1 ○:遥香様、この洋服は? 遥:却下。 ○:では、こちらの… 遥:色が好きじゃない。 ○:それでは… 遥:あなたが手に持ってるそれは、生地が気に入らない。
2022-08-17 22:53:432 僕は、賀喜家の御息女に仕える執事。 ご覧の通り、その日に着る洋服選びでさえ、わがままが過ぎる… 毎日、いくつもの案を出しても1度でOKが出た試しがない。 ○:このままだと、着る物が無いですよ? 遥:アンタ、執事なんだからさ… ○:では、遥香様は今日は裸と言うことで…
2022-08-17 22:53:443 遥:バカじゃないの? はぁ… このやり取りをするのも疲れる… 遥:他の部屋から、持って来なさい。 ○:うーん… 困ったな… 遥:早く。 ○:はい。
2022-08-17 22:53:444 数分経って、遥香様の元へ戻る。 ○:お持ちしました。 遥:ん…って、何も持ってないじゃない… 僕は、内ポケットから”退職願”を取り出して遥香様に渡す。 遥:退職願…は?何これ? ○:ご覧の通りです。 遥:ど、どうして? 動揺しているようだ。
2022-08-17 22:53:455 遥:どうせドッキリとかそう言う… ○:遥香様のわがままに、付き合いきれないのです。 遥:え… ○:何をしても、何を言っても、否定を続ける。僕のいる意味なんてありません。 遥:そんなこと… ○:遥香様なら、お1人でもやっていけると思うので…
2022-08-17 22:53:456 遥:でも、○○は執事だし… ○:そもそも、僕には執事が向いてなかったのかも知れませんね… 遥:… ○:もちろん、今日辞める訳ではないです。1週間後…それが期限です。 遥:あっそ…分かったわ。
2022-08-17 22:53:467 ⭐︎⭐︎⭐︎ ガチャン… 執事の○○が部屋を出て行った。 遥:分かったわ…じゃないでしょ、私… 全然納得いかないし! 意味分からないんですけど!
2022-08-17 22:53:478 ○○とは幼馴染。 彼は執事の家系で、幼い頃から私の傍にいてくれた。 それなのに… 辞めるって… 私のわがままに付き合いきれない… 言い訳のしようがない…
2022-08-17 22:53:479 私は… ○○の悩む顔が好きで… 眉尻を下げて困る顔とか… 彼が悩むと言うことは、私のことを真剣に考えてくれる時間でもあるのだ。 いや、でも… やっぱり気が変わったとか… 遥:アイツに限って、あり得ないよなぁ…
2022-08-17 22:53:4810 遥:はぁ… ○:遥香様、失礼します。 ほら、戻って来た。 ○:お庭でシロツメクサが沢山生えておりましたので、花冠を作って参りました。 遥:は? 退職を取り消すために戻って来たんじゃなくて?
2022-08-17 22:53:4811 遥:そんなの要らない。 って、違うでしょ私! めちゃくちゃ可愛いじゃない! 繊細なことをこなせる所とか、すっごく好き。 それを私に作って渡そうと思う所なんて、もっと好き。 ○:ですよね…ゴミは捨てておきます…
2022-08-17 22:53:4912 遥:何を勝手に捨てようとしてるの? ○:え…今、要らないって… 遥:い、要らないけど、捨てろとは言ってないでしょ!テーブルの上にでも置いておいて。 好きぃ… 今すぐにでも、身に付けたい…
2022-08-17 22:53:4913 遥:どのくらい保つの?1週間ぐらい? ○:遥香様は阿呆ですか? 遥:はぁ? ○:保って2日かと。土から切り離した植物はすぐに枯れます。 遥:そう… 折角の○○からのプレゼントなのに… ⭐︎⭐︎⭐︎
2022-08-17 22:53:4915 それから数日。 遥香様のわがままは、徐々にエスカレートしていった。 晩ご飯を口にする遥香様。 僕は傍に立ち、食器を片付けたり、水をコップに注いだりと常に彼女を見ていなければならない。 遥:○○。 ○:はい?お料理がお口に合わなかったですか?
