「むかしの話だ」 映写機が回っている。今でいう録画だろうか。 フィルムは祖父が写っている。祖母と共に。 「お爺ちゃん、隣はお祖母ちゃんだね」 「ああ」 雨音が響く。数年前に祖母が死んだ。 祖父は今も生きているけれど。 「変わらないね。お爺ちゃん」 映るのは若い祖父。 隣にいるのも同じ姿。
2021-09-04 22:05:29#深夜の真剣140字60分一本勝負 @140onewrite お題: ①むかしの話 ②録画 ③雨音 #木槿国の物語 pic.twitter.com/vPrWdWQM8m
2021-09-04 22:12:55むかしむかしの話、あるところに里吉という名前の男の子がいました。 この日の朝、腹がけ1枚の水助は旅先の村でお布団にでっかいおねしょをやってしまいました。 「あ~あ、やっちゃった」 どうやら、ゆめの中でばけ物におそわれた里吉が相手の顔におしっこを命中させたのがいけなかったようです。 pic.twitter.com/eIetHrrKp7
2021-09-04 22:20:54ザ ザ ざ ザ ──すか ────き……ますか ────きこえますか 雨音のようなノイズの向こうから声がする。 「僕が最後の──人類──希望は──」 最後の少年が残した録画メッセージを開いたのは、三千年後の機械少女。 生きた人間など今は昔の物語。 pic.twitter.com/rWahu1EGJB
2021-09-04 22:26:45突然の夕立。コンビニに入りビニール傘を買う。 ぱちぱちと弾ける雨粒は、僅かな光を取り入れてきらりと輝きながら弧を伝う。流れ星のように。 忙しなく降り注ぐ雨とは裏腹に時間はゆったりと流れ、決して同じ形を描かない空がそこにある。 傘に透ける鈍色の空と淡い星。今だけは、それが世界の全て。
2021-09-04 22:39:10ひでぇ事故だぜ、まったく。純白のメルセデスが、半分にちぎれて落としたサンドウィッチみてぇになってら。 ドライブレコーダーの録画データは取り出したか?むかしの話だけどよぅ、誤ってSDカードをトイレに流しちまった馬鹿がいたっけ。 雨音しか記録されてません、って嘘つくから張り倒してやった。
2021-09-04 22:40:05#深夜の真剣140字60分一本勝負 @140onewrite 第175回 お題 ①むかしの話 ②録画 ③雨音 pic.twitter.com/styddhHzeI
2021-09-04 22:43:30雨音の中で眠る君を見た時、私は怯えた。死んでいるんじゃないか、と思ってしまって。私の見えないところで消えちゃったのかと思ってしまって ああ、お願いだ。どうか、雨音の中では眠らないでおくれ。君が消えてしまうなら、雨音にかき消されることなく、君の音の全てを私にくれると、約束しておくれ
2021-09-04 22:45:56#深夜の真剣140字60分一本勝負 @140onewrite 第175回お題「雨音」 挑戦させていただきました🌧 きょう雨降りだからちょうどいいね🤗 #140字小説 #140SS #140字SS #一次創作 #夢小説 #ネームレス夢小説 pic.twitter.com/yxR03DAA3x
2021-09-04 22:51:01薄暗い部屋に一人。入れたばかりの珈琲の湯気をぼんやりと見つめていた。どこか遠くに聞こえる雨音に耳を傾ける。好きだと言ってくれる人がいた。好きだと返していれば、何か変わっていただろうか。そんなのは空想に過ぎないと分かっているけれど。今日で三年。今年もまた、彼の墓には行けないでいる。
2021-09-04 22:51:16祖父は壊れたレコーダーのようにむかしの話をする。それはいつも説教に変わり、罵声になっていく。 親は祖父のいる家に帰りたがらない。オレも公園に逃げたいけど、雨の日は雨音と祖父の声に閉じ込められてしまう。 逃げるように見た録画のアニメでは、賢いおじいさんに助けられ主人公が笑っていた。
2021-09-04 22:51:25昔の話なんだけども。君は一編の動画を再生し始めた。雨の街に浮かび上がる赤い傘。振り向いた女性は、私と縁ある人。好きだったの?絞り出した問いに、君は小さく、うん、と答えた。振られたのは僕なんだ。彼女から聞いていた話とは逆。終わらない想いってあるのだな。降りしきる、この雨音のような。
2021-09-04 22:53:12「はじまりはいつも雨って歌が、好きでさ」「ずいぶんむかしの話ね、それ」今日も雨音が、2人の相合傘を賑やかす。「♪ふーたり、星をよけてぇ」とおどけて歌いながら、ポケットからそっと取り出し、彼女の指にはめる。「え?え!星みたい。ね、もう一度!録画するから」「マジで?録音じゃダメ?」
2021-09-04 22:58:34仕事の帰り、かつての同級生に会った。 特に予定もないから……とそのまま飲みに行く。 近況報告や共通の知り合いの噂話、話題のニュースまでいろんなことを話す時間は素直に楽しい。 帰る直前、彼が呟いた。 「お前のこと、好きだったような気がするよ」 もうむかしの話だけど、と彼は綺麗に笑った。
2021-09-04 23:09:08どこか遠くに雨音を聞きながら物思いにふける。 過去のこと、未来のこと、そして現在のこと…… とりとめのない思考は言語化する前に消えていく。 目を閉じて息を吐く。 わずかに頬が濡れる感触があった。 明日からはいつも通りに戻るから。 せめて雨が降っている間だけは泣くことを自分に許したい。
2021-09-04 23:09:33実家を片付けていると父が遺した大量のビデオテープが出てきた。 「こんなにたくさん……」 妻は全部捨てたがっている。 庭で遊び回る息子たちに視線を向けた。 父はあの子たちに見せたくて大量の映画を録画したんだろうな…… ブルーレイに録画し直すとしたらどのくらいの時間とお金がかかるだろう?
2021-09-04 23:09:51むかしの話だけどね。 TVの番組は「ビデオテープ」で録画していたんだ。 ビデオテープは最大360分までしか録画されない。 ビデオテープは「ツメ」を折らないと、録画した番組が家族に消されちゃう。 だからむかしの子は、泣く泣く自分のツメを折ったものさ。嘘なんか少ししかついてないよ。#140字小説
2021-09-04 23:16:03とんとんと屋根に雨音が聴こえる。以前は雨なんて大嫌いだった。外に出るのも億劫になるし濡れるし、いいこともない。でも今はーーー嫌いじゃない。 『今日はおうちデートだね、何しよっか?』 と微笑みかける君がいる。 君といるだけでぱあっとが明るく晴れたような心地になる。雨も案外悪くないね。
2021-09-05 06:23:52