そして、真っ直ぐ家には帰りたくない光忠と、ただ光忠の帰りを待ってる長谷部。 (ちょっと加筆修正したものを、まとめ本に収録)
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めしこ @mogmog_meshiko

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こんなに大きい喧嘩は、本当に久しぶりだった。 たぶん前に大喧嘩した時は、まだお互いの帰る家は同じ場所じゃなかった頃だ。いい加減この喧嘩をどうにかしたくて、合鍵を使って長谷部くんの家に行くと、ソファで縮こまって自分を掻き抱く姿。僕の口からはすんなりと謝罪の言葉が滑り落ちた。 ↓

2019-10-07 22:39:13
めしこ @mogmog_meshiko

びくりと身体を強張らせた長谷部くんは、起き上がって僕の手を取ると「おれも、ごめん」と謝った。 自分の感情を言葉にするのが、苦手な長谷部くんにとっての精一杯だったのは、言わなくても分かっていた。 それで、仲直り。 しばらくして僕たちは一緒に住むようになった。 ↓

2019-10-07 22:39:59
めしこ @mogmog_meshiko

あれ以来だとすると、本当に久しぶりだ。 しかも今の僕たちは同じ家に住んでいるので、喧嘩中だろうとお互いの姿が視界に入る。交わされる最低限の会話が、かえって白々しいし、冷たい。 もうこれだけ一緒に居ると、喧嘩なんてしなくなると思っていた。 事実、してなかったんだ、ずっと。 ↓

2019-10-07 22:40:28
めしこ @mogmog_meshiko

だから、久しぶりにした喧嘩の、仲直りの仕方が分からなかった。 ろくに会話することもなく、あっという間に数日が過ぎて明日は金曜日。 確か長谷部くんは午後お休みだって言ってた。 夕食は外食も良いかもねって話してたんだ。喧嘩する前に。 ↓

2019-10-07 22:41:04
めしこ @mogmog_meshiko

残業でもすれば帰る時間を遅く出来るのに、こういう日に限ってきっちり定時上がり。 家には長谷部くんがいるんだろうと思うと、帰宅するのが気が重かった。当たり前だろう、一緒に住んでいるんだから。 でもいつ終わるのか分からないこの喧嘩状態で、家でゆっくり出来るとも思えなかった。 ↓

2019-10-07 22:41:49
めしこ @mogmog_meshiko

僕は、夜を迎えたばかりの街にふらりと歩き出す。一人で静かに軽い食事とお酒が飲める場所に。昔はよく行ったけど、長谷部くんとこういう仲になってからは、行くことはなかった。 いつも一緒に家でご飯を食べるか、たまに二人で外食するかだったから。 …本当にいつも一緒に居たんだな、僕たち。 ↓

2019-10-07 22:42:28
めしこ @mogmog_meshiko

話し掛けてくる女の子を極力適当に、言ってしまえば雑にあしらいながら、馴染みのバーに。久しぶりだったけど、マスターは僕を歓迎してくれた。かと思えば 「喧嘩ですか?」 「え」 ぴしゃりと言い当てられる。そんなに顔に出ていただろうか。 「こんなところで、飲んでいても良いんですか?」 ↓

2019-10-07 22:43:08
めしこ @mogmog_meshiko

「…ちょっと、気まずくてね」 「大人の喧嘩は、拗らせると厄介ですよ」 さすが人生の先輩。反論する気にもならなかった。 大人になって、一緒に暮らすようになって、もう些細なことに二人の仲が揺らぐことなんて、ないと思ってた。 そんなことない、ぜんぜんそんなことない。 ↓

2019-10-07 22:43:46
めしこ @mogmog_meshiko

僕はどれだけ大人になっても、いつまで立っても、長谷部くんの前では格好悪い男だ。 この状況をどうしたら良いのか、答えは結局出てはいないけど、でも帰ろうと思った。もしかしたら、彼はそれを望んでいないかもしれないけど。 僕が送った帰宅する旨のメッセージは、一向に既読にならなかった。 ↓

2019-10-07 23:13:18
めしこ @mogmog_meshiko

連絡を見るのも嫌だと言うのだろうか。そう思うと、僕の心はまた仄暗くなる。喧嘩をするといつも僕が折れるしかなかった。今回もきっとそうなんだろうと思うと、なんとなく気に食わない。 図体だけが大きくなっただけで、僕の心はガキのようだった。 それでも家のドアは目の前だった。 ↓

