0
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

@WF7_100 夢主は無気質な白い部屋の中で、その光景を眺めている。

2020-04-23 14:29:21
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

@WF7_100 夢主の横たわるベッドの側、こちらに白いワイシャツの背中を向ける誰かが、その腕にカノジョの幼い娘を抱いて立っていた。二人は壁面に大きく取られた、ガラス窓から外を眺め、時折――男性が、優しい声で外の様子を話して聞かせているようだった。ほら、あそこに車が…ブッブが走っているよ。と言えば

2020-04-23 14:33:26
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

@WF7_100 娘がそちらを指さしてブッブと答えた。意識は朦朧として、身体も動かない。声を発することもできないけれど、人一倍人見知りの激しい娘が、大人しく抱かれているのがとても不思議だった。叔父である弟が抱こうとしても泣き出すほど。かと言って父でもない。誰だろう。部屋の中には、

2020-04-23 14:36:25
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

微かに懐かしい、覚えのある匂いが漂っている。そばにいる男の後ろ姿も、自分はよく知っている気がした。

2020-04-23 14:40:01
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

(そんなはずない……ああ、そうか。これもきっと、夢なんだわ)hyknskが彼女の居場所を知っているはずがない。もう二度と、会うこともないかもしれないひと。(夢でもいいから、こっちを見て。顔を見せてよ……)人が人を忘れる時、最初に声から忘れるのだと聞いたことがある。でも、夢主はまだ、

2020-04-23 16:15:55
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

悲しいほどに覚えていた。幸福と不幸の記憶と共に。(hyknsk …)……不意に引きずり込まれるような強い睡魔が押し寄せた。底なし沼に飲まれるような。そのまま目を閉じかけた夢主の顔を、誰かが覗き込んだ。「いけませんよ」と、穏やかな声が慈雨のように降ってきた。

2020-04-23 20:04:45
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

天井の蛍光灯の光は強く、逆光になっていて、彼の顔は見えない。「あなたは、とても頑張った。もう、報われるべきです。さあ、もう少しですよ」(でも、とても眠いんです…)「このまま眠れば、多分もうあなたは目が覚めない。さあ、呼んであげなさい。娘さんと……」何となく、自分の置かれた状況が

2020-04-23 20:11:25
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

わかってきた。夢主は、自分が帰り道に事故に遭い、あれから病院にいるのだと。「あにさ……あの人の名前を……」じゃあ、この夢は、夢でないのなら、そこにいるのは……?

2020-04-23 20:15:36
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

声を出そうとすると、胸に激痛が走ったけれど、「大丈夫、できます」慈愛の籠ったその声に励まされるように、夢主は喉元の塊を押し上げるように声を絞り出した。「hyknsk ……?」そして、二人の間に生まれた、その子供の名前を。

2020-04-23 20:19:05
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

彼が振り返った。彼とそっくりな娘を抱いたまま。思わず夢主は吹き出した。肋骨を痛めているのか、笑うと少し苦痛を感じるが、本当に些細なものでそう不快ではなかった。「よう、寝坊助」変わらぬ憎まれ口に、何故か安堵と、嬉しさが込み上げる。「夢かと思った」「夢でいてたまるか」娘がこちらに

2020-04-23 21:04:40
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

ママ、と手を伸ばしてくる。ogtはベッド横に置かれた見舞い客用のパイプ椅子に座り、娘を膝の上に抱え直した。「ママは怪我人だから、パパといようなあ?」「パパって……」「ごまかしようないだろ。これだけ似てれば」膝に乗せた子供の眉を指先でなぞりながらogtが笑った。

2020-04-25 09:22:54
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

ogtが彼女の母親から聞いた話では、夢主は乗っていた車ごと跳ね飛ばされたあと、不幸中の幸い、路肩へ駐められた無人の軽自動車の上に落ちたらしい。半壊した車の破片による傷は大したことはなかったが、潰れたドアに阻まれて救助が難航している間に出血が酷くなり、車体から引きずり出された時には

