長谷部くんと光忠くんと水戸忠くん

カコ🐙 @3nasubi31

遠征から帰ってきた長谷部が部屋に戻ると、恋人の燭台切の様子がおかしい。「長谷部くんおかえり～～」ってニコニコしてるのはいつものことなんだけど、なにかが違う。 「長谷部くん？どうしたの？」 「…誰だ」

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頬に触れようとした燭台切に、長谷部は躊躇わず抜き身の本体を突きつける。 「長谷部くん、僕だよ。燭台切光忠」 「ああそうだ、お前は燭台切光忠の姿をしている。だが“俺の”燭台切光忠では、ない」 断じて。そう言いきった長谷部が切っ先を滑らせると、燭台切の喉に赤い筋が走る。

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「……俺の光忠をどこにやった」 薄い皮膚の上を滑る切っ先が、形のいい喉仏に触れた。何もかもがよく似ていて、まるで違う身体。 「答えろ、さもなくば」 貴様を折る。そう続けようとした瞬間。 「み、み、み、みっちゃぁ～～～～！！」 目の前の燭台切光忠が、泣き出したのだ。

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「うぇぇぇん！みっちゃぁんんん！！もぉやだよぉこわいよぉぉ」 「へ？ あ？ ええ？？」 戸惑う長谷部の目の前で、燭台切は子供のようにわんわん泣きじゃくる。 「お、おい、泣くな、燭台切、お前、伊達男だろう！」

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「やだぁぁぁ！！はせべくんこわいぃぃぃぃ！！！」 なにしろ長谷部は燭台切光忠の顔に弱いのだ。本体などとっくに投げ捨てて、手拭いで顔をごしごし拭いてやる。 「泣くな、頼むから、な、ほら、ええっと……」 「うーん、水戸忠くん、かな？」 「そうだな水戸忠は語感がいい……え？」

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顔をあげると、そこには真っ白なスーツ姿の燭台切光忠。服装は違うが、紛れもなく“長谷部の”光忠だ。 「みつ、ただ？」 「ごめんね水戸忠くん、怖かったよね」 ひくっひくっとしゃくりあげる燭台切……水戸忠？に、光忠が優しく声をかける。 「まさか長谷部くんが一瞬で見抜くなんて思わなかったんだ」

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だが、本科の燭台切光忠に比べるとどこかあどけなく、実践向きには思えない。 「みっちゃん、これ取りたい」 「いいよ。僕は着けたいな」 火傷を隠すためにつけている眼帯の下には曇りひとつない金の瞳があり、外した眼帯を受け取った燭台切はひきつった皮膚を隠すように眼帯をつけた。

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写しの燭台切光忠(水戸忠、という通称はそのまま採用されることになった)は、どうやら本来ならば顕現されることはないはずなのに手違いか何かでこの本丸に現れたという。水戸でこの写しを愛でていた燭台切はそれはそれは喜び、実践向きではなくてもきっと役に立つと審神者を説得して、本丸に残したのだ

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「それで、俺がお前と写しを間違えないかどうかを試したというのか？」 「だってほら、僕たちこんなにソックリなんだよ？」ね、双子みたいでしょ、とまだ涙目の水戸忠の肩を抱き寄せてにっこり。確かにそっくりだが、長谷部にしてみればまるで別物だ。

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「馬鹿か。俺がお前を間違えるわけないだろう」 たとえ他の燭台切光忠とだって間違えることはない自信はある。そう言うと、いたずらっ子の顔をしていた光忠は真っ赤になって「なにそれずるい……」とつぶやいた。

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「水戸忠、でいいのか？怖がらせてすまなかった。俺はへし切長谷部。お前も主の元で働くというのなら歓迎する。せいぜい励めよ」 「……はい」 怖がらせ過ぎたのだろう。水戸忠は長谷部が近付くとびくっとして光忠の陰に隠れてしまう。 光忠はあとでお仕置きだな、と思った。

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だが、相変わらず長谷部を見るとさっと顔を背けて隠れてしまう。 「長谷部、何かやらかしたのか」「やらかしたのは光忠の方だ」 なんて言うが誰も信じていない。さすがの光忠も責任を感じているらしく「水戸忠くん、長谷部くんは本当は優しい刀なんだよ」と度々話しているが、当の水戸忠は俯くばかり。

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そんなある日。光忠が遠征で長谷部は非番。日課の稽古だけ終えて部屋に戻ると、水戸忠が光忠のシャツを畳んでいた。 「あっ、あの、これ、これはみっちゃんに、かりてて」 「いい、知っている」 慌てて立ち上がろうとする水戸忠に、長谷部はため息。相変わらず怖がられている。

