「恋人が部屋に残していった使い捨てカメラ」というシチュエーションについて青空さんが呟いてらした切ない杉東に、堪らなくなってハピエンまで続きを書かせていただいたものです。
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青空@通販 @aozora_drw

これさ、杉浦が使い捨てカメラでずっと何かを撮ってて、何を撮ってるかは東は知らんかったし興味もなかったけど、すぎうらが自分の道を進むってことになって、神室町から姿を消した後に、東の部屋にこのカメラがあって。

2019-12-18 20:44:35
青空@通販 @aozora_drw

今日は暇だし現像してみるか?って現像してみたらさ、いつものメンバーの写真だったり、星さおのツーショットだったり猫だったり食べ物だったり、いろんな写真でいっぱいで。

2019-12-18 20:44:39
青空@通販 @aozora_drw

最後の二枚が東の写真と、すぎうらと東の二人で撮ってる写真で。ほとんど隠し撮りみたいな写真なんだけど。その二枚の写真見て、「あぁ、あいつ、俺のこと好きだったのか」って思っちゃうのよ…自惚れじゃんって思うかもしんないけど、その二枚だけすごく特別に見えて。

2019-12-18 20:44:40
青空@通販 @aozora_drw

そう考えた時に、なんだ、俺もあいつのこと好きだったのか。って、そこで初めて自分の気持ちに気づいて、静かに涙流すんでしょ………………

2019-12-18 20:44:41
跡地 @shinisakuh

@aozora_drw そんなある日、家に一枚の絵葉書が届いた。なんて事ない、どこか海辺の町の風景だが、見覚えのある構図だ。こんな町に行った覚えもないのに、いったいどこで……と眺めていて気付いた。杉浦の撮った写真だ。川沿いの景色、電信柱の位置、水面を漂う小舟。葉書には差出人の名前がなかった。

2019-12-18 21:04:56
跡地 @shinisakuh

@aozora_drw あいつ、いつの間に住所を、と思ったところで笑ってしまった。何度この部屋に来たと思っているのだ。あいつなら一度訪れた場所の住所など、調べるのはいとも容易いだろう。 「へえ、海の近くにいるのか」 呟いた声が僅かに揺れたのを、気付かないフリで葉書を眺める。

2019-12-18 21:07:25
跡地 @shinisakuh

@aozora_drw 何処かで杉浦が生きている、と言う事実が妙に嬉しく、そしてまた、少し寂しくもあった。神室町でしか生きられない俺たちとは、そもそも違う生き物だったのだな、と漠然と感じたからだ。 海の色が綺麗だったから、その葉書は窓際に飾った。飾ったことも忘れた頃に、また、次の葉書が届いた。

2019-12-18 21:09:37
跡地 @shinisakuh

@aozora_drw それは、明らかに外国の風景だった。テレビでしか見たことのない石造りの建物。写る人影も皆、色とりどりの髪をしている。学のない俺には、それがどこの国かなんて分からなかったが、やはり差出人の名前はなかったから杉浦なのだろう。ベランダに出ると、煌々と月が照っていた。

2019-12-18 21:12:44
跡地 @shinisakuh

@aozora_drw 煙草を咥え、神室町の夜景を眺める。この地面と地続きの何処かに杉浦がいる、と疑っていなかった自分が馬鹿みたいだ。あいつはとっくに海を飛び越えて、もっともっと大きな男になっていたのに。 翻って自分はどうだ。あの頃から、何も変わっていないじゃないか。毎日毎日、同じことの繰り返し。

2019-12-18 21:15:03
跡地 @shinisakuh

@aozora_drw 「はっ……」 しょうもねえな、と呟いたら街明かりがボヤけて揺れた。震える息を深く吸い込み、夜空をじっと見上げる。 俺も、少しはマシにならなくちゃならない。だって何処かで、今も、あいつは頑張っているんだ。そうだろう? 二枚目の葉書も、窓際に飾った。心のどこかで、三枚目を待っていた。

2019-12-18 21:17:39
跡地 @shinisakuh

@aozora_drw 家に帰る度、郵便受けを覗くのが習慣になっていた。けれど、次の便りはないまま、一年が過ぎ、二年が過ぎた。俺は組の中で少しずつ地位が上がり、その分仕事も増えていた。時間が経つのはあっという間だった。 そんなある日の事だ。数日ぶりに家に帰ると、不在票が入っていた。

2019-12-18 21:20:18
跡地 @shinisakuh

@aozora_drw 差出人は、J234、発送元はアメリカ。引き取り期限は今日までだ。慌てて電話を掛けるも、ドライバーには繋がらない。気付いたらもう、アスファルトを駆け出していた。これは、この荷物だけは、受け取らなければならない。そんな気がしていた。飛び込んだ営業所、受付のスタッフに紙切れを突きつける。

2019-12-18 21:23:39
跡地 @shinisakuh

@aozora_drw 「わ、わりぃ、けど、よ……これ、……探して、もらえねぇか」 笑ってしまうほど息が切れていた。見るからにヤクザな男が飛び込んで来てビビったのか、受付の女は無言で何度も頷き奥へ引っ込んでいった。手癖で煙草を吸おうとして、何も持たずに出てきたことに気付き、自分の慌てっぷりに苦笑する。

2019-12-18 21:26:33
跡地 @shinisakuh

@aozora_drw 営業所の外では、仕事を終えたドライバーが談笑しているようだった。何台かのトラックが出入りして、やがて事務所の入り口の電気も消えた。俺はずっと、受付カウンターの前にもたれかかって、切れかけた白熱電球がチカチカ明滅しているのを見るともなしに眺めていた。 「あの、お待たせしました」

