【長文】戦時標準船2E型に搭載された380馬力焼玉機関について
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天翔 @Tensyofleet

NHHCより、1945(昭和20)年7月30日に釜山の北東でPB4Yの攻撃を受ける戦時標準船2E型。この後どのような運命を辿ったか定かではないが、沈没したとすれば鴨川丸(866総トン,川崎汽船)の可能性がある。 history.navy.mil/our-collection… pic.twitter.com/jIYYEHm2le

2017-09-26 20:30:19
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天翔 @Tensyofleet

鴨川丸は、1943(昭和18)年10月24日に播磨造船所松の浦工場で戦標船2E型貨物船の1隻として竣工した。起工日は同9月24日なので、建造日数30日での完成である。主機は380馬力焼玉機関1基1軸であった。

2017-09-26 20:38:16
天翔 @Tensyofleet

本焼玉機関は気筒直径17インチ行程18 1/2インチの4気筒で、380馬力/270rpmというものであった。元は神戸発動機が昭和12年から7台ほど製作したものが原型だが、昭和18年から量産しようとしている機関の寸法の単位がインチという時点ですでに怪しい雲行きを感じなくはない。 pic.twitter.com/PL829e6tgv

2017-09-26 21:00:18
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天翔 @Tensyofleet

戦標2Eの焼玉機関が不評だったことはよく知られている(?)が、なぜ不評だったのか、という理由まで記されているものは少ない。その原因を焼玉機関故に、というところに求めるのであれば、戦前本機に倍する出力の焼玉機関が製作されよう筈もない。dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… pic.twitter.com/cr3H7eQdLm

2017-09-26 21:32:50
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天翔 @Tensyofleet

1959(昭和34)年9月26日、伊勢湾台風により座礁した第二十三雲洋丸(946総トン,中村汽船)。場所は現在の愛知県蒲郡市西浦付近。 www3.boj.or.jp/nagoya/shiten/… pic.twitter.com/ItpsYrDjUU

2017-09-28 22:06:59
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天翔 @Tensyofleet

同船は戦時標準船2Eの機関出力を増強した3E型貨物船の1隻として、戦後の昭和23年に東京造船所で竣工しており、主機は蒸気レシプロであった。どうやら、この後現地で解体されたようだ。

2017-09-28 22:10:08
天翔 @Tensyofleet

色々眺めてみるに、この舵が破損した船の船尾は第二十三雲洋丸のものっぽいな。 pic.twitter.com/5rupIEZ6lH

2017-09-30 18:37:41
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天翔 @Tensyofleet

なんとなれば、建造中の戦標2Eの船尾材周りに大変よく似通っているからである。 pic.twitter.com/ps26O8bcNB

2017-10-01 18:15:10
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天翔 @Tensyofleet

アジ歴の写真週報332号(昭和19年8月2日号)より、横滑り進水を行う戦時標準船2E型。量産に際してこの方式を採った造船所は他になく、三菱若松造船所だろう。(再掲) digital.archives.go.jp/das/image/M200… pic.twitter.com/HAXXLwoNKs

2017-10-01 18:44:03
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天翔 @Tensyofleet

国土地理院の地図・空中写真閲覧サービスより、1948/11/01(昭23)撮影のUSAwide-R424L-10の一部と、配置図に合わせて回転したもの。 pic.twitter.com/XslGZfcqR3

2017-10-01 18:50:52
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天翔 @Tensyofleet

今は無き戦標2E型造船所の所在地は、福岡県北九州市若松区。 goo.gl/maps/U9UCEmpSw…

2017-10-01 18:52:27
天翔 @Tensyofleet

戦標2E型―当初は戦時標準船がまさか4次まで計画されるとは思ってもみなかったため、1次のE型に対して改E型とも言った―を一言で表せば、急増する船舶の喪失を補うため専用造船所で急速かつ大量に建造し、搭載重量の増大、資材と工数の節約を図ったものであった。

2017-10-01 19:08:49
天翔 @Tensyofleet

ために船体用鋼材は規格外のさらに規格外を用い、船体は溶接を主用した流れ作業によるブロック建造、機関は利用できる焼玉、蒸気レシプロ、ディーゼルなんでも採用、半数はデリックなどの荷役装置を設けないなど艤装その他は最低限度まで簡易化された。

