いつか、たっぷりと加筆修正したい話の一つ。
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めしこ @mogmog_meshiko

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「良ければ観に来てよ。きみと同じくらいの歳の子も出るから」 そう言って、親戚の叔父さんから渡されたのは一枚のチケット。 「それぞれ一人で何役も演じて、一つのお話を成り立たせるんだ。まだ若手の子達だから粗削りの所もあるけど、楽しめると思うよ」 ↓

2020-01-12 01:20:18
めしこ @mogmog_meshiko

お芝居にさほど興味はなかったけど、叔父さんにはいつも良くしてもらってるから、チケットを無駄にするのも気が引けた。 「ありがとう」 僕はそのチケットを、折れないように財布にしまった。 幸い、その公演日は大学の講義終わりに行ける時間だったので、ふらっと行って観て帰ろうと思っていた。 ↓

2020-01-12 01:29:13
めしこ @mogmog_meshiko

場所は小さな劇場、チケットを提示してロビーに入ると、今日の演目についてのポスターが目に入った。 演目のタイトルと、演者の名前と写真、公演時間が記載されたポスター。 この日の演者は五人、それぞれの公演時間は15分ほど。休憩時間を含めても一時間半くらいか…早く帰りたいなぁ。 ↓

2020-01-12 01:34:02
めしこ @mogmog_meshiko

この時の僕は、まだ演劇に興味がなかったとは言え、だいぶ失礼な考えを持っていたと思う。 チケットに書かれていた座席は、最後列の真ん中辺り。狭い劇場なので、その座席からでも舞台までの距離はそう遠くには感じなかった。 開演のブザーが鳴り渡る。客席にはちらほらと空席があるようだった。 ↓

2020-01-12 01:46:39
めしこ @mogmog_meshiko

三人の演技が終わって休憩を挟んで、一人終わって、あとはもう一人。 同じ一人でやる演目といっても、役者も違えば話も違うので、それぞれの時間を退屈に思うことはなかった。 それぞれ、一つだけ小物を用いて、一人で何役も芝居をする。 ↓

2020-01-13 22:18:14
めしこ @mogmog_meshiko

ある者は帽子、ある者はスカーフ、その一つの小物で世界観を創り上げて、登場人物を演じ分けるというのは、単純に面白かった。 次の人が今日の最後の役者だ。舞台の幕が上がる。 そこには椅子が一脚だけ。それがきっと今から出てくる「長谷部国重」が用いる、たった一つの小物なのだろう。 ↓

2020-01-13 22:20:58
めしこ @mogmog_meshiko

そして演技が始まる。 「俺は、彼のことを愛していた」 どうやら彼が演じるこの話に主に出てくるのは、二人の青年。 他の役者の話とは違い、ただ台詞を読むだけでは、演じ分けることは難しいだろう設定であるにも関わらず、その舞台上には確かに二人の青年がいた。 ↓

2020-01-13 22:20:58
めしこ @mogmog_meshiko

片方の青年は、勝気で、少し無鉄砲なところもある熱い青年。 もう片方の青年は、穏やかで思慮深くて、臆病なところがある。 彼自身と、一脚の椅子だけでそれを表現しきっているのだ。 僕は思わず、瞬きも忘れるほどに彼の演技に魅入っていた。 時々、彼の視線をストレートに感じる錯覚に陥った。 ↓

2020-01-13 22:22:13
めしこ @mogmog_meshiko

まるで僕に話しかけているような。きっと僕の座ってる席が、客席の一番後ろの真ん中だからなのだろう。 それでも、その瞳に、声に僕は囚われたように、彼のことしか目に入らなくなってしまう。 15分が一瞬にも思えたし、永遠のようにも思えた。僕は長谷部国重という役者の虜になってしまった。 ↓

2020-01-13 22:22:13
めしこ @mogmog_meshiko

それからというもの僕は、どんな小さな舞台も、時には朗読劇などにも、エキストラだろうがアンサンブルキャストだろうが、彼が出ると分かればチケットを買って観に行った。 最初は、名前のある役など滅多にない彼を探すのは苦労したけど、彼の演技を繰り返し見るうちに、 ↓

