020-05-13 02:49:17
やくも @yakumo_wall

摩玖主様の元へ、我が子の元へ行ける喜びは、彼女の手足から感覚を奪い去っていった。それでも彼女は歩みを止めることなく、大きく息を吸い込むと、生涯で一番大きな声で笑った。それは吹雪にかき消されて誰にも聞こえることはなかった。

2020-05-13 02:53:25
🦋 @Drsumire

もう寂しくはなかった。あんなに優しくてすごい方のもとに行くのだから。幸せになれるのだから。石段を上り終える直前、もう一度あの金の髪を見たくて振り返る。誰も、居なかった。青い空の下、白い石段だけがずうっと下まで続いていた。(終

2020-05-13 02:54:33
やくも @yakumo_wall

吹雪が止んだのは明け方だった。 全ての衆生へ降り注ぐ朝日が山の端を照らす頃、一人の女だけがそれを浴びることなく、真っ白に積もった雪に覆い隠されて死んでいた。眠るように死んだ彼女が最後に見た夢を、誰も知ることはない。 もう手紙は届けられなかった。

2020-05-13 02:58:45
🦋 @Drsumire

余談。魔力を抽出する際に、子供の心が澄んでいる方が、より純度の高い魔力を精製できる、という設定です。よって、最も効率が良い方法を思案した結果がコレ。安心させ、信仰心を持たせて純度を上げる。そのための少々の嘘は方便です。その方がより多く幸せになれますから。ーーという悪魔さんの話。

2020-05-13 03:01:42
🦋 @Drsumire

農村地帯だった場所は、母の手が滑らかなままで済む程度には、ずいぶん前から摩玖主教の領内だった。 術が呟いたのは「パラダイムシフト」本編中では毎ターンHPチャージのスキル、という小ネタ。

2020-05-13 03:19:24
🦋 @Drsumire

>RTわかりみしかない!これです、これ!機械なら当たり前のトライ&エラーの繰り返しが、人間には耐え難く、其れを当たり前のように繰り返すマク魔が健気に見えて仕方ない。感情を原動力として動く人間視点で、感情が人のように無い術が淀みなく働き続けるの、眩し過ぎるのです。

2020-05-13 03:26:26
🦋 @Drsumire

はぁーー…満腹です。寝ましょう。 …炉にくべられた子供達に、よいゆめを。

2020-05-13 03:39:17
🦋 @Drsumire

明け方の小噺について。着想は狩猟や牧畜の心得を聞き齧ったもの。獲物を美味しく食べるために、殺す時にできるだけ苦しませないこと。致命傷に至らない中途半端な罠を仕掛けて長時間苦しませると、肉の質が落ちる。牧畜でもストレスを与えず育てた肉は美味しい。…という説から推測した次第ですね。 twitter.com/Drsumire/statu…

2020-05-13 11:05:23
🦋 @Drsumire

ここ、本編走ってる時は限界になって呟けなかったので走馬灯します。主人公側に与したのはマスターを裏切ったわけではなく、願いが捻じ曲がってしまったのを止めようとしたから。「我が主」と言う優しい表情とその後の苦悩する表情に、マク氏は主人の願いを叶える為に最後まで尽くしていたと知り泣いた pic.twitter.com/kSG2t90ONp

2020-05-13 13:13:39
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まとめたひと
🦋 @Drsumire

🦋新茶に魂を、帝都術に心臓を捧げました⚙ 昔、化学屋に恋をしました。高校時代は地学部。今も星を観るのは好き。星雲はなお良し。某大学で生物専攻、生物生態学専攻。富士山裾野にて物質工学域を齧る。民俗学と歴史人文学に興味有り。再び上京して趣味と感性に生きる。電脳空間に入植済み。基本鍵垢。🔨