2019-10-07 23:14:05
めしこ @mogmog_meshiko

仕方なく鍵を差し込んで、ドアを開ける。何も言わない、何も返って来ないだろうから。 いや、もしかしたら家にすらいないかも。そんなことを考える僕は、相当に意地が悪かった。 僕の予想とは裏腹に、リビングからは明かりが漏れていた。長谷部くんがいると思うと、少し足取りが重くなった。 ↓

2019-10-07 23:14:36
めしこ @mogmog_meshiko

ドアを開けると、良い匂いが鼻をくすぐった。テーブルに置かれた二人分の食事。掛けられたラップには雫が浮いていた。きっと作られてから結構な時間が経っているのだろう。 鶏肉のハンバーグ、ポテトサラダ、ひじきの煮物、炊飯器にはご飯と、お鍋にお味噌汁。具材は豆腐と油揚げとねぎ。 ↓

2019-10-07 23:15:05
めしこ @mogmog_meshiko

どれも僕の大好きなメニュー。正しくは、長谷部くんが作ってくれたご飯の中で、僕が特に大好きだったもの。 僕はのろのろと探す。長谷部くんを。 すぐに見つかった、ソファの上で自身を掻き抱くように縮こまった姿。 閉じられた瞳、あどけなく開いた口、濡れた睫毛、頬に残る涙の跡。 ↓

2019-10-07 23:15:38
めしこ @mogmog_meshiko

視界がぐにゃりと揺れる。頭を殴られたみたいだった。 声が聴きたい、目尻に溜まった涙を拭いたい、キスがしたい。 頭の中は大忙しなのに、身体は強張るばかりで、長谷部くんに起きて欲しいのに、起きてほしくなかった。 どうやって仲直りしたら良いのか、僕にはまだ答えが出ていなかったから。 ↓

2019-10-07 23:16:08
めしこ @mogmog_meshiko

長谷部くんは、すぐに目を覚ました。少しうとうとしていただけみたいだ。そっぽを向いて、涙の跡をぞんざいに拭うと、へたくそな顔で笑った。 「あ…お、おかえり」 「…ただいま」 「ごめん、しばらく携帯見てなかったから。食べて来てたなら、それ食べなくて良いから。おれ、明日食べるから」 ↓

2019-10-07 23:17:09
めしこ @mogmog_meshiko

言いたいこと、沢山あるはずなのに、喉がひりついて言葉にならない。 あの頃はどうしてあんなにすんなりと「ごめん」が言えたんだろう。 こんなに不安そうな彼に、僕はなんて言えば良いんだろう。 「あの…ごめん」 「…え?」 ↓

2019-10-07 23:17:43
めしこ @mogmog_meshiko

「いつもおまえが先に謝ってくれてたから、おれ喧嘩の終わらせ方って分からなくて。気が付いたら日にちばっかり経って、ずっとこのままなのかなって思ったら怖くなった」 「っ…」 「だから、ごめん。今さらかもしれないし、もう遅いかもしれないけど、ごめん。いつも、ごめん」 ↓

2019-10-07 23:18:15
めしこ @mogmog_meshiko

謝りながら、長谷部くんの頬には涙が一筋流れた。 あまりに綺麗にすっと流れ落ちたから、もしかしたら涙が零れ落ちたことにも気付いてないのかもしれない。 もう、堪えられなかった。僕は長谷部くんを思いっきり抱き締めた。当たり前だけど、その身体は温かくて、ただそれだけで泣きたくなった。 ↓

2019-10-07 23:19:30
めしこ @mogmog_meshiko

「ごめん、僕の方こそごめん。意地張って、ごめん。帰るの遅くなってごめん…ごめん」 「いいんだ、別に。帰って来てくれたから、もうそれだけで、いいんだ」 「ご飯食べるよ、ちゃんと食べる。ね、一緒に食べよう?」 ↓

2019-10-07 23:20:08
めしこ @mogmog_meshiko

大人になった僕たちは喧嘩も仲直りも、随分とへたくそになった。そつなく生きることばっかり上手くなって、肝心なことはぜんぜん駄目で。 でも遠回りしても、ちゃんと仲直り出来た。長谷部くんが頑張ってくれたから。 その分、僕は目一杯、彼を甘やかそう。涙の味のするキスは、久しぶりだった。

2019-10-07 23:21:19
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まとめたひと
@mogmog_meshiko

今日も、明日も、燭へし書くよ。