お題「雨簾」「摩天楼」「辞表」
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宇津木健太郎@受賞したヨ @KChickenShop

縁側に腰掛け、雨簾越しに緑一色の庭を見やった。遊び疲れた孫娘は、私の膝を枕にしている。 貴方は、いつか摩天楼に住もうって言ったけど、この暮らしの方が私、好きだわ。 全く、退職間際に、病気の私と居る為に辞表を出すなんて。 馬鹿だけど貴方らしくて、素敵よ。 #深夜の真剣140字60分一本勝負 pic.twitter.com/wkRYrbXewN

2018-07-28 22:01:02
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RAY/※※※ @growler_ray

天への直通通路でも作ったのかと聞きたくなるほど巨大な摩天楼。見えもしない屋上から、あの人が手を振っている…気がする。 「いるんだね、そこに」 「私を迎えに来て」そうとだけ書かれた手紙を手渡して、そのまま消えてしまった人。何年も探してようやく見つけた、必ずあなたを迎えに行くよ。

2018-07-28 22:01:03
ちひろ @naruhara04

ビルの間を飛び回る、僕ら夜光虫のように、季節外れの雨簾、しとどに濡れた肩越しに、振り返る眼に映るは不敵に笑う、君。 昨夜辞表を書いた手は、今夜霧雨切り裂いて、今は君の手に触れたいと、焦燥。 ぶ厚い雲に隠れた月の、光が、君の、唇、照らし、て、息つけぬまま、今、目の前に。

2018-07-28 22:01:48
津森七@文学フリマ京都い-36 @tumori_nana

摩天楼建ち並ぶ街を見下ろす。「辞表は会社に出すものでしょう?」右手に握る紙切れを見て、美しき彼女が言う。「これは人間を辞めるための届けさ」「役職つきの人間には見えないけど」「いじわるだな。君と同じになれるよう、祈っていてくれよ」「ええ」そして僕は飛び降りる。悪魔の番になりたくて。

2018-07-28 22:01:57
水城弥生 @mizukiyayoi8484

雨に降られる摩天楼は、高層部分が雲に隠れる。降ってくる水の様子はまるで雨簾のよう。「どうしよう」そんな情景を思い浮かべるほど僕の心は焦りきっている。「受理してもらえるかな」冷えきった人間関係。そのくせ増え続ける残業と逆らえない上司命令。僕の職場にこの辞表届は意味があるのだろうか。

2018-07-28 22:03:07
ちひろ @naruhara04

熱せられた摩天楼の隙間に、悲鳴をあげる心臓が一つ。誰かが流した雨簾に濡れそぼり、家に辿り着く頃には若干の心房細動を起こしていた。風邪でも引いたのかもしれない、眠りたい、休みたい。でも行かなきゃ、僕がいなくちゃ君は。着の身着のまま横になる。閉じられぬ眼に、出せぬ辞表が写った。

2018-07-28 22:03:14
ちひろ @naruhara04

久方ぶりの雨に浮かれる地表を見下ろしながら、彼女は笑う「まだ辞めたい?」僕が首を振ると、彼女は今朝受け取った僕の辞表を裂いて、摩天楼の夜空へ放つ。はらはらと僕の決意が舞う中、僕は如雨露を手にとって、簾のように滴る恵みを丁寧に注ぎ始めた。僕の大嫌いで、大好きなこの世界に。

2018-07-28 22:03:53
小泉毬藻 @hacca0505

雨が降っている。水たまりに紙が落ちていた。見れば歪んだ手書きで「辞表」とある。 側のビルから下書きを捨てたのか?と見上げたが、空は暗く全体がよく見えない。 ただ雨だけが白く光っていた。 翌日、大企業の不祥事が発覚し重役が退職したというニュースを見た。 映っていたのはあのビルだった。

2018-07-28 22:04:06
花滝ちかる @chikaru_toka

摩天楼が建ち並ぶ街角で、僕が歌い始めて5年。 今夜を最後に故郷に帰ろう。失意ごとギターをケースに仕舞おうとすると、そっと声をかけられた。 「もう一度歌ってくれますか?私、貴方の歌が好きです」 視界が涙で霞んだ。巡り会えた、たったひとりのファン。僕は貴女の為に歌い続けてもいいですか。

2018-07-28 22:04:13
月兎 葉音 ーコトノハー @Tuki_To_Ha_Ne_

届くだろうか。馬鹿げた事を考えてしまう程に空へ手を伸ばしていた其処は摩天楼の屋上。空はとても優しく、そして冷たかった。あの人が居ないこの世界に、もう何の未練もない。辞表も快く受理された。所詮そんなもの。嗚呼、早く逢いたい。と、次の瞬間。抱き止められた君の肩越し。空が、泣いていた。

2018-07-28 22:09:53
くーか @kuhkatzen

辞表を叩きつけたあの日から俺の生活は変わった。 良い方に? いや悪い方に。 なあ、俺って何で生きてるんだろうね。 かつて勤めていたオフィスのあるあの摩天楼を見上げながらため息をつく。 隣の猫がにゃーと鳴く。 そうだね、にゃーだね。 まあ、猫と仲良くなれたのだからいいんじゃないかな…

2018-07-28 22:18:39
春日聖奈@二代目 夜 @haruhino37

30階にあるレストラン。 無言の晩餐が終わった。 別れて、と彼に出した辞表の答えはない。 席を立ち、雨模様の街へとエレベーターは降りて行く。 出口で雨簾に歩みを止められた。 いつしか自分の涙が雨と混ざる…。 「嫌だ!」 振り向こうとした私を愛しい彼の腕が抱き止める。 辞表は破られた…。

2018-07-28 22:33:49
色糸 @IRO_Iroito_

激しく叩きつける雫に、傘の盾は少し心許ない。 雨の簾は貴方の顔を隠してくれた。 雨の雑踏は貴方の声を消してくれた。 遥か向こうに臨む、摩天楼を駆け上がって、雨音を足下に聞き。 快晴の青空を、満天の星々を、貴方と見上げてみたかった、と。 「さようなら」と涙だけははっきりと残っている。

2018-07-28 22:46:09
レイト @zero_decade

見上げてもそこには星など存在しない。摩天楼、なんて幻想的な名前をした怪物が全てを飲み込んだ夜空に、ため息をついた 「もういっそこれを出してしまえたら楽になれるのに」 そう呟いて、手の中にある紙切れを握りつぶす。 そんな勇気も、この“摩天楼”に飲み込まれてしまったようだ。

2018-07-28 22:54:28