2020-04-26 00:31:49
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

予断を許さない状態に容態が悪化していた。知らせを受けて駆け付けた両親は、医師から輸血はするが、状態によっては助からないかもしれないと聞かされて、自分たちのした事を初めて悔いた。もし、ogtと復縁が成れば、せっかく家に戻ってきた娘が、可愛い孫と共に彼に連れていかれてしまう。

2020-04-26 00:41:38
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

そんな身勝手な理由から、娘と孫から、大切な人を切り離そうとしていたのだ。治療を受けてICUへ運ばれた夢主にすがりついた母の耳に、hyknsk…と微かな声が響いた時、罪悪感と焦りからogtに連絡を取った。夢主への手紙に記された彼の連絡先を、先で孫娘を認知させる時のために控えていた。万一の事が

2020-04-26 00:54:04
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

あれば、小さな孫娘は父も母もいない子になってしまう、と。「…勝手過ぎる」「親なんて、勝手なもんさ」そう言って、ogtは黙り込んだ。「…生んでくれて嬉しい」夢主のところに来たがってぐずる娘をあやしながら彼が笑った。「正直、あの日お前が孕んでくれねぇかなあ、と思ってた」「うわ、最低」

2020-04-26 01:04:36
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「だってそうだろ。俺は別れたくないと言ってるのに、お前の意思は固かった。あの時も、最後のお情けだと思ってたな」それを言われると弱かった。自分も、あの時の彼を受け入れることで自分の身勝手が許されると思っていたのだから。

2020-04-26 01:10:06
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

途中、看護師が病室に顔を覗かせ、そろそろ面会を終えて欲しいと言ってきた。残念そうな顔でogtは、ベッドに横たわる夢主の額を撫でた。「ようやく追いついた。もう逃げるなよ」「……うん」夢主の瞼の中に涙の膜が張ったが、それはもう辛いものではなかった。このまま眠るのが惜しかった。目覚めれば

2020-04-26 01:19:36
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

また、それも夢だったらどうしようとも思う。そういえば、あの男の人は誰だったのだろう? 安堵と共に睡魔が押し寄せてくる……。

2020-04-26 01:21:33
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「お前、どこに行っていたんだ」夢主の両親と共に面会室の方へ移動していたogtの父親が、ふらりと入室してきたもう一人の息子に声を掛けた。「恋のキューピット役をしてきました」そう答える長身の若い男――hnzw yskがにっこりと笑う。こいのきゅーぴっと…また訳の分からんこと……。

2020-04-28 09:27:07
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

父親は、ここ数年、今まで問題なく育ってきたはずだった息子の扱いに困っていた。yskは後妻の生んだ子供で、昔から優秀で聞き分けの良い息子だったのが、いきなり「貴方の跡は継ぎません。昔から夢だった役者の道へ入ります」などとほざいて、家を出ていってしまっていた。

2020-04-28 09:32:36
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

許嫁もいたが、この事で破談になった。先方の父親とは長いこと公私共に親交があり、ならば、先妻の息子はどうだろうと話を持ちかけたが、今回の事でふたたび御破算となってしまった。先方からは残念だが仕方の無いことだ、気にするな、かえってと慰めの言葉を貰ったのがいたたまれない。親不孝どもめ、

2020-04-28 09:38:09
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

大体、次男に昔から演劇そのものに興味があるとは、全然知らなかった。映画好きなのは知っていたが、隠していたのか、それとも堪えていたのか。そして、家を出てしばらく音信不通だったのが、どこからか腹違いの兄と元許嫁が見合いをすると聞いて、「それはないでしょう」と、急に戻ってきたのだ。

2020-04-28 09:55:48
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

それはこちらの台詞だった。向こうはそれなりの家に生まれた令嬢で、跡取り息子としてならともかく、役者などというふざけた職に就いたことで勘当した息子と娶せるわけにいかない。相手にだって悪い。元許嫁はそれでも構わないと言っていたらしいが、後ろ盾の無くなった男に娘を預ける親もいない。

