主坂と主高で殴られた結果「二人とも娶ればいいじゃない」となった人間がXで書き散らしているSSS
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@kai3years

あくまで試作品であり、効果のほどは保証できず、死を早める危険すらある。完全に叩き伏せられた上で飲まされた労咳の薬は、そんな代物であったことを、晋作は快復してから聞いた。「あんた、よくもまあ…」躊躇いもなく、流し込んでくれたものだ。「作った男は知己だった。あいつの薬なら信用できる」

2024-04-25 03:11:14
@kai3years

「だからって、一分の迷いもなしかよ」今はすっかり咳も治まり、こうして男の腕に抱かれて、三味線のそれとは違う音色を引き出されている肉体は、罷り間違えば西方寺の土の下だったかもしれないのだ。「わかっていた」「何が」「薬が効いて、病が打ち払えること」いつか、病がうつるかもしれないと、

2024-04-25 03:11:15
@kai3years

突き放そうとしたことを、執念深く覚えている男は、晋作を抱くとき、肌を離さない。汗濡れた胸がべたりと合わさり、心音が揃うように鳴る。「お前の運を信じていた」囁く声は、珍しく、笑みを含んでいるようだった。「たとえ、薬が効く可能性が十に一つだったとしても、お前なら必ず、それを引く」

2024-04-25 03:11:22
@kai3years

「だから、怖くはなかったと?」「そうだ」とんだ信頼もあったものだ。お前は運がいい男だから。ただそれだけで、晋作は、まだ西洋にも広まっていない薬を口にさせられたのだ。「ありがたいやら、呆れるやら」「結果、見事に引いたろう?」「そうだな。しかし、…なあ、あんた」男は一つ、忘れている。

2024-04-25 03:11:24
@kai3years

「なんだ」「確かに、十に一つは、俺が引いたのかもしれんがな」立場も、身分も、思想も超えて、自由に日ノ本を駆けた男。その無頼さが因縁を繋ぎ、あの薬を、晋作の口へと運んだ。「百に一つの好運は、あんたが引いてくれたんだぜ」晋作の言葉と接吻を受けて、男は、今度こそ、はっきりと笑った。

2024-04-25 03:11:30
@kai3years

長屋の戸に手をかけて、そこで立ち止まることがある。訛りのきつさを恥じることもなく、明朗な調子でよく笑う、長屋の主の「片割れ」の声が聞こえてきたときだ。土産に持ってきたのはさぞかし愉快な話題なのだろう、うははは、と響く大音声には、隠れるようにして、あの男の忍び笑いも溶けている。

2024-04-26 04:20:57
@kai3years

だからといって晋作が気後れする理由はない。相ッ変わらず馬鹿でかい笑い声だな坂本さん、表にまで聞こえてきたぜ、とからかって、その場に交じればよい。けれど。それは。(野暮じゃ、ないのかね)杞憂であると知りつつも、勝手に躊躇してしまう。粋な男であることは、最近はずいぶん難しかった。

2024-04-26 04:20:57
@kai3years

長屋の戸に手をかけて、そこで立ち止まることがある。ぽつぽつと、まさに「爪弾く」といった、三味の音が聞こえてきたときだ。宴席で披露するような、力の入ったものではなく、言の葉の代わりとするように、弦は控えめに鳴いている。長屋の主は聞き惚れているのか、声は、猫のものしかなかった。

2024-04-26 04:21:04
@kai3years

だからといって龍馬が気後れする理由はない。相ッ変わらず見事なもんじゃのう、わしにも教えとおせ、と頼んで、また三日で飽きる気かと撥ねられ、頭を掻けばいい。けれど。もしも。縁側ではなく、あの男に寄り添う位置で、晋作が弾いているのなら。その画に自分が割り込むことは、憚られてしまうのだ。

2024-04-26 04:21:08
@kai3years

長屋の戸に手をかけて、そこで立ち止まることがある。忙しなく猫に話しかけては、振られているらしい男の声と、それを気にした様子もなく、淡々と弾かれる三味の音。決して溶け合うことはなく、さりとてぶつかることもなく、めいめい好き勝手に、自分の留守を過ごしているのがわかったときだ。

2024-04-26 04:21:15
@kai3years

彼ら二人が訪れているとき、長屋は、真に「家」となる。どちらか一人が隣に座ってくれるときも幸せだが、隣は二つあるのだから、一緒に占めてくれればいい。いつか口にした願いは存外、難しいことらしかったが、もしかしたら、今日こそは、と、期待を持って戸を開けるのは、いつも、楽しいことだった。