2020-01-13 22:36:02
めしこ @mogmog_meshiko

彼が舞台に立てばすぐに分かるようになった。 どんな役でも、台詞などなくても、彼はいつでも全力で彼らしく演じていた。 あまり更新がマメではない彼のSNSは、日に何度もチェックしていたし、彼と交流のありそうな他の役者のSNSも同じようにチェックをしていた。 ↓

2020-01-13 22:37:04
めしこ @mogmog_meshiko

あいにく、彼はあまり他の役者との交流がないようだったけど。 長谷部くんが所属するところとは、また別の事務所で働いている叔父に、食べ物や生花じゃなければ差し入れが出来ることを聞いた僕は、彼の舞台を観に行くときには手紙と一緒にプレゼントを持って行った。 ↓

2020-01-13 22:37:45
めしこ @mogmog_meshiko

手紙にはいつも、彼の演技で特に惹かれた台詞やシーンなどを事細かに記した。 いつも便箋が何枚にもなってしまって、少し申し訳ない気持ちもした。 もしかしたら読んでなんか、もらえないかもしれない、差し入れだって…と思いながらも、彼のためにプレゼントを選ぶのは楽しかった。 ↓

2020-01-13 22:38:15
めしこ @mogmog_meshiko

そんなある日、更新頻度が高くない彼のブログに、帽子を被った彼の写真が上がっていた、それは、僕がこの前の舞台の時に差し入れしたプレゼントの帽子だった。 (えっ、嘘…僕の帽子?いや、でも…あれは有名なブランドだったから、もしかしたら他の人が贈ったやつかもしれない) ↓

2020-01-13 22:38:36
めしこ @mogmog_meshiko

確証が持てなくて、次の機会の時には敢えて、マイナーブランドの帽子を贈った。 それから一週間ほど経った日のブログで、彼はそのマイナーブランドの帽子を被った写真を上げていた。 間違いない、僕の贈った帽子だ。 嬉しい、決して交わることのない、舞台と客席の僕と彼が、 ↓

2020-01-13 22:39:16
めしこ @mogmog_meshiko

こうして繋がることができたなんて。 もっとみんなに彼のことを知ってほしい。 でもとんだエゴだけど、僕の手が届くようなところにいてほしい気持ちもある。 そんな気持ちを抱えながら、僕は彼に帽子を贈り続けた。 彼が街中を歩いていても、そっと彼のその顔を隠してくれるであろう帽子を。 ↓

2020-01-13 22:40:08
めしこ @mogmog_meshiko

「そんなに演劇に興味があるなら、役者を経験してみたらどうだ」 ある日、叔父さんが僕に言った。 彼に出会ってから色んな舞台を観に行って、今では演劇というものに純粋に興味があったし、どこかで彼と接点を得られるかもしれないと思って、僕はその世界に飛び込んだ。 ↓

2020-01-13 22:40:48
めしこ @mogmog_meshiko

縁あって、叔父さんの事務所の俳優として活動することになった僕は、舞台を中心に経験を積んでいった。 長谷部くん…彼みたいに繊細な演技がしたい、そんな役者になりたい。そしていつかは同じ舞台に…僕の目指す先はいつも彼でいっぱいだった。 ↓

2020-01-13 22:41:10
めしこ @mogmog_meshiko

幸いにも小さな役からこつこつと出演作は増えていくけど、ファンレターにも自身のSNSにも「格好良かった!」「本当に顔が良い!」「スタイルがいい!」と、見た目のことばかり。 それだってもちろん嬉しい、観てもらわなければ意味がない。 ↓

2020-01-13 22:41:54
めしこ @mogmog_meshiko

でも、僕は周りから外側しか見られていないのかと思うと、どうしても気持ちは沈むし、焦りもあった。 そんな時、長谷部くんの事務所がつぶれて、長谷部くんは叔父さんの…僕と同じ事務所に移籍することになった。 長谷部くんと話が出来る、もしかしたら同じ舞台だって… ↓

