うちの鶴丸国永、冬場になっても口では寒寒っていいながら本音では「墓の中よりはぬくいってもんだ」と見た目に反して全然寝込まないんだけど本人が気が付かない精神的ダメージが蓄積された時に穢れに触れるとめちゃダメージくらってぶっ倒れるとかだとすごくいい。大倶利伽羅はだいぶ学んできたので
2023-10-19 20:33:37(こいつはそろそろ倒れるな)と察した時には事前に万屋でアイス買い込んだり庭から柿収穫したりしておく。鶴が倒れた時はこってりしていないディアミルクみたいなアイスなら食べるんだけどある時本当に酷く高熱を発してしまいアイスも食えなくて「雪の中に埋もれて雪を食いながら泳ぎたいな」とか
2023-10-19 20:38:14ごぼごぼ、という咳の合間に掠れた声でいうと真顔で「やめておけ、あれでいて雪は汚い」と返されて席を立たれる。おい今見捨てられると俺はちょっとやばいぞ?と朦朧としながら思っていると盆に何かを乗せて大倶利伽羅が帰ってきた。反対の手には金皿に乗せた何かがある。ぼんやり見ていると短く
2023-10-19 20:43:31「待っていろ、すぐできる」と言って本体を持ち出すから流石にギョッとしたら気がついたら大倶利伽羅が口元だけちょっと笑って「安心しろ、あんたを斬るわけじゃない」と言ってスゥと息を吸い、金皿の上の物を刻み始めた。跳ねた破片が手に当たって刻んでいるものの正体に気がついた。氷だ。
2023-10-19 20:46:44「きみ、こおりをきざんでいるのか」うまく出ない声で問うと、黙っていろとばかりにジロリと睨まれてまた氷を刻み始めた。氷を刃物で斬る、というのは実際やるとかなり難しい。氷の目を読み、的確に刃を当てないと刃がかけてしまいかねないし氷自体もただ砕けただけになる。さて伽羅坊はどうなのかと
2023-10-19 20:50:42熱で歪んだ視界で確認すると、予想以上に上手く切れていた。夏に歌仙が鱸の洗いなどの際に実に上手く氷を削り切って美しく盛り付けてくれるものだが、あれに匹敵するのではなかろうか。「君、うまいな」と呟くと、「教えてくれた奴が上手かったからな」と返される。やはり歌仙だろうか。ぼんやりと
2023-10-19 20:54:11そんなことを考えていると、氷を削り斬り終えた大倶利伽羅はそれを盆の上に載せた何かと混ぜ始めた。しゃりしゃり、という音が心地いい。大倶利伽羅はそれを丁寧に器に盛ると、最後の仕上げのように瓶の蓋を開けると、途端にふわりと甘い香りが漂った。甘い香りのするそれをこんもりと盛った氷たちに
2023-10-19 21:01:26かける。「できたぞ」と差し出されたものは見た目はかき氷のようなものだった。起き上がろうとしたが、上手く体に力が入らない鶴丸を見て、大倶利伽羅が畳んだ布団を素早く背の下に入れてくる。ありがたい、とぼふんとそのまま背を沈ませると、「口を開けろ」と匙に掬った何かを鶴丸の口元に当ててきた
2023-10-19 21:05:32つめたい、氷と鉄と、甘い何かの香り。口を開けると流し込むようにそれを入れられた。しゃりしゃり、ざらり、しゃくしゃく。そしてこの香りは。 「金木犀か」そう問うと、そうだと短く呟いて、もう一口を差し出してくる。心持ち先ほどより大目に掬われたそれを、出来るだけ大きな口を開けて迎え入れる
2023-10-19 21:09:54美味い。美味いか不味いかと問われたら賛否両論あろうが、いまの鶴丸には至極ありがたい食べ物だった。つめたくてくちあたりがよく、辛くて甘くて喉あたりがいい。胃の腑に落ちた後にはふんわりいい香りが口から出るのもいい。なんだか懐かしい気がするが、熱のせいで思考がまとまらない。仕方なく
2023-10-19 21:13:13ただ「うまいなぁ…」と呟くに留めて、大倶利伽羅が掬ってくれるそれを器が空になるまで食べつづけた。 食べ終わるとなんだかすっきりしたし、熱っぽさも薄れた気がしてきたがさてこれはなんだったのか。 「削った氷に、大根おろしと林檎の擦ったもの、それに金木犀の蜜漬けをかけたやつだ」視線を
2023-10-19 21:17:09感じたのか、大倶利伽羅がボソリと話してくれた。「先月、庭の金木犀が咲いただろう」「ああ、今年も見事だったな」「薬研と実休が花を集めていた。煎じたり茶に混ぜて薬にするのだと」花を集めるのを手伝ったら、短刀達のために蜜にもつけたのを分けてくれたらしい。そう説明しながらも大倶利伽羅は
2023-10-19 21:22:13少し浮かない顔をしている。「どうしたんだ?ちゃんと美味かったぜ」と言う鶴丸の言葉に暫く黙り、ボソリと「…柚子の蜜煮」と呟いた。「本当は、林檎は入らない。削った氷と大根おろし、後は柚子の蜜煮だった」まだ柚子はそこまで色付いていなかった、と呟く大倶利伽羅の言葉を聞いて、鶴丸は漸く
2023-10-19 21:26:15思い出した。 あれは伊達に入って間もない頃だったか。まだ付喪神として幼かった大倶利伽羅は、しかしながら伊達の宝刀たる自覚はあったのだろう。伊達の当主に何かよからぬことがあるたびに面白いくらいに寝込んでいた。しかもその姿を見られたくないらしく、決まって庭の奥、雪に埋もれているのが