2024-04-26 04:21:22
@kai3years

労咳の薬を取ってきたことを最後のひと押しとして、高杉はあの浪人と、恋仲になったのだという。「俺だって行きましたけど!?むしろ俺が『行きましょう』ってあの人を誘ったんですけど!?」「あー、そうらしいな」「あー、そうらしいな!?」健気に尽くした舎弟に対し、なんという物言いだろう。

2024-04-26 22:01:05
@kai3years

彼の横たわる布団を囲んで薬の話をしたときも、薬を取って戻った際、無理に出ようとしていたところを、完全に叩き伏せてから再び布団に押し込んで、くだんの薬を飲ませたときも、伊藤は高杉の近くにいたのに、彼には見えてすらいなかったらしい。「扱いが違いすぎませんかね!?」「そりゃ違うだろう。

2024-04-26 22:01:07
@kai3years

俺が万人に等しく優しい男に見えるか?」「見えませんけど」「正直な野郎だ」「だったら俺だってもうちょい贔屓してくれていいでしょ、って話ですよ」自慢ではないが、伊藤は高杉の、一の舎弟という自負がある。付き合いだって短くはない。少なくとも、あの浪人と高杉のそれとは、比べものにならない。

2024-04-26 22:01:17
@kai3years

「なんだ、お前、俺のこと、そういう目で見てたのか?」「それはないっす」「ないならなんで『贔屓』って発想になるんだ」ご尤もである。何故だろう。多分、伊藤は高杉が、誰か一人のものになる、という選択をしたことが、信じられないのだ。詩歌の記された紙のよう、ひらひらと身軽に生きていた、

2024-04-26 22:01:20
@kai3years

高杉晋作という男が。「だって…なんか…ズルいじゃないスか。俺だって頑張ったのに」「感謝はしてるぜ」「わかってますけど!」「お前がわかっても、俺がわからんよ。結局、何が不満なんだ?」それを明快に言語化できれば、最初から頭を抱えてはいない。「うううん…」「知恵熱か?うつすなよ」

2024-04-26 22:01:30
@kai3years

「それ!」「どれだ」「そういう!態度!」ああ、なんとなく、見えてきた。要は、特別扱いが過ぎるだろう、と思っているのだ。礼はもちろん尽くせばいい。態度でも何でもあらわせばいい。けれど。「なにも恋仲にまでなることはなかったでしょうよ…」そこまでする必要は、きっと、なかったはずなのだ。

2024-04-26 22:01:40
@kai3years

「…お前、勘違いしてないか」しばし沈黙を紡いだのちに、高杉はやがて、そう言った。「何がスか」「俺が惚れられて、労咳の薬まで持ってこられて、ついには落ちた。そう思ってないか?」「違うんですか?」「まるっきり違う」「えっ、じゃあ、恋仲になったのは、からかってるだけだとか…?」

2024-04-26 22:01:51
@kai3years

「俺を何だと思ってるんだ。そういった話じゃあなくてな」後ろ頭を軽く掻き、高杉は、はっきりと言い切った。「先に惚れたのは俺の方だ」先に。惚れた。誰か。一人に。ひらひらと身軽に生きていた、彼が。「近く死ぬ身であるならと、未練にならんよう引いていたが、どうも、事情が違ってきたからな」

2024-04-26 22:02:01
@kai3years

すっかり咳を出さなくなった喉の仏を、指が擦る。「どうしてくれようかと思っていたところ、向こうの方から言ってきた。鴨がネギ背負って来た訳だ。そりゃ、ありがたくいただくだろう?」にやりと唇を歪める笑みを、ずいぶん久しく見た気がした。「あー…」つまり。「薬の礼とか、そういうんじゃなく」

2024-04-26 22:02:12
@kai3years

「それはそれ、これはこれだ」誰か一人のものになることを、仕方なく選んだ訳ではなかった。ひらひらと身軽に舞う紙は、自ら望んで一箇所に降り積もることを決めたのだ。薬を持ってきてくれたのは、あの男でなく、高杉にとっての、最後のひと押しだったのか。「納得しました」「そいつは重畳」

2024-04-26 22:02:22
@kai3years

身を引く理由はなくなった。向こうも自分に惚れているという。好機のすべてを手にした男は、病に倒れる前より況して、爛々と輝く目をしていた。「高杉さんのマジ惚れかあ」それはさぞかし、苛烈で、重くて、面倒臭くて、忘れがたくて。「同情しますよ、あの人には」「要らん要らん、そんなもの。

2024-04-26 22:02:33
@kai3years

あいつは俺が死ぬことも許さんと、独り幻みたいな薬を探し当ててきた男だぞ」「話の頭に戻りますけど、俺も一緒に行きましたからね」「あー、そうらしいな」「いいスよ、もうそれで」こうして、世にも珍しい惚気を、べらべら喋ってくれる。一の舎弟への贔屓としては、このくらいが落としどころだろう。

