「ははは。まあ何とかなるさ!」 そりゃ木吉の大学で何とかならなきゃヤバいって! 多分みんな思っただろうけど、木吉が勉強に集中できるようになった経緯を考えてか、誰も何も突っ込まなかった。
2013-10-24 21:20:04「ツッチーはやっぱ就職したら彼女と結婚すんの?」 「え!」真っ赤になったツッチーは頬を指でかきながら答えた。「…お金溜めて、ゆくゆくは…ね」 大人だ… コガが目をキラキラ輝かせる。 「ツッチーの結婚を祝ってぇ!?」 「(「「「「乾杯!」)」」」」 オレの誕生日はどこいったんだよ!
2013-10-24 21:30:02テーブルに顎をのせてコガがぼやく。 「いいなぁ、みんな彼女がいて。伊月は? 高校ん時からモテたじゃん」 「練習時間減るのヤだし」 「ストイックぅ〜」 「羨ましいかぁ? デート=トレーニングだぞ?」 「うわ…それは勘弁」 「そうか? オレは羨ましいぞ」 木吉の一言に場が凍り付いた。
2013-10-24 21:45:07木吉は自分で自分の地雷を踏みにくるから、オレ達にどうこうできる問題じゃないのかもしれない。 森山先輩相手のときと違って配慮はしてるつもりなんだけど。https://t.co/K6D1Y3tLPP
2013-11-04 18:27:03「この前の試合で日向さ、」 「伊月それ黙ってろつったろ!」 「オレに“パスくれ!”って叫んだよね。敵だからあげないよ。笑」 「そんな戦法があるのか…!」 「いちいちめんどくせぇ木吉!…伊月は森山さんと上手くやってるのか」 「日向お父さんみたーい!」 「うっせ」 「…まぁぼちぼち」
2013-11-04 17:43:07_
同じ方向だから帰りは木吉と二人になった。 「じゃあな、木吉。今日はわざわざありがとう。今度はカントクも来れるときにもうちょいゆっくり集まろ。火神…はちょっと難しいけど降旗達も誘ってさ。黒子はどうかな…」 「伊月」 木吉が怖いほど真っ直ぐオレを見ていたのに気付いた。
2013-10-24 23:00:06「伊月は大学に入って少し変わったな」 「……」 「言いたいことを言うようになったし、いろいろ顔に出すようになった。ほら、今も」 木吉はこちらを見据えたまま笑った。 今オレがどんな顔をしてると言うんだ。あのときの花宮のような表情をしてるんだろうか。歯軋りしてるだけの自分がみじめだ。
2013-10-24 23:20:03「うーん。あの人は日向より繊細そうだし、同じやり方じゃダメだろうな。日向はわかりやすいから。落ち込み方も、グレ方も、全部」 「……」 「じゃあ、綾によろしく」 ひらりと手を振って木吉は去っていった。オレは最後まで何も言わなかった。言えなかった。やっぱり何も変わってないじゃないか。
2013-10-24 23:30:02_
6年間、一緒に戦ってきた。ミスだと解っていても“くれ”と言われたらあげたくなった。 ケガで引退した木吉の前では言えないし言わないけど、オレだって才能がほしかった。
2013-10-25 02:00:09ものすごく欲を言えば、中学時代、キセキの世代に勝てるくらいの強さがほしかった。でも、それは、誰もできなかったから諦めた。
2013-10-25 02:10:05すごく欲を言えば、日向に「結局、一勝もできなかったじゃねーか」なんて言わせないような強さが中学時代にほしかった。あの頃の日向の頑張りを生かしてあげたかった。ご褒美に勝利をあげたかった。でも、オレじゃできなかった。あの頃の練習は高校で勝つためのものだったと思うことにした。
2013-10-25 02:20:05かなり欲を言えば、日向がグレたとき、バスケが好きだと気付かせれる強さがほしかった。オレが「1対1で勝ったらな」なんて言ったらギャグだ。日向に瞬殺されておしまい。俊が瞬殺…つまらないギャグだ。 日向を引き戻したのは他の誰でもない木吉だ。オレは木吉に感謝することしかできなかった。
2013-10-25 02:30:03すこし欲を言えば、日向の隣に立てるくらいの強さがほしかった。“誠凛の二枚看板”と呼ばれたかった。でも、現実は“誠凛の穴”。不器用なオレは追いつくのがやっとだった。日向はオレのことを信じて待っててくれた。それだけで充分だった。