2022-08-17 22:53:5016 遥:そうじゃなくて。あなたも椅子に座りなさい。 ○:ですが… 遥:良いから。あなたも座って、私と一緒に食事をしなさい。あなたとこうすることも残り僅かなのだから、私のわがままを聞いて。 今まで、こんなことなかったのに…
2022-08-17 22:53:5117 ○:では、失礼します。 遥香様の左隣の席に座る。 遥:…せて… ○:ん? 遥:料理…食べさせて… ○:今しがた、ご自分でお口に運んでいたではないですか。 遥:腕を動かすのが疲れたの。ほら、はーやーく!
2022-08-17 22:53:5118 ○:はぁ… ナイフで肉を切って、彼女の口に運んだ。 遥:うん!美味しい! ○:それは何より… いつになく甘えん坊と言うか… ソースも口の端に付いてるし…
2022-08-17 22:53:5219 ○:遥香様… グッと距離を詰める。 遥:な、何… ○:動かないで。 遥キ、キスするのは… ○:とーれた。 遥:… ○:ソースを口に付けたままなんて、幼い子供じゃないんだから…
2022-08-17 22:53:5221 お風呂に入る時だって… もちろん一緒に入る訳はなく、遥香様に何かあった時に駆けつけられるよう、風呂場の近くで待機。 遥:○○?そこにいる? ○:おりますとも。何か…用意した入浴剤の香りが好みではなかったですか? 遥:ううん。この香りは好きよ。
2022-08-17 22:53:5322 ○:お気に召していただけて、何よりです。 遥:じゃなくて…せ、背中…流して欲しいのだけど… ○:えぇ⁈ 遥:な、何よ…
2022-08-17 22:53:5423 ○:いや…え? 遥:私のわがままを聞いて。 ○:で…では、失礼しますよ…? 極力女性の裸体が目に入らないよう、薄目にしてお風呂場に足を踏み入れる。 湯気が立ち込め、遥香様のボディラインははっきりと見えない。
2022-08-17 22:53:5424 しかし、こちらに背を向けて、身体を少し前傾に肩を丸めているのが分かった。 両腕を胸元を隠しているようだ。 当たり前のことである。 遥:あまりジロジロ見ないでよ…? ○:速やかにお背中を流して、風呂場を出て行きますので…
2022-08-17 22:53:5425 しっとりときめ細かい肌。 力の加減を考え、優しくタオルで擦る。 あっ… うなじが見えて、色っぽい… ○:遥香様、お湯の温度が熱かったでしょうか? 遥:どうして? ○:耳や首が真っ赤なのが気になって… 遥:べ、別に…平気よ…
2022-08-17 22:57:1826 丁寧に背中を洗い流していく。 遥:もし…他の方の所へ行ったとして…こんなことするんじゃないわよ? ○:そう言われましても…主様に背中を流せと言われたら… 遥:私が許さないから!そんなの…ダメなんだから。特に女の人なんて…論外だし… 僕は、主のご要望は出来る限り聞き入れる。
2022-08-17 22:57:1927 遥:もう良いわ。ありがとう。 お風呂場を後にした。 はぁ… はぁ… ドキドキしすぎた…
2022-08-17 22:57:1929 ○:遥香様、お洋服をお持ちしました。 遥:ん。あなたが右手に持っているのが良いわ。 ○:え… 遥:何よ。 ○:こんなにあっさり決めるなんて… 遥:だって、○○が私に似合うと思って持って来てくれたんでしょ? ○:それはそうですけど…
2022-08-17 22:57:2030 遥:それなら、あなたのセンスを信じる。ちなみに、左手に持っているのとどっちが似合うかしら。 ○:うーん… 遥:聞き方を変える。どっちを着ている私が、あなたは好き? ○:それは…遥香様が最初に選択された方です。 遥:ふぅん。じゃあ、それを着るわ。
2022-08-17 22:57:2131 ○:今日は、やけに素直ですね? かえってそれが怖い。 遥:だって、今日はあなたが私の執事として勤める最後の日じゃない。 ○:あっ… そう言えば、そうか。 遥:何?忘れてたの? ○:1週間、あっという間だったなと…
2022-08-17 22:57:2132 遥:もしかして、寂しいの?今なら、退職の願いを… ○:全然そんなことないです。 遥:そう。そう…よね… ○:遥香様も、こんな役立たずの執事がいなくなって清々するんじゃないです? 遥:本当、その通り…本当に…寂しくなんてないんだから…
2022-08-17 22:57:2233 ○:… 遥:ねぇ…私に花冠の作り方…教えて… ○:それは、わがままですか? 遥:うん、わがままよ。 ○:分かりました。では、早速お庭に行きましょうか。
2022-08-17 22:57:2235 遥:ふふ…でーきた。 ○:流石は遥香様です。手先が器用なので、あっという間に出来上がりましたね。 遥:これ、あなたにあげる。 ○:え? ポフッと、柔らかく僕の頭の上に乗っかった。 遥:ちょっと小さかったかも…
2022-08-17 22:57:2336 ○:いえいえ…ありがとうございます。 遥:”幸運”って意味があるらしいわ。 ○:え? 遥:シロツメクサは、クローバーの花だから。他の場所に行っても、あなたに幸運が付いて回りますように…そう言う意味よ。 ○:すぐに枯れてしまいますが… 遥:もぅ…そう言うことは言わないの!
2022-08-17 22:57:2337 あなたらしいけど…と、彼女はそう付け加えた。 遥:私も欲しいな… ○:花冠なら、いくらでも… 遥:すぐ枯れちゃうでしょ?そうじゃなくて、ずっと残るようなものが欲しい… ○:例えば…? 遥:そうね…指輪…とか?
2022-08-17 22:57:2438 ○:宝石の類いは、生憎と手元に無くて… 遥:じゃあ…思い出に残るようなキスは…? ○:は? 胸を両手で押され、僕は庭の芝生に背中を付ける。 チクチクと痛い。 僕の上に遥香様が、跨る。 ○:えっと…これは…?
2022-08-17 22:57:2439 彼女の顔を見上げると、唇は震えて目も潤んでいた。 ○:泣いてるんですか? 遥:泣いてないし…だけど…あなたにはどこにも行って欲しくない…誰にもあなたを取られたくない… グスン… 燕尾服に彼女の涙が落ちた。
2022-08-17 22:57:2440 遥:行っちゃ…やだ…これは、私の最後のわがままだよ?○○が好き。好きな人と…離れたくない…これからも…私のことだけを…見ていて欲しい… ○:遥香様… 遥:なんて…都合が良すぎるよね…分かってる。じゃあね。バイバイ… 彼女の唇は、涙のせいか少ししょっぱかった。
2022-08-17 22:57:2542 コンコン… ○:遥香様? ドアをノックしても、中から返事がない。 ○:もう、寝てしまわれましたか? 部屋に入ると、彼女は月明かりに照らされながらベッドに腰掛けていた。 遥:何よ…
2022-08-17 22:57:2543 ○:昼間のあれは…一体… 遥:そんなこと…私に語らせないでよ…意地悪… ○:ですね…無粋でした。 遥:ただ…あなたの困った顔が好きなの。あなたが私のことを真剣に考えてくれている顔が好きで…それで…ずっとわがままを言い続けてきた…それだけよ。
2022-08-17 22:57:2644 ○:… 遥:その結果、あなたは私の元を離れることを選んだのだから…もう、どうしようもないわね… 力無く微笑んだ。 ○:あの…そのことですが…やっぱり退職願は破棄していただけませんか? 遥:え?
2022-08-17 22:57:2645 ○:この1週間、ずっとあなたのことを考えてきました。2度と遥香様のわがままを聞けないと思うと、寂しくなってきて… 遥:却下。都合が良すぎるわ。 ○:ですよね… 遥:あなたを執事としては、もう雇わない。他の人間に、声は掛けてあるもの。
2022-08-17 22:57:2746 ○:そうでしたか… 遥:だけど…私の…夫になってくれるのなら、傍に置いてあげないこともない…けど…どうする…? ○:夫…? 遥:私に…毎日花冠を作ってよ…それなら、枯れることも心配しなくて良いし… チラチラと、恥ずかしそうにこちらの様子を確認してくる。
2022-08-17 22:57:2747 ○:遥香様がそれで僕を許して下さるのなら、喜んでお受けいたします。 遥:ほ、本当⁈ ○:はい。可愛い妻の可愛いわがままぐらい、毎日聞いてあげます。 遥:やったぁ! ○:い、痛いです…抱き締める力が…
2022-08-17 22:57:2748 遥:キスは毎朝、毎晩に沢山したいし、子供は5人以上欲しいし… ちょっと待って… 気が早すぎませんか⁈ 遥:もう大好き!早速、明日は2人で指輪を見に行こうね? ○:え…ぁ…どうしよ… 遥:私のわがまま…聞いてくれるよね? ○:は、はい… End
2022-08-17 22:57:28