2024-04-26 22:02:45
@kai3years

「晋作、わしはな、米国に行くぜよ!」一大決心には違いない。しかし、それを、わざわざ自分に宣言する意味がわからない。「ほう。そりゃいい。気を付けてな」「おう!」「…」「…」「それだけかい?」「おう!」長屋の主は留守であり、ここにいるのは、猫を除けば、晋作と龍馬の二人だけだ。

2024-04-28 01:04:30
@kai3years

あっちに就いたりこっちに就いたり、あっちとこっちを繋いだり、とかく騒乱のさ中でも自由に動いていた男だから、今更米国に行くというくらいでは驚きやしないが、そういうことは自分ではなく、今いない男に言うべきではないのか。「あいつには、もう伝えちょる」腹を読まれた。「ふうん?ならいいが」

2024-04-28 01:04:30
@kai3years

「駄目だ、行くなち言われてのう、後ろ髪がなくなるか思うたが」「なんだ、惚気か?受けて立つぜ」「それじゃ。受けて立ってくれ」「あ?」冒頭の宣言をするためか、わざわざ立ち上がっていた男は、どっか、と尻を下ろしたのち、滅多に見ない正座をした。出会った頃からまるで変わらない、

2024-04-28 01:04:31
@kai3years

無作法に人を射抜く目が、真っ直ぐに晋作のそれを捉える。「晋作。わしがおらん間、あいつのことを、よろしく頼む。おまんが傍におってくれれば、わしの心も軽うなるき」「ははあ」そういう意味だったか。必要のない宣言は。なるほど、大きな問題はひとまず片付いたといえど、あの男を含めた三人、

2024-04-28 01:04:31
@kai3years

脛の傷なら数え切れないくらいに付いている身である。守ってやってくれ。支えてやってくれ。坂本は、そう言わんとしたのだ。「もちろん、いいぜ」言われなくとも、望むところというやつだ。あの男は晋作に、一緒に面白く生きようと言った。その言葉を聞き逃してやる気はさらさらないのだから。ただ。

2024-04-28 01:04:31
@kai3years

「いやあ、まさか、こんな好機が巡ってくるとは思わなかったな」「ちゃんす?」「あんたがいない間、あいつは俺だけのもんってことだろ?」「むぐ」若干、腹が立った。まるで「自分の代わりに」と乞うような、その言い種が。「向こうにゃ何年いるつもりだ?一年?五年?もっとでもいいぜ。

2024-04-28 01:04:32
@kai3years

あいつのことは俺がきっちり面倒を見てやるさ、何から何までな」「し、晋作」「あんたと一つ屋根の下じゃあ流石に憚られることもあったが、もう、遠慮はなしだ」「晋作」「安心しな、坂本さん。あんたがどれだけ向こうにいようが、そんなこと、どうでもよくなるくらい、身も心も満たしてやるよ」

2024-04-28 01:04:32
@kai3years

「晋作!ほどほどに!ほどほどに頼む!」攻守逆転。これでよし。「さて、どうしてくれようかね」「すまん!このとおりじゃき!あいつがおまんだけの男になるんは嫌じゃあ!」「なんだ、気の弱い。さっきまでの威勢はどうしたよ」「わしの居場所も残しとうせ!ちっくとでも構わんから!」

2024-04-28 01:04:34
@kai3years

「ちっくとで構わないんだな?」「かま…わ…」「構わんな?」「構う!」「やれやれ」つまり、自分が不在の間、あいつと二人でいながらも、その隙には付け込むなと言いたい訳だ、この男は。まったく、我が侭で、甘っちょろくて、子供みたいに奔放で。そういう男だからこそ、あいつも惹かれたのだろう。

2024-04-28 01:04:34
@kai3years

「心配するなよ、坂本さん」一時の正座はどこへやら。晋作の脚に縋りつき、泣き顔を作りかけていた男の頭を、ぺしりと叩く。「あんたの居場所は、なくなりゃしない。俺がどんなに俺だけを見るようけしかけてもな。あいつは、あんたのことも、死ぬまで待ち続けるだろうよ」ひとたび惚れたら、墓場まで。

2024-04-28 01:04:35
@kai3years

そういう男だからこそ、ひとかけらたりとも放したくないのだ、自分も、坂本も。「晋作…」「まあ、だから、心配しなさんな」「おまん、ええ男じゃのう…」「俺も満喫はさせてもらうしな。取り敢えず、あんたが発った夜から」「な、何を」「そりゃナニをだよ。片割れと分かたれる寂しさを、

