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物語になるまえの欠片たち ※不定期更新
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山原倫 @Yamahara_Rin

睡魔のパンデミックは全世界の主要都市を次々に呑み込んでゆき、あらゆるインフラを機能不全に陥らせ、あらゆる社会を崩壊させた。ひと月も経たないうちに、穏やかな死が全人類を覆い尽くし、彼らを寝かしつけた。銃声は止み、木々や海のざわめき、動物たちの吠え声が地球を満たした。 #マイクロノベル

2024-03-14 18:11:53
山原倫 @Yamahara_Rin

小便がきれいな放物線を描きながら夜の海へ消えてゆく。海風にさらされ、俺のチンコは縮み上がっていた。ふと振り返ってみれば、ヤツが助手席でうずくまっている。トランクにはヤツの女が詰め込まれていた。指でチンコをふるいながら、尿意と別なものが込み上げて来るのを感じていた。 #マイクロノベル

2024-03-13 20:35:41
山原倫 @Yamahara_Rin

新雪にうずもれた有刺鉄線を掻きわけていて指を切った。こぼれた血の赤椿が滲んでゆく。 #マイクロノベル

2024-03-12 21:01:14
山原倫 @Yamahara_Rin

ひとの記憶って、たぶん土地に根ざしてる。だから、母校のあった場所が更地になったのを知った瞬間、私の記憶は欠落してしまった。思い出すための手がかりすら無くなっちゃったから。どれほど思い出したくもない記憶でも、これも私。帰省するたび、私が少しずつ死んでいくみたいだ。#マイクロノベル

2024-03-11 20:48:02
山原倫 @Yamahara_Rin

黒い水面、月光に浮き上がる岩礁、岩礁を打つ水しぶきの音、かすかな悲鳴、海中へ潜ってゆく僕の友だち。窓ぎわに寄りかかって、僕は毎晩その光景をながめた。気泡が無くなるのを待って、ようやく眠りにつく。僕の嫌いなやつはみんな、夜の海が食べてくれる。大好きな僕の友だちが。#マイクロノベル

2024-03-10 10:03:06
山原倫 @Yamahara_Rin

ぎいぎい、がたごととと。日付けの変わる頃、どこからか祖母の足踏みミシンの音が聞こえてくる。僕は寝台のうえで夢心地のなか、その子気味よい音に耳を傾ける。祖母はホームにまでミシンを持っていき、亡くなった日も縫い物をしていたという。今夜も家の中にミシンの音が響いている。#マイクロノベル

2024-03-09 19:05:45
山原倫 @Yamahara_Rin

亜麻色の無骨な巾着を彼女はどこへ行くにも持っていた。巾着がはち切れんばかりの日もあれば、見るからに軽い日もあった。巾着がパンパンの日の彼女は夢現の様子で、スカスカの日はどこか消耗した様子だった。その中身を知る者は無かったが、彼女が作家であることは誰もが知っていた。#マイクロノベル

2024-03-09 00:08:02
山原倫 @Yamahara_Rin

わたしの首が転がっているのを見つけた。わたしはその場で膝を折り、恐る恐る首をのぞき込む。よく見ればそれは、まったく見知らぬ男の首なのだ。なーんだ。わたしは打たれたように立ち上がり、そそくさと立ち去った。男のぎょろりと大きな目玉にとらえられるようで、怖かったのだ。#マイクロノベル

2024-03-07 17:48:58
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まとめたひと
山原倫 @Yamahara_Rin

執筆┆映画┊BL┊神聖かまってちゃん┆大森靖子┊※超短編小説を不定期投稿