2020-04-28 10:02:38
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「そちらがその気なら、私にも考えがあります」と再び姿を消したと思えば、見合いの席に突撃しようとやって来たのを偶然見つけ、hyknskと例の娘を上手いことごまかして二人は食事でもと送り出し、別室で言い争っていたら、この騒動だった。重ねての失態に、友人でもある先方に申し訳ないし、情けない。

2020-04-28 10:21:57
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

ここに着いてきたのは、hyknskがぶんどるように乗った車が自分のものだったこと、uskを引きずるようにして連れてきたのも、留守の間に元許嫁に再び接触しようとするのを防ぐためだ。病院に着いて程なくふっといなくなっていたので焦っていたが……。「いい感じですよ。二人とも。あの人も兄を忘れて

2020-04-28 12:53:52
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

なかったんですね」こめかみに青筋を浮かべる父親の形相にも、何処吹く風の様子に、父親は低く呻く。「…あれの見合いの話を、どこから聞いた?」「兄様からです」あっさりとuskは吐いた。しかも、晴れ晴れとした顔で。「兄様も、ヤケになってましたからね。お前が構わんならそのまま話を進めるとか

2020-04-28 12:59:24
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

言われて、はいそうですかと引き下がれませんよ。あの人なら彼女を辛い目に遭わせはしないでしょうが」ポンポン、と父親の右肩を叩いて、親不孝な息子は笑った。「かと言って、幸せにしてくれると思えない。そんなの、双方にとって不幸でしょう? それよりも、すごく可愛いですよ。私の姪っ子は。

2020-04-28 13:03:56
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

父上にとっては初孫ですね。まったく、兄様に目鼻立ちがよく似てました」あの時、そっと病室に入り込むと、窓側を向いて小さな子供をあやす兄の背中が見えた。そして、点滴の管に左腕を刺され、白いベッドに横たわる、夢現で目を開いている夢主も。その唇が声のない言葉に震えていた。

2020-04-28 16:02:24
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「兄様」彼女の顔を眺めながら腹違いの兄に声をかけると、一瞬びくりとしてこちらを振り返った。「uskさん? お願いですから足音を立てずに忍び寄るのはやめてください」「とはいえ、病室ですし」兄に大人しく抱かれている幼子がこちらをじっと見ている。「人見知りしないのかな?…可愛いですね!」

2020-04-28 16:37:20
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

それにしても、と彼は思う。「転写したみたいにそっくりなお顔だ。こんなに似てるなら、父上も黙るでしょうね」「たとえ母親似でも黙らせます。…ここにいていいんですか、uskさん」せっかく見合いの席に呼びつけてやったのに、兄の目がそう言っている。「早く“向こう”に戻らないとまずいのでは?」

2020-04-28 16:46:05
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「戻りますよ。“あの人”も連れて。兄様たちの話を聞いたら、私たちもこのままではいけないと思いましたから」「最初から、連れて逃げれば良かったんですよ。見合いの席で思い出し泣きされた、私の身にもなってもらいたいものですな。傍から見れば別れ話をしているとしか見えなかったでしょう」

2020-04-28 19:30:19
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

上着のポケットに手を入れた兄から、やがてuskは車のキーを受け取った。「彼女にはもう、待ち合わせの場所を知らせてあります。まあ、今度こそ上手くやることですな」「そのお言葉、貴方にそっくりお返しします」弟の言葉に、ogtは眉間に縦皺を刻んだまま黙り込んだ。

2020-05-05 01:02:19
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「あなたも、大変でしたね」目を閉じている夢主の顔を覗き込み、彼は微笑む。「この難しい人を、好きになってくれてありがとう。あなたのおかげで、今生こそ兄は幸せになりそうです」「また、その話ですか…。さっさと行ってください。頭が狂いそうだ」「また後ろから撃たれないうちに退散しましょう」

