Bone China

ぽんぽこタヌキ玉 @tanukidego

#金カ夢　#ogt 旅行先で、夢主は舶来品を中心とするアンティークショップを見つけてしまった。ショーウィンドウには不思議な微笑を浮かべた、紺の天鵞絨を縫い上げたドレスを着せられたアンティークドールが、その大きさに合わせた椅子にお行儀よく座らせられ、その前には手編みの白いレースのクロスが

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掛けられた丸テーブルが置かれている。彼女の視線を奪ったのは、そこに展示されているティーカップのセットだった。薄桃色の花弁を思わせる色合い、同色のコースターは桜を象っている。これで紅茶を飲むのは楽しそうだ。プライスカードが置かれていなかったので、とりあえず値段を訊いて購入を

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決めようと、格子に青い色硝子を嵌めた扉を押して店内に入った。壁の作り付けの棚には、表に飾ってあるような西洋人形や、大きな喇叭（ラッパ）を抱えたような蓄音機、陶器の小物が所狭しと並び、室内のショーケースの中にはやはりアンティークのアクセサリーや、懐中時計を中心に展示されていた。中は

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それほど広くはない。どこからか甘ったるいインセンスの香りが漂っている。「いらっしゃい。ごゆっくりどうぞ」店の奥から現れたのは、思ったよりも若い男だった。歳の頃は20代後半ほど。伏し目がちな大きな瞳、整った顔立ちには両の頬にそれぞれ斜めに入る縫い傷が残っている。髪は左右を刈り上げた

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ツーブロック。額にかかる一筋の髪が妙に色っぽい。てっきり年寄りが出てくるイメー時だったので夢主は少し面食らいながら、表のティーセットが欲しいのだと告げた。男は、変わった形の眉を下げた。「……残念ですが、あれは売り物ではないのです。でも、似たものならあると思います。こちらへどうぞ」

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甘く重さのある声に誘われるように、夢主は店の奥へ誘う男の背中を追う。店の奥には樫の木を彫り抜いて作られたと思われる上等そうなテーブルと、揃いの椅子が二脚。男は夢主に座るように勧め、間もなく、これも白鳥のような優美なティーセットを置いて、揃いのポットからカップに紅茶を注いだ。

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鼻腔をくすぐるアールグレイの香気が周りに立つ。「今、ちょうど休憩に入るところだったのですが、商品を見ていただくついでに」男がにっこりと笑うと、妙に愛嬌があった。驚くことに、ウインドーに飾っているものは彼が趣味で作っているものなのだという。自宅には工房があり、そこで作るのだとも。

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「感触が温かみがあって良いでしょう。粘土に牛の骨粉などを混ぜて作ると、そんな風合いになるのです」カップの、唇に触れる滑らかさが心地よい。紅茶も美味しかった。「素材にはこだわりがありまして、粘土や骨粉……みんな厳選して作っています」

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気に入っていただけたのなら、お譲りしましょう、と断った上で、男はいくつか、自分で作ったものを陳列棚から持ってきた。菫色の釉薬をかけた、花の匂いのしそうなもの、または深紅の。蝋梅の爽やかな黄色、アメシストのような紫。どれも素敵だった。ひとつひとつに女性の名前が付いていた。

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百合。千世。沙耶香。菜帆……。なにか意味でもあるのかと訊くと、「どれもこれも、一目惚れした女性の名前です。気に入ると、形にして手元に置いておきたくなるのです」そのひとつに紅茶を注いで、彼がひと口啜ると、まるで彼が誰かと口付けしているのを覗いたような、そんな気持ちになった。

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「そう言えば、あなたの下のお名前はなんと？」軽い気持ちで告げると、男は「素敵な名前ですね。気に入りました。次の作品は、そう名付けましょう」と答えた。ため息。貴方こそなんて素敵なの。ちなみに、あのショーウィンドウは、なんという名前なのか訊いた。「あれは――と言います。恥ずかしながら、

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……母の名前でして。最初の頃に作ったものですが、気に入っています」心地よい声に、眠気が差してくる。テーブルに突っ伏す寸前、彼が優しく耳元で囁いた。「お嬢さん。俺は貴女が気に入ったよ。……一目惚れだ」目の前が、昏い……。

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間もなく、ショーウィンドウの飾られていたものが、新しいものに差し替えられた。夢主、という名の、美しい翡翠の色をしたティーセットに。（終）

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「bone china」