2023-10-19 21:32:21常だった。最初はただ見ていたのだが、どうにもこの小さな黒竜が弱ると、黒竜が受け止めていた厄災が自分にもじわじわ降りかかってくると気が付いてからは話が別だった。仕方なく鶴丸は都度雪の中を歩き回り、埋もれた大倶利伽羅を掘り返して屋敷の中に連れ帰って寝かしつけるようになった。鶴丸自身も
2023-10-19 21:35:39面倒だったが、大倶利伽羅も甚だ不満だったらしい。掠れる声で「おれにかまうな、雪でも食っていれば治る」と言い張る小さな黒竜に「よしな、雪なんざああ見えて汚ねぇもんだ。熱のほかに腹まで壊したらつまらんだろう」と教えたのは確かに自分だ。 何度かそんなことがあり、ある時気まぐれに人間が
2023-10-19 21:38:36我が子に作っていた物を見様見真似で振る舞ったことがあった。その頃にはだいぶ懐いた小さな黒竜を驚かせてやりたくて、わざと本体で役者の様に大仰に氷を刻んでやったのだ。黙ったまま、目を大きく見開いて布団の端をギュッと掴む様が可笑しくて「おまえの目みたいな金色も足してやろうか」と
2023-10-19 21:42:27柚子の蜜煮を沢山かけたそれを、無言でぺろりと平らげていた。 ああ、ああ、そうだった。確かに俺が教えたものだ。 「あの後、あんたみたいに氷を刻んでみたくて、何度かあんたに頼んだ事を覚えているか?」「…あ〜…」「あんたはこう言った。『一度見て覚えられねぇなら無理だな、やめときな』と」
2023-10-19 21:47:11「…」「あんたはあの時からそうだった。だが一理あると思った。冬が来て、氷室に氷が積み上げられるようになるたびに、あの時あんたが口上のようによみあげていた言葉を思い出しては練習した」ふ、と短く息を吐いた後、一目でも、上手くなっただろう?と滅多に笑わぬ男が笑みをこぼす。
2023-10-19 21:51:06「やっと満足に切れるようになった頃には、あんたは天子様の下にいた。まさか、こんなところで披露できるとはな」刀剣男士になった甲斐があった、と嘯くその顔を見ていると、鶴丸はなんだか自分が妙な心地になっていることに気がついた。この気持ちは何だ、真っ赤な夕日に照らされた雪を見た時、きんと
2023-10-19 21:57:51真っ青に澄んだ冬の空の下、さくさくと新雪を踏みながら歩いたとき、遅い北の桜が川辺に降り注ぐ様を眺めた時、自分が献上される際に、おおきな金色の目から、ひとつぶだけ。ぽつりと溢れた水の玉を見た時。 何もない、静かな己の心の中で、風を起こすなにか。 「おい、大丈夫か」熱でぼんやりしている
2023-10-19 22:02:33ように見えたのであろう、いつの間にかすぐ横に来ていた大倶利伽羅が、そっと己の背に手を回し、もたれていた布団を外して横たわらせてくれた。「食い終わったら寝ていろ。あんたはまだ熱があるんだろう」顔が赤い、と言われて鶴丸は曖昧な笑みで返した。お前のことを考えていたからだ、と言えば
2023-10-19 22:06:38この男はどんな顔をするのだろう。「そうだなぁ、養生して早く回復するか」こんな朦朧とした身で見るのは実に惜しい。是非とも万全の身で告げてみたいと鶴丸は強く思った。ああ、それはなんと心躍る事であろうか! だがひとつだけ懸念がある。これだけは先に聞いておきたいな、と丁寧に掛け直された
2023-10-19 22:10:26布団からそろりと手を伸ばし、いつもより熱い手で大倶利伽羅の手に触れる。いつも自分より体温が高い男の手が冷たいことに、鶴丸は思わず笑みを浮かべて問うた。 「なぁ伽羅坊。いつかまた俺がさっきのを作ったら、また食えるかい?」 弱った姿を、自分にさらけ出せるかと聞いたのだ。 おしまい。
2023-10-19 22:21:42本当は図解したいんだがもはや叶わぬのでたまにこうやってドワ〜ッと物語を始めるアカウントがこちらです。 ちなみに金木犀は結構苦味があるので蜜漬けはちょっとコツがいるのだ…大倶利伽羅ならできるよ…真面目だから…わたしは真面目な男が大好き…
2023-10-19 22:33:35えっうそ、2時間も語っていたんですか?馬鹿ですか?いやいま咳で横になれなくて、ただ座ってるのも手持ち無沙汰だったもんで…語彙力がないのと毎回即興なので何となく感じてください あと公式のミュくりつるがハッピーなのと私が強火ハピエン廚なので私の語るくりつるは絶対ハッピーエンドです。
2023-10-19 22:50:08体調が良くない時に栄養のある物を摂らせたいみっちゃんと「粥は白一色で塩だけでいい、冷えたやつならなおいい」という鶴丸の間で当初もめにもめていたがうんざりした顔の大倶利伽羅に「落ち着け、こうしろ」と冷えた白がゆの横にアツアツの味噌汁をドンと置かれる事によって円満に解決したのだ…
2023-10-20 08:50:55