【長文】戦時標準船2E型に搭載された380馬力焼玉機関について
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天翔 @Tensyofleet

呉市安浦町の第一・第二武智丸と、かつて焼玉揚貨機が装備されていた跡。 pic.twitter.com/cXsm8pyu1B

2017-10-06 22:26:40
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同じく、焼玉揚錨機が設置されていた船首部。 pic.twitter.com/BS8RftgYn3

2017-10-06 22:44:44
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天翔 @Tensyofleet

戦後、焼玉機関を使用した甲板補機は急速に姿を消し、古い舶用補機の解説書にも終戦直後の一時期、補機類の電化進展前に使用されたディーゼル揚貨機などと合わせて、「内火式揚貨機」として今はあまり使われない旨が数行記述されているに過ぎない。

2017-10-06 22:32:03
天翔 @Tensyofleet

もっとも、機帆船用としては戦後もしばらく生き残っていたようだ。焼玉補機の元々の用途がそういった小型船舶用であり、戦時標準船には代用動力として用いられたためであるから、当然の流れかもしれない。

2017-10-06 22:38:06
天翔 @Tensyofleet

この焼玉揚貨機も、当初は戦時標準船の急速建造による需要を満たすべく生産の拡張が急がれたものの、戦局の悪化に伴う液体燃料不足により2Eの焼玉・ディーゼル主機船の生産が縮小されたこともあって、1944(昭和19)年末には余剰生産品が発生する始末であったという。

2017-10-06 22:42:18
天翔 @Tensyofleet

1955~60年頃に撮影された機帆船。確証はないのだけれども、戦時標準型機帆船のようにも見える。船首楼に居座っているのは、例の揚錨機兼揚貨機の焼玉エンジンだろう。機帆船の世界では、戦後しばらく運用されていたことが分かる。 pic.twitter.com/4h2SZa3LKQ

2017-10-10 22:48:41
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1945(昭和20)年6月19日、山口県沖でPB4Y-2の空襲を受ける2E型戦時標準船(推定)。煙突が見えるので、蒸気レシプロ機関船だろう。報告書には恐らく沈没、とあるが、この日の沈没船に該当しそうな船がいない。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… pic.twitter.com/jMGC8uhzbO

2017-10-12 21:39:27
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さて、利用し得る機関は何でも載せて必ずしも斉一のものを期待しない、とされた2Eの主機であるが、内燃機関としては新潟370馬力、F5、F6の各ディーゼルと焼玉機関が搭載されたようだ。少なくともF6には排気過給機付のものがあったらしい。 pic.twitter.com/XPqAF47iRd

2017-10-12 22:00:53
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天翔 @Tensyofleet

新潟鉄工所の社史によればそれぞれ「統一形T6CA形370馬力」「T5FK形430馬力」「F6形550馬力」「F6S形750馬力」の記述があり、どれがどれかは概ね想像がつく。F8辺りは資料の整合性が取れずに謎が残る。

2017-10-12 22:14:29
天翔 @Tensyofleet

昭和12年版の「実用船舶便覧」。この時点の日本において、舶用ディーゼル機関を製造できる能力を持つメーカーは大体これくらいしかない。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… pic.twitter.com/TKaTKsHix7

2017-10-12 22:22:35
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では焼玉機関は、となると、これくらい。 pic.twitter.com/5aC42gzKAO

2017-10-12 22:25:32
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ディーゼル機関の製造には中々手間がかかる。数少ない舶用ディーゼル機関製造所の一つ、赤阪鉄工所。同社は1942(昭和17)年からF6ディーゼルを受注しているが、いつの時点のものかは不明だけれども、その工程表がこちら。3か月以上を要することになっている。 pic.twitter.com/FhKY3BPRH9

2017-10-12 22:40:37
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天翔 @Tensyofleet

NARAより、敦賀近郊の阿曽海岸に座礁した戦時標準船2E型。おそらく1945(昭和20)年8月17日に触雷した栄浦丸(887総トン,大東商船)catalog.archives.gov/id/64490 Youtubeはこちら youtu.be/MVUsxuBRiQw?t=… pic.twitter.com/S8YvKyX5T2

2017-10-18 22:46:42
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天翔 @Tensyofleet

見たところ目立つ煙突はなく、揚貨機も焼玉なので蒸気レシプロ船ではない、というところまでか。 pic.twitter.com/5lVgWRmF2g

2017-10-18 23:03:53
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天翔 @Tensyofleet