2024-04-28 01:04:35
@kai3years

全力で慰めてやらんとな?」「…」「どうした」「なるべく早う帰る」「結論、それか。まあ、頑張りな」日ノ本を出て、世界を見て、生まれ変わって戻ればいい。その間、自分はこの国を、深く、つぶさに見て生きよう。あの男に好かれているという、磐石たる自負を抱えて。「土産話、楽しみにしてるぜ」

2024-04-28 01:04:36
@kai3years

今更ですがうちの主です たぶん30過ぎくらい 史実の龍馬は享年31、晋作は29とのことで ちょうどいいんじゃないでしょうか #カイズオブローニン x.com/kai3years/stat…

2024-04-28 01:30:54
@kai3years

「なあ、おまん、それ、やめんかえ…?」布団に汗が染みるほどには、互いの体を火照らせて。もうよかろうと、繋がるために龍馬をうつ伏せにさせた男は、濃い毛の逆立つ背中を唇で擦りながら、何が、と訊き返した。「わかっち言うとるじゃろ。それじゃ、それ」「これか」「ひゃい!?」幅広の舌で、

2024-04-29 03:46:39
@kai3years

毛の根元から舐め上げられると、頭のてっぺんから声が出る。振り向き、中断させようにも、尻のあわいに触れる熱への執心が、それを許さない。押し込めようと力がこもったのを感じれば、なおさらだ。「悪くはないのだろう?」「う、ぁ、」ずぐりと、中へ、入ってくる。こうなると、もう抗えない。

2024-04-29 03:46:40
@kai3years

「意地が、悪いぜよ…」享楽に情けなく震える声をして、食い下がるのがせいぜいだ。「おまん、知っとるじゃろ、わしが」「気にしているという話か」「そう、じゃ」さながら馬のたてがみよろしく、たっぷりと背にたくわえられた毛。自分自身では剃ることもできず、人に剃ってもらったところで、

2024-04-29 03:46:41
@kai3years

すぐにまた伸びてくるそれを、龍馬はずっと恥じている。なのに、この男は、だからいいのだとばかり龍馬を後ろから抱き、口で、指で、掌で、いつも、散々に愛でるのだ。(そりゃ、おまんは猫やら犬やら、すーぐ手懐けてかわいがりゆうから、わしのこともそんなふうに思うちょるのかもしれんけど、

2024-04-29 03:46:43
@kai3years

毎度わしゃわしゃ撫でられる方は、たまったもんじゃないぜよ)頭の中ではこれくらいの文句を組み立ててみたものの、「んん、っぐ…!」ずりずりと内側の柔い肉を巻き込みながら、奥まで突き入れてこられると、とても口にまで出せはしない。「は、ぁ、」どころか、恍惚の溜め息が漏れる始末である。

2024-04-29 03:46:43
@kai3years

「…お前が、本当に嫌だと言うなら、金輪際、触れないと誓う」動きたいのを、抑えているのか。後ろで囁く声は低く、獣の唸り声にも似ていた。「だが、私は、これが好きだ」恐らくは、彼の顎からか。ぼたりと大粒の汗が滴り、それを背中で受け止めた龍馬は、危うく達しそうになった。「触り心地も、

2024-04-29 03:46:44
@kai3years

私に抱かれて逆立つところも、全部、愛しい。お前がそうやって恥じらうのもいい」「意地、が」「悪いな」真っ赤に染まった顔は伏せられても、耳も項も、丸見えだ。ふふ、と聞こえる声は甘くて、体の奥がぎゅうっとなる。「龍馬」名を呼ばれると同時に深く突き入れられて、陥落するように頽れた。

2024-04-29 03:46:46
@kai3years

背の毛が一斉にぶるりと震え、法悦を伝えているのがわかる。「私にだけ、許してくれ」希うようにそう言われては、もはや、逆らう気も起きなかった。首をひねって、一度だけ、根元から舌を絡めると、あとはすべてを手放して、突き動かされるままに、叫んだ。

2024-04-29 03:46:47
@kai3years

まるで宿り木の枝のようだ。鍛え抜かれた男の体は、その実、猫みたいにしなやかで、手も足もぐるりと晋作に巻きつき、僅かな隙間も与えない。その上、中にも太い楔を打たれているのだから、たまらない。「ああ、っは、」揺すられ、刺激に喘ぐと、ひらいた口さえ塞がれる。下品な水音を響かせながら、

2024-04-29 13:46:13
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@kai3years

18歳をめちゃくちゃ超えてる、急に文を書くタイプのshipper。基本がNSFWのため、フォローは18歳以上を推奨。日本語しか喋れませんが、海外の方とも翻訳ツールを使ってお話しするよ。光サン(ひろサン/meteorcred)生産中。アイコンは節さん(@setsu1225)からいただいたものを永遠に使い回しています