1 ○○たちのクラスにやってきた転校生の遥香は、あっという間にクラスの人気者になっていた。 休憩時間になる度に、遥香の席の周りには人だかりができる。 さくら:筒井君は行かないの? ○○:なんか、乗り遅れたというか…。
2021-01-17 23:21:342 話をしている様子を見ていると、既に打ち解け始めている人もいるように見えた。 ○○:遠藤はもう話したの? さくら:私…人見知りだから。 苦笑いするさくら。 ○○:あはは、遠藤っぽいな。 ーーー pic.twitter.com/rBokoyC7CW
2021-01-17 23:23:103 遥香が転校してきて数日が経った、ある日。 体育の授業で、バスケをすることになった。 球技があまり得意ではない○○は、正直乗り気ではなかった。 そんな中、男女混合でのミニゲームが始まる。 ○○と遥香は、偶然にも同じチームになった。
2021-01-17 23:23:374 遥香は前の学校でバスケ部に入っていたらしく、腕前は相当のものだった。 ○○はできるだけ醜態を晒さないように大人しくしてようと思っていた矢先、同じチームでバスケ部の金川紗耶からパスが送られてくる。 ○○:(まじか…。) シュートを放つ○○。 しかし、ボールはリングにかすりもしない。
2021-01-17 23:25:255 紗耶:もー、何やってんの? ○○:はは…ごめんごめん。 不意に遥香と目が合う。 ○○:(かっこ悪いとこ見られちゃったな…。) 若干テンションの下がる○○。 pic.twitter.com/CidjSEvMqW
2021-01-17 23:25:446 少しすると、今度は遥香からパスが送られてくる。 ○○:(なんで俺ばっかり…!) まさか言葉でのコミュニケーションより先にボールでコミュニケーションを取ることになるとは… なんて余計なことを考えながら放ったシュートは、あさっての方向に飛んでいく。
2021-01-17 23:26:327 クスクスと笑い声が聞こえてくる。 ○○:(早く終わんないかなぁ…。) しかし、その後何度も遥香は○○にパスを出してくる。 ○○:(何の嫌がらせだよ!!) 尽くシュートを外す○○。 男子生徒:おい○○!何やってんだよ〜!
2021-01-17 23:27:038 遥香目当てで試合を見ていた他のチームの生徒からヤジが飛ぶ。 ○○:はぁ…。 テンション下がりっぱなしの○○だった。 ーーー
2021-01-17 23:27:189 同じ日の、美術の授業。 2人一組になり、互いの似顔絵を描くことになった。 くじ引きの結果、○○は遥香とペアになる。 ○○:(ま、まじかよ…!) 男子生徒:いいなぁ〜、○○。 そんな声が聞こえてくる。
2021-01-17 23:27:3610 周りからの視線が痛い。 遥香:あの…よろしくね? ○○:えっ?あ、ああ。うん。 これが、○○と遥香が交わした初めての会話だった。 まず、遥香が○○の似顔絵を描くことになった。 pic.twitter.com/k6QZyFN20p
2021-01-17 23:28:1111 ○○の顔を見る遥香の表情は、真剣そのものだった。 ○○:(めちゃめちゃ緊張するなこれ…。) 遥香:ねぇ、○○君…? ○○:な、なに…? 遥香:今…すっごく怖い顔してるよ。 ○○:え?ご、ごめん。 遥香:少しでいいから、笑ってみてほしいな…? ○○:いや…それは無理かも。 pic.twitter.com/VlS8Ofe7Fe
2021-01-17 23:28:5812 ぎこちなく笑う○○。 遥香:ふふ、ありがとう。 周囲(特に男子)の鋭い視線をヒシヒシと感じる○○。 やがて、似顔絵が完成する。 遥香が絵を披露すると、教室中から驚きの声があがる。
2021-01-17 23:29:4813 男子生徒:うっま…! 女子生徒:ほんと、すごい…! それは、お世辞抜きにプロ顔負けのクオリティだった。 しかし、 男子生徒:でも○○はこんなにイケメンじゃないけどな! ○○:う、うるせぇ!
