よろしいこと/時系列順。3:なくなる

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

もっとやる、ことはできなかった。 このスマホでバレたのなら私はすごい馬鹿だな、と思ってたけど、そうじゃないみたい。

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どういう証拠があったのかは話してくれなかった、というのが悔しかった点。 私がこの研究所から追い出されることはないみたいだけど、今は個室に閉じ込められているし、このままでは実験ができないのは間違いない。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

追い出されなかった理由は単純、本社の判断で隔壁が降りたから。私は個室から出られないけれど、みんなは研究所から出られない。 父はトカゲの尻尾切りという言葉を使っていた。「お前という災害を外部から隔離するためだ」と、ごく普通の声で父は言った。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

「これ以上やる気なら、もうお前を殺すしかない」とも言った。 父は嘘は言わないので、彼がそう考えていることは間違いない。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

あと、Kさんは泣いていた。 私の言葉にこたえてくれなかったから、それがなぜかはわからない。 私がおかしい、という彼女の言葉の意味は、やっぱりよくわからない。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

ああ、今気づいた。 腹部を破裂させて死んだ実験体、あれも説明は一応つくんだ。 脳を電気的に刺激されれば錯覚が生じる。脳核に電極を直接挿入されればその錯覚も激しくなる。そこまでは間違いない。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

うえかわさんは身体感覚のレベルで錯覚を起こしていたのかもしれない。たとえば自分の身体がなくなってしまった、というくらいに触覚が誤作動していたとか。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

そしてちゃんと身体のある「ふつうの自分」に戻るためだけに希望エンジンが使われた。 それならば、それが最もまっとうで平凡で、この状況では完全に間違った使用法だった。 錯覚を起こした脳を使って、何も変わらないままの身体に干渉しようとして、結果おなかが弾けることになる。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

じゃあ。私は。 私は、少なくともまだやる気をなくしてはいないし、脳もいい感じに動く。 けどここから先はどうする？自分の体を変えるために希望エンジンを使える？ たとえばこの扉を破れるばか力とか、でも仮にできたとしてその後は？

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

拳銃に撃たれても対応できるようにしたいけど、それは流石に無理？ ああもうなにもわからない。 でもやってみよう。 十分後に身体検査が来る、スマホを隠しておくのももう限界だ。 それまでに。 やれ。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

やった。 やられたのかもしれない。 今はもうわからない。 わかることは、いま身体のぜんぶ、とても痛い。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

あかさたな、指うごく。スマホさわれる、怪我がどれほどかはわからない。 わたしより先にスマホが壊れるのかもしれない。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

画面のひびがすごい。 いつこんなに割れたの。 血がついてるのは誰の血なの。 とにかく血が基盤に入ったら。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

壊れるかどうかはわからない。 わたしも生きられるのか、生きられないのかも。 でも他に何もできないし、最後はつぶやきでいいや。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

扉を破るのはできた。それは覚えてるけど、それまでだった。 みんなが銃を持ってきた。みんな、でもなかったかも。十人くらい？　Kさんはいなかったよね。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

それで、銃で撃たれてから、よくわからなくなった。 ほんとにうそだと思う。 わたしは生まれてはじめて人を殴ったのに、あんなにひどくなるはずがない。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

だってあんなにKさんの身体が散らばってるのは、普通におかしい。 木下さん。もう名前を隠す意味がない。 もう誰でもないあたまの半分が、廊下のはるか向こうに飛び散ってる。 しんじられない。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

でも銃の弾が私の身体にうまってるのはわかる。痛い。こんなに撃たれて生きてるとかも信じられない。 わたしにはなにかあった。なにかやった。 痛い。 痛い。 ぜんぶ思い出すなんてむり。 でも思い出をおもう。 階段で転んだあの子は、本当に痛かったんだ。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

階段で転んだこは関係ないけど、関係あるとおもわなきゃいけなかった。 自分のことみたいに痛いって。 だからそしてだからこんなことになった。 これ。 Sさんも、木下さんも、痛くて苦しかった。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

わたしのせいで苦しんでそして。 ごめんなさい。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

痛い。 このままでいたくない。 何人やったんだろう。 こんなにやった自分でいたくない。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

希望エンジンというものがなんなのか、今でもだいじななにかがわからない。 それが希望を叶えてくれるのか。 かなえてくれるなら、自分でいたくない。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

ふきちゃんあなたなんなのって言われてたし。 あなたあたまおかしいよって木下さんに言われたし。 泣きながら言われてたし。 じゃあふきでいたくない。 こんなに痛みのわからない生き物が、本当にいるだなんて、信じたくない。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

スマホの充電がきかない。ケーブルは接続してるのに。 もうそろそろおしまい。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

わたしは、どうなるんだろう。 身体もこころもおかしい。おしまいになりたくない。 死んでもいいから、腐りたくない。 ワインみたいになりたい。おとうさんの本棚で読んだ、あのとくべつな、ワイン。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

このスマホで最後にできるのは、このアカウントでできることだけ。 アカウントの鍵はあける。でもこれを真に受ける人がいないことをのぞむ。 ばけものなんだとわかってほしいだけだから。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

だれか分かってくれますか。 これはつぶやきの形をしたうそです。ものがたりです。 ほんとうにひとごろしとか、ひとをころすような子とかいるわけないじゃないですか。 わたしのことをなんにもしらないあなたも、どうかそのうそをわかってくれますか。

一葉　蕗（このアカウントはフィクションです） @hitoha_fuki

このアカウントはフィクションです。 一葉蕗なんていう化け物が、この世にいて良いはずがないのです。