焼玉エンジンの得失のうち、最大の欠点とも言えるのが始動時に起こす急回転による機関損傷だろう。戦前戦後の内火機関を取り扱う書籍や雑誌には、頻繁に焼玉エンジンの急回転事故の防止策などが掲載されている pic.twitter.com/Z5rJlKUgjX

2017-10-18 23:30:15
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天翔 @Tensyofleet

急回転のメカニズムは、始動に何度も失敗して燃焼室に溜まった燃料油が一気に点火爆発して起こる場合や、クランク室に溜まった潤滑油や燃料油がクランクに叩かれ、吸気と共に燃焼室に入った場合に発生する。

2017-10-18 23:34:10
天翔 @Tensyofleet

点火時期を直接コントロールできない焼玉機関は、この状態に陥った際に即座に停止させる術がなく、燃料弁と吸気弁を閉鎖して機関が止まるのを待つくらいしか方法がない。急回転現象が一旦発生すると、クランク軸の折損やシリンダーカバー破損などの大事故につながりやすい。

2017-10-18 23:39:56
天翔 @Tensyofleet

大出力の焼玉機関でこの急回転現象が発生したら、と考えると、あまりお近づきになりたい代物には思えないのも事実である。

2017-10-18 23:41:06
天翔 @Tensyofleet

改E型こと戦時標準船2E型の一部に主機として装備された380馬力焼玉機関であるが、原型は神戸発動機が製作したものらしい。当時のラインナップにも、それと思しきものがある。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… pic.twitter.com/GcPWMqEWnB

2017-10-23 23:01:51
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天翔 @Tensyofleet

本機関は1937(昭和12)年以降7台の製作実績があるらしく、その成績は良好であったという。一体どんな船に搭載されたのか、と日本汽船名簿をめくってみると、そのうちの一隻はどうやらこれらしい。 国立公文書館 アジア歴史資料センター jacar.archives.go.jp/das/meta/C0805… pic.twitter.com/D4BfrrHvUU

2017-10-23 23:06:54
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天翔 @Tensyofleet

そしてこれがどうやら昭和18年版の日本汽船名簿において、この380馬力焼玉機関を搭載した船の中で最大(376総トン,583載貨重量トン)らしい。要目から見るに船倉1つの船尾機関船のようだ。参考までに、2ED型は870総トン、1,585載貨重量トン(計画)の船である。

2017-10-23 23:13:58
天翔 @Tensyofleet

なお、この昭和18年版日本汽船名簿には三菱長崎と播磨相生で建造した試作2E型が1隻ずつ載っている。主機は共に日本発動機の焼玉で、量産船とはスペックが異なる。揚貨機もしっかり焼玉のようだ。 国立公文書館 アジア歴史資料センター jacar.archives.go.jp/das/meta/C0805… pic.twitter.com/4HqfEcWdOY

2017-10-23 23:29:01
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天翔 @Tensyofleet

戦前の焼玉機関は非常に高性能であったことに疑いの余地はない。なんてったって会話ができる。 pic.twitter.com/ha8pVvt2TT

2017-10-25 22:36:52
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天翔 @Tensyofleet

fold3.comより、B-24の爆撃を受ける日本船団、撮影日不明。中央で沈没に瀕しているのはおそらく戦時標準船2ET型。船尾より乗員が救命艇で脱出しつつある。 fold3.com/image/55702419 pic.twitter.com/snUph09iuG

2017-10-28 21:45:12
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天翔 @Tensyofleet

2E型に搭載する焼玉機関は、組織された研究委員会で神戸発動機の380馬力焼玉機関をベースに検討が進められた。ちなみに委員長は近藤市郎(のち少将)である。分科会で半年間の研究の後、昭和18年度の5月頃から各工場に発注が行われているようだ。

2017-10-28 21:52:35
天翔 @Tensyofleet

残念ながら、本機関の評判は良いものではなかった。初期には主軸受の焼き付き、次いでクラッチ軸の折損が挙げられている。就航1年後の2E型の稼働率が25%、その故障原因の80%がこの焼玉機関によるもの、と記されているものがある(ただし分子分母不明)。写真は三菱若松で建造中の2ERs型。 pic.twitter.com/xxRd6I0KSX

2017-10-28 22:03:02
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天翔 @Tensyofleet

『新造船の中で一番厄介だったのは「改E型」タンカー』と、「海上護衛戦」(大井篤)でも迷惑の種扱いで、腹痛を起こしてはその修理で目的地のシンガポールに半年たっても到着しない、とまで言われている。2ET型は全船が播磨松の浦の建造で、主機はディーゼルと焼玉の2種類のみであった。