2019-12-18 21:29:02
跡地 @shinisakuh

@aozora_drw 受付の女はもう帰ったのだろうと思っていた。だが、丁寧に小包を差し出した彼女は、申し訳なさそうに頭を下げた。トラックに乗っていた荷物を探すのに手間取ったのだと言う。 「俺の方こそ……無理言って悪かった。なのに……ありがとな」 時計を見ると、とっくに営業時間を超えていた。

2019-12-18 21:32:39
跡地 @shinisakuh

@aozora_drw 礼の言葉と少し多めの金を置いて外へ出た。それくらいしか、返せるものを俺は持っていなかった。 真っ白な分厚い封筒だ。ずしりと重い。カリフォルニア、と英語で書かれているのが読み取れた。名前だけは聞いたことがあるが、アメリカの何処なのか見当もつかない。人生と無縁の場所だった。

2019-12-18 21:35:04
跡地 @shinisakuh

@aozora_drw 家に帰り、封筒をハサミで開けた。丁寧に探してもらったものだから、雑に扱う気になれなかったのだ。 中からは大量の写真が出てきた。狭そうなアパートの、IHコンロに置かれた鍋だとか、カーテンのついていない窓から見える公園だとか。冷蔵庫の前に落ちた卵。食べかけのソフトクリーム。真新しい靴。

2019-12-18 21:37:42
跡地 @shinisakuh

@aozora_drw 図書館、ビアホール、地下鉄の階段、くしゃくしゃの顔で笑うじいさん、犬、道端の枯れ葉、電線だらけの空、雪に埋もれた線路……時々混じるピンぼけした写真も、一枚一枚をじっと眺め、満足したらテーブルの上に並べた。 意味のないただの風景に、杉浦が息をしていた。

2019-12-18 21:42:49
跡地 @shinisakuh

@aozora_drw 着替えるのも飯を食うのも、寝ることさえ忘れて写真に見入っていた。最後の一枚を天板に乗せると、流石に疲れて頭がクラクラした。 「やべぇ……朝かよ」 窓の外はもうすっかり明るい。今日も仕事がある。せめてシャワーを浴びようと立ち上がり、足がもつれてフローリングに転がった。

2019-12-18 21:44:35
跡地 @shinisakuh

@aozora_drw 天井が光っている。はは、と漏れた笑い声がそのまま、鼻を啜る音に変わった。文也に会いたい。この、送りつけられた写真の全てについて、話が聞きたい。少し小生意気な、スカしたあの口調で。これはさ、先週撮ったんだよね、面白くない?そんな風に語って欲しい。どうして俺に写真なんか送るのか。

2019-12-18 21:47:40
跡地 @shinisakuh

@aozora_drw 「訳を……聞かせろよ、馬鹿野郎……」 何もかもどうでも良くなって、そのまま目を閉じた。どうせ後数時間すれば、けたたましい携帯の呼び出し音で起こされるのだ。風呂はそれからだっていい。こめかみを流れ落ちたぬるい水が、耳朶の裏へ滑って行くのを感じながら眠りに落ちた。

2019-12-18 21:49:59
跡地 @shinisakuh

@aozora_drw ぼんやりと目を覚ます。床板で寝てしまった。背中が痛み、呻き声を漏らすと、腹の上で何かが身動いだ。やけに身体が重たい。 「……ぁ?」 「あ、起きた?」 記憶にある声よりも、微かに低く感じる。それは、ここに居る筈の無い、男の声で。 「相変わらずひどい生活してるね。風邪ひくよ?」

2019-12-18 21:53:54
跡地 @shinisakuh

@aozora_drw 「……ぎ、うら……?」 「おはよう、東さん」 髪が黒い。太い縁の眼鏡を掛けている。リンネルの青いシャツ。パーカーじゃない。指先でくるくる回して見せるのは、いつか渡した、この部屋の鍵。 「ちょっと無用心じゃない?鍵、変えたと思ってたんだけど」 「お前が、入れねぇ、から」

2019-12-18 21:57:11
跡地 @shinisakuh

@aozora_drw あはっ!と、笑う。その笑い方が、何にも、変わって、いなくて。 「そう言うとこ、好きだなあ。変わらないね、東さん」 「……お前だって」 「えー、僕、ちゃんと大学卒業してきたんですけど?」 しかもアメリカで!じゃーん! 言いながら広げられた厚紙は、英語しか書かれていなくて。 「読めねえよ」

2019-12-18 21:59:04
跡地 @shinisakuh

@aozora_drw 俺にはちっとも内容がわからなかったけれど、たった一つわかる文字を、指先で辿った。 FUMIYA T…… 「お前、すげえな」 「もっと褒めてよね。……頑張ったんだから」 「ああ」 抱き寄せた頭をゆっくり撫でる。染めていない髪はさらさらと指に心地良い。 「……聞かせろよ。お前の、話」

2019-12-18 22:02:40
跡地 @shinisakuh

@aozora_drw 「うん」 でもね、その前に。囁いて、杉浦が俺の手を握る。覗き込む眼差しは、この数年で一層強くなっていた。 「ただいま」 唇が震えて、上手く声が出ない。そんな俺を、杉浦はじっと待っている。 「……お、かえり」 漸く、絞り出した声でそう返すと、奴は満面の笑みで、俺を抱きしめたのだった。

2019-12-18 22:06:44
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まとめたひと
跡地 @shinisakuh

引っ越しました😊 今後書いたものはくるっぷかpixivに上げますので、そちらご覧ください。今までありがとうございました🙇