2017-10-01 19:22:42
天翔 @Tensyofleet

荷役装置については、本来2E型は石炭・鉱石・鋼材の輸送を行う近海用貨物船であり、荷揚は陸上施設に依存するものとされたためであるが、結果として装備しなかったのは1/3程度であったらしい。

2017-10-01 19:26:24
天翔 @Tensyofleet

この建造方針により2E型の中でも造船所や時期によって艤装に差異があり、中でも装備した機関の種類で焼玉=2EH(Hot bulb)、ディーゼル=2ED(Diesel)、蒸気レシプロ=2ERS(Reciprocating)という分類がなされることがある。

2017-10-01 19:36:03
天翔 @Tensyofleet

fold3.comより、1945(昭和20)年4月6日に中国沖でB-25の攻撃を受ける戦時標準船2ET型。船橋横に「タ?5204」の文字があるが、同日の沈没記録に該当しそうな船はなく、船名は不明。 fold3.com/image/29017951 pic.twitter.com/yJHOtF3OMb

2017-10-01 19:51:06
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天翔 @Tensyofleet

物事というものはだいたい思うとおりに進まないものであって、油槽船の建造が間に合わなかったために2E型を応急油槽船として建造したのがこの2ET(=Tanker)型。播磨松の浦造船所で建造中の2E型がこれに切り替えられ、2ET型の全数が同所で建造されている。

2017-10-01 19:55:28
天翔 @Tensyofleet

最終的に150隻近くを建造した2ET型だが、最初はそんなに作るつもりもなく、応急というだけあって運べるのは原則重油だけ、原油と揮発油は保証しない、荷役ポンプはあるが動力(蒸気)がない。何せ播磨松の浦で生産していた2E型は、全数が焼玉もしくはディーゼル装備であった。

2017-10-01 19:59:01
天翔 @Tensyofleet

「戦時造船史としては特に参考となるべきものは何もなく、著者の空想による書物である。事実以外は削除を可とする。」 中々厳しい意見であるが、ここで批評されている書物とは小野塚一郎著「戦時造船史」。

2017-10-01 20:39:09
天翔 @Tensyofleet

批評しているのは、小野塚氏から同書の献本を受けた西島亮二氏で、便せんに鉛筆書きしたものを各頁に貼り付け、事細かにコメントがされている。

2017-10-01 20:42:52
天翔 @Tensyofleet

そんな「戦時造船史」が防衛省防衛研究所に所蔵されている。Web上では非公開(以前は公開していた)だが、史料閲覧室のPC端末もしくは書籍の閲覧で確認できる。 国立公文書館 アジア歴史資料センター jacar.archives.go.jp/das/meta/C0805…

2017-10-01 20:45:15
天翔 @Tensyofleet

当時戦時造船に関わった人々も、「戦時造船史」が正史となってしまうことを懸念して、残したコメントもある。あの本に書いてあることだけがすべてじゃないよ、と。当然のことではあるけれども。 国立公文書館 アジア歴史資料センター jacar.archives.go.jp/das/meta/C0805…

2017-10-01 20:49:59
天翔 @Tensyofleet

昭和19年2月の第6回行政査察における報告書。中々に評価の難しい文書であるけれど、この時点で2E型の主機関はディーゼル1/2、焼玉1/4、蒸気レシプロ1/4ということらしい。 第7.改E型機関レシプロ化に関する意見 jacar.archives.go.jp/das/image/C121… pic.twitter.com/uijreQCTlC

2017-10-01 22:08:20
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天翔 @Tensyofleet

ちなみに同じ報告書で、1A、1K、1TMの主缶と1TLの補助缶が削減されることになっている。 第6.船舶期間部工事簡易化並資材節約に就て jacar.archives.go.jp/das/image/C121… pic.twitter.com/loG1Nzt7fs

2017-10-01 22:12:06
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天翔 @Tensyofleet

fold3.comより、第5空軍のB-25の攻撃を受ける戦時標準船2E型。日時は不明だが、1945(昭和20)年8月に近い時期ではあるようだ。裏書きでは、この次の航過で直撃弾により沈没となっている。 fold3.com/image/29022624 pic.twitter.com/Q3rD6ja34L

2017-10-02 21:15:45
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天翔 @Tensyofleet

同じく裏書きで"jap oiler"となっているが、デリックなどが見当たらないためタンカーと間違われたのだろう。甲板には2つのハッチが見え、荷役装置が省略された2EHもしくは2EDと思われる。

