戦前日本の優秀船における機関室通風の例について(附・電気推進艦神威)
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天翔 @Tensyofleet

戦前期、とある貨客船の図面。昭和10年代前半の船なので装備もよい。蒸気タービン船なので、右手が船首側で缶(ボイラー)室、左手が機関室となっている。 pic.twitter.com/jrbKEaSF89

2018-03-11 21:51:08
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天翔 @Tensyofleet

これだけだとなんのこっちゃ分からないので、缶室・機関室の通風経路を図示してみる。 pic.twitter.com/bBuHZUtPRk

2018-03-11 21:53:38
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天翔 @Tensyofleet

最も装備が整った時期の船であることもあって、主缶の排気に誘導通風を用いている。戦前これを備えているのは珍しい。缶室の排気は二重煙突の部分から、機関室の排気は機関室天窓(スカイライト)から行われている。

2018-03-11 21:57:25
天翔 @Tensyofleet

本船は大阪商船の大連航路に就航していた黒龍丸(7,369総トン)。燃料を石炭とするため、水管式ボイラーにメカニカルストーカを備えている。誘導通風が要るのはそのせいもあるのだけれど。。。 jstage.jst.go.jp/article/jjasna… pic.twitter.com/kvfpjmyiXo

2018-03-11 22:02:08
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天翔 @Tensyofleet

煙突の周りに生えてるキセル(煙管型通風筒)や機関室天窓には、それなりの意味があるのですよ、と。現存する氷川丸はディーゼルなので(補助缶はありますが)ここまで大掛かりな通風装置はありません。写真は氷川丸の機関室から見上げた天窓。 pic.twitter.com/medVFMm2r9

2018-03-11 22:11:00
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天翔 @Tensyofleet

貨客船新田丸(17,149総トン,日本郵船,1940年竣工)。後に航空母艦に改装される姉妹船3隻には、「小型で低速」が枕詞のごとくについて回る。戦前の日本商船において、最大速力22ノット余の本級を上回る速力を発揮したのは、関釜鉄道連絡船金剛丸級と天山丸級の2級4隻だけなのだけれども。 pic.twitter.com/3BnGYJR8cn

2018-03-16 22:22:48
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天翔 @Tensyofleet

新田丸は総トン数においても、秩父丸(のち鎌倉丸)に続く日本第2位の貨客船であり、船体。貨客船に限らなければ、秩父丸の上に第二図南丸、第三図南丸、第二日新丸、極洋丸(いずれも捕鯨母船)の4隻がいるので6番目になる。

2018-03-16 22:31:50
天翔 @Tensyofleet

もっとも、航海速力21ノットは諸般の事情()によるところがあってのもので、商船としては経済的な不利益が多分に生じていた筈である。とはいえ、戦前日本の商船としては稀な水管ボイラーを搭載しており、機関出力25,200馬力は戦前商船として最大の数値である。 pic.twitter.com/hyYzfOEM4n

2018-03-16 22:36:28
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天翔 @Tensyofleet

なお新田丸の公試成績は、1/5載貨逓増速力試験において、過負荷全力28,359馬力で22.474ノットである。同条件4/4で21,220馬力21.341ノット、1/2載貨4/4で21,480馬力21.165ノットなので、航海速力18.5ノットは十分達成できたことだろう。

2018-03-16 22:41:30
天翔 @Tensyofleet

新田丸の缶室と機械室配置。橿原丸級が後に控えていたとはいえ、貨客船として完成した新田丸級は、戦前日本商船の一つの集大成と言ってよいと思う。それはまた、当時の日本の限界であったとも言えるのだろうけれど。 pic.twitter.com/cmWt7PEDkc

2018-03-16 22:51:55
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天翔 @Tensyofleet

という訳で新田丸は強い。強いと言えば、すわなちわが帝国海軍の戦艦である。なんせアメリカ海軍のお墨付きであるから、どこに出したって恥ずかしくない。 "NH 111623 Elevated view of Japanese battleship: H.I.J.M.S. NITTA MARU. (Yawata Class) Taken prior to 1941" history.navy.mil/our-collection… pic.twitter.com/Ly6e3i6nVf

2018-03-17 13:26:42
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天翔 @Tensyofleet

さて、新田丸の煙突周り。どうもこの船にはキノコがあまり生えていない。多分、建造した時に種ゴマを打ち込み忘れたのだろう。 history.navy.mil/our-collection… pic.twitter.com/qCWOzWKxPn

2018-03-17 19:15:26
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天翔 @Tensyofleet

中身はこんな感じになっている。本船は重油焚蒸気船で、右手が船首側で缶(ボイラー)室、左手が機関室となっている。 pic.twitter.com/dTYMM0LGOd

2018-03-17 19:16:58
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天翔 @Tensyofleet

やっぱりどうなってるのかさっぱり分からないので、例によって缶室・機関室の通風経路を図示してみる。主缶の排気に誘導通風を用い、缶室と機関室の給気には機力通風を用いている。自然通風を行う煙管型通風筒は、その補助程度にしか備えられていない。 pic.twitter.com/w9C2HDfOyU

2018-03-17 19:20:00
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天翔 @Tensyofleet

がしかし、せっかく主缶に誘導通風の設備を施したものの、通常の運航状態ではほぼ必要なく、使用されたのはわずかに煤吹きの時だけで、『図体の大きい50馬力の電動機4台が物々しく汽缶室頂部に無言の行を成している』状態だったという。