2013-10-25 02:40:07ほんのすこし欲を言えば、ずっと日向とプレイできるだけの強さがほしかった。でも、それは叶わなかった。日向はオレなんかじゃ足下にも及ばない強豪校にスカウトされていった。オレは今度こそ、高校でバスケを辞めるつもりだった。
2013-10-25 02:50:04_
朝練に行ったら、今日も森山先輩はドライブの練習をしていた。もう少しでつかめそうな感覚はわかるからそっとしておこう。
2013-10-25 08:30:05←ちょっと前に写真撮ってきたんだけど、前髪もう少し切った方が良かったかな? 中学生までは短めだったから、これ以上は幼く見えそうで…うーん。 http://t.co/GBPIiJfYp8
2013-10-26 16:45:24なんで青は“爽やかブルーでモテオーラ全開”で水色はそうじゃないのか引っかかってたけど、つまりはそーゆーことなんだろうな。 https://t.co/Omjj6gYHoH
2013-10-26 16:52:38_
「好きにしていいよ、もう伊月のものだし」 森山先輩はつまらなそうな顔をしてると冷たく見える。いつもの、ヘラヘラした顔の方がずっといい。 そういえば、ここひと月くらい先輩の笑った顔を見ていない。
2013-11-19 07:50:07「ツイッターの彼女()達、心配してましたよ」 「…そ」 「スマホいじってないでオレのこと見「今ちょうどお祈りメール来たとこでさ、」 「……」 「これで持ち駒は全て無くなった、どう思う?」 オレが口ごもってる間に、森山先輩は着替えてコートに出ていった。その聞き方はズルい。
2013-11-19 08:00:13「就活、辞めちゃったんですか」 「直球だなぁ…もう少しオブラートに包めよ」 「耳触りの良い言葉を配慮とは呼びません」 「…そうだよ。就活生ってガード緩いから続けてたけど、情報共有しましょ♡(裏声)とか言うくせ、内定出たら即効ポイだしやってらんねーよ」 うわぁ…これ呟いて大丈夫?
2013-11-19 08:50:08脚を少しずつ開いていくと、森山先輩の体重がのしかかってくる。 「先輩、もっと」 「痛くない?」 「大丈夫です、あと少しくらいなら」 ウソ。今だって千切れそうなくらい痛い。 「…いくぞ」 押し込むような圧に顔を歪める。
2013-11-19 16:15:03オレの固さじゃ届くことはないだろうが、床が少しずつ近づいてきた。聞くなら今だ。今なら森山先輩の顔を見なくてもいい。オレは柔軟ニガテだし少しくらい声が震えてもわからないだろう。 「森山先輩、」 「ん?」 背中に触れている手が冷たい。 「…オレは」
2013-11-19 16:30:03横から森山先輩が顔を覗き込もうとしてくる。視界の端に一瞬、笠松さん曰くドブ色の髪。慌ててぎゅっと目を瞑った。視覚を捨てると心臓の音がヤケに響く。練習前なのに喉がカラカラだ。 「先輩にとってオレは何ですか?」 先輩が耳元で微かに笑ったのを聞き逃せなかった。乾ききっていた。
2013-11-19 16:45:05「らしくないな伊月」 「オレの何を知ってるんですか」 「知ってるさ、もう3年だ」 「じゃあ、オレだって先輩のこと知ってることになりますね」 「……」 「ええ、わかりませんよ」 「…気にすんだ、そーゆーの。プレイは冷静な割に。オレ達もっとビジネスライクな仲だと思ってた」
2013-11-19 17:00:07安っぽいシトラスの香りとともに、聞いたことのないような低い声を耳に直接ねじ込まれる。 「なあ伊月、今お前どんな顔してんの」
2013-11-19 17:15:07「“オレのこと見て”って言うのに自分は俯いたまま? 言ってることとやってること、矛盾してない?」 「うあ…っ」 床に押しつけられる力が強くなる。もう我慢できないくらい痛い。 「ズルいなぁ、みんな」 独り言のように呟きながら、森山先輩はオレの背中から呆気なく手を離した。
2013-11-19 17:30:04_