2021-01-17 23:30:2614 教室が笑い声に包まれる。 ○○:(今日はタフな1日だな…。) そんな中、遥香だけは不思議そうに首を捻っていた。 ーーー pic.twitter.com/mFje9DwfoN
2021-01-17 23:31:0715 休憩時間になると、バスケと美術部の間で争奪戦が繰り広げられていた。 バスケ部:私達と一緒にインターハイを目指さない?! 美術部:コンクールで入賞するために賀喜さんの力を貸してほしいの!! 遥香:え、えっと…。
2021-01-17 23:31:2516 遥香:じゃあ、どっちも…頑張る! バスケ部:ほんとに!? 美術部:ありがとう…!! 部活の掛け持ちなど、帰宅部の○○にとっては縁のない話だった。 pic.twitter.com/jXnyZ8blt3
2021-01-17 23:32:0117 バスケや絵だけではない。 勉強もできるし、手先が器用で歌も上手い。 そして何より、明るくて優しい。 いつしか、遥香は“ミス・パーフェクト”と呼ばれるようになっていた。 ーーー
2021-01-17 23:32:1418 昼休憩、弁当を食べるため○○は屋上に来ていた。 いつもは教室で仲の良いメンバーと食べているが、この日は1人になりたい気分だった。 しかし、そうはいかなかった。
2021-01-17 23:32:3719 遥香:あ…、筒井君。 ○○:え?あ、ああ…賀喜さん。 偶然にも、遥香と鉢合わせる。 遥香:あの…お昼ごはん、一緒に食べない? ○○:(勘弁してくれよ…。) 他の男子生徒なら狂喜乱舞する展開だろう。 pic.twitter.com/QSfuDnwCcP
2021-01-17 23:33:4520 しかし、○○はそうではなかった。 体育と美術の時間と、2度クラスの笑い者になっている○○は、とてもそんな気分ではなかったからだ。 だが断る勇気もなかったので一緒に食べることになるのだった。
2021-01-17 23:34:0921 遥香:なんだか…疲れちゃった。 笑いながら言う遥香。 ○○:人気者は大変だね。 少し皮肉っぽく言う○○。 遥香:人気者だなんて…とんでもない。 遥香:みんな、今は転校生が珍しいだけだろうから。 ○○:…。 pic.twitter.com/o66EvdcUDj
2021-01-17 23:35:1122 遥香:ねぇ、筒井君。 ○○:……なに? 遥香:どうして筒井君は…何も話しかけてきてくれないの? ○○:…は? 遥香:私ね、不安だったの。転校してきて…ちゃんと友達できるかなって。 pic.twitter.com/R1xKwkVm3U
2021-01-17 23:35:5323 ○○:…。 遥香:でもね、みんながたくさん話しかけてきてくれるから…逆にびっくりしちゃった。 ○○:…よかったね。 一体何を聞かされているのだろう、と○○は感じていた。
2021-01-17 23:36:2224 遥香:でもね、どれだけ待ってても全然話しかけに来てくれない子が2人だけいたの。 遥香:それが、筒井君と…筒井君の隣の席の女の子。 おそらくさくらのことだろう。 遥香:それがわかってから…なんだか2人のことが気になっちゃって。 pic.twitter.com/HSfAJ2TMVB
2021-01-17 23:37:2625 ○○:…それでか。 遥香:えっ? ○○:わざと俺にばっかりパスしたり、あえて似顔絵をイケメンにしてみたり…てっきり嫌がらせかと思ったよ。 遥香:ごめん、そんなつもりは…。 溜息をつく○○。
2021-01-17 23:37:4526 ○○:俺の隣の席の子は遠藤さくらっていうんだけど…人見知りなだけですごく良い奴だから、すぐに仲良くなれると思うよ。 遥香:そうなんだ。遠藤さんとは仲良いの? ○○:えっと…どうだろ、良いのかな。
2021-01-17 23:38:2527 遥香:筒井君は? ○○:えっ? 遥香:筒井君とは…仲良くなれないの? ○○は、なぜか答えることができなかった。 ーーー pic.twitter.com/h3z4dlJwDN
2021-01-17 23:38:4528 遥香が転校してきて、数ヶ月が経った。 転校当初の“賀喜遥香フィーバー”はいつしか落ち着きを見せ、いつもの日常が戻ってきていた。 ○○と遥香の間にも特に何か起こるわけでもなく、ただのクラスメイト以外の何者でもなかった。
2021-01-17 23:39:0629 そんな、ある日。 放課後になり家へ帰ろうとする○○が下駄箱を上げると、二つ折りにされたメモ用紙が入っていた。 ○○:えっ…!? ラブレターかと思い、動揺する○○。 近くに人が居ないことを確認し、メモ用紙を開く。 『今日の18時に、校門で待ってます。賀喜遥香』 ○○:は…? ーーー
2021-01-17 23:39:2630 18時。辺りも薄暗くなってきている中校門へ向かうと、本当に遥香の姿があった。 ○○:か、賀喜さん…? 恐る恐る声をかける○○。 遥香:ねぇ…筒井君。 遥香:私もう…しんどい。 ○○:…え? 遥香の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。 ーーー pic.twitter.com/7fEk8GWcPR