2017-10-28 22:16:39
天翔 @Tensyofleet

「戦時造船史」(小野塚一郎)では、『特に焼玉機関の評判が悪かった』『一部論者は船体脆弱のゆえに機関故障を誘発したと論じているが、やはり主要な原因は機関の粗悪であると思われる』『機関不良の原因は未熟練技術の工場が量産を行わざるを得ざる点にあった』とにべもない。

2017-10-28 22:19:20
天翔 @Tensyofleet

なお、終戦までに各ET型は148隻(+試作船1隻)が建造されているが、うち焼玉機関を搭載しているのは26隻である。大井中佐、よほどハライタ船の印象が強烈だったらしい。

2017-10-28 22:41:02
天翔 @Tensyofleet

1944(昭和19)年7月1日現在の戦標2E型就航状況(主機別)と8月31現在の就航状況(再掲)。2E貨物船は主に日本近海~中国沿岸部に就航しており、沈没記録などをみても、南方まで出かけたことはほとんどなさそうだ。 jacar.archives.go.jp/das/image/C121… pic.twitter.com/35SM9LW9Ez

2017-10-28 22:53:24
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天翔 @Tensyofleet

戦標2E型に搭載された焼玉機関に故障が多発した原因の一つを伺わせるものに、本機関を取り扱った経験のある機関士の手記に「回転数230回転で4次振動を出す」との記述がある。 pic.twitter.com/UpHt0sRXFL

2017-10-29 17:19:26
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天翔 @Tensyofleet

本焼玉機関は定格380馬力/270回転で、経済320馬力/265回転である。定格の80%のところに捩り振動を出すのは、どうにもよろしくない気がする。運用上、機関の回転数は負荷によって変動するもので、潮や燃料粘度の具合で回転数が変わって振動を出すことがあったようだ。

2017-10-29 17:25:23
天翔 @Tensyofleet

これは機関選定と設計の不手際だろうが、原型となった神戸発動機の380馬力焼玉エンジンでは軸関係の故障は発生していなかった。4次1節の振動は、定格の270回転より上に出ていたのである。

2017-10-29 17:28:57
天翔 @Tensyofleet

2Eに積んだ途端不具合続出となったのは、プロペラが青銅製から鋳鉄製に変更となりモーメントが3割増となっていたこと、中間軸が30mm細いものに変更されたことにより、振動が230~240回転辺りに出てきてしまったからであるようだ。 pic.twitter.com/LbKwno0zLn

2017-10-29 17:32:44
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天翔 @Tensyofleet

これにより、運転時間2,000時間程度でクラッチ軸の折損が多発した結果、大井中佐お怒りの次第となったように思える。それまで捩り振動で問題が起こったことがなかったため、当初精密な計算は行われず、実測して初めて判明したという。

2017-10-29 17:38:13
天翔 @Tensyofleet

なお、同じ神戸発動機の600馬力焼玉機関ではクランク軸折損をやらかしていたようだが、この計算によってどうやらあれも捩り振動らしい、と初めてその原因が判明するという始末であった。

2017-10-29 17:40:32
天翔 @Tensyofleet

この焼玉機関、元々載せていた船の倍以上の船に載せている訳で、2ERs型の蒸気レシプロ機関が定格400馬力/170回転であることに比べれば、かなりの高回転型になってしまっている。F5ディーゼルも500馬力/280回転なので条件は同様だが、機関自体の強度ではこちらが有利だろう。

2017-10-29 17:53:53
天翔 @Tensyofleet

2ED型に搭載されたうちの一つ、F6型ディーゼル。焼玉機関と同じく独立シリンダではあるが、クランクケースはこちらの方が随分頑丈そうだ。 pic.twitter.com/n4k9TERHae

2017-10-29 18:08:22
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天翔 @Tensyofleet

戦時造船史に言及のある、焼玉機関が『船体脆弱のゆえに機関故障を誘発した』というのにも理由があって、焼玉のエンジン架台が構造上同出力のディーゼルに比べて脆弱で、船体側の機関架台で補強しなければならないところそれが出来ず、ために主軸受の焼付が頻発した、ということのようだ。

2017-10-29 18:19:03
天翔 @Tensyofleet

小野塚さんは『機関の粗悪である』とバッサリだけれども、伝えられる物事にはいろいろな背景がある、ということを示す一例ではなかろうか。

2017-10-29 18:22:01
天翔 @Tensyofleet

という訳で焼玉機関ひとまず終了。2E型の船体がザルの如くであったのは有名ですが、エンジンの方に言及されたものは少なかったので、雑ながら記してみました。 pic.twitter.com/EyicnYYpr7

2017-10-29 18:24:35
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