「主将と何かあったんすか? 嫌なことあったときは大音量でメタル聴きながらヌくのが一番っすよ!」 それはお前だけだと思う。
2013-11-19 19:50:04帰り際、鳴海にCDとエロ本を押し付けられた。雑誌の表紙を飾っていたのは、誕生日にもらったのと同じコだった。確かにカントクとは反対のキレイ系で、アッシュブラウンのロングヘアが綺麗な美人が優しく微笑んでいた。
2013-11-19 20:00:10_
「…で、なんですか。オレは今回の件について、謝るつもりも反省するつもりもないですよ 残ってるのはオレ達だけ。いつも森山先輩が狭い狭いと文句を言ってる体育館が広く感じた 「お前ガンコだもんな」 「日向にも言われました」 言いながら、あの夜の木吉の言葉がチラついた。 ──違う。
2013-11-22 19:50:01「新しいドライブの練習相手になってくれないか」 手中でボールを弄びながら話す様子に少し苛立つ。 「…な。何でオレに」 このヒトの中では全て終わったことなのか? 「鷲の鉤爪相手に対人練習を頼みたいんだ。ちょうどいいだろ、白黒つけようぜ」 「…なるほどな。いいですよ、来てください」
2013-11-22 20:00:06大丈夫、笠松さんの速さでも捕えられた。 森山先輩ならヨユーで追いつける。 オレは獲物を迎え撃つだけでいい。 ゴクリと唾を飲み込む。来い。
2013-11-22 20:10:01向かってくる森山先輩はやっぱりヘンだ。 体幹はブレブレ。ドリブルに強さがない。 ひょっとして、まだ本調子じゃないんじゃ…?
2013-11-22 20:15:02ウソだろ…!? タイミングは完璧だったはず…! 鷲の鉤爪は虚しく空を切った。 急いで振り返ると、森山先輩の放ったシュートは歪な放物線を描いてる途中だった。
2013-11-22 20:20:03ガシャン。ゴールの揺れる音が体育館に響いた。 …ん? 響いた? さっきまで床にボールをついてたのに? そうだ。森山先輩のドリブル、タッチが柔らかくて、静かだった。フワッと鉤爪の間を通り抜けていくような…
2013-11-22 20:25:04「音が無いだけでリズムを把握しづらくなるだろ? 基本フルドライブの姿勢は一つ。だが、それは飽くまで“基本”の話だ。でなければオレの変則シュートの成功率が説明できない。青峰のように型がないわけじゃねーから研究されたら終わりだけど…引退までは保つだろ」 「じゃあ今まで練習してたのは」
2013-11-22 20:30:05「「変則/変態ドライブ!!」」 「就活で基礎が疎かになったのを逆に…って、だから変態っつーのやめろよ!」 「えー。みんな言ってますよー?」 「風評被害で訴えるぞ!」
2013-11-22 20:35:07「これウチと当たったときやれば勝てたんじゃ…」 「うるせー!…そうだな。伊月、強かったし」 「…やめてください」 調子が狂う。 「ホントのことだろ」 怒ってたのに。 「高校卒業したら今度こそ辞めようと思ってて」 「どうして。勿体ない」 「未練はないです。オレ一回バスケ辞めてるし」
2013-11-22 20:45:04「バスケ部ないの知ってて誠凛受けたんで。だから、高校でみんなとバスケできたのが奇跡なんです」 体育館の灯りが消えた。もう時間だ。 「…じゃあ、何で大学入った今もバスケ続けてるんだ」 「忘れたんですか? 先輩の勧誘がしつこかったからですよ」
2013-11-22 20:55:04「木吉が抜けて、黒子も…だし、高速パスができなくなって、プレイスタイル変えざるをえなくて、火神を中心に慎重に攻めてこうってことになって、だんだん、フリが出ることの方が増えてって…っ」 「うん」 「そんなんだから当然スカウトなんか来なくて…だから、」
2013-11-22 21:10:04「森山先輩が突然誠凛に来たときは、黄瀬か!って驚きましたけど、“一緒にバスケやろーぜ”って言ってくれたときは──」 オレの言葉は今度こそ届くだろうか。 「本当に本当に、嬉しかったんですよ…!」
2013-11-22 21:20:01