2017-10-02 21:17:55
天翔 @Tensyofleet

1944(昭和19)年7月1日現在の戦標2E型就航状況(主機別)。SDは"Semi Diesel"で焼玉機関装備船のこと。 8.海輸A第46号 一連番号3 海上輸送の現況及見透説明参考資料 昭和19年9月2日 海運総局海運局輸送課 jacar.archives.go.jp/das/image/C121… pic.twitter.com/2jPMoPhly4

2017-10-02 21:27:41
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天翔 @Tensyofleet

同じ資料で、こちらは8月31現在のもの。この2表から、2E型総数のうち概ね焼玉機関が1/2、ディーゼルと蒸気レシプロが1/4ずつで、焼玉機関船の3/4とディーゼル機関船の1割ほどがウィンチ(荷役設備)を持たず、いずれも日本近海~中国沿岸部に就航していることが分かる。 pic.twitter.com/YHfmMfooD3

2017-10-02 21:39:40
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天翔 @Tensyofleet

南極観測船宗谷の前甲板上に並ぶ揚貨機。デリックの操作に用いるもので、力量3トン巻取速度30m/min、直流電動式で電動機出力は25馬力となっている。新造時は往復動蒸気式であったものを、第一次改装で更新して以来そのまま設置されている。 pic.twitter.com/PYO5NtJjns

2017-10-02 23:10:05
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天翔 @Tensyofleet

船首にある揚錨機。一次改装では旧来の往復動蒸気式が残置された旨記されているが、さすがに電動式に改造されているようだ。宗谷は一次改装で主機を蒸気レシプロからディーゼルに換装しているが、補助缶も搭載していたため蒸気式補機も使用できた。もっとも残されたのは揚錨機くらいだが。 pic.twitter.com/O9VBS4HuX7

2017-10-02 23:19:17
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天翔 @Tensyofleet

2E型戦時標準船のうち、蒸気レシプロ機関を持つものがすべて揚貨機(ウィンチ)を持っていたのは、これらの甲板補機が蒸気駆動であったため。蒸気缶を持たない焼玉とディーゼル機関は蒸気式が使えず、別途何らかの動力を用意する必要があった。

2017-10-02 23:24:50
天翔 @Tensyofleet

通常であれば電動機が用いられることだろう。2Eのデリックは3t4基、出力は少なくとも20馬力は要るので15kW×4となる。一方、2E/2ETの発電機は直流105V7kW1基のみで全く足りない。戦略物資である銅を多用する発電機/電動機は、戦時標準船の補機用として想定されていない。 pic.twitter.com/kmZQ8TKzAj

2017-10-02 23:35:07
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天翔 @Tensyofleet

とすれば、独立した動力-原動機をここに持って来るしかない。とある2EDの図面には「S.D.W.」の文字がある。"Semi Diesel Winch"、日本語に訳すと「焼玉揚貨機」である。 pic.twitter.com/Dn4NWhblGI

2017-10-02 23:40:58
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天翔 @Tensyofleet

アジ歴の写真週報340号(昭和19年9月27日号)より。伏字になっているが、ビルド(ビルディングドック)を持つのは川南香焼以外にない。まだ船底部分しかない建造中の船は、戦時標準船2A型だろう。 digital.archives.go.jp/das/image/M200… pic.twitter.com/VOh85FUMdy

2017-10-04 22:55:09
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天翔 @Tensyofleet

解像度は良くないが、船渠に注水中と思われる写真。戦標2Aは甲板が縦通梁式であったので、シアストレーキと合わせて陸上組立のブロック方式とすることができず、建造期間短縮のネックとなった旨の回想がある。 pic.twitter.com/kWqcolqixl

2017-10-04 23:05:27
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天翔 @Tensyofleet

終戦直後の川南工業香焼島造船所。大ビルドは写真左下に見切れてしまっている。場所は現在の三菱重工長崎造船所香焼工場になる。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… pic.twitter.com/4hYQFfc4My

2017-10-04 23:09:41
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天翔 @Tensyofleet

「焼玉揚貨機」に関する資料は少ないが、武智丸型として知られるコンクリート船も主機はディーゼルであり、艤装も戦時造船の枠内なので図面にははっきりと焼玉揚貨機が記されている。 CiNii 論文 - 鐵筋コンクリート船の一設計 ci.nii.ac.jp/naid/130003731… pic.twitter.com/Y3GBs7Hs1c