2018-03-17 19:28:33
天翔 @Tensyofleet

運転すると火焔が水管列の奥深くまで侵入するので、局所的な過熱に注意、とのことであったようだ。本船が缶室と機械室に機力通風を用いたのは航空母艦への改装を考慮したものであるように思うが、改装された後の運用状況については分からない。

2018-03-17 19:31:40
天翔 @Tensyofleet

貨客船浅間丸(16,947総トン,日本郵船,1929年竣工)。新田丸からおよそ10年を遡った頃に竣工した、日本郵船華の30年代組の1隻。 searcharchives.vancouver.ca/m-s-asama-maru pic.twitter.com/A608CyohRV

2018-03-17 20:44:30
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天翔 @Tensyofleet

同型(?)3隻のうち、三菱長崎で建造された浅間丸と龍田丸は、主機に単動2サイクルズルツァー8ST68/100を4基搭載したディーゼル船である。 CiNii 論文 - 淺間丸龍田丸機關部計畫及び成績に就て ci.nii.ac.jp/naid/110003864… pic.twitter.com/qR7h5C0U5a

2018-03-17 20:47:23
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天翔 @Tensyofleet

その機関室通風は、缶のある蒸気タービン船に比べて配置が随分楽になっている。後機室にある主機の排気は後部煙突から、前機室にある主発電機と補助缶の排気は前部煙突から行われることが分かる。両舷外側の主機排気は、後部煙突に横から刺さるような経路で後部煙突に繋がっている。 pic.twitter.com/OroU7ovBX4

2018-03-17 20:56:20
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天翔 @Tensyofleet

日本郵船歴史博物館には、浅間丸をはじめとした主要船の精密模型があるので、煙突周りを眺めつつその中身にも思いを馳せると、ひょっとすると何かいいことがあるかもしれない。そんな気がする。多分。おそらく。 kanagawa-kankou.or.jp/seeing/kanko/s… pic.twitter.com/EdjTVze8U1

2018-03-17 20:59:55
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天翔 @Tensyofleet

「理論空気量」とは燃料を完全燃焼させる際の最小限必要な空気量のことだが、対して理論空気量より余分に使用した空気のことを「過剰空気量」と言う。

2018-03-18 00:01:56
天翔 @Tensyofleet

完全燃焼を行うためには、固形燃料を用いる石炭焚ボイラーだと過剰空気/理論空気=空気過剰係数が1.5程度、液体燃料である重油焚ボイラーだとやや少なくて1.3程度になる。過剰空気は炉内の温度低下につながり、効率は悪くなる。石炭より重油の方が効率がよい理由の一つである。

2018-03-18 00:09:00
天翔 @Tensyofleet

む、ちょっとおかしいな。理論空気+過剰空気=供給空気で、供給空気/理論空気=空気過剰係数か。

2018-03-18 13:35:36
天翔 @Tensyofleet

内燃機関であるディーゼルは、外燃機関と異なり燃焼が爆発的であることから空気過剰係数は1.5~2.0になる(低速時はそれ以上)。とはいえ馬力当たり燃料消費量の差、缶室・機関室の換気と、機関の燃焼の吸気・排気を考慮すると、ディーゼルの方が色々楽なのだろうなぁと思う。

2018-03-18 00:17:24
天翔 @Tensyofleet

運送艦神威とその機関室配置。本艦はターボエレクトリック方式による電気推進艦である。日本海軍唯一とするのは、神鷹をどう解釈するかによるかもしれないが。。。 pic.twitter.com/SGRVrFOMsM

2018-03-18 14:10:33
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天翔 @Tensyofleet

こっちの方が機関室上部の様子がよく分かるな。 history.navy.mil/our-collection… pic.twitter.com/ErK4UkrOTT

2018-03-18 19:33:31
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天翔 @Tensyofleet

例によって通風経路を図示してみる。缶室を密閉して送風機で圧力をかけ、燃焼室に空気を送り込む缶室密閉式になっているので、缶室の出入口にエアロックがある。また、発電機と電動機の冷却には機関室内の空気を吸い込み、艦外へ排出する方式を用いている。 pic.twitter.com/XGz3HwqLvI

2018-03-18 14:15:37
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天翔 @Tensyofleet

結露対策とかどうしていたのかな、と思ったら、どうやら停泊時はヒーターで温めていたらしい。運転時は発電機・電動機自体が熱を持つので必要ないのだろう。 ci.nii.ac.jp/naid/110003863…

2018-03-18 14:20:32
天翔 @Tensyofleet

じゃあアメリカの電気推進の戦艦や空母はどうしていたのかというと、レキシントンでは『主交流發電機及び主推進電働機冷却用としては舷外よりの空氣を使用せす、艦内にて室氣冷却を行ひ之を循環す。』となっている。図は同艦の機関配置。 jstage.jst.go.jp/article/zassan… pic.twitter.com/7ItqpsFp6S

2018-03-18 14:26:20
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天翔 @Tensyofleet

電気推進の欠点として、損失がすべて熱に変換される発電機・電動機の冷却が面倒、ということはあまり知られていない。しらせ(2代)でも制御機器はともかく、電動機は空冷であるようだ。 jstage.jst.go.jp/article/jime/4…

2018-03-18 14:35:03