シキがダンスをやめる話。
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エミリー @emilyyokoyama

「TOXICの新メンバーを募集します」いつもながら唐突に彼は言った。え、何いうてはるのシキさん、ウチとおブスがもうおるのに。チームは3人、追加メンバーなんて不要。あ、おブスをくびにするん?と冗談を言ったら、なんだと、とおブスに睨まれてしもたわ。「ボクですよ、ボクが辞めるんです」

2019-10-26 00:06:55
エミリー @emilyyokoyama

蛇ノ目シキがダンスをやめてデザイナーに専念するというニュースは、すぐに世界に配信された。そのニュースが自分のスマホに届いても、まだ、冗談やろ、とアゲハは信じられずにいた。新メンバーのオーディションは大々的に行われた。シキが認めたダンサーを加えて、新生TOXICが誕生した。

2019-10-26 00:10:18
エミリー @emilyyokoyama

業務命令ですよ、アゲハくん。納得がいかない顔のアゲハにそう言って、シキはダンキラのステージを去った。そして二度と戻らなかった。紅鶴に籍は置いていたが、ヨルムンガンド日本支社の専用ルームに閉じこもり、前にも増して精力的にデザインを量産しているという。

2019-10-26 00:14:57
エミリー @emilyyokoyama

「シキ、ダンキラ辞めたってほんとか?」シキの専用ルームに来たお客はドアを開けると大声でそう言った。もう何週間も前の記者会見でそう発表したのに、ボクに興味がないんですね、ソラくぅん?と、シキはデザインの手を止めずに言った。テレビで見た、でも、嘘だろ、とソラはシキの机に迫った。

2019-10-26 00:21:17
エミリー @emilyyokoyama

さんさんと輝いて真っ直ぐに見つめるソラの目に、シキはわずかにたじろいだ。「嘘じゃありません、ボクはダンキラを辞めたんですよ」そう、はっきりと口にする。微笑みも添えた。でも、とソラは首をふる。シキは、ダンキラが大好きだったじゃないか。シキは椅子を少し回して、ソラの前に左脚を出した。

2019-10-26 00:26:44
エミリー @emilyyokoyama

そしてズボンの裾をめくり上げていく。ソラの目に、シキの変形し一部が盛り上がった膝が露わになった。「まだ初期なので踊れはしますが、完璧なダンスには程遠いんです」するすると裾を下ろすときも、ソラは黙ったままだった。「ダンスをしていれば誰にでも起きうることです、それが、ボクでよかった」

2019-10-26 00:31:42
エミリー @emilyyokoyama

アゲハくんでも、九十九くんでもなく、もちろん、ソラくぅん、キミでもなくて、ボクで良かった。ボクにはデザインがあります。踊れなくても、生きることができる。そう言って、シキは笑った。まだ黙ったままのソラの名を呼ぶ。ねえ、少し踊ってくれませんか、ボクのために。シキの専用ルームは広い。

2019-10-26 00:36:32
エミリー @emilyyokoyama

ああ、いいぜ、とソラはシキの前で踊った。音楽はなかったが、ソラの動きからリズムが、音が見えた。シキはペンを動かす。いくつものデザイン画が生まれる。一曲分を踊りきったソラが、なあ、とシキを呼んだ。なんでしょう?と顔をあげると、ソラは、おまえの足、踊ろうとしてた、とシキの足を指差す。

2019-10-26 00:43:43
エミリー @emilyyokoyama

シキの足先はソラのダンスに合わせて、無意識に、ステップをなぞっていた。そうですか、とシキは少し寂しげな目を、自分の足に落とす。ダンスが、ダンキラが嫌いになったのではない。体は踊る喜びを覚えていて、ソラのダンスに触発されて再びの夢を見ようとする。なあ、シキ、とソラは手を伸ばした。

2019-10-26 00:49:42
エミリー @emilyyokoyama

踊ろうぜ、ダンキラじゃなくても、完璧じゃなくてもいい、踊ろうよ、なあ、シキと踊りたいんだ。ソラはシキの手を取ると、椅子から立たせて広い方へと連れて行く。ペンを置くタイミングを逃して、シキはまごつきながらその手にひかれていく。何がいい、ヒップホップ、バレエ、あれか、ヴォーグダンス!

2019-10-26 00:57:15
エミリー @emilyyokoyama

じゃあ、ジルバを。ええー?と嫌な顔をするソラを見て、シキは、ふふっと声を漏らした。ダンサーならどんなダンスでも踊れるでしょう?踊れるけど、と言うソラの顔は不満げだ。タンゴでも、ワルツでもいいです、と譲歩する。仕方ないなぁとソラはシキの背に腕を回した。じゃあワルツな。

2019-10-26 01:12:34
エミリー @emilyyokoyama

完璧を求めない、技も競わない、ただ踊るためだけのダンス。ステップを踏む、身を任せる、くるりと回る。重ねた手の中には、さっきまでデザインを描いていたペンが一緒に握られている。シキは久しぶりに笑った。笑って踊った。ダンス、楽しいですね、と言うと、ソラも、な、楽しいよな、と笑った。

2019-10-26 01:18:19
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まとめたひと
エミリー @emilyyokoyama

ここはかつてダンキラ用のアカウントでした。ゲームや漫画、語学を好み、ごくたまに短い話を書きます。月水金土曜はここに居て、火木日はブルスカに居ます。未知の人にフォローされるとブロ解しますからね。