2017-10-06 20:13:31
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天翔 @Tensyofleet

3トンデリック4基に25馬力の発動機付揚貨機4基、出力は不明であるが揚錨機も同様のものだろう。海務院制定の標準型焼玉機関に1気筒25馬力のものがあり(1-250)、これが用いられたものと思われる。

2017-10-06 20:18:07
天翔 @Tensyofleet

同じマスプロ建造された海防艦、ディーゼル装備の丙型の補機はどうなっているかというと、揚貨機こそ装備していないものの、揚錨機は電動である。おのれ海軍ゼイタクな。。。 国立公文書館 アジア歴史資料センター jacar.archives.go.jp/das/meta/C0801… pic.twitter.com/cBlY42Dwox

2017-10-06 20:33:29
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天翔 @Tensyofleet

同じ海防艦でも主機が蒸気タービンの丁型は揚錨機から舵取機まで汽動式である。併せて発電機の容量もわずかながら小さいようだ。 pic.twitter.com/8hEWkQfJrv

2017-10-06 20:38:03
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天翔 @Tensyofleet

さて、ではその焼玉揚貨機・揚錨機のご尊顔を拝見しようとすると、その写真が中々見当たらない。2Eの甲板なんか写真に撮ろうとするもの好きはいなかった、ということだろうか。 fold3.com/image/29022624 pic.twitter.com/V0XbvMfkje

2017-10-06 21:09:28
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天翔 @Tensyofleet

止むを得ないので甲造船を諦めて、乙造船の方に目を向けてみる。すなわち戦時標準型木造船である。 写真週報 digital.archives.go.jp/das/image/M200… pic.twitter.com/z9WpOmBItx

2017-10-06 21:14:25
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天翔 @Tensyofleet

当然というべきか、こちらも動力という動力がほぼ焼玉エンジンである。手動なんちゃら、というのは見なかったことにする。 pic.twitter.com/kMeuh8BIVv

2017-10-06 21:19:39
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天翔 @Tensyofleet

正直これが戦時標準型かどうか、また総トン数についても断定しがたいのだけれども、船首に鎮座している揚錨機兼揚貨機は、どうやら焼玉エンジンらしい。 matsuzo.co.jp/old/matu/matsu… pic.twitter.com/hXH7hMP9CK

2017-10-06 21:26:22
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天翔 @Tensyofleet

さて焼玉揚貨機であるが、その評判は大変よろしくない。3トンの筈が事実上1トン半程度の能力しかなく、約800隻の修繕船調査によれば、その56%が揚貨機の修理で、内訳は工作不良42%、使用不適28%(おそらく不適切な取り扱い)、設計不良と材料不良が13%らしい。(出典:戦時造船史)

2017-10-06 21:50:14
天翔 @Tensyofleet

戦後改装を受けた2EDの1隻などは、貨物艙を圧迫するにもかかわらず、わざわざ機関室を前方に延長し、補助缶を増設して汽動式の揚錨機・揚貨機に改造してしまった。 CiNii 論文 - 武藏丸改造工事に就いて ci.nii.ac.jp/naid/110003875… pic.twitter.com/xfz1KHylmh

2017-10-06 21:54:22
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天翔 @Tensyofleet

2EDに乗船していた機関士の回想によれば、荷役が始まる前に焼玉揚貨機を運転できる状態にするためには、3人1組を2組作って2台同時に起動作業にかかり、焼玉をブローランプで焼いて加熱するのだが、これに30分を要したという。

2017-10-06 21:59:02
天翔 @Tensyofleet

この時代の船で蒸気も電気もない、というのは大変不便なものであったらしく、同じく2EDでは居住区の暖房は石炭焚き達磨ストーブ、風呂は木桶でやはり石炭焚き、はては機関室にも達磨ストーブを置いて発電機や焼玉機関の始動用に燃料油を温める、というようなことが行われていたようだ。

2017-10-06 22:07:53
天翔 @Tensyofleet

思い出しましたが、第一国策丸の船首にも焼玉揚錨機が鎮座しておられますね。 yasuura-yumekobo.com/know/knowdata/… pic.twitter.com/YUrEli05td

2017-10-06 22:18:07
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