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@heyheyhatch
親について一番古い記憶は、冬の寒い日に父親と母親が喧嘩をしている場面だ。俺が2つか3つの頃だと思う。今となってはその女性が俺の本当の母親だったのかを知る術はないが、とにかくその人は父親をフライパンで殴って金的をおみまいし、コートと鞄を掴んで出て行ったきり二度と戻って来なかった。
2022-03-25 23:44:55
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@heyheyhatch
父親は優しかった。父親が連れてくる女の人もみんな優しかった。当時、父親は魔術の個人指導のようなことをやっていて、家にはいつも弟子の女の人が来ていた。
2022-03-25 23:46:50
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@heyheyhatch
その人が弟子から母親（仮）になり、いつの間にかいなくなってまた違う弟子の人が来て、その人もまた母親（仮）になったあとしばらくしていなくなる。大体その繰り返しだった。（たまに男性の弟子も来ていたが、大抵すぐ来なくなった。）
2022-03-25 23:47:28
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@heyheyhatch
普通の家は一緒に住んでいる母親（仮）がコロコロ変わったりしないと気付いたのが小学1年生の春で、自分の父親がどっちかというとだいぶ異常だと気付いたのは小学3年生の夏、当時の母親（仮）に「あんたの父親マジでロクデナシだよ。働ける歳になったらさっさと家出なよね」と言われた時だった。
2022-03-25 23:48:26
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@heyheyhatch
実はロクデナシという言葉はその時初めて聞いたのだが、同時に昔フライパンで殴られた父親の姿と今までの母親（仮）の人たちの顔がフラッシュバックして、すとんと理解できた。今まで優しい父親だと思っていた男は一般的にはロクデナシだったのだ。それ以来、俺の将来の夢は「16で家を出る」になった。
2022-03-25 23:51:05
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@heyheyhatch
中学二年生の秋、家を出たいなら全寮制の高校に進学してはどうかと担任に勧められ、一人で学校案内を取り寄せていた頃。もう何人目だか分からない新しい弟子の女性がやってきて、他の女性の例に漏れず母親（仮）になり、なんとそのまま母親になってしまった。お腹にロクデナシの子供がいるという。
2022-03-25 23:52:26
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@heyheyhatch
その頃にはとっくに"父親というよりたまたま同じ場所に住んでいるロクデナシ男"としか感じなくなっていたので、その女性の中にいる小さい存在が自分のきょうだいだと言われて心から驚いてしまった。母親もきょうだいも気の毒だ。
2022-03-25 23:54:21
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@heyheyhatch
きっときょうだいが生まれてもロクデナシのせいであなたは出ていくことになると思う、というような事を話すと、母親は「もし本当にあの人がロクデナシならロクデナシのほうを追い出せばいいよ。私と私の子供たちで」と笑った。目から鱗だった。あっちを追い出せばいいのか。
2022-03-25 23:55:53
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@heyheyhatch
ヒヒヒと笑う母親を見て、この人ならひょっとするとうまくいくかもしれないな…と思い ながら、俺も"私の子供"としてカウントしてくれた事に遅れて気付き、なんだか照れてしまった。
2022-03-25 23:58:27
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@heyheyhatch
そして先月、妹が生まれた。名前は絶対「雷子（らいこ）」にするとロクデナシが言い張ったが、それを無視して自分と母親の二人で話し合い、結局「小花」に決まった。可愛くて良い名前だと思う。なんだよ雷子って。どうか妹だけはロクデナシの被害者にならずに幸せに生きていけますように。
2022-03-25 23:59:47
鉢
@heyheyhatch
妹が生まれて変わったことが3つある。まずは家にベビー用品が増えたこと。次に、ロクデナシが「魔術の個人指導」以外の仕事をするようになったこと。（これは正直いつまで続くか分からないが、今のところ毎日真面目に働きに出ている）
2022-03-26 00:00:40
鉢
@heyheyhatch
最後は俺が志望校を家から通える高校に変えたこと。家を出ていく夢は、しばらく保留にする事にした。この家でロクデナシから母親と妹を守れるのは残念ながら俺しかいない。今はロクデナシ（仮）みたいにふるまっているが、いつまたロクデナシになるか分からない。
2022-03-26 00:02:37
鉢
@heyheyhatch
「雷太〜ごはんできたよ〜」母親が呼ぶ声がする。さっきまでぐずっていた妹が静かだ。寝てしまったのだろうか。進路相談のプリントを持って、俺は食卓へ向かった。
2022-03-26 00:04:11