2021-01-17 23:40:0431 夜も近づいてきていたので、とりあえず帰りながら話すことにした。 一緒に帰り道を歩くのは、初めてのことだった。 遥香の話によると、バスケ部では転校当初からさっそくレギュラーに抜擢され、美術部でも大きなコンクールで入賞するため大きな期待をかけられているらしい。
2021-01-17 23:40:3133 数週間前、美術室にて。 悠理:かっきー、次のコンクールに出す作品もうできた? 遥香と同じく美術部の北川悠理が話しかけてくる。 遥香:まだだよ。 悠理:締め切り明日なのに、大丈夫…? pic.twitter.com/xZZD5wEdgT
2021-01-17 23:42:0834 遥香:え!?来週じゃなかったっけ? 悠理:明日までだよ…!ほら。 作品の募集要項が書かれた紙を見せる悠理。 遥香:ど、どうしよう…。 pic.twitter.com/OAXylTFEVf
2021-01-17 23:42:2935 放課後、遥香はバスケ部のキャプテンの先輩の元を訪れていた。 先輩:練習を休みたい? 遥香:すいません、どうしても美術部の方に行かないといけなくて…。 先輩:困るなぁ…賀喜さんがいないとフォーメーションの確認ができないんだよね。 遥香:そうですよね…。 pic.twitter.com/lFF30bFfHR
2021-01-17 23:43:1537 その後、バスケ部の練習が始まる。 しかし遥香の頭の中は明日締め切りの作品のことでいっぱいだった。 遥香:(明日までに終わるかな…。) 思わず俯いて考え事をしてしまう。 紗耶:かっきー!! 大きな声で名前を呼ぶ声が聞こえる。 pic.twitter.com/SfDZVdfG7w
2021-01-17 23:44:0038 遥香:へ…? 前を向いたその瞬間、顔面にボールが直撃する。 紗耶:大丈夫!? チームメイトたちが駆け寄ってくる。 遥香:ごめん…大丈夫。 紗耶:大丈夫じゃないよ…!鼻血出てる! 遥香:あ…ほんとだ。 pic.twitter.com/LSz6kCPXcv
2021-01-17 23:44:4941 そもそも、自分にはミス・パーフェクトと呼ばれている遥香の気持ちなど理解できない。○○はそう思っていた。 ○○:…なんで両方やるなんて言ったの? 遥香:嫌われると思ったから…。 ○○:…え?
2021-01-17 23:46:0142 遥香:せっかく、転校してきたばっかりの私のことを誘ってくれてるのに、断ったりしたら…嫌われると思ったから。 ○○:…。 pic.twitter.com/gVA5hH6xag
2021-01-17 23:46:4943 遥香:今も…そう。 遥香:試合やコンクールで結果出さないと転校生の私なんて除け者にされちゃうから…今まで頑張ってたけど…最近は何をやっても上手くいかないし…もう…、しんどいよ。 立ち止まり、俯く遥香。 ○○:…あのさ。 ○○も一緒に立ち止まる。
2021-01-17 23:47:2244 ○○:嫌われるかも、とか除け者にされるかも、ってすごい気にしてるみたいなのに…なんで俺にはそういうこと言えるの? 遥香:え…? ○○:いや、別にいいんだけどさ。俺たちそんなに仲良いわけでもないのにそんなこと言われても…賀喜さんの気持ちなんて俺にはわかんないんだよね。
2021-01-17 23:47:4446 遥香:私がクラスや部活のみんなからミス・パーフェクトって呼ばれてるの…知ってる? ○○:うん。 遥香:筒井君だけなんだよ。私に直接それを言ったことがないの。 ○○:え…。 遥香:だから…筒井君になら私の気持ち聞いてもらえるって思ったのに…酷いよ。 pic.twitter.com/jlVIg6oIEU
2021-01-17 23:48:3947 遥香:私は…“ミス・パーフェクト”なんかじゃない。 遥香:筒井君なら…わかってくれると思ってた。 遥香:もう…帰るね。遅くまでありがとう。さよなら。 そう言って走り去る遥香のことを、○○は追いかけることができなかった。 ーーー pic.twitter.com/hOyfKqz73a
2021-01-17 23:50:2448 翌日、遥香は学校を休んだ。 授業中、気がつけば○○は遥香のことばかり考えていた。 ○○:(なんで俺は賀喜さんのことばかり考えているんだ…。) さくら:ねぇ…筒井君? 表情の暗い○○の様子を察してか、さくらが声をかけてくる。 pic.twitter.com/vAtUBB1LRP
2021-01-17 23:51:0149 さくら:どうしたの?元気ないね。 ○○:遠藤ってさ…賀喜さんと話したりした? さくら:うん。今はもうお友達だよ。 ○○:…そっか。 ○○は、昨日のことをさくらに話した。
2021-01-17 23:51:2150 さくら:私ね…最近よくかっきーと2人でお喋りすることがあるんだけど。 さくら:よく、筒井君の話してるよ。 ○○:え…俺の?賀喜さんが? さくら:うん。筒井君だけ全然喋ったことないから、仲良くなりたいって言ってた。 ○○:そうなんだ…。 さくら:気になるんじゃない?筒井君のこと。 pic.twitter.com/9Fp838hNnd
2021-01-17 23:52:03