2020-05-05 01:09:45
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

以前は親の言いなりだったはずの弟は、一年前に車の事故で後ろ頭を打ってからひとが変わってしまった。前世とやらを思い出し、今度こそ自分の人生を生きるのだと訳の分からん事を言い出してhnzw家を出ていった。あの親父が頭を抱えるはずだ。ogtはうんざりと思う。久しぶりにあったが、話以上の

2020-05-05 01:14:23
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

電波ぶりだ。以前は出会っても腫れ物を触れるかのような、おどおどとした気弱な青年だったはずだが、別人のように溌剌として、活力に溢れ、またそれが妙に気に触るのだった。頭の打ちどころが悪いとはこの事か。悪人ではないが、掴みどころのない人間であることは確かだ。

2020-05-05 01:21:52
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「兄様」とか「父上」とか、時代劇かと思うほど古臭い呼び名を使うようになっているし…。「私も、今生こそ自分の人生を歩みます。それでは兄様もお達者で。義姉様とお子とお幸せに」「大きなお世話ですが、……あなたも……お元気で」

2020-05-05 01:30:14
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「……と、言うわけで」uskは簡単に事情を説明した上で、あんぐりと口を開けている父親の両肩をがしりと掴んだ。父上の愛車をお借りして、彼女と逃避行することにしました。後の処理はよろしく」「ま、待て、そんな勝手な事は」父親の憤怒に、青年は天使の笑顔で返した。「大丈夫です。私は、

2020-05-05 01:35:36
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

一度は駆け落ちしてまで一緒になった相手を、浮気が元で別れるなどという父の愚は犯しませんので」「お、お前、なんという……」「あなた、今生でも好き勝手に生きてるじゃないですか。そろそろ前世の帳尻を合わせるべきだ。兄様たちを裂こうと言うなら、母上に愛人のリストを送り付けますよ。

2020-05-05 01:40:20
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

今度こそ離婚になったら、婿養子のあなたはどうするつもりですか」「な、何故それを……」uskは父親の車の鍵を目の前で鳴らし、愉快げに笑いながら部屋を出ていった。「……よく分からんが、あんたも子供で苦労しとるんだなぁ…」毒気を抜かれた蛇のように消沈した彼の肩を、夢主の父親がぽんと叩いた

2020-05-05 01:45:29
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

夢主は、時々あの時のことを思い出す。病院で自分の顔を覗き込み、話しかけてきた男性のことを。顔はよく見えなかったが、後で思い出すと、戦争映画で見るような青年将校の姿をしていた気がする。それを話すと、今は夫となったhyknskがなんとも言えない顔をするのだった。

2020-05-05 10:53:19
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

「お勉強のし過ぎだろうよ。親父んとこは恐妻家らしいからな。uskさんも、相当母親に厳しく育てられたらしいから、どこかでタガが弾け飛んだのかもしれん」朝食の間も彼の膝に入りたがる娘に、ママはそんな事がなくて良かったなと彼は話し掛ける。明るいキッチンで、夢主は今年、保育園に入園した

2020-05-05 10:57:47
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

娘の小さなお弁当を詰めている。(終)。

2020-05-05 10:58:25
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

むっちゃ強引。だって、始めたの先月の14日あたりだったんだもんwww 流れのままに書いたらこうなる悪い見本。楽しいのでまたやると思うけど、読み手とからしてはどうなのか(脂汗)。最後まで読んだ人よ、貴女方こそ勇者…。ツッコミ、お待ちしておりますw

2020-05-05 11:09:07
0
まとめたひと
ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

アホ夢書き。昭和の女で金カ夢の人。腐と夢のいろんなのを見たり書いたり用の垢。最近は本人よりよりほぜ尾が好きになってきた感。いや、今でも推しなのは変わらないんだ……。 まろ marshmallow-qa.com/yumejodego?utm…