横に7歩、縦に5歩 灰色の壁と床 粗末なベッド 粗相の臭い 投げ込まれる僅かな食事と粗雑な着替え 領主の娘として自由を謳歌した記憶 そんな狭い世界から私を助けに来た 貴方の持つランタンが 私の理性を希望の光で焼き尽くし ――動かない貴方から啜る暖かい血は 蜂蜜入りのお酒のように私を火照らせる
2018-05-19 21:50:57揺れるランタンの光、目に溶ける橙色の暖かな光を見ながら、私は貴女を思います。揺らめく炎のように私を包む優しい貴女、万人を癒し、暖かく照らす貴女、そう、まるでこのランタンそのもののようです ……そろそろ炎が消えます。貴女を思えないのは名残惜しいですが、私もそろそろ寝るとしましょうか
2018-05-19 22:01:53逃げた先は扉で行き止まり。私は初めて「助けて」と叫んだ。 「いいよ」 開いてはならなかった扉が、開いた。幾つもの屍が転がり、血溜まりの中で貴方は笑った。 「君の為なら、僕はどんな事でもしてあげるよ」 私は、貴方の手を取った。 ああ、一番怖ろしいのは人間。一番恋しいのも人間。 #140字小説
2018-05-19 22:03:59蜂蜜入りのきみの愛は胸焼けを起こすには十分で、時折私は耐えきれずに暴れ回る。開かずの扉の奥へ踏み込まれる恐怖など、きっときみにはわからないね。暗闇を隅々照らしたところでなんにも出てきやしない、きみは正しく美しい人。だから悪いのは私の方。今日も、明日も。私ばかりが悪いのだ。
2018-05-19 22:04:36君は、ずっとクラスの隅で本を読んでいる。 窓際で読む君の姿が、とっても綺麗だった。 昔、いじめにあってから、誰とも君は話そうとしない。 なら、僕が、君の開かずの扉の、真っ暗な心に、ランタンで灯してあげるから。 僕の心は蜂蜜入り。
2018-05-19 22:07:29掲げたランタンの灯りに、木の扉が照らされた。大木がずらりと並ぶ森は、その全ての木の根本に扉がついている。黒に染まった上の方で、烏が鳴いていた。 扉には、赤い塗料で大きなバツ印が書かれている。錆びた鍵穴からは、青白い燈が覗き見していた。 大きな鍵を差し込んで、がちゃりと扉が開かれた。
2018-05-19 22:07:51熱く滾った心と腕で、強く抱き締めたとしても。蜂蜜入りの甘い言葉で、優しく囁いたとしても。冷たく重く陰ったままの、貴方の目の奥、開かずの扉。光も差さないそんな心で、ランタンも持たず彷徨って。喪失感に揺れる瞳は、"代わり"を通して誰を見る?行方知れずの私の愛こそ、虚しく揺蕩う悲恋の骸。
2018-05-19 22:11:31貴方を愛するようになったのはいつだろう、と考える。 あの時──生きることを放棄しようとすらしていた私に貴方が言葉をかけてくれた時からだろうか。あの、暗闇の中に射し込むランタンの光のような言葉を。 それとも──やはり初めて会った、その時から? ……今となってはもうわかりませんね……
2018-05-19 22:15:36ランタンに灯した火がゆらゆらと揺れている。これは亡くなった祖父から受け継いだもので、その場にいない何者かの影を映し出す不思議なランタンだった。ランタンの光は今夜も誰かの影を映し出す。どこか見覚えのあるシルエット。この帽子と杖の形。「……おじいちゃん?」影は手を振り静かに消えた。
2018-05-19 22:15:49お前の心の奥には開かずの扉がある。 その扉を開け放つのは誰なんだろう? お前の周りにいる人たちを思い浮かべるけど、ちっともピンと来なかった。 ──もしかして、お前自身……? だとしたら、俺はその扉の前で待ってる。 お前自身がその扉を開けて出てきた時、一番に抱き締められるように。
2018-05-19 22:16:26建付けが悪く、ほとんど開かなくなっている引き戸と格闘すること数分。結局はそれを強引に蹴り倒すことで中に入った。窓の無い部屋。電気は止められているようなので、電池式ランタンを点け室内を見渡す。《女王蜂》と呼ばれる殺し屋のアジトは、意に反しガランとしていた。と、そのとき、 「ガチャ」
2018-05-19 22:18:09この牢獄に夜はない。蜜蝋で融点を高めた蝋燭をランタンに入れ、鉄格子の並ぶ長い長い廊下を巡回する。檻の中では例外なく、集団が壁に、否、大きな扉に向かって夜通し祈りを捧げている。この牢獄は、開かずの扉の向こうにいる恐るべき怪異達を封じるためのものなのだ。 #深夜の真剣140字60分一本勝負
2018-05-19 22:31:01ふわふわの猫っ毛と、触れたくなるほど長い睫毛の愛らしい彼が、この部屋を旅立って1年。 たまに届く葉書が、彼が同じ星で絵筆をとっていることだけを伝えてくれる。 絵葉書を飾って、今朝もコーヒーを淹れましょう。 朝が弱くて、猫舌で、味覚の幼い彼とよく飲んだ、ぬるめのコーヒー。蜂蜜入りで。
2018-05-19 22:49:00ハチミツ入りの棒状のクッキーを食べつつ僕はランタンを片手に夜の廃屋に忍び込む。捨て置かれた大きな屋敷。そこに開かずの扉がある。 「ここか」 ランタンで扉を照らす.僕は扉に手を掛けて開かなかった。 「さすが開かずの扉」 一人呟く。 さて、どうしようか。 #深夜の真剣140字60分一本勝負
2018-05-19 22:49:19蜂蜜入りの紅茶が入った魔法瓶を抱えて階段を降りて行く。ランタンに照らされるのは荒削りの岩壁。やがて見えた『開かずの扉』に私の胸は高鳴った。押し開けると、出迎えるのは真っ白い君。「やっと逢えたね」私は温度のない身体を優しく抱きしめる。そして、唇があっただろう箇所に己のそれを寄せた。
2018-05-19 22:54:48