2020-01-13 22:42:24
めしこ @mogmog_meshiko

そんな期待に胸を膨らませていた僕と長谷部くんの初対面は最悪だった。 「長船、光忠…あぁ、最近出てきた役者か。悪いが興味ない。顔が良いだけの役者なんていくらでもいるし、いくらでも消えていくからな」 それから顔を合わしても、まともに会話することのなかった二人に、 ↓

2020-01-13 22:42:52
めしこ @mogmog_meshiko

ダブル主演の話が上がってくる。 嫌でも一緒に稽古をするうちに長谷部くんは、光忠くんのこと、光忠くんの演技への気持ちを見直すことになる。 そして、そんな彼が光忠くんにだけそっと明かしたのは、ある大切なファンがいるということだった――。 …みたいな話が読みたいな~~って話🐹!!!

2020-01-13 22:43:27
めしこ @mogmog_meshiko

このダブル主演は、光忠くんが初めて長谷部くんのお芝居を見た、あの独演でやったお話を、今度はキャストを揃えてやるんだ。 『千秋楽で、きっとみんな驚くはず』って、公演始まってからずっとキャストが口を揃えて言ってるから、ファンはみんな『ラストの演出が違うのかな』とか ↓

2020-01-15 22:14:35
めしこ @mogmog_meshiko

『何か続編発表でもあるのかな』ってわくわくして、ライビュ配信もされることになるんだ。 それでいざ始まった千秋楽公演、舞台の幕が上がって最初のシーンは長谷部くんだけが舞台に立っていて、いきなり台詞から始まるシーン。 「俺は、彼のことを愛していた」 ↓

2020-01-15 22:15:21
めしこ @mogmog_meshiko

台詞は全く同じ。 でもそこに立っていたのは、光忠くんだった。 そう、千秋楽の演出はダブル主演の二人が役を入れ替えて演じるというものだった。 もちろん、おふざけなんかじゃなく、この一回だけのためにお互い完璧に仕上げてきた。公演期間中みっちり稽古をしてきたから。 ↓

2020-01-15 22:19:05
めしこ @mogmog_meshiko

同じシーン、同じ台詞なのに、役が入れ替わっているとまた違って見えてくる。 見事、演じきった二人は、あまりに鳴り止まない拍手のために、トリプルカーテンコールにまで応えた。 そして、光忠くんのもとに一通のファンレターが届いた。 ↓

2020-01-15 22:19:52
めしこ @mogmog_meshiko

郵送されてきたものではなく、会場のプレゼントボックスに入っていたもの。 差出人の名前はなかった。 そこに書かれていたのは、光忠くんが今までに出てきた舞台の感想なんだけど、目の付け所がやけに鋭いし、細かい。 まるで同じ役者のような…。そこで、はっとするんだ。 ↓

2020-01-15 22:20:42
めしこ @mogmog_meshiko

一行空けて、続く文章を読み進めていく。 『ある日を境に、俺の元に届いていたファンレターの感想の内容が、今までとは明らかに目の付け所が変わりました。 そしてこのファンレターは、同じ役者の方からのものだろうなと、思うようになりました。 ↓

2020-01-15 22:23:14
めしこ @mogmog_meshiko

一緒に稽古をして、演技をしていくうちに、あのファンレターは貴方からだろうと、確信を持つようになりました。 そして俺は一つ、謝罪をしなくてはなりません。 顔が良いだけの役者なんていくらでもいるし、いくらでも消えていくから、と言ったことを。 ↓

2020-01-15 22:23:52
めしこ @mogmog_meshiko

貴方だったから今回の舞台は、あれだけの完成度に持って行けたと思っています。 これからも、どうぞよろしく。』 それで光忠くんは、また長谷部くんの出る舞台を観に行ってファンレターを送るんだ。 そうやって、お互いがお互いのことを分かっておきながら、この二人はお手紙でやり取りするんだ…

2020-01-15 22:24:51
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まとめたひと
@mogmog_meshiko

今日も、明日も、燭へし書くよ。