公僕長谷部くん×援交DK光忠くん

カコ🐙 @3nasubi31

「逃げるなら今のうちだぞ」と言ったのは僕を金で買った男(ヒト)で、サイドボードに置かれた3枚のお札が今日の僕の値段。相場なんてわかんないから適当に吹っ掛けたら「安いな」なんて言われてしまった。

カコ🐙 @3nasubi31

「……逃げたりしないよ？信用ないなぁ」なんて笑って見せたけど、本当は体の芯がガクガク震えるほど怖い。許されるなら逃げ出したい。でも、今の僕にはサイドボードに置かれた三万円が、僕の貞操なんかよりもずっとずっと大切だった。

カコ🐙 @3nasubi31

「そうか、ならいい」その人はそれ以上何も言わずに狭いラブホテルのシャワールームに消えていった。サイドボードの三万円どころか、それを取り出した高そうな財布が入った鞄すら起きっぱなしだ。

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今なら逃げられる。なんなら、三万円よりもっとたくさん握りしめて。シャワーの音よりも、心臓の音が激しくなる。視線が、シャワールームの扉とオートロックの扉とを行き来する。でも、僕は制服の膝の上で拳を握りしめてその場にとどまった。正直者だからじゃない、臆病者だからだ。

カコ🐙 @3nasubi31

シャワーから出てきた男は、冷蔵庫から水を取り出すとキャップを捻りながら「お前も浴びてくるか、ええと……」「……ミツ」「そうか、ミツ。浴びてくるか？ それとも、そのまま？」「……」返事をしないといけないのに、顎が震えて声が出ない。

カコ🐙 @3nasubi31

「……ならそのままでいいな」バスローブ姿のその人は、そう言うなり僕の体をベッドに押し付けた。誘うように、余裕を見せて、媚びすぎず。昨日の夜、必死に脳内で繰り返したシミュレーショはまるで役に立たない。まるで体は凍ったみたいで、奥歯だけがガチガチ鳴っている

カコ🐙 @3nasubi31

カッターシャツのボタンに指がかけられたとき、ついに情けなくて涙が出てきた。あれだけ悩んで覚悟してここに来たのにまだ覚悟が決まらない自分に。三万円、三万円あれば、大好きな弟たちを修学旅行に行かせてやることが出来るんだ。弟たちに、僕みたいな惨めな思いをさせずにすむんだ。

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ぐっと奥歯を噛み締めて体の震えを無理矢理止める。男の人がどんな顔をしているのか見る勇気なんてなくてぎゅっと目をつむると、カッターシャツのボタンをまさぐっていた指が止まった。「……こういうことは、もっと自棄になれる奴がするものだ」ボタンが留められ、詰め襟のホックまでしめられる。

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「怖い思いをさせてすまなかったな」「えっ……」男の人がバスローブを脱ぐと、下にはハーフパンツと繰りの深いTシャツを着ている。その人は僕のことを引き起こし、それから、起きっぱなしの鞄から名刺を取り出して僕の手に握らせた。「児童福祉課の長谷部だ、俺で良ければ話を聞くぞ」

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長谷部、と名乗ったその人は僕のとなり、少し離れたところに座ると新しいペットボトルを僕の頬に当てた。その瞬間、僕の緊張の糸はぷつりと切れて、子どものように泣き出してしまった。声をだして泣くのなんて、小学生の頃以来だった。

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長谷部さんは僕が落ち着くまで待ってくれた。「信じてもらえないかも知れないけど、こんなことするの初めてなんです。明日が、弟たち修学旅行の支払期限で……」僕はぬるくなったココアを飲みながら、長谷部さんに全てを話した。

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母さんが出ていってから、父さんがどれだけ荒れたか。その父さんも半年前からほとんど家には戻らなくて、ついに口座も空になったこと。双子の弟はまだ小学生なこと。明日が弟たちの修学旅行費の支払期限で、僕は行けなかったから、弟たちにはいかせてやりたいこと。

カコ🐙 @3nasubi31

長谷部さんは最後まで黙って聞いてくれて「そうか、大変だったな」と言ってくれた。それから「でも、だからといってお前のやろうとしたことは間違っている」「わかってます……自分でも馬鹿だって」「ああ。でも、お前が金を持ち逃げして味をしめるような愚か者でなくて本当によかった」

カコ🐙 @3nasubi31

もしそうだったら、お前を補導員に引き渡さなきゃならなかったからな。偉かったな光忠、と長谷部さんは僕を撫でた。子どもみたいなことをされて恥ずかしかったけど、僕はまた泣けてきた。

カコ🐙 @3nasubi31

三万円のかわりに長谷部さんの名刺を持って僕は帰った。双子の弟、伽羅ちゃんと貞ちゃんは作っておいた薄い塩味のスープを食べていて、修学旅行費が工面できなかったことを話すと「そんなもの行くつもりはない」「伽羅が馴れ合わないっていうなら俺も付き合ってやらなきゃ」と。今日は泣いてばかりだ

カコ🐙 @3nasubi31

次の日、学校に行くと職員室に呼び出された。昨日のことがばれたのかと思ってドキドキしながら向かうと、そこにはスーツ姿の長谷部さんがいた。「どうしてここに？」「自宅より確実だと思ってな」答えにならない答えを返した長谷部さんは、僕の前にたくさんの書類を広げた。

カコ🐙 @3nasubi31

それから僕は放課後までいっぱい使って、僕と弟たちが受け取れる行政の支援とその申請方法を教えて貰った。「これで修学旅行費も全額出るはずだ。帰って判子を付いたらその足で役所と小学校へ行ってこい」「……ありがとう、長谷部さん」今日は泣かない。僕は目元を拭って頭を下げた。

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「この恩は一生忘れない、必ず返すよ」「なら立派な大人になって、真っ当な方法で税金を山ほど納めてくれ。俺の給料の足しになるからな」長谷部さんはそう言って笑った。僕もつられて笑った。初めて見た長谷部さんの笑った顔は、とっても優しかった。

カコ🐙 @3nasubi31

10年後、死に物狂いで勉強して青年実業家になった光忠くんが長谷部くんを訪ねて「あのとき助けていただいた子どもです、税金を納めにきました！」「？？？？」ってなる年の差へし燭でした！？あれ？！ﾄﾞｳｼﾃｺｳﾅｯﾀ……💫💫

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