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「あのな水戸忠」 肩をつかんで座らせ、正面から見据える。 「怖がらせたのは悪かったが、いい加減慣れてくれ。あれは俺を騙す、主に仇なす敵だと思ったからだ。もうお前に刀を向けたりはしない」 「……ちがう」 「ん？」 「そう、じゃ、なくて」 俯いた水戸忠が、耳まで真っ赤になりながら言う。

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「……カッコ悪い」「は？」 「長谷部くんには、カッコ悪いとこ見られちゃったから、恥ずかしくて……」 なんだそれ。目の前の水戸忠はまた泣きそうな顔をしているが、長谷部としては泣きたいのはこっちの気分だ。

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「そんな理由で……」「そんな、って！」だってだって、と言う姿も決して格好よくないと思うのだが。長谷部は呆れた顔でため息をついた。 「別に格好悪くてもいいだろうに」「よくないよ！」水戸忠ぷんぷん。

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「写しとはいえ、僕は燭台切光忠なんだ。みっちゃんみたいに格好いい刀でなくちゃいけないんだよ！」「格好いい、なぁ……」 格好いい刀は頬を膨らませたりしないし、唇を尖らせたりしないし、両手の拳をぶんぶんしたりしないと思うのだが。そんな言葉を飲みのんで、長谷部は肩をすくめた

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「心配するな。お前と光忠はよくにている」 「本当？」 「ああ、本当だ」 こてん、と首をかしげる仕草とか、不安になるとぱちぱちとまばたきをするところとか「やったぁ…」って嬉しそうに呟いたときの顔とか。 「みっちゃんが長谷部くんは優しいよって言ってたけど、本当だね！」

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それから、水戸忠は長谷部を見つけては「あっ、長谷部くん！ねぇねぇ長谷部くーん！」と子犬のようにまとわりつくように。「貴方なにをしたんですか」「知らん！」なんて言いつつも、長谷部は寄ってきた水戸忠の髪をくしゃくしゃにする(そして「わーん長谷部くんのいじわる！」と言われる)のが日課に。

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長谷部ははじめは鬱陶しいななんて思っていたけれどなつかれて悪い気はしないし、そもそも燭台切光忠の顔が好みすぎるのでニコニコ顔で「長谷部くーん！」と呼ばれて振り返らないはずがない。それに、水戸忠は光忠が可愛がっていた写しだ。怖がられているよりずっといい。

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ある日、書類仕事の合間に厨へ茶を汲みに行くと、光忠と水戸忠が並んで仕込みをしていた。「すまんが茶を…「あ、長谷部くん！」光忠がコップに手を伸ばしている間に、振り返った水戸忠がニコニコ笑って飛び付いてくる。

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「長谷部くんあのね、お夕飯はチキン南蛮だよ！」「そうか」「みっちゃんと仕込みしてるの」「そうか」「あとね、ガーリックチャーハンも作ろうねって」「そうか。楽しみだな」「うん！いっぱい作るね！」「水戸忠くん、長谷部くんはお仕事中だよ」はいお茶、とコップを差し出す光忠。

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振り向いたのはやっぱり光忠で、恥ずかしそうにしながら唇を尖らせる。 「長谷部くん、水戸忠くんに甘いじゃないか……」「は？」「僕の言うことは聞かないくせに……」 拗ねたような口振りでそう言いながら俯く光忠に、水戸忠はやっぱり似ていたなと思う。さすがは写しだ。

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「つまり、俺が水戸忠ばかり構うからヤキモチ妬いたのか？」「！！！なんでそんな言い方するんだい！」カッコ悪いじゃないか……とふにゃふにゃ。「だってお前、髪の毛くしゃくしゃにすると怒るだろう」「水戸忠くんも怒るよぉ！」

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「帰ってきてからも晩酌して、それから、酔いつぶれた長谷部くんが寝るまでずっと僕が面倒みるんだからね…」「御随意に、俺の光忠」 なんだデートしたかったのか、とか、先に酔いつぶれるのはお前だろ、とか、こんな時に野暮なことは言わないということはすでに学んでいる。

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「お前の言うことをなんでもきこう。まずはメシだったか？風呂か？」「ん……」 じゃあ、まずキスして。 そう言って目を閉じた恋人があまりにも可愛くて、さて、さっそく言うことを聞くだけでは済ませられなさそうだなとおもった長谷部だった

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「みっちゃんはいつも長谷部くんの話をしてたからね。美術館にいた頃もだし、僕が顕現するなり、やっぱり最初に聞いたのは長谷部くんのことだった。最初はおっかない刀だなって思ったけど、すぐにみっちゃんのいう優しくて格好